埋葬編
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「名前さん、昨晩はよく眠れましたか?」
「剛内様!はい……おかげさまで」
翌朝。
廊下で出会った剛内様に挨拶して早々、深々と頭を下げられ困惑する。
「昨日はうちの不躾な弟子が失礼しました。儂もアイツには手を焼いておりまして……きつく注意しておきましたので」
「い、いえ!そんな……!そもそも、女人禁制のこちらにお邪魔している私が悪いので」
一瞬、何の事だと首を傾けたが、健邑くんの件だろう。
光明様から聞いたとの事だが、わざわざ剛内様に報告せずともよいのに。
いいですか、と剛内様は厳しいお顔つきになり低い声で放つ。
「女が不浄なのではなく、男が女に抱く劣情が不浄なのです」
「剛内様……」
「何か不便不都合があったら、いつでも儂に相談してくだされ。名前さんは大切な客人なのですから」
「はい……ありがとうございます」
なんと、お優しい方だろうか。
剛内様のお言葉が、胸にじんわりと染み渡る。
朝食を頂いたあと、草履を履き曇り空を見上げる。
北風が髪をなびかせて、今日も少し肌寒い。
中庭にいる漆黒の青年を見つけて、声をかけた。
「健邑くん」
相変わらず虚な瞳をしていたが、きょとんとした顔に変わった。
「アンタ、昨日の今日でよく俺に話かけたね」
「えっと、昨日はお恥ずかしいところをお見せしてすみませんでした」
「それって、俺に迫られた時のこと?」
「いえ、その……その後まるで子供のように光明様にすがったところ、です」
人前で男性に抱きついたなんて、今思い返しただけでも恥ずかしい。
以前、光明様の胸をお借りして散々泣いた事は置いといて。
あぁ、とつぶやいた健邑くんは興味なさげに空を仰ぐ。
「べつに、気にするような事でもないと思うけど?」
「それは、そうなのですが……健邑くんは17歳とお聞きして、その、年上としていかがなものかと思いまして」
「……くだらない」
小さく吐き捨てるような声に、うつむいていた顔を上げる。
影を落とした姿は、一瞬。
まるで錯覚だったかのように、人差し指を上げて彼は笑っていた。
「年上とか年下とか、どーでもいいんじゃないですか?だってほら、イマドキ年の差婚なんてそう珍しいものでもないわけですし?光明三蔵法師とアンタ、お似合いですよ。何なら早いうちに、お子さんの顔でも見せてくださいよ。ねぇ?」
「そ、そういう意味では……!そもそも、私と光明様はそのような関係ではなくてですね……!」
どうして、そういった発想になるのだろう。
このままでは禅奥寺のお坊さんたちに、あらぬ誤解を植え付けてしまう。
本当の事をすべて言うわけにはいかないけれど。
「光明様は、独りぼっちだった私を救ってくれたお方なんです。行く当てのない私を、そばに置いてくださった方で……大切な人なんです」
「ふぅん、随分とご執心だね。救ったなんて、さすが僧侶の憧れ。世界に片手の数しかいない最高僧サマだ」
「え?」
「え?」
健邑くんは私と同じく、首を傾ける。
光明様、肩書きからして偉いお坊さんとは思っていたけれど。
「もしかして、光明様って実はものすごいお方なのでは!?」
「ぶ。クックッククク……」
「とすると、剛内様も……!」
「ククッ……やめてってば、名前さん」
「ちょっと健邑くん、笑い事じゃないんですよ!」
「……だから、三蔵法師なんだってば二人共。アンタ、今までそんな事も知らずにそばにいたワケ?」
「面目ないです……」
文字通り、お腹を抱えて震えている健邑くん。
熱を帯びた顔を冷ますように、両手で押さえる。
いくらここが知らない世界とはいえ、恥ずかしい。
「なんかもう、私に関する事すべて忘れてください……」
「それは難しいお願いだなぁ。なんせ、記憶力はかなりいい方なんで」
「そうでした……健邑くんはお弟子さんの中でもずば抜けて優秀、博士号も持ってるとお聞きました。すごいですね。ここでの修行、つらくないのですか?」
ふいに楽しそうな笑顔が消えて、今度は自嘲に代わる。
「大した事ないよ。三蔵法師になる事が難しいって聞いたからこの修行寺に来てみたけど……つまらないもんだよ」
つまらない、なんて。
その時、私は初めて健邑くんの年相応の姿を見たような気がした。
「きっと、見つかりますよ」
「何が?」
「つまらなくない事、今よりもっと楽しい事……健邑くんにとって、大事なもの」
健邑くんの冷めた鋭い視線に、笑顔で答える。
今はまだ何が大切か、わからないかもしれないけど。
「私も見つけましたから」
「……アンタにとってそれが、光明三蔵サマってわけだ」
「はい」
「うわ、言い切ったよ。やっぱりヤラシー関係なんだ」
「だから!違いますってば!」
「剛内様!はい……おかげさまで」
翌朝。
廊下で出会った剛内様に挨拶して早々、深々と頭を下げられ困惑する。
「昨日はうちの不躾な弟子が失礼しました。儂もアイツには手を焼いておりまして……きつく注意しておきましたので」
「い、いえ!そんな……!そもそも、女人禁制のこちらにお邪魔している私が悪いので」
一瞬、何の事だと首を傾けたが、健邑くんの件だろう。
光明様から聞いたとの事だが、わざわざ剛内様に報告せずともよいのに。
いいですか、と剛内様は厳しいお顔つきになり低い声で放つ。
「女が不浄なのではなく、男が女に抱く劣情が不浄なのです」
「剛内様……」
「何か不便不都合があったら、いつでも儂に相談してくだされ。名前さんは大切な客人なのですから」
「はい……ありがとうございます」
なんと、お優しい方だろうか。
剛内様のお言葉が、胸にじんわりと染み渡る。
朝食を頂いたあと、草履を履き曇り空を見上げる。
北風が髪をなびかせて、今日も少し肌寒い。
中庭にいる漆黒の青年を見つけて、声をかけた。
「健邑くん」
相変わらず虚な瞳をしていたが、きょとんとした顔に変わった。
「アンタ、昨日の今日でよく俺に話かけたね」
「えっと、昨日はお恥ずかしいところをお見せしてすみませんでした」
「それって、俺に迫られた時のこと?」
「いえ、その……その後まるで子供のように光明様にすがったところ、です」
人前で男性に抱きついたなんて、今思い返しただけでも恥ずかしい。
以前、光明様の胸をお借りして散々泣いた事は置いといて。
あぁ、とつぶやいた健邑くんは興味なさげに空を仰ぐ。
「べつに、気にするような事でもないと思うけど?」
「それは、そうなのですが……健邑くんは17歳とお聞きして、その、年上としていかがなものかと思いまして」
「……くだらない」
小さく吐き捨てるような声に、うつむいていた顔を上げる。
影を落とした姿は、一瞬。
まるで錯覚だったかのように、人差し指を上げて彼は笑っていた。
「年上とか年下とか、どーでもいいんじゃないですか?だってほら、イマドキ年の差婚なんてそう珍しいものでもないわけですし?光明三蔵法師とアンタ、お似合いですよ。何なら早いうちに、お子さんの顔でも見せてくださいよ。ねぇ?」
「そ、そういう意味では……!そもそも、私と光明様はそのような関係ではなくてですね……!」
どうして、そういった発想になるのだろう。
このままでは禅奥寺のお坊さんたちに、あらぬ誤解を植え付けてしまう。
本当の事をすべて言うわけにはいかないけれど。
「光明様は、独りぼっちだった私を救ってくれたお方なんです。行く当てのない私を、そばに置いてくださった方で……大切な人なんです」
「ふぅん、随分とご執心だね。救ったなんて、さすが僧侶の憧れ。世界に片手の数しかいない最高僧サマだ」
「え?」
「え?」
健邑くんは私と同じく、首を傾ける。
光明様、肩書きからして偉いお坊さんとは思っていたけれど。
「もしかして、光明様って実はものすごいお方なのでは!?」
「ぶ。クックッククク……」
「とすると、剛内様も……!」
「ククッ……やめてってば、名前さん」
「ちょっと健邑くん、笑い事じゃないんですよ!」
「……だから、三蔵法師なんだってば二人共。アンタ、今までそんな事も知らずにそばにいたワケ?」
「面目ないです……」
文字通り、お腹を抱えて震えている健邑くん。
熱を帯びた顔を冷ますように、両手で押さえる。
いくらここが知らない世界とはいえ、恥ずかしい。
「なんかもう、私に関する事すべて忘れてください……」
「それは難しいお願いだなぁ。なんせ、記憶力はかなりいい方なんで」
「そうでした……健邑くんはお弟子さんの中でもずば抜けて優秀、博士号も持ってるとお聞きました。すごいですね。ここでの修行、つらくないのですか?」
ふいに楽しそうな笑顔が消えて、今度は自嘲に代わる。
「大した事ないよ。三蔵法師になる事が難しいって聞いたからこの修行寺に来てみたけど……つまらないもんだよ」
つまらない、なんて。
その時、私は初めて健邑くんの年相応の姿を見たような気がした。
「きっと、見つかりますよ」
「何が?」
「つまらなくない事、今よりもっと楽しい事……健邑くんにとって、大事なもの」
健邑くんの冷めた鋭い視線に、笑顔で答える。
今はまだ何が大切か、わからないかもしれないけど。
「私も見つけましたから」
「……アンタにとってそれが、光明三蔵サマってわけだ」
「はい」
「うわ、言い切ったよ。やっぱりヤラシー関係なんだ」
「だから!違いますってば!」