無印編
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翌日の朝。
悟浄のベッドはもぬけの殻で、どこにもその姿はなかった。
昼まで待ってみたが結局戻って来ず、三蔵を筆頭にジープに乗り込む。
私はその場に立ち尽くしていた。
「名前、行くぞ」
「ごめん、みんな。私、忘れ物を取りに行ってくる」
そう言って走り出し、私は三人の元に戻る事はなかった。
◇
この山、昨日はこんな道だっけ。
私は悟浄を探して、ひたすら山道を登り続けていた。
しばらくして見えてきたのは、札の貼られた朱い鳥居。
深い霧の奥には、うっすらと階段が見える。
罠かもしれない。
だけど、ここにカミサマがいるなら悟浄もいるはず。
誘われるように入っていくと、笑い声が聞こえて顔を上げる。
「やっぱり遊びに来てくれたんだ。僕のお城へようこそ、お姉さん」
巨大な居城を背後に、カミサマが笑っていた。
広い屋敷の中へ案内されて、彼の後に続いて歩く。
「悟浄は……?ここへ来たでしょう?」
「あの紅髪のお兄さん?さあて、どうでしょう?」
含み笑いだけが返される。
奥へ奥へと進んでいくが、人の気配すら感じられなかった。
「貴方は、こんな広いところに一人で住んでるの?」
「うん、でもたまに先生が来てくれるんだ」
「先生?」
「先生はすごいんだぁ。このお城も先生が作って、僕にくれたんだよ」
扉を開けて入った部屋には、見渡す限りのおもちゃ、おもちゃ、おもちゃ。
異様な数のそれが山積みにされて、部屋を埋め尽くしていた。
色鮮やかなステンドグラスから、陽の光が差し込む。
「ここが僕のオモチャ箱。ねえ、お姉さん。僕のママになってよ」
「え?」
「はい、ここに座って?」
いつまでも立ち尽くしているわけにはいかず、言われるがまま開けた床に腰を下ろす。
いきなり、金髪の頭が膝に乗ったかと思えば、カミサマはごろりと寝転がった。
いわゆる、膝枕。
まぶたを閉じて、甘えるようにすり寄ってくる姿はまるで幼い子供だ。
ピクリと、カミサマの眉が動いて顔を曇らせる。
「……もう、せっかくママと一緒にいるのに」
「待って、どこに行くの」
起き上がったカミサマを呼び止める。
振り返った笑顔を見て感じたのは、昨日と同じ残酷な無邪気さ。
「おもちゃが来たんだ。遊んであげなくちゃ」
「おもちゃって、まさか」
「ママはここでお留守番。待っててね、すぐに帰ってくるから」
カミサマは頭の金冠を私に託してから、瞬く間に部屋を出て行った。
◇
しばらくして、閉ざされていた扉が開かれる。
そこにいるのは、カミサマただ一人。
双肩の経文を目にして、嫌な予感が走る。
「あーあ、逃げられちゃった」
「その経文は、まさか三蔵の……!三蔵たちは!」
「うん、来たよ。三蔵法師とあと三人ね。すぐに壊れちゃったけど」
壊れた、そんなまさか。
「あー、おかしい!名前、名前ってしつこくてさ。ママにも見せてあげたかったよ、彼らのボロボロになったみっともない姿」
お腹を抱えて笑うカミサマに、私は眉をつり上げる。
扉へ向かって歩くと、真っ白な法衣に行手をさえぎられた。
「どこへ行くつもり?」
「戻るの。私が居るべき場所に」
「ダメ、ママがいるべき場所はここだよ。ここで一生、俺と暮らすの」
一瞬にして真っ赤な数珠が、身体中に巻きつき縛られる。
人の命をおもちゃのように弄び、幼い子供たちでさえ手にかける。
抵抗すれば、私も殺されるかもしれない。
それでも、おとなしくこの場に留まるつもりはなかった。
「解きなさい」
「だーめ。逃げちゃうでしょ?でもま、そう簡単に僕のお城からは出られないけどね」
「……女の子を乱暴に扱ったら、嫌われるんじゃなかったの?」
「嫌われるのはイヤだけど、ママがいなくなるのはもっとヤダ」
無理やり拘束を解こうと力を入れると、数珠が肌に食い込み痛みに顔を歪める。
そんな私を見て、カミサマは呆れたようにため息を吐いた。
少しだけ、縛られていた力が弱まる。
「もう、ダメだよ?女の子がそんな事したら」
ふわっと、身体を浮かせて近づいてきたカミサマ。
「仕方ないから解いてあげる。ただし、僕のお願い一つ、なんでも言う事聞いてくれたら、ね?」
その手が私の頬にふれて、笑みを深くする。
何をされるかはわからない。
それでも、四人の元に帰るためなら、私はどうなろうと構わなかった。
「じゃあ、僕の事抱きしめてよ」
「……え?」
「思いっきり、ね。ダメ?」
それだけでいいのかと、瞬きする。
数珠が解かれると、カミサマは両手を広げて待ち構えている。
近づいてその法衣の背中に腕をまわし、身体を寄せて抱きしめた。
カミサマは笑って抱きしめ返し、首筋に顔をうめて頬をすり寄せる。
「ママはあったかいなぁ。それにやわらかくて、いい匂いがする」
それはまるで、愛情に飢えている子供のようで。
私は、ずっと疑問に思っていた事を口にした。
「経文はどこ?」
「どこってほら、僕の肩に、」
「違う。貴方の経文」
三蔵法師は天地開元経文の守り人。
先代から継承したのならば、持っていないはずがない。
カミサマは目をそらしたあと、唇を尖らせて小さくつぶやいた。
「しょうがないな……ママにだけ、特別に教えてあげる。経文はないよ。僕にはくれなかったんだ、先生」
カミサマの事が、少しわかったのかもしれない。
彼は、三蔵法師ではない。
先生。
法名も経文も継承のしなかった先生が、三蔵法師。
カミサマを縛っているのは、その人だ。
悟浄のベッドはもぬけの殻で、どこにもその姿はなかった。
昼まで待ってみたが結局戻って来ず、三蔵を筆頭にジープに乗り込む。
私はその場に立ち尽くしていた。
「名前、行くぞ」
「ごめん、みんな。私、忘れ物を取りに行ってくる」
そう言って走り出し、私は三人の元に戻る事はなかった。
◇
この山、昨日はこんな道だっけ。
私は悟浄を探して、ひたすら山道を登り続けていた。
しばらくして見えてきたのは、札の貼られた朱い鳥居。
深い霧の奥には、うっすらと階段が見える。
罠かもしれない。
だけど、ここにカミサマがいるなら悟浄もいるはず。
誘われるように入っていくと、笑い声が聞こえて顔を上げる。
「やっぱり遊びに来てくれたんだ。僕のお城へようこそ、お姉さん」
巨大な居城を背後に、カミサマが笑っていた。
広い屋敷の中へ案内されて、彼の後に続いて歩く。
「悟浄は……?ここへ来たでしょう?」
「あの紅髪のお兄さん?さあて、どうでしょう?」
含み笑いだけが返される。
奥へ奥へと進んでいくが、人の気配すら感じられなかった。
「貴方は、こんな広いところに一人で住んでるの?」
「うん、でもたまに先生が来てくれるんだ」
「先生?」
「先生はすごいんだぁ。このお城も先生が作って、僕にくれたんだよ」
扉を開けて入った部屋には、見渡す限りのおもちゃ、おもちゃ、おもちゃ。
異様な数のそれが山積みにされて、部屋を埋め尽くしていた。
色鮮やかなステンドグラスから、陽の光が差し込む。
「ここが僕のオモチャ箱。ねえ、お姉さん。僕のママになってよ」
「え?」
「はい、ここに座って?」
いつまでも立ち尽くしているわけにはいかず、言われるがまま開けた床に腰を下ろす。
いきなり、金髪の頭が膝に乗ったかと思えば、カミサマはごろりと寝転がった。
いわゆる、膝枕。
まぶたを閉じて、甘えるようにすり寄ってくる姿はまるで幼い子供だ。
ピクリと、カミサマの眉が動いて顔を曇らせる。
「……もう、せっかくママと一緒にいるのに」
「待って、どこに行くの」
起き上がったカミサマを呼び止める。
振り返った笑顔を見て感じたのは、昨日と同じ残酷な無邪気さ。
「おもちゃが来たんだ。遊んであげなくちゃ」
「おもちゃって、まさか」
「ママはここでお留守番。待っててね、すぐに帰ってくるから」
カミサマは頭の金冠を私に託してから、瞬く間に部屋を出て行った。
◇
しばらくして、閉ざされていた扉が開かれる。
そこにいるのは、カミサマただ一人。
双肩の経文を目にして、嫌な予感が走る。
「あーあ、逃げられちゃった」
「その経文は、まさか三蔵の……!三蔵たちは!」
「うん、来たよ。三蔵法師とあと三人ね。すぐに壊れちゃったけど」
壊れた、そんなまさか。
「あー、おかしい!名前、名前ってしつこくてさ。ママにも見せてあげたかったよ、彼らのボロボロになったみっともない姿」
お腹を抱えて笑うカミサマに、私は眉をつり上げる。
扉へ向かって歩くと、真っ白な法衣に行手をさえぎられた。
「どこへ行くつもり?」
「戻るの。私が居るべき場所に」
「ダメ、ママがいるべき場所はここだよ。ここで一生、俺と暮らすの」
一瞬にして真っ赤な数珠が、身体中に巻きつき縛られる。
人の命をおもちゃのように弄び、幼い子供たちでさえ手にかける。
抵抗すれば、私も殺されるかもしれない。
それでも、おとなしくこの場に留まるつもりはなかった。
「解きなさい」
「だーめ。逃げちゃうでしょ?でもま、そう簡単に僕のお城からは出られないけどね」
「……女の子を乱暴に扱ったら、嫌われるんじゃなかったの?」
「嫌われるのはイヤだけど、ママがいなくなるのはもっとヤダ」
無理やり拘束を解こうと力を入れると、数珠が肌に食い込み痛みに顔を歪める。
そんな私を見て、カミサマは呆れたようにため息を吐いた。
少しだけ、縛られていた力が弱まる。
「もう、ダメだよ?女の子がそんな事したら」
ふわっと、身体を浮かせて近づいてきたカミサマ。
「仕方ないから解いてあげる。ただし、僕のお願い一つ、なんでも言う事聞いてくれたら、ね?」
その手が私の頬にふれて、笑みを深くする。
何をされるかはわからない。
それでも、四人の元に帰るためなら、私はどうなろうと構わなかった。
「じゃあ、僕の事抱きしめてよ」
「……え?」
「思いっきり、ね。ダメ?」
それだけでいいのかと、瞬きする。
数珠が解かれると、カミサマは両手を広げて待ち構えている。
近づいてその法衣の背中に腕をまわし、身体を寄せて抱きしめた。
カミサマは笑って抱きしめ返し、首筋に顔をうめて頬をすり寄せる。
「ママはあったかいなぁ。それにやわらかくて、いい匂いがする」
それはまるで、愛情に飢えている子供のようで。
私は、ずっと疑問に思っていた事を口にした。
「経文はどこ?」
「どこってほら、僕の肩に、」
「違う。貴方の経文」
三蔵法師は天地開元経文の守り人。
先代から継承したのならば、持っていないはずがない。
カミサマは目をそらしたあと、唇を尖らせて小さくつぶやいた。
「しょうがないな……ママにだけ、特別に教えてあげる。経文はないよ。僕にはくれなかったんだ、先生」
カミサマの事が、少しわかったのかもしれない。
彼は、三蔵法師ではない。
先生。
法名も経文も継承のしなかった先生が、三蔵法師。
カミサマを縛っているのは、その人だ。