RELOAD編
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「何で俺達が薪割りしなきゃなんねーのよ」
「働かざる者食うべからず、ってな」
「そうですよ、悟浄」
昨日の大吹雪が、嘘のように晴れ渡っている。
真っ白な雪を踏みしめながら、私は薪を両手に抱えて運ぶ。
耶雲によると、夕方にはまた吹雪くから今は出発しない方がいいとの事。
「名前。僕が代わりますから、少し休んでてください」
「これくらい大丈夫ですよ、八戒」
「でも、」
「じゃあ嬢ちゃんは、俺の話し相手にでもなってくれ。寂しい独りモンの男に、ちょいと付き合ってくれや」
ぽんぽんっと、丸太に座る耶雲は横の空いている場所を叩く。
にこやかな八戒に薪を手渡して、私はそこに腰を下ろした。
「寂しいだなんて、子供達がいるじゃないですか」
「はは、そうだな。それにしても名前、お前さん野郎に混じって女一人で旅とはな……妖怪が怖くねぇのか?」
幾度となくされてきた質問。
その答えは、決まっていたはずだった。
なのに。
「今はちょっとだけ、怖くなりました」
「今は?」
「これまで考えてなかったんです。もしも暴走したらその時、私は……彼らを止めて、助けてあげられるだろうかって」
悟空の妖力制御装置が壊れた時を思い出す。
暴走する悟空を目にして、私は何も出来なかった。
想像したのは、最悪の未来。
彼らが彼らでなくなったら、その時私は、この手で。
「怖いのはそっちか……」
ふいに大きな手が降ってきて、くしゃくしゃと頭をなでられる。
「まあ、未来がどうなるかなんぞ、誰にもわからねぇ事だしな。今はなんともないんだろ?考えるだけ損だ、損」
「そうですね。耶雲さんだって、こうして平気なわけですし」
笑っていた耶雲は、私から視線を外して遠くを見つめる。
その様子に私は首を傾げた。
「耶雲さん?」
「……俺はとっくに、おかしくなってるのかもしれないがな」
その視線の先は、数多くの小さな墓石。
ふいに、下から誰かに服の袖を引っ張られる。
「耶雲ー!来てー!」
「お姉ちゃん!お姉ちゃんも雪合戦しよう!」
「もう始まってるー!」
賑やかな声に顔を向ければ、雪を投げ合う悟空と悟浄の元に子供達が集まっている。
一緒になって楽しそうに遊んでいる姿に、ふふと微笑む。
「よければ遊んでやってくれ。それに、さっきから坊さんがこっちをにらみっ放しで、そろそろ居た堪れねぇしな」
「え?」
三蔵は少し離れた場所で木を背もたれに、煙草を吸っていた。
眉間にシワを寄せているのは、いつもの事だけど。
「愛されてんな。恋仲か?」
「い、いえ……!」
「はは、そう照れる事ねぇって」
「耶雲ー!はやくー!」
「おっしゃ!いくぞー、お前ら!」
「お姉ちゃんもー!」
子供達に引っ張られて進んでいくと、そばで見守っている八戒を見つける。
よし、こうなったら八戒も道連れだ。
「ほら、八戒も一緒にあそびましょう」
「え?ちょっと、名前、」
八戒の手を取ると、笑い声とともに雪玉が降ってくる。
私達は日暮れ前まで、妖怪の子供達と遊び尽くした。
◇
「うっわー、マジで吹雪だ」
「山の天気は変わりやすいんですね、本当に」
耶雲の予想は見事的中。
私達はもう一晩、ここでお世話になる事となった。
「耶雲!ねえ耶雲、大変!梁がいないの」
「!」
昨日、村の人間が来た時から様子がおかしかった子だ。
耶雲が猟銃を持って一人で探しに行こうとするのを止めるが、大きな声を上げて断られる。
耶雲の人を寄せつけない、荒々しい態度。
「行くぞ、気になる事がある」
少しして、そう立ち上がったのは三蔵だった。
猛吹雪の中、五人で耶雲の足跡をたどっていく。
しばらくすると、銃声が何発か聞こえてきた。
走り出して見えた光景は。
「なんとかなるって……夢見てたのは、俺の方かもしれねぇな。そんな資格ありゃしねぇのに」
倒れている人間の背中には、引き裂かれたような傷跡。
小さな梁の背中には、銃弾の跡。
耶雲が梁の身体を抱えると、血のついた長い爪先がだらりと力なく揺れる。
妖怪の、暴走。
「殺してきたんだ。人間を襲う前に、暴走しちまった子供どもを。何度も、何度も俺が……俺が殺した」
戸惑いながら声を荒げる悟空の肩に手を置く。
私も、信じたくはなかった。
人間から迫害されて、それでも仲間と子供達と平和に暮らしていく生活。
そんな夢を見る事の、何がいけない事だろう。
子供を抱えて去っていく耶雲の背中を眺める。
その姿が見えなくなってから、私達はやっと歩き出した。
洞窟の入り口を目の前に、男の悲鳴が響き渡る。
「仕方ねぇじゃねえか!俺達だって、本当はこんな事したかなかったんだ!殺らなきゃこっちが殺られちまう、あんたらさえいなけりゃ俺達だって静かに暮らしてこれ、」
肉を裂き、骨が砕ける、耳を防ぎたくなるような無残な音。
洞窟から姿を現した耶雲は血まみれで、口の端をつりあげて笑っていた。
三蔵が私を背中に隠して、銃を構える。
「なんでだよぉおおお!」
悲痛な叫び声を上げる悟空に、耶雲が襲いかかる。
「耶雲さん……!」
その声はもう、あの笑顔の耶雲には届かない。
私達に襲いかかってきた彼は咆哮しながらも、涙を流していた。
◇
夜が明けて、朝日が銀の世界を照らす。
小さな墓石のそばに建てた、まだ雪の積もっていない大きな墓石。
最後にもう一度、両手を合わせてから立ち上がる。
行くぞ、と言われてもそこから動かない悟空に目を向ける。
「三蔵……あのさ、もし俺が」
その言葉の続きはなかった。
「……やっぱ、なんでもねーやっ」
「殺してやるよ」
東から差し込む太陽の光によって、三蔵のその表情は見えない。
私は、何も言えなかった。
「名前」
「……八戒」
「ほら、行きましょう」
先に行く四人を見ながら頷き、歩き出す。
この雪山で、暴走する妖怪を、耶雲を目の当たりにしてハッキリとわかった。
私は、私は大切な彼らをきっと、殺せない。
「働かざる者食うべからず、ってな」
「そうですよ、悟浄」
昨日の大吹雪が、嘘のように晴れ渡っている。
真っ白な雪を踏みしめながら、私は薪を両手に抱えて運ぶ。
耶雲によると、夕方にはまた吹雪くから今は出発しない方がいいとの事。
「名前。僕が代わりますから、少し休んでてください」
「これくらい大丈夫ですよ、八戒」
「でも、」
「じゃあ嬢ちゃんは、俺の話し相手にでもなってくれ。寂しい独りモンの男に、ちょいと付き合ってくれや」
ぽんぽんっと、丸太に座る耶雲は横の空いている場所を叩く。
にこやかな八戒に薪を手渡して、私はそこに腰を下ろした。
「寂しいだなんて、子供達がいるじゃないですか」
「はは、そうだな。それにしても名前、お前さん野郎に混じって女一人で旅とはな……妖怪が怖くねぇのか?」
幾度となくされてきた質問。
その答えは、決まっていたはずだった。
なのに。
「今はちょっとだけ、怖くなりました」
「今は?」
「これまで考えてなかったんです。もしも暴走したらその時、私は……彼らを止めて、助けてあげられるだろうかって」
悟空の妖力制御装置が壊れた時を思い出す。
暴走する悟空を目にして、私は何も出来なかった。
想像したのは、最悪の未来。
彼らが彼らでなくなったら、その時私は、この手で。
「怖いのはそっちか……」
ふいに大きな手が降ってきて、くしゃくしゃと頭をなでられる。
「まあ、未来がどうなるかなんぞ、誰にもわからねぇ事だしな。今はなんともないんだろ?考えるだけ損だ、損」
「そうですね。耶雲さんだって、こうして平気なわけですし」
笑っていた耶雲は、私から視線を外して遠くを見つめる。
その様子に私は首を傾げた。
「耶雲さん?」
「……俺はとっくに、おかしくなってるのかもしれないがな」
その視線の先は、数多くの小さな墓石。
ふいに、下から誰かに服の袖を引っ張られる。
「耶雲ー!来てー!」
「お姉ちゃん!お姉ちゃんも雪合戦しよう!」
「もう始まってるー!」
賑やかな声に顔を向ければ、雪を投げ合う悟空と悟浄の元に子供達が集まっている。
一緒になって楽しそうに遊んでいる姿に、ふふと微笑む。
「よければ遊んでやってくれ。それに、さっきから坊さんがこっちをにらみっ放しで、そろそろ居た堪れねぇしな」
「え?」
三蔵は少し離れた場所で木を背もたれに、煙草を吸っていた。
眉間にシワを寄せているのは、いつもの事だけど。
「愛されてんな。恋仲か?」
「い、いえ……!」
「はは、そう照れる事ねぇって」
「耶雲ー!はやくー!」
「おっしゃ!いくぞー、お前ら!」
「お姉ちゃんもー!」
子供達に引っ張られて進んでいくと、そばで見守っている八戒を見つける。
よし、こうなったら八戒も道連れだ。
「ほら、八戒も一緒にあそびましょう」
「え?ちょっと、名前、」
八戒の手を取ると、笑い声とともに雪玉が降ってくる。
私達は日暮れ前まで、妖怪の子供達と遊び尽くした。
◇
「うっわー、マジで吹雪だ」
「山の天気は変わりやすいんですね、本当に」
耶雲の予想は見事的中。
私達はもう一晩、ここでお世話になる事となった。
「耶雲!ねえ耶雲、大変!梁がいないの」
「!」
昨日、村の人間が来た時から様子がおかしかった子だ。
耶雲が猟銃を持って一人で探しに行こうとするのを止めるが、大きな声を上げて断られる。
耶雲の人を寄せつけない、荒々しい態度。
「行くぞ、気になる事がある」
少しして、そう立ち上がったのは三蔵だった。
猛吹雪の中、五人で耶雲の足跡をたどっていく。
しばらくすると、銃声が何発か聞こえてきた。
走り出して見えた光景は。
「なんとかなるって……夢見てたのは、俺の方かもしれねぇな。そんな資格ありゃしねぇのに」
倒れている人間の背中には、引き裂かれたような傷跡。
小さな梁の背中には、銃弾の跡。
耶雲が梁の身体を抱えると、血のついた長い爪先がだらりと力なく揺れる。
妖怪の、暴走。
「殺してきたんだ。人間を襲う前に、暴走しちまった子供どもを。何度も、何度も俺が……俺が殺した」
戸惑いながら声を荒げる悟空の肩に手を置く。
私も、信じたくはなかった。
人間から迫害されて、それでも仲間と子供達と平和に暮らしていく生活。
そんな夢を見る事の、何がいけない事だろう。
子供を抱えて去っていく耶雲の背中を眺める。
その姿が見えなくなってから、私達はやっと歩き出した。
洞窟の入り口を目の前に、男の悲鳴が響き渡る。
「仕方ねぇじゃねえか!俺達だって、本当はこんな事したかなかったんだ!殺らなきゃこっちが殺られちまう、あんたらさえいなけりゃ俺達だって静かに暮らしてこれ、」
肉を裂き、骨が砕ける、耳を防ぎたくなるような無残な音。
洞窟から姿を現した耶雲は血まみれで、口の端をつりあげて笑っていた。
三蔵が私を背中に隠して、銃を構える。
「なんでだよぉおおお!」
悲痛な叫び声を上げる悟空に、耶雲が襲いかかる。
「耶雲さん……!」
その声はもう、あの笑顔の耶雲には届かない。
私達に襲いかかってきた彼は咆哮しながらも、涙を流していた。
◇
夜が明けて、朝日が銀の世界を照らす。
小さな墓石のそばに建てた、まだ雪の積もっていない大きな墓石。
最後にもう一度、両手を合わせてから立ち上がる。
行くぞ、と言われてもそこから動かない悟空に目を向ける。
「三蔵……あのさ、もし俺が」
その言葉の続きはなかった。
「……やっぱ、なんでもねーやっ」
「殺してやるよ」
東から差し込む太陽の光によって、三蔵のその表情は見えない。
私は、何も言えなかった。
「名前」
「……八戒」
「ほら、行きましょう」
先に行く四人を見ながら頷き、歩き出す。
この雪山で、暴走する妖怪を、耶雲を目の当たりにしてハッキリとわかった。
私は、私は大切な彼らをきっと、殺せない。