RELOAD編
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「ねぇ、お姉ちゃん。三蔵様って誰?」
「三蔵様……?ええ、私もお客さんから聞いたことあるわ」
宿の調理場で、夕食の準備をしているお姉ちゃんに聞く。
何でも三蔵法師様はとても高貴なお坊様で、今は従者の四人を連れて妖怪退治の旅をしているらしい。
どんなに凶悪な妖怪も、三蔵様の法力の前にはひとたまりもないんだって。
「妖怪退治~!?だから、みんな噂してるんだ」
「そうね、この町も最近妖怪の被害に遭い始めているし」
強くてえらいお坊さんかぁ。
叔父さんに頼まれて、お姉ちゃんが帳場へと出て行く。
旅の人達が来たらしいが、ちょっと変わってるらしい。
一体、どんな人だろう。
扉を開けて、こっそりと様子を伺う。
五人共、フードをかぶったマント姿にサングラスまでかけている。
あ、怪しすぎ……。
「皆様、同じお部屋でよろしいですね?では、こちらの宿帳にお名前を」
『ハヤブサ太郎、次郎、三郎、四郎、花子』
「あら、ご兄妹ですか?」
「あはは、ええ、まあ」
「そちらが妹さんかしら?お兄さんが四人もいて、頼もしいわね」
「はい、とっても」
「どっちかっつーとお姉さんタイプだけどな、花子ちゃんは。それで君さ、名前は何てゆーの?」
「あ……はい、聖羅です」
「セーラちゃん?可愛い子はやっぱ名前も可愛いんだな。今夜あいてる?仕事何時あがり?待ってるからって、……おっ?」
お姉ちゃんをナンパしてた男の人が、うしろへ下がる。
妹という人が、腕をつかんで引き寄せていた。
「ダメですよ、次郎お兄様。おとなしくしててくださいね?」
「なーに、花子ちゃん。ヤキモチ?次郎、可愛くて食べちゃいたい」
「ブッ殺されてぇか、貴様」
「まあまあ、太郎兄さんここは落ち着いて」
「なー、飯は?」
「ふふっ、賑やかで仲の良いご兄妹ですね。もうすぐ夕御飯なので、お部屋までお届けしますね」
「わーっ!やった、久々にちゃんとした飯だっ」
「やかましいッ、騒ぐなバカ者!」
この人たち、怪しい上に自由すぎる……。
夜になって、タオルを抱えながら廊下を歩く。
昼間の怪しい人たちの部屋から声が聞こえて、扉の前で耳をすます。
見られたら正体がバレる!?
見境もなく女に食いつく!?
仲間を食べるのは、やめてって……!?
こ、この人たち……やっぱり妖怪だ!
「妖怪?あのお客さん達が?」
「そーだよ!あたし聞いちゃったもん!あいつら人間のふりしてダマして、あたしたち食べるつもりなんだ!」
「ぷっ。やぁねぇ、星華ったら」
急いでお姉ちゃんに知らせるも、まったく信じてくれなくて買い出しに出かけてしまった。
「お姉ちゃんってば!……もー!」
◇
怪しい五人組の部屋の外で、バットを持って座り込む。
こいつらが妖怪だっていう証拠を、絶対つかんでやるんだから。
しばらくして、また何か話し声が聞こえる。
「花子ちゃーん、今晩はおとなしくするから寂しい俺を癒してよ」
「いいですよ」
「よくねぇ」
「太郎兄さんには聞いてねぇよ」
「でも、癒すって何したらいいですか?」
「そーだな。ハグしてよしよししてくんない?上だけじゃなくて下の方も、」
「次郎兄さん?」
「ハーイ、ジョーダンデス……」
「こっち来い。アイツの半径五メートル以内には近づくな」
「お、束縛する男は嫌われるぜ?太郎お兄サマ」
「ただの虫除けだ、殺すぞ」
「そろそろいい時間ですし、シャワー浴びて来ます?花子」
「あ、はい!いつも私からですみません、お先にいただきます」
「いってらっしゃ〜い」
ガチャリと扉が開いて、思わず立ち上がる。
「貴方、たしかこの宿の……そんな物持って、どうしたの?」
「あ、えっと……」
出てきたのは五人兄妹の妹である、女の人だった。
相変わらずマントにサングラスをしているけど、タオルを手にしゃがみ込んであたしの目の前で微笑む。
「み、見張り!最近、妖怪の被害に遭ってるから……」
「なるほど。それで怪しい私達のそばに」
「え!えと……」
「大丈夫。今はこんな格好してるけど、私もあのお兄さん達も悪い人じゃないから」
そう言って、よしよしと頭をなでられる。
こ、この人……安心して油断させて、あたしを食べる気だ!
「星華ちゃん、こんなところにおったか!」
「叔父さん」
「聖羅ちゃんはどこ行ったんだ?夕飯からずっと姿が見えんのだが……」
「え?」
もうとっくに帰って来てると思ってたのに。
まさかお姉ちゃんが、妖怪に攫われた!?
そんな、だってあたし、ずっとここで見張って……!
騒ぎを聞きつけて出て来た男の人を押し退けて、部屋の中を見渡す。
いる。
五人共、ずっとここに。
「あんた達が、妖怪なんじゃなかったの!?」
◇
「お姉ちゃん!」
「星華!どうしてここへ?」
森の中を走って、無事だったお姉ちゃんに駆け寄る。
あのお客さん達が車で、あたしをここまで連れて来てくれたんだ。
「お、おい……ジョーダンだろ?銀の銃を持つ金髪の僧侶、ジープに乗った五人組といったら、まさか……!」
「さ、三蔵法師一行……!」
ウソ!?
この人たちが、あの……!?
三蔵様達はお姉ちゃんを攫った悪い男たちをボコボコにして、あたし達を宿に連れ帰ってくれた。
サングラスを外したお姉さんによると、今まで妖怪のせいと思ってた被害はすべて、人間達の仕業なんだって。
でも三蔵様達がこの町に来て、お姉ちゃんを助けてくれてホントよかった。
もし妖怪が来ても、三蔵様達がいるなら安心だ。
翌朝。
豪華な料理を作るお姉ちゃんを手伝って、町の人たち総出で三蔵様を歓迎する。
なのに、一口も料理を食べずに宿を出て行こうとする。
あたしは三蔵様の袖を強くつかんだ。
あたしの、せいだ。
「待って……ごめん、なさい。妖怪だって疑って怒ったなら、謝るから……」
だから、せめてお姉ちゃんを助けてくれたお礼だけでもさせてよ。
仲間のお姉さんが三蔵様に声をかけると、ため息を吐いて席へと座る。
「……ふん。別に、怒っちゃいねぇよ」
「いろいろと用意してくれてありがとうね、星華ちゃん」
そう言って食べ始めた五人を見て、あたしはホッとした。
でも、この町は実際一度も妖怪に襲われてない事を聞くと、いきなり立ち上がって宿を出て行く。
しかも、早く避難した方がいいって。
「いい事を教えてやる。俺達が妖怪を退治して廻ってんじゃねぇ。妖怪が、俺達を狙って来るんだ」
「ひゃはははは!玄奘三蔵だァ!」
「おたずね者の三蔵一行だぁあ!」
「殺せぇ!」
「経文と女を奪え!」
屋根から次々と、妖怪達が飛び降りて来る。
三蔵様の言う通り現れた妖怪達に、町のみんなは驚いて固まってしまう。
五人と一緒にいたお姉さんが、あたしに駆け寄りながら叫ぶ。
「みなさん、早く避難してください!」
腰が抜けて動けないあたしを抱き上げて、物陰へと避難させてくれた。
聞こえてきたのは銃声と悲鳴と、それから嫌な血の臭い。
妖怪たちがみんな倒れて静かになると、お姉ちゃんの元へあたしを預けて、お姉さんは三蔵様達の元へ戻って行く。
その光景を眺めていたら、急に強く腕を引っ張られた。
「きゃあぁあ!星華!」
「いやぁ!お姉ちゃん!」
「ははは!どうだ、これで手が出せまい!三蔵一行!」
捕まった、妖怪に。
怖い、食べられちゃう……!
「あーあ」
「いるんだよな〜、あーゆー馬鹿」
「駄目ですよ、悟浄。本当の事言っちゃあ」
「貴様ひとりで何が出来る?第一、そんなガキの事なぞ知ったこっちゃねぇよ」
「三蔵ってば、またそんな言い方して」
屋根の下にいる三蔵様の言葉に、涙が流れる。
「……さ、サイテー!何が三蔵一行だよ!助けてもくれないクセに!」
「当然だ。俺は誰かを助ける為に三蔵やってんじゃねぇからな」
「ま、ただし……売られたケンカは高値買取よ?」
羽根を生やした妖怪が、あたしをつかんだまま空を飛んで逃げる。
もうダメだと思ったら、車の走る音がして。
下を見ると、三蔵様達が追いかけていた。
「げ、マジで追いかけて来やがった!しかし、こっちには人質がいる!手は出せまい!」
どこまでも追いかけてくれる三蔵様達を見る。
さっき、助けないって言ったのに。
お姉さんがなぜか、両手を思いっきり空に伸ばしてる。
何、三蔵様……何か言って……。
「飛び降りろ!」
あたしは妖怪の腕を、思いっきり噛む。
振り払われた勢いのまま、下に落ち続けた。
でもなぜか……その時あたしはなぜか、ちっとも怖くなかったんだ。
棒を使って飛び上がる人とすれ違い、衝撃のあと頭にふれるぬくもりに目を開ける。
紅髪のお兄さんとお姉さんの間に、あたしは抱えられていた。
「ハハッ、やるじゃねぇか。ガキんちょ」
「よくがんばったね、星華ちゃん」
「貴様ら、なぜそこまで妖怪に盾突く!半分とはいえ、妖怪の血が流れる分際で……!」
え……?
この人たちも、妖怪?
自分達の仲間になれと言う妖怪に、三蔵様達は呆れているようだった。
「……信じてきたさ」
「え?」
「なにせ俺は生まれて死ぬまで、俺だけの味方だからな」
お姉さんの手により、そっと目を塞がれる。
銃声が聞こえたあと、妖怪は倒れて動かなくなっていた。
「巻き込んじゃってごめんね?星華ちゃん」
「ううん……助けてくれて、ありがとう」
「あの高さから飛び降りるなんて、誰でも出来る事じゃないよ。こちらこそありがとう、信じてくれて」
あたしは一人、車から降ろされてお姉さんに頭をなでられる。
まるで、本物のお姉ちゃんみたいに優しい人。
やっぱり思った通りだった。
他のあいつらも、ガラが悪くて、怪しくて。
でも……カッコいーじゃん。
あたしは車が見えなくなるまで、西へ向かう彼らへ手を振って見送った。
「三蔵様……?ええ、私もお客さんから聞いたことあるわ」
宿の調理場で、夕食の準備をしているお姉ちゃんに聞く。
何でも三蔵法師様はとても高貴なお坊様で、今は従者の四人を連れて妖怪退治の旅をしているらしい。
どんなに凶悪な妖怪も、三蔵様の法力の前にはひとたまりもないんだって。
「妖怪退治~!?だから、みんな噂してるんだ」
「そうね、この町も最近妖怪の被害に遭い始めているし」
強くてえらいお坊さんかぁ。
叔父さんに頼まれて、お姉ちゃんが帳場へと出て行く。
旅の人達が来たらしいが、ちょっと変わってるらしい。
一体、どんな人だろう。
扉を開けて、こっそりと様子を伺う。
五人共、フードをかぶったマント姿にサングラスまでかけている。
あ、怪しすぎ……。
「皆様、同じお部屋でよろしいですね?では、こちらの宿帳にお名前を」
『ハヤブサ太郎、次郎、三郎、四郎、花子』
「あら、ご兄妹ですか?」
「あはは、ええ、まあ」
「そちらが妹さんかしら?お兄さんが四人もいて、頼もしいわね」
「はい、とっても」
「どっちかっつーとお姉さんタイプだけどな、花子ちゃんは。それで君さ、名前は何てゆーの?」
「あ……はい、聖羅です」
「セーラちゃん?可愛い子はやっぱ名前も可愛いんだな。今夜あいてる?仕事何時あがり?待ってるからって、……おっ?」
お姉ちゃんをナンパしてた男の人が、うしろへ下がる。
妹という人が、腕をつかんで引き寄せていた。
「ダメですよ、次郎お兄様。おとなしくしててくださいね?」
「なーに、花子ちゃん。ヤキモチ?次郎、可愛くて食べちゃいたい」
「ブッ殺されてぇか、貴様」
「まあまあ、太郎兄さんここは落ち着いて」
「なー、飯は?」
「ふふっ、賑やかで仲の良いご兄妹ですね。もうすぐ夕御飯なので、お部屋までお届けしますね」
「わーっ!やった、久々にちゃんとした飯だっ」
「やかましいッ、騒ぐなバカ者!」
この人たち、怪しい上に自由すぎる……。
夜になって、タオルを抱えながら廊下を歩く。
昼間の怪しい人たちの部屋から声が聞こえて、扉の前で耳をすます。
見られたら正体がバレる!?
見境もなく女に食いつく!?
仲間を食べるのは、やめてって……!?
こ、この人たち……やっぱり妖怪だ!
「妖怪?あのお客さん達が?」
「そーだよ!あたし聞いちゃったもん!あいつら人間のふりしてダマして、あたしたち食べるつもりなんだ!」
「ぷっ。やぁねぇ、星華ったら」
急いでお姉ちゃんに知らせるも、まったく信じてくれなくて買い出しに出かけてしまった。
「お姉ちゃんってば!……もー!」
◇
怪しい五人組の部屋の外で、バットを持って座り込む。
こいつらが妖怪だっていう証拠を、絶対つかんでやるんだから。
しばらくして、また何か話し声が聞こえる。
「花子ちゃーん、今晩はおとなしくするから寂しい俺を癒してよ」
「いいですよ」
「よくねぇ」
「太郎兄さんには聞いてねぇよ」
「でも、癒すって何したらいいですか?」
「そーだな。ハグしてよしよししてくんない?上だけじゃなくて下の方も、」
「次郎兄さん?」
「ハーイ、ジョーダンデス……」
「こっち来い。アイツの半径五メートル以内には近づくな」
「お、束縛する男は嫌われるぜ?太郎お兄サマ」
「ただの虫除けだ、殺すぞ」
「そろそろいい時間ですし、シャワー浴びて来ます?花子」
「あ、はい!いつも私からですみません、お先にいただきます」
「いってらっしゃ〜い」
ガチャリと扉が開いて、思わず立ち上がる。
「貴方、たしかこの宿の……そんな物持って、どうしたの?」
「あ、えっと……」
出てきたのは五人兄妹の妹である、女の人だった。
相変わらずマントにサングラスをしているけど、タオルを手にしゃがみ込んであたしの目の前で微笑む。
「み、見張り!最近、妖怪の被害に遭ってるから……」
「なるほど。それで怪しい私達のそばに」
「え!えと……」
「大丈夫。今はこんな格好してるけど、私もあのお兄さん達も悪い人じゃないから」
そう言って、よしよしと頭をなでられる。
こ、この人……安心して油断させて、あたしを食べる気だ!
「星華ちゃん、こんなところにおったか!」
「叔父さん」
「聖羅ちゃんはどこ行ったんだ?夕飯からずっと姿が見えんのだが……」
「え?」
もうとっくに帰って来てると思ってたのに。
まさかお姉ちゃんが、妖怪に攫われた!?
そんな、だってあたし、ずっとここで見張って……!
騒ぎを聞きつけて出て来た男の人を押し退けて、部屋の中を見渡す。
いる。
五人共、ずっとここに。
「あんた達が、妖怪なんじゃなかったの!?」
◇
「お姉ちゃん!」
「星華!どうしてここへ?」
森の中を走って、無事だったお姉ちゃんに駆け寄る。
あのお客さん達が車で、あたしをここまで連れて来てくれたんだ。
「お、おい……ジョーダンだろ?銀の銃を持つ金髪の僧侶、ジープに乗った五人組といったら、まさか……!」
「さ、三蔵法師一行……!」
ウソ!?
この人たちが、あの……!?
三蔵様達はお姉ちゃんを攫った悪い男たちをボコボコにして、あたし達を宿に連れ帰ってくれた。
サングラスを外したお姉さんによると、今まで妖怪のせいと思ってた被害はすべて、人間達の仕業なんだって。
でも三蔵様達がこの町に来て、お姉ちゃんを助けてくれてホントよかった。
もし妖怪が来ても、三蔵様達がいるなら安心だ。
翌朝。
豪華な料理を作るお姉ちゃんを手伝って、町の人たち総出で三蔵様を歓迎する。
なのに、一口も料理を食べずに宿を出て行こうとする。
あたしは三蔵様の袖を強くつかんだ。
あたしの、せいだ。
「待って……ごめん、なさい。妖怪だって疑って怒ったなら、謝るから……」
だから、せめてお姉ちゃんを助けてくれたお礼だけでもさせてよ。
仲間のお姉さんが三蔵様に声をかけると、ため息を吐いて席へと座る。
「……ふん。別に、怒っちゃいねぇよ」
「いろいろと用意してくれてありがとうね、星華ちゃん」
そう言って食べ始めた五人を見て、あたしはホッとした。
でも、この町は実際一度も妖怪に襲われてない事を聞くと、いきなり立ち上がって宿を出て行く。
しかも、早く避難した方がいいって。
「いい事を教えてやる。俺達が妖怪を退治して廻ってんじゃねぇ。妖怪が、俺達を狙って来るんだ」
「ひゃはははは!玄奘三蔵だァ!」
「おたずね者の三蔵一行だぁあ!」
「殺せぇ!」
「経文と女を奪え!」
屋根から次々と、妖怪達が飛び降りて来る。
三蔵様の言う通り現れた妖怪達に、町のみんなは驚いて固まってしまう。
五人と一緒にいたお姉さんが、あたしに駆け寄りながら叫ぶ。
「みなさん、早く避難してください!」
腰が抜けて動けないあたしを抱き上げて、物陰へと避難させてくれた。
聞こえてきたのは銃声と悲鳴と、それから嫌な血の臭い。
妖怪たちがみんな倒れて静かになると、お姉ちゃんの元へあたしを預けて、お姉さんは三蔵様達の元へ戻って行く。
その光景を眺めていたら、急に強く腕を引っ張られた。
「きゃあぁあ!星華!」
「いやぁ!お姉ちゃん!」
「ははは!どうだ、これで手が出せまい!三蔵一行!」
捕まった、妖怪に。
怖い、食べられちゃう……!
「あーあ」
「いるんだよな〜、あーゆー馬鹿」
「駄目ですよ、悟浄。本当の事言っちゃあ」
「貴様ひとりで何が出来る?第一、そんなガキの事なぞ知ったこっちゃねぇよ」
「三蔵ってば、またそんな言い方して」
屋根の下にいる三蔵様の言葉に、涙が流れる。
「……さ、サイテー!何が三蔵一行だよ!助けてもくれないクセに!」
「当然だ。俺は誰かを助ける為に三蔵やってんじゃねぇからな」
「ま、ただし……売られたケンカは高値買取よ?」
羽根を生やした妖怪が、あたしをつかんだまま空を飛んで逃げる。
もうダメだと思ったら、車の走る音がして。
下を見ると、三蔵様達が追いかけていた。
「げ、マジで追いかけて来やがった!しかし、こっちには人質がいる!手は出せまい!」
どこまでも追いかけてくれる三蔵様達を見る。
さっき、助けないって言ったのに。
お姉さんがなぜか、両手を思いっきり空に伸ばしてる。
何、三蔵様……何か言って……。
「飛び降りろ!」
あたしは妖怪の腕を、思いっきり噛む。
振り払われた勢いのまま、下に落ち続けた。
でもなぜか……その時あたしはなぜか、ちっとも怖くなかったんだ。
棒を使って飛び上がる人とすれ違い、衝撃のあと頭にふれるぬくもりに目を開ける。
紅髪のお兄さんとお姉さんの間に、あたしは抱えられていた。
「ハハッ、やるじゃねぇか。ガキんちょ」
「よくがんばったね、星華ちゃん」
「貴様ら、なぜそこまで妖怪に盾突く!半分とはいえ、妖怪の血が流れる分際で……!」
え……?
この人たちも、妖怪?
自分達の仲間になれと言う妖怪に、三蔵様達は呆れているようだった。
「……信じてきたさ」
「え?」
「なにせ俺は生まれて死ぬまで、俺だけの味方だからな」
お姉さんの手により、そっと目を塞がれる。
銃声が聞こえたあと、妖怪は倒れて動かなくなっていた。
「巻き込んじゃってごめんね?星華ちゃん」
「ううん……助けてくれて、ありがとう」
「あの高さから飛び降りるなんて、誰でも出来る事じゃないよ。こちらこそありがとう、信じてくれて」
あたしは一人、車から降ろされてお姉さんに頭をなでられる。
まるで、本物のお姉ちゃんみたいに優しい人。
やっぱり思った通りだった。
他のあいつらも、ガラが悪くて、怪しくて。
でも……カッコいーじゃん。
あたしは車が見えなくなるまで、西へ向かう彼らへ手を振って見送った。