RELOAD編
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一面、銀の世界。
「……寒ッ」
「寒いですねぇ」
「寒いー!」
「うるせえ」
「くしゅんっ」
「大丈夫ですか、名前」
平気だと八戒に笑い、首元までローブを上げる。
容赦なく降り続ける吹雪に、視界と体力を奪われながらも雪山を歩いて進んでいく。
どこかに村や宿などないかと悟浄が嘆くが、この山に人は住んでいないらしい。
たしかに、人が住むには過酷な環境だ。
悟空はこんな状況でも、深雪を踏みしめ声を上げて楽しんでいる。
「いやー、悟空は熱量が高いですねぇ」
「猿は喜び庭かけ廻るってな」
「悟空、あんまりはしゃぐとすぐお腹空いちゃいますよー」
その時、何かが飛んできて地面に突き刺さる。
「帰れ!この山に近付くな!」
声の方へ顔を向けると、木の上で子供達が弓を構えていた。
「何すんだよお前ら!危ねーだろッ」
「うるさい!村の奴らは山に入ってくるなって言ったろ!」
「どうやら、人違いされてるみたいですね」
村の人間ではないと説明しても、また弓矢や石が飛んでくる。
関わるなと三蔵を筆頭に走り出すが、とても走れるような環境じゃない。
数歩先へ足を踏み出した瞬間、襲う浮遊感。
道だと思っていたそこは何もない崖の先で、悲鳴を上げながら私達は落ちていった。
◇
「ぷはっ」
埋もれていた雪から、顔を上げる。
結構な高さから落ちたようだけど、この降り積もった雪がクッションになったようで助かった。
三蔵達は、と周りを見ると見知らぬ男の背中。
気を失った八戒と悟浄を、両脇に抱えていた。
「何してるんですか!二人を離してください!」
「ん?ああ、お嬢ちゃんは気が付いたのか」
背は高く、恰幅の良い男の耳は尖っている。
妖怪だ。
私を見て少し驚いたようだが、落ち着いた様子で視線を地面へ落とす。
「元気があるなら、そっちのちっこいの運ぶの手伝ってくれ。凍死しちまうぞ」
スタスタと、三蔵と悟空を置いて雪山を歩いていく姿に目を丸くする。
経文も、もちろん三蔵の双肩に掛かったまま。
その妖怪は、敵意も殺意もなかった。
◇
「すみませんでした、耶雲さん。助けていただいたのに、あんな態度をとって」
「いいって事よ。ホラ、鍋食うか?身体があったまるぞ」
パチパチと火が揺れる洞窟の中。
お礼を言ってお椀を受け取り、酒入の美味しい鍋に一息つく。
八戒と悟浄が目覚めて、次に三蔵が起き上がると耶雲の胸ぐらをつかんで銃を突きつけた。
「へえ、素早いな」
「何者だ、貴様」
「待って、三蔵!その人が助けてくれたんです」
「みたいだぜ、降ろしてやんな」
三蔵が私達へ顔を向けて、舌打ちしてから手を離す。
「……異変の影響を受けてない妖怪、か」
「ま、そんなとこだ」
外の様子を見れば、夕方なのに猛吹雪で真っ暗。
さらに明日まで吹雪くだろうとの事。
私達が地元の人間ではなく旅の途中だと知ると、やっぱりなと耶雲は謝る。
ウチのガキ共が早まって悪かった、と。
「まさかこいつら、全部おまえの!?」
「俺は立派な独りモンだ。ホラ、さっきの事を兄ちゃん姉ちゃん達に謝りな」
「ごめんなさい」
「ごめんなさーい」
布で仕切られた奥から、次々と幼い子供達が出てきて素直に頭を下げる。
全員、妖怪だ。
そばに来た子の頭をなでると、キャッキャッとよろこんで笑みがこぼれる。
ここら辺で自我を保っている大人は耶雲一人。
この子たちは、親が暴走して独りになった孤児だそうだ。
「ぎゃあ!なんだなんだ!?いででで、乗るな、引っ張んなー!」
「おはよう、悟空」
「おはよ!って、なんだよこいつらー!」
「床に転がってるとオモチャにされるぞ」
「いいぞー、オモチャにしちまえー」
悟空が子供と戯れてる間、耶雲に旅の目的を聞かれる。
「なるほどな。確かに元凶をつきとめれば、自我を失った妖怪達を元に戻せるかもしれん……だが、それですべてが丸く収まるもんかな。これまで妖怪がしてきた事を、人間達が今さら許すと思うか?」
耶雲の言葉に、胸がきしりと痛む。
暴走した妖怪はこれまで容赦なく、人間を食し、犯し、殺してきた。
「ここまで人間達に、恐怖と不信感を植え付けちまった以上……ムズかしいと思うぜ」
妖怪の子供達とともに、この雪山を住処にしている耶雲。
きっと、身を持って痛感してきた事だろう。
「おいオッサン!こいつらなんとかしてくれよ、飯が食えねぇ!」
「オッサンだぁ?おい、この兄ちゃんがもっと遊んでくれるってよ」
「ぎゃー!」
「やっぱ、ガキはガキと遊ぶのが一番だな」
そう言う悟浄は、女の子二人に髪を三つ編みされていた。
「ふふ、似合ってますよ。悟浄」
「う、うれしくねぇ……」
「お姉ちゃんだっこしてー!」
「おんぶしてー!」
「はい、いいですよ。順番ね」
「わーい!」
続々と集まってる子供たちを一人ずつ抱きかかえたり、背中に乗せてその場で回ったりする。
なんだか、江流の頃を思い出すな。
頭をなでたり抱きしめたり、私が一方的に可愛がってただけなんだけど。
「こうして見るとマジモンの保母さんじゃん、名前ちゃん」
「子供好きだからな、あの人は」
「おいどうした、八戒」
「……え?いえ、何でもありません。あはは」
「ならいいけどよ」
近くで悟空と悟浄のケンカが始まったかと思えば、恒例のハリセンが飛んでくる。
その様子を、子供達と一緒に笑い合う。
「耶雲さんすみません、騒がしくって」
「はは、気にすんな。うまくやってんだな、あんたら」
「あはは、まぁ一応は」
「……こんな御時世に、人間と妖怪が旅をともにしてるなんてな。驚いたぜ。特に、そこのお嬢ちゃんなんか、」
ふいに、耶雲の顔が険しくなり洞窟の出入り口を見て立ち上がる。
誰かが来る。
耶雲に言われるまま、私は子供達を洞窟の奥へと避難させた。
「……やっと見つけたぞ」
「こんな所で妖怪の子供を匿っているとはなぁ、耶雲」
人間だ。
手にしている農具を構えて、耶雲を憎しみの目でにらみつけている。
明らかな、敵意。
「放っといてくれ!俺たちはあんたらに何の迷惑もかけてないはずだ!子供達だって、」
「妖怪が近くに住んでるってだけで、俺達は気が気じゃねぇんだ!いつお前らが他の妖怪どもと同じように暴走して村を襲うか、お前ら自身にだって保証はできねぇんだろうが!」
喉元に、刃を突き付けられた気分だった。
何も耶雲に限った話ではない。
今までずっと、何の根拠もなしに大丈夫だと思い込んでいた。
悟空、八戒、悟浄だって、もしかしたら。
「この土地を出て行ってもらえねぇならば、死んでもらうまでだ!」
「待ってください!」
男達の動きが止まる。
私が声を上げたのと同時に、三蔵は耶雲の猟銃を手で制していた。
「僧侶と、それに女……あんた達人間か?何で人間が妖怪と一緒にいる?」
「成り行き上な」
「彼らは妖怪でも、私達人間と何ら変わりないからですよ」
三蔵が煙草に火をつけて、人間の言い分も最もだと冷静に言い放つ。
「ただし、耶雲はともかく今ここにいるのは、ただの子供だ。名前の言う通り、あんたらの村にいる人間のガキども何ら変わらん、な。それがわかっていて尚、このガキたちを始末できるというなら……てめぇらは妖怪でも人間でもねぇ」
戸惑う男達だが、それでも妖怪とは共存できないと断言する。
「いいか。この土地を出ていってもらうまで俺達は納得しねぇからな、何度でも来るぞ」
「……俺達だって、生きんのに必死なんだ」
重い言葉を残して、村人達が去って行く。
奥から出てきた子供達の中で、両腕を抱えてひどく震える男の子がいた。
もう大丈夫だと声をかけるが、目は合わず震えも止まらない。
耶雲も駆け寄って、安心させるよう必死に言い聞かせていた。
「梁!大丈夫だ梁!もう大丈夫だっ!お前らは、俺が守るから……!」
人間と妖怪。
目の前で突きつけられた現実。
異変を受けようが受けてなかろうが、もはや相容れる事は出来ない。
うつむく私の肩へ手が置かれて振り返ると、悲痛な表情の八戒と視線が交わった。
「畜生っ、なんで……そっとしといてくれねぇんだよ」
「耶雲さん……」
「ちくしょう……!」
「……寒ッ」
「寒いですねぇ」
「寒いー!」
「うるせえ」
「くしゅんっ」
「大丈夫ですか、名前」
平気だと八戒に笑い、首元までローブを上げる。
容赦なく降り続ける吹雪に、視界と体力を奪われながらも雪山を歩いて進んでいく。
どこかに村や宿などないかと悟浄が嘆くが、この山に人は住んでいないらしい。
たしかに、人が住むには過酷な環境だ。
悟空はこんな状況でも、深雪を踏みしめ声を上げて楽しんでいる。
「いやー、悟空は熱量が高いですねぇ」
「猿は喜び庭かけ廻るってな」
「悟空、あんまりはしゃぐとすぐお腹空いちゃいますよー」
その時、何かが飛んできて地面に突き刺さる。
「帰れ!この山に近付くな!」
声の方へ顔を向けると、木の上で子供達が弓を構えていた。
「何すんだよお前ら!危ねーだろッ」
「うるさい!村の奴らは山に入ってくるなって言ったろ!」
「どうやら、人違いされてるみたいですね」
村の人間ではないと説明しても、また弓矢や石が飛んでくる。
関わるなと三蔵を筆頭に走り出すが、とても走れるような環境じゃない。
数歩先へ足を踏み出した瞬間、襲う浮遊感。
道だと思っていたそこは何もない崖の先で、悲鳴を上げながら私達は落ちていった。
◇
「ぷはっ」
埋もれていた雪から、顔を上げる。
結構な高さから落ちたようだけど、この降り積もった雪がクッションになったようで助かった。
三蔵達は、と周りを見ると見知らぬ男の背中。
気を失った八戒と悟浄を、両脇に抱えていた。
「何してるんですか!二人を離してください!」
「ん?ああ、お嬢ちゃんは気が付いたのか」
背は高く、恰幅の良い男の耳は尖っている。
妖怪だ。
私を見て少し驚いたようだが、落ち着いた様子で視線を地面へ落とす。
「元気があるなら、そっちのちっこいの運ぶの手伝ってくれ。凍死しちまうぞ」
スタスタと、三蔵と悟空を置いて雪山を歩いていく姿に目を丸くする。
経文も、もちろん三蔵の双肩に掛かったまま。
その妖怪は、敵意も殺意もなかった。
◇
「すみませんでした、耶雲さん。助けていただいたのに、あんな態度をとって」
「いいって事よ。ホラ、鍋食うか?身体があったまるぞ」
パチパチと火が揺れる洞窟の中。
お礼を言ってお椀を受け取り、酒入の美味しい鍋に一息つく。
八戒と悟浄が目覚めて、次に三蔵が起き上がると耶雲の胸ぐらをつかんで銃を突きつけた。
「へえ、素早いな」
「何者だ、貴様」
「待って、三蔵!その人が助けてくれたんです」
「みたいだぜ、降ろしてやんな」
三蔵が私達へ顔を向けて、舌打ちしてから手を離す。
「……異変の影響を受けてない妖怪、か」
「ま、そんなとこだ」
外の様子を見れば、夕方なのに猛吹雪で真っ暗。
さらに明日まで吹雪くだろうとの事。
私達が地元の人間ではなく旅の途中だと知ると、やっぱりなと耶雲は謝る。
ウチのガキ共が早まって悪かった、と。
「まさかこいつら、全部おまえの!?」
「俺は立派な独りモンだ。ホラ、さっきの事を兄ちゃん姉ちゃん達に謝りな」
「ごめんなさい」
「ごめんなさーい」
布で仕切られた奥から、次々と幼い子供達が出てきて素直に頭を下げる。
全員、妖怪だ。
そばに来た子の頭をなでると、キャッキャッとよろこんで笑みがこぼれる。
ここら辺で自我を保っている大人は耶雲一人。
この子たちは、親が暴走して独りになった孤児だそうだ。
「ぎゃあ!なんだなんだ!?いででで、乗るな、引っ張んなー!」
「おはよう、悟空」
「おはよ!って、なんだよこいつらー!」
「床に転がってるとオモチャにされるぞ」
「いいぞー、オモチャにしちまえー」
悟空が子供と戯れてる間、耶雲に旅の目的を聞かれる。
「なるほどな。確かに元凶をつきとめれば、自我を失った妖怪達を元に戻せるかもしれん……だが、それですべてが丸く収まるもんかな。これまで妖怪がしてきた事を、人間達が今さら許すと思うか?」
耶雲の言葉に、胸がきしりと痛む。
暴走した妖怪はこれまで容赦なく、人間を食し、犯し、殺してきた。
「ここまで人間達に、恐怖と不信感を植え付けちまった以上……ムズかしいと思うぜ」
妖怪の子供達とともに、この雪山を住処にしている耶雲。
きっと、身を持って痛感してきた事だろう。
「おいオッサン!こいつらなんとかしてくれよ、飯が食えねぇ!」
「オッサンだぁ?おい、この兄ちゃんがもっと遊んでくれるってよ」
「ぎゃー!」
「やっぱ、ガキはガキと遊ぶのが一番だな」
そう言う悟浄は、女の子二人に髪を三つ編みされていた。
「ふふ、似合ってますよ。悟浄」
「う、うれしくねぇ……」
「お姉ちゃんだっこしてー!」
「おんぶしてー!」
「はい、いいですよ。順番ね」
「わーい!」
続々と集まってる子供たちを一人ずつ抱きかかえたり、背中に乗せてその場で回ったりする。
なんだか、江流の頃を思い出すな。
頭をなでたり抱きしめたり、私が一方的に可愛がってただけなんだけど。
「こうして見るとマジモンの保母さんじゃん、名前ちゃん」
「子供好きだからな、あの人は」
「おいどうした、八戒」
「……え?いえ、何でもありません。あはは」
「ならいいけどよ」
近くで悟空と悟浄のケンカが始まったかと思えば、恒例のハリセンが飛んでくる。
その様子を、子供達と一緒に笑い合う。
「耶雲さんすみません、騒がしくって」
「はは、気にすんな。うまくやってんだな、あんたら」
「あはは、まぁ一応は」
「……こんな御時世に、人間と妖怪が旅をともにしてるなんてな。驚いたぜ。特に、そこのお嬢ちゃんなんか、」
ふいに、耶雲の顔が険しくなり洞窟の出入り口を見て立ち上がる。
誰かが来る。
耶雲に言われるまま、私は子供達を洞窟の奥へと避難させた。
「……やっと見つけたぞ」
「こんな所で妖怪の子供を匿っているとはなぁ、耶雲」
人間だ。
手にしている農具を構えて、耶雲を憎しみの目でにらみつけている。
明らかな、敵意。
「放っといてくれ!俺たちはあんたらに何の迷惑もかけてないはずだ!子供達だって、」
「妖怪が近くに住んでるってだけで、俺達は気が気じゃねぇんだ!いつお前らが他の妖怪どもと同じように暴走して村を襲うか、お前ら自身にだって保証はできねぇんだろうが!」
喉元に、刃を突き付けられた気分だった。
何も耶雲に限った話ではない。
今までずっと、何の根拠もなしに大丈夫だと思い込んでいた。
悟空、八戒、悟浄だって、もしかしたら。
「この土地を出て行ってもらえねぇならば、死んでもらうまでだ!」
「待ってください!」
男達の動きが止まる。
私が声を上げたのと同時に、三蔵は耶雲の猟銃を手で制していた。
「僧侶と、それに女……あんた達人間か?何で人間が妖怪と一緒にいる?」
「成り行き上な」
「彼らは妖怪でも、私達人間と何ら変わりないからですよ」
三蔵が煙草に火をつけて、人間の言い分も最もだと冷静に言い放つ。
「ただし、耶雲はともかく今ここにいるのは、ただの子供だ。名前の言う通り、あんたらの村にいる人間のガキども何ら変わらん、な。それがわかっていて尚、このガキたちを始末できるというなら……てめぇらは妖怪でも人間でもねぇ」
戸惑う男達だが、それでも妖怪とは共存できないと断言する。
「いいか。この土地を出ていってもらうまで俺達は納得しねぇからな、何度でも来るぞ」
「……俺達だって、生きんのに必死なんだ」
重い言葉を残して、村人達が去って行く。
奥から出てきた子供達の中で、両腕を抱えてひどく震える男の子がいた。
もう大丈夫だと声をかけるが、目は合わず震えも止まらない。
耶雲も駆け寄って、安心させるよう必死に言い聞かせていた。
「梁!大丈夫だ梁!もう大丈夫だっ!お前らは、俺が守るから……!」
人間と妖怪。
目の前で突きつけられた現実。
異変を受けようが受けてなかろうが、もはや相容れる事は出来ない。
うつむく私の肩へ手が置かれて振り返ると、悲痛な表情の八戒と視線が交わった。
「畜生っ、なんで……そっとしといてくれねぇんだよ」
「耶雲さん……」
「ちくしょう……!」