RELOAD編
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「なんちゅーかこォ」
「ムナシー……」
「文句があるなら食うな」
「だってコレ少ねぇんだもん!」
「そっちかよ」
「悟空、こっちにもまだありますよ」
「マジ!?名前、ちょーだい!」
「名前ちゃん、アホ猿への餌付けもほどほどにな」
「んだと、エロ河童!」
「まぁまぁ。缶詰だけでも買っておいて助かったじゃありませんか」
「本当ですね」
翌朝、森の中で簡素な朝食を取る。
「あーでも、やっぱ昨日ちゃんと焼そば十皿買えてたら、」
昨日の事を思い出したのか、悟空の手が止まる。
ヘイゼルのおかげで生き返った町の人たち。
異様なまでの、妖怪への殺意と執着。
砂と化して消える姿。
忘れろ、なんて言う三蔵だけれど、悟空もそう簡単に割り切れないだろう。
そもそもヘイゼルは、この事を知ってるのだろうか。
「見つけたぞ!おたずね者の三蔵一行!」
「経文とその女、貴様らの命も貰い受けるぜ!」
刺客が現れて、いつものように四人が交戦する。
しかし、倒しても倒しても次々と妖怪たちが襲いかかってくる。
「人海戦術で攻めてきましたよ」
「フンッ、早朝出勤ご苦労なこった」
その時、三蔵以外の銃声が轟く。
「こない朝まっから、賑やかいお人らやねぇ」
「ヘイゼルさん」
銃を構えるガトを従えて、ヘイゼルが現れた。
二人も参戦して、妖怪たちを倒していく。
「あとはまかしとき。なんやあんさん方、手間取ってるみたいやから」
カチンときた悟浄と悟空に、八戒も笑顔のまま固まっている。
悟浄と悟空が、ちょいちょいと三蔵を手招きした。
「三蔵、ちょっと」
「……何だよ」
「魔戒天浄かましたれ」
「ガキか、てめぇら!」
「あぁ、ホンマ。無理は禁物どすえ、三蔵はん。怪我でもしはったら事やろ?なんなら、名前はんの後ろにでも隠れときや」
逆鱗に触れたな、と苦笑いする。
怒りに身を任せた三蔵が魔戒天浄を唱えた事により、あたりの妖怪が一掃された。
「あーあ、ホントにやりましたね」
「どっちがガキだよ、どっちが」
「……いやぁ、ビックリしたわ。ホンマ!」
一瞬、ヘイゼルの表情が変わった気がしたが、すぐにいつもの笑顔に戻る。
おごるから次の町で一緒に食事しようと誘われて、私たちは森を降りた。
◇
「ところで、お宅ら西から来たんだろ?何でまだ西に引き返して来たんだよ」
ガツガツとみんなが遠慮なく食べる中、ビール片手に悟浄が質問する。
妖怪退治のため、普段から狙われている私たちと一緒の方がいいと判断したとの事。
ちなみに、ガトは食事をせずに後ろに佇んでいる。
彼はすでに命を落とした身で、大事な相方だそうだ。
「ヘイゼルさんは、すべて知ってるんですか?」
「何が、どすか?名前はん」
「生き返った方の、副作用のようなものです」
そう割り込むように口を開いたのは、八戒だった。
「皆さん総じて瞳の色が黄色くなられてますよね。それ以外、特に生前と変わりなく、死者を蘇らせる事が可能なのかと思いまして」
「副作用は特に……ただ、うちの力で蘇ったんは皆、妖怪に命を奪われたお人ばっかりや。せやから、妖怪に対する憎しみの感情まで蘇らせてしまう。それを拭い去る事ができひんのは……うちの力のいたらんところやね」
悲壮感を漂わせるヘイゼルだったが、スッと顔を上げてその青い目と視線が交わる。
「それよか、名前はん」
「はい?」
「この中の誰と、恋人なんどすか?」
私含めて、三蔵たちみんなの手がピタリと止まった。
「あれ、違いますの?こないにかいらしいお嬢はんとこんだけの色男が一緒におるのに、色恋の一つもないなんておかしな話やありまへん?」
ヘイゼルの質問に苦笑いで返す。
そういえば、この旅を始めてすぐの頃も似たような事聞かれたなと一人懐かしく思う。
「せやったら、うちが貰っても何の文句もありまへんね?」
ダンッと、勢いよく机に手をついて悟空が立ち上がった。
「ダメだッ!ゼッテー、ダメだかんなッ!」
「文句大ありだ、この野郎」
「おもしろくもない冗談ですねぇ」
チラリと、ヘイゼルの視線が黙ったまま煙草を吸う三蔵へ向かう。
「三蔵はんは、いいんどすか?」
「てめぇじゃ、この人の隣は務まらねぇよ」
「……モテモテやねぇ、名前はん」
頬杖をついて楽しそうに笑うヘイゼルに、私はムッとして彼を見据える。
この人、反応を見て楽しんでる。
私だけじゃなくて、三蔵たち四人の姿を。
「あの、お食事中のところ申し訳ありません。ひょっとして貴方がたは有名な……ヘイゼル司教様御一行でいらっしゃいますか?」
四人が各々の反応で驚き、凍りつく。
三蔵一行、ではなくヘイゼル一行と呼ばれる日が来るとは思いもしなかった。
◇
「ほんまに便利やねぇ。馬車よりうんと速いわ。なぁガト?」
「……あぁ」
「まあ何と言いますか……さすがにちょっと無理がありますよねぇ」
「元から満席だったですからね……」
「賑やかでええやないですか」
生い茂る森の中を、いつものようにジープが疾走する。
ただ、違うのはその人数と配置。
後部座席にいるのはヘイゼルとガト、そしてガトの肩の上ではしゃぐ悟空。
悟浄は気の毒な事にさらに後ろで、もはや席でもない。
私はというと、いつもの助手席にいる三蔵の膝の間に座っていた。
仕方ないとはいえ、恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいになり顔が赤くなる。
「すみません、三蔵……」
「平気だ」
「役得やなぁ、三蔵はん。なぁ名前はん、なんやったらうちのお膝においでや?」
「殺す」
「ジープ、大丈夫?」
「キュー……」
「すみません、あとしばらくの辛抱ですからね」
私たちは西南にある妖怪の根城へ向かっていた。
事の発端は先ほどヘイゼル御一行様、と救いを求めるように現れた町の人たち。
妖怪たちの棲家が隣町へ行く道中にあり、町の男が襲われて、女たちは行方不明になってるという。
ヘイゼルたちとは途中まで同行する事となった。
「行方不明って……皆食われちまうって事?」
「……どーだろな」
「あるいは、意図的に生かされているかもしれません」
いつもとは違う八戒の表情に、胸がざわりと痛む。
捕虜となった女性たち。
過去の記憶と重なり、許す事が出来ないのだろう。
◇
道中、開けた場所でジープを停車させる。
車内に残っているのは、三蔵、ヘイゼル、私の三人。
妖怪を誘き出すための囮作戦だ。
「何も心配せんでもええよ、名前はん。ちゃんとガトが見張っとるさかい、それにうちもおるわけやし」
三蔵が眉間にシワを寄せて、青筋を浮かべる。
「面倒事につき合わせやがって。大体、俺たちはこんな事に関わってるヒマはねぇんだよ」
「三蔵法師。開元経文の守り人、でしたな?この桃源郷を統括する最高僧の称号や」
怪訝な表情を見せる三蔵に、ヘイゼルは笑みを絶やさない。
「三蔵はん、名前はん。この桃源郷の外に、出はった事あります?」
「いや、ねぇよ」
「私も」
帽子の下で、ヘイゼルの瞳が鋭くなる。
「うちのいた大陸ではな、妖怪……モンスター言うんは害虫みたいなもんなんや」
それは、明らかに感じられる憎悪。
草木が揺れる音と気配にハッとして、周りを見渡す。
「よォ、坊さんがこんな所で何やってんだ?」
「女だ、女!お前ら、先に女を捕まえろ!」
「ガト」
すさまじい速さと音で上から降ってきたガトが、妖怪たちに銃を放つ。
そして、生き残り一人を捕まえてアジトへ案内させる事となった。
約束通りヘイゼルたちとはここで別れると思っていたが。
「つき合ってやるよ」
そう言い放ったのは、驚く事に三蔵だった。
◇
洞窟の奥。
合言葉で開いた扉を、悟浄が蹴り上げて中に入る。
「なんやお行儀悪やねぇ。名前はん、しつけはちゃんとせなあかんよ?」
「そんな犬や猫じゃないんですから」
「ま……まさか貴様らがあの有名な、ヘイゼルいっこ、」
「それはもうエエっちゅーの」
俺たちのやり方があると言って、悟空と悟浄が我先に妖怪たちを倒して奥へと進んでいく。
「元気なお人らやねぇ。危ないから、名前はんはうちの後ろにおるとええよ」
「誰がてめぇなんかに預けるかよ」
「おぉ、怖い怖い。ホンマつれないお人やねぇ」
「名前、決して僕らのそばを離れないでくださいね」
「はい」
捕虜の人たちの場所を聞き出して、最上階へ走って向かう。
悟空と悟浄をあっさりと追い抜いたのは、ヘイゼルだった。
「いや、うちはそない足には自信ないんやけど……コンパスの差と違います?」
「悟空、そいつブチ殺せ!」
悟空たちの後ろを走っていると、すぐ隣に八戒が並ぶ。
「名前、しんどくなったら言ってくださいね。僕が背負いますんで」
「これくらい、大丈夫です!」
今日の八戒は、なんだかいつもより過保護だ。
少しして、前方で何かあったようで立ち止まる。
「あいででででッ!」
「はさまってる、はさまってるって!」
「す……すまん」
「何やってんだ、バカどもが」
「向いてませんね、団体行動」
「悟空、悟浄。一回引っ込みましょう、一回」
悟空、悟浄、ガトの三人が扉に挟まり、身動きの取れなくなった姿に眉尻を下げて笑う。
態勢を立て直して、改めて幹部の妖怪たちへと立ち向かう。
額に汗をにじませた妖怪は、捕虜の女の首に刃をあてた。
「どうせてめぇら、この女達を取り戻しに来たんだろうが!そこを退かねぇと、女の命はねぇぞ!」
「ま〜た、このパターンかよ」
「ガト、構へんよ。娘はんらごといっぺん死んでもらいまひょ」
今、なんて。
平然と言い放つヘイゼルの言葉に、背筋が凍る。
「ちょっと待ってください、ヘイゼルさん!」
「本気か!?」
「い、嫌!助けて……!」
「妖怪は三匹、人質は三人。魂三つ回収して三人蘇らせても、プラマイゼロや」
「いやぁあああああ!」
女性が泣き叫び、ガトが銃口を向けようとしたその時。
悟空と八戒がその両腕をつかみ、私はガトの前に両手を広げて立ちふさがった。
「……邪魔しはるんは、ルール違反やおまへんの?」
「言っただろ。俺達のやり方があるんだよ」
悟浄が錫月杖で敵だけを斬り裂き、女性たちを保護する。
怒る私たちにヘイゼルはただのハッタリだと笑っている。
冗談だとしてもなぜ咎められているか、わかっていない様子だった。
「俺は確かに外の世界を知らないが、それでもわかる事がある」
即死できずにいた妖怪に、三蔵が銃口を向ける。
「命ってのは、ひとつふたつと数えるもんじゃねえよ」
「ムナシー……」
「文句があるなら食うな」
「だってコレ少ねぇんだもん!」
「そっちかよ」
「悟空、こっちにもまだありますよ」
「マジ!?名前、ちょーだい!」
「名前ちゃん、アホ猿への餌付けもほどほどにな」
「んだと、エロ河童!」
「まぁまぁ。缶詰だけでも買っておいて助かったじゃありませんか」
「本当ですね」
翌朝、森の中で簡素な朝食を取る。
「あーでも、やっぱ昨日ちゃんと焼そば十皿買えてたら、」
昨日の事を思い出したのか、悟空の手が止まる。
ヘイゼルのおかげで生き返った町の人たち。
異様なまでの、妖怪への殺意と執着。
砂と化して消える姿。
忘れろ、なんて言う三蔵だけれど、悟空もそう簡単に割り切れないだろう。
そもそもヘイゼルは、この事を知ってるのだろうか。
「見つけたぞ!おたずね者の三蔵一行!」
「経文とその女、貴様らの命も貰い受けるぜ!」
刺客が現れて、いつものように四人が交戦する。
しかし、倒しても倒しても次々と妖怪たちが襲いかかってくる。
「人海戦術で攻めてきましたよ」
「フンッ、早朝出勤ご苦労なこった」
その時、三蔵以外の銃声が轟く。
「こない朝まっから、賑やかいお人らやねぇ」
「ヘイゼルさん」
銃を構えるガトを従えて、ヘイゼルが現れた。
二人も参戦して、妖怪たちを倒していく。
「あとはまかしとき。なんやあんさん方、手間取ってるみたいやから」
カチンときた悟浄と悟空に、八戒も笑顔のまま固まっている。
悟浄と悟空が、ちょいちょいと三蔵を手招きした。
「三蔵、ちょっと」
「……何だよ」
「魔戒天浄かましたれ」
「ガキか、てめぇら!」
「あぁ、ホンマ。無理は禁物どすえ、三蔵はん。怪我でもしはったら事やろ?なんなら、名前はんの後ろにでも隠れときや」
逆鱗に触れたな、と苦笑いする。
怒りに身を任せた三蔵が魔戒天浄を唱えた事により、あたりの妖怪が一掃された。
「あーあ、ホントにやりましたね」
「どっちがガキだよ、どっちが」
「……いやぁ、ビックリしたわ。ホンマ!」
一瞬、ヘイゼルの表情が変わった気がしたが、すぐにいつもの笑顔に戻る。
おごるから次の町で一緒に食事しようと誘われて、私たちは森を降りた。
◇
「ところで、お宅ら西から来たんだろ?何でまだ西に引き返して来たんだよ」
ガツガツとみんなが遠慮なく食べる中、ビール片手に悟浄が質問する。
妖怪退治のため、普段から狙われている私たちと一緒の方がいいと判断したとの事。
ちなみに、ガトは食事をせずに後ろに佇んでいる。
彼はすでに命を落とした身で、大事な相方だそうだ。
「ヘイゼルさんは、すべて知ってるんですか?」
「何が、どすか?名前はん」
「生き返った方の、副作用のようなものです」
そう割り込むように口を開いたのは、八戒だった。
「皆さん総じて瞳の色が黄色くなられてますよね。それ以外、特に生前と変わりなく、死者を蘇らせる事が可能なのかと思いまして」
「副作用は特に……ただ、うちの力で蘇ったんは皆、妖怪に命を奪われたお人ばっかりや。せやから、妖怪に対する憎しみの感情まで蘇らせてしまう。それを拭い去る事ができひんのは……うちの力のいたらんところやね」
悲壮感を漂わせるヘイゼルだったが、スッと顔を上げてその青い目と視線が交わる。
「それよか、名前はん」
「はい?」
「この中の誰と、恋人なんどすか?」
私含めて、三蔵たちみんなの手がピタリと止まった。
「あれ、違いますの?こないにかいらしいお嬢はんとこんだけの色男が一緒におるのに、色恋の一つもないなんておかしな話やありまへん?」
ヘイゼルの質問に苦笑いで返す。
そういえば、この旅を始めてすぐの頃も似たような事聞かれたなと一人懐かしく思う。
「せやったら、うちが貰っても何の文句もありまへんね?」
ダンッと、勢いよく机に手をついて悟空が立ち上がった。
「ダメだッ!ゼッテー、ダメだかんなッ!」
「文句大ありだ、この野郎」
「おもしろくもない冗談ですねぇ」
チラリと、ヘイゼルの視線が黙ったまま煙草を吸う三蔵へ向かう。
「三蔵はんは、いいんどすか?」
「てめぇじゃ、この人の隣は務まらねぇよ」
「……モテモテやねぇ、名前はん」
頬杖をついて楽しそうに笑うヘイゼルに、私はムッとして彼を見据える。
この人、反応を見て楽しんでる。
私だけじゃなくて、三蔵たち四人の姿を。
「あの、お食事中のところ申し訳ありません。ひょっとして貴方がたは有名な……ヘイゼル司教様御一行でいらっしゃいますか?」
四人が各々の反応で驚き、凍りつく。
三蔵一行、ではなくヘイゼル一行と呼ばれる日が来るとは思いもしなかった。
◇
「ほんまに便利やねぇ。馬車よりうんと速いわ。なぁガト?」
「……あぁ」
「まあ何と言いますか……さすがにちょっと無理がありますよねぇ」
「元から満席だったですからね……」
「賑やかでええやないですか」
生い茂る森の中を、いつものようにジープが疾走する。
ただ、違うのはその人数と配置。
後部座席にいるのはヘイゼルとガト、そしてガトの肩の上ではしゃぐ悟空。
悟浄は気の毒な事にさらに後ろで、もはや席でもない。
私はというと、いつもの助手席にいる三蔵の膝の間に座っていた。
仕方ないとはいえ、恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいになり顔が赤くなる。
「すみません、三蔵……」
「平気だ」
「役得やなぁ、三蔵はん。なぁ名前はん、なんやったらうちのお膝においでや?」
「殺す」
「ジープ、大丈夫?」
「キュー……」
「すみません、あとしばらくの辛抱ですからね」
私たちは西南にある妖怪の根城へ向かっていた。
事の発端は先ほどヘイゼル御一行様、と救いを求めるように現れた町の人たち。
妖怪たちの棲家が隣町へ行く道中にあり、町の男が襲われて、女たちは行方不明になってるという。
ヘイゼルたちとは途中まで同行する事となった。
「行方不明って……皆食われちまうって事?」
「……どーだろな」
「あるいは、意図的に生かされているかもしれません」
いつもとは違う八戒の表情に、胸がざわりと痛む。
捕虜となった女性たち。
過去の記憶と重なり、許す事が出来ないのだろう。
◇
道中、開けた場所でジープを停車させる。
車内に残っているのは、三蔵、ヘイゼル、私の三人。
妖怪を誘き出すための囮作戦だ。
「何も心配せんでもええよ、名前はん。ちゃんとガトが見張っとるさかい、それにうちもおるわけやし」
三蔵が眉間にシワを寄せて、青筋を浮かべる。
「面倒事につき合わせやがって。大体、俺たちはこんな事に関わってるヒマはねぇんだよ」
「三蔵法師。開元経文の守り人、でしたな?この桃源郷を統括する最高僧の称号や」
怪訝な表情を見せる三蔵に、ヘイゼルは笑みを絶やさない。
「三蔵はん、名前はん。この桃源郷の外に、出はった事あります?」
「いや、ねぇよ」
「私も」
帽子の下で、ヘイゼルの瞳が鋭くなる。
「うちのいた大陸ではな、妖怪……モンスター言うんは害虫みたいなもんなんや」
それは、明らかに感じられる憎悪。
草木が揺れる音と気配にハッとして、周りを見渡す。
「よォ、坊さんがこんな所で何やってんだ?」
「女だ、女!お前ら、先に女を捕まえろ!」
「ガト」
すさまじい速さと音で上から降ってきたガトが、妖怪たちに銃を放つ。
そして、生き残り一人を捕まえてアジトへ案内させる事となった。
約束通りヘイゼルたちとはここで別れると思っていたが。
「つき合ってやるよ」
そう言い放ったのは、驚く事に三蔵だった。
◇
洞窟の奥。
合言葉で開いた扉を、悟浄が蹴り上げて中に入る。
「なんやお行儀悪やねぇ。名前はん、しつけはちゃんとせなあかんよ?」
「そんな犬や猫じゃないんですから」
「ま……まさか貴様らがあの有名な、ヘイゼルいっこ、」
「それはもうエエっちゅーの」
俺たちのやり方があると言って、悟空と悟浄が我先に妖怪たちを倒して奥へと進んでいく。
「元気なお人らやねぇ。危ないから、名前はんはうちの後ろにおるとええよ」
「誰がてめぇなんかに預けるかよ」
「おぉ、怖い怖い。ホンマつれないお人やねぇ」
「名前、決して僕らのそばを離れないでくださいね」
「はい」
捕虜の人たちの場所を聞き出して、最上階へ走って向かう。
悟空と悟浄をあっさりと追い抜いたのは、ヘイゼルだった。
「いや、うちはそない足には自信ないんやけど……コンパスの差と違います?」
「悟空、そいつブチ殺せ!」
悟空たちの後ろを走っていると、すぐ隣に八戒が並ぶ。
「名前、しんどくなったら言ってくださいね。僕が背負いますんで」
「これくらい、大丈夫です!」
今日の八戒は、なんだかいつもより過保護だ。
少しして、前方で何かあったようで立ち止まる。
「あいででででッ!」
「はさまってる、はさまってるって!」
「す……すまん」
「何やってんだ、バカどもが」
「向いてませんね、団体行動」
「悟空、悟浄。一回引っ込みましょう、一回」
悟空、悟浄、ガトの三人が扉に挟まり、身動きの取れなくなった姿に眉尻を下げて笑う。
態勢を立て直して、改めて幹部の妖怪たちへと立ち向かう。
額に汗をにじませた妖怪は、捕虜の女の首に刃をあてた。
「どうせてめぇら、この女達を取り戻しに来たんだろうが!そこを退かねぇと、女の命はねぇぞ!」
「ま〜た、このパターンかよ」
「ガト、構へんよ。娘はんらごといっぺん死んでもらいまひょ」
今、なんて。
平然と言い放つヘイゼルの言葉に、背筋が凍る。
「ちょっと待ってください、ヘイゼルさん!」
「本気か!?」
「い、嫌!助けて……!」
「妖怪は三匹、人質は三人。魂三つ回収して三人蘇らせても、プラマイゼロや」
「いやぁあああああ!」
女性が泣き叫び、ガトが銃口を向けようとしたその時。
悟空と八戒がその両腕をつかみ、私はガトの前に両手を広げて立ちふさがった。
「……邪魔しはるんは、ルール違反やおまへんの?」
「言っただろ。俺達のやり方があるんだよ」
悟浄が錫月杖で敵だけを斬り裂き、女性たちを保護する。
怒る私たちにヘイゼルはただのハッタリだと笑っている。
冗談だとしてもなぜ咎められているか、わかっていない様子だった。
「俺は確かに外の世界を知らないが、それでもわかる事がある」
即死できずにいた妖怪に、三蔵が銃口を向ける。
「命ってのは、ひとつふたつと数えるもんじゃねえよ」