無印編
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「ジープ、大丈夫?いつも無理させてごめんね?」
「キュ〜……」
ジープが熱で倒れた。
八戒は看病のため悟浄に買い出しを頼み、それに私もついて行く。
三蔵と悟空はお留守番だ。
例のごとく悟浄と途中で別れて、私自身に必要なものを買ってから集合場所に向かう。
遅いな、悟浄。
「ねえ、お姉さん一人?よかったらどう?今から俺と」
どこかで女の子でもナンパしてるのかな。
「ちょっとちょっと、無視しないでよ〜」
それかまさか、牛魔王の刺客に襲われてるんじゃ。
「オイ、女てめぇ!下手に出れば調子に乗りやがって!」
「そこのお兄さん、俺の女に何か用?」
「悟浄」
「いで、でででで」
振り返れば、柄の悪そうな男の腕を悟浄がひねり上げていた。
悟浄の顔を見た男はあわてて退散する。
見知らぬ人だったけど一体、何だったのだろう。
「いや〜お待たせ。悪ィな名前ちゃん、こっちも妙なガキが絡まれててよ」
「妙な子供?」
宿へ戻るため、歩きながら話を聞く。
不良に絡まれていたところを助けた少年の名は金閣。
いろいろと聞かれて三蔵たちの話をしたら、悪い奴らをやっつけてあげると言われたらしい。
「悪い人って……素直じゃないんだから、悟浄は」
「俺が素直になるのは、女の子の前だけなの」
宿に戻る頃には、すっかり日が暮れていた。
悟空、ずいぶんとお腹を空かせてるだろうな。
扉を開けると、ガサッと手にしていた紙袋を床に落とす。
「なに、これ……」
目に飛び込んで来たのは、散乱する部屋に倒れている三蔵、八戒、悟空の姿。
意識のない三人に、息を呑む。
「貴方が望んだんだよ、お兄ちゃん」
幼い声に振り返ると、巨大な怪物に抱えられた金髪の少年。
少年が助けてくれたお礼に、悪いヒトをやっつけてあげたと笑っていた。
彼が、悟浄の言っていた金閣。
三人は本当に、彼らにやられたっていうの?
「お前、まさか牛魔王の刺客か!?」
「ぎゅうまおう?知らな、」
「それなら、どうしてこんなひどい事を……!」
激怒した悟浄が武器を構える。
怪物が金閣を腕から降ろして、私たちに牙を向けて襲いかかってきた。
「ダメだよ銀閣!その人たちはイイ人……!」
突如、銃声が鳴り響き、腕を撃ち抜かれた怪物はよろめく。
「オイ、悪人裁いてヒーローごっこのつもりか?このクソガキが」
「三蔵!」
「お前、無事だったのかよ!」
「人を勝手に殺すな……名前を置いて、死んでたまるかよ」
「ハハッ、こんな時にまで惚気かよ……」
「おいガキ、何が目的だ?そのひょうたんはどこで手に入れた」
「僕……何も悪い事してないッ、僕はただ……!」
金閣へと銃口を向ける三蔵を、とっさに悟浄が止める。
その隙に、彼らは窓から逃げ出してしまった。
部屋に鈍い音が響く。
三蔵が怒りに任せて悟浄を殴っていた。
「クソは貴様だ!何トチ狂った事抜かしてやがる!?あのガキは敵だろうが!」
「……ワリ」
私は八戒と悟空の元へ駆け寄り、何度も呼びかけるが反応はない。
意識どころか呼吸さえしていない事実に、全身が凍りつく。
落ち着け、こんな時は。
八戒の胸の上に置いた両手を、三蔵につかまれた。
「何をするつもりだ、名前」
「何って、早く心臓マッサージと人工呼吸を……!」
「無意味だ」
淡々と発せられた三蔵の言葉に、眉をひそめる。
どうして、そう言い切れるのか。
「とりあえず二人をベッドへ移動させるぞ。オイ、クソ河童」
「……わぁったよ」
悟空と八戒を、ベッドへ寝かせる。
目立った外傷はどこにもない。
何か知ってそうな三蔵に話を聞こうとしたところ、三蔵が悟浄に質問する。
「あのガキは、どうしてこの宿の場所がわかった?」
「……俺が教えたんだよ。いろいろと、聞かれて」
悟浄の言葉に、三蔵は椅子に座ったまま黙り込んだ。
「何とか言えよ……」
「なんとか」
「バカにしてんのか!てめぇ!」
「バカにしてる以前の問題だ。貴様といると、バカが移りそうで、」
パンッと、部屋に乾いた音を響かせる。
二人が、両手を鳴らした私の方へと顔を向けた。
じんじんと、手のひらが痛い。
「ケンカしてる場合じゃありません、二人共。お願いします、三蔵……一体、何があったんですか」
「……ああ、そうだな」
事の発端を話し始めた三蔵によると突然、この部屋を訪れた少年金閣。
その手にあるひょうたんにより、悟空と八戒の身体から精神、つまりは魂が吸い込まれたという。
完全に死んでいないのなら、まだ助かる方法はあるはず。
悟浄が一人、上着を取って席を立つ。
「どこへ行く」
「自分のケツ拭いにだよ。あのガキとっつかまえなきゃ何もはじまんねぇ。追いかける為の手がかりを探すんだ。名前はここで、こいつらを見ててくれ」
「悟浄……うん、気をつけて」
三蔵も立ち上がり、悟浄のあとへ続こうとしたが途中で振り返る。
何か迷うように苦渋の表情を浮かべる三蔵へ、私は声をかけた。
「三蔵、一刻も早く二人を取り戻してあげてください」
「……ああ」
部屋を出て行く二人を見送る中、爪が食い込むほど握った手に力が入る。
お願い、どうか無事に戻ってきて。
私は両手を組んで、ただ必死に祈る事しか出来なかった。
◇
あれから、どれくらい経っただろう。
「いっ……!あだだだだ!?」
「戻ったんですね、僕たち……」
前触れもなく突然生き返った二人を見て、瞳が揺れる。
ベッドの上で上半身を起こした彼らに、思いっきり抱きついた。
「悟空!八戒!」
「おわっ、名前!?って、なんか身体が動きづらいんですけど!」
「あはは、これって死後硬直ですかねぇ」
「勝手に、勝手に死んだりなんて、しないでください!」
涙があふれて止まらず、ぽたぽたと零れ落ちる。
戸惑いがちに悟空が謝り、八戒からは落ち着かせるよう背中をなでられた。
「ほ、ほら、もう泣くなって名前!こうやって戻って来れたんだし……な!な?」
「これは迂闊に死ねませんねぇ」
「あたりまえです!」
「わ、ごめんって……!」
「ご心配おかけしました。もう大丈夫ですよ、名前」
微笑む八戒の言葉に落ち着いて、改めて二人の無事を確認する。
私は二人に金閣の事を、二人からはひょうたんの中で出会った金閣の双子の弟、銀閣とカミサマについての話を聞いた。
幼い子供たちに力を与えて善悪を吹き込んだ人物、それがカミサマ。
早く金閣に、真実を伝えないと。
「キュウ!」
「ジープ!もう大丈夫なの?」
「キュキュー!」
休んでいたジープも回復して、元気になったみたいだ。
「ところで、三蔵と悟浄は?」
「最初はケンカし始めてどうなるかと思ったんですが、今は金閣たちを追って二人でここを出ています」
「そうですか」
八戒の手が私の肩へ置かれて、やわらかく微笑まれる。
「保母さん一人で大変だったでしょう。それじゃ、行きましょうかね。不良園児たちをお迎えに」
◇
ジープで暗い山道を登り、金閣たちと対峙する三蔵と悟浄を見つけた。
「八戒、いました!あそこです!」
「無事ですか、二人共!」
「そりゃこっちのセリフだっての」
金閣はその小さな身体で、うずくまる怪物をかばっていた。
八戒は金閣へ、その怪物は弟の銀閣ではないと、カミサマによって思い込まされていたのだと。
兄を救ってくれと、本人の口により伝えられた事実を教える。
そして最後に、この世にもう銀閣がいない事も。
「うそだぁあああああ!」
悲鳴に似た絶叫が、森の中をこだまする。
幼い子供に突き付けられた、あまりにも残酷な現実。
突如、金閣の腹を何かが貫いて、口から血を流しながら崩れ落ちる。
何が起こったのか、わからなかった。
一瞬だけ聞こえたのは、数珠の音。
「んで……ど、して……神様」
悟浄の腕の中で、空へ伸ばされた手が力をなくして事切れる。
「何でかって?いらなくなったからだよ」
風が吹き荒れて、この場にふさわしくない軽い男の声に振り返る。
そして、私は目を見張る。
片目のまわりに火傷の跡、身体中に巻きつけた長い数珠。
経文こそ見当たらないものの、額のチャクラ、頭に金冠を乗せて法衣を身にまとったその姿は。
「三蔵法師……?」
「あはは、お姉さん惜しいね。あたりだけどはずれー。あ、そこの君も三蔵法師?でも、一緒にされたくないんだよな。ゴメンね?」
僕、君より強いから。
そう言ってふわっと木の上から降りた男が、三蔵の攻撃を一瞬の間にかわす。
「残念でした。ね。だって僕、神様だから?」
カミサマ、彼が金閣の言っていた人。
金閣を利用して、その幼い双子を殺した張本人。
悟浄が金閣のまぶたを閉じて、低い声で言い放つ。
「……何、笑ってやがる。てめぇ、コイツらに何がしたかったんだよ。何も判んねェバカ正直なガキつかまえて、何人殺しなんざさせてんだよ」
「ヒミツ」
ふと男と目が合うと、目を細められて無邪気な笑顔を向けられる。
「そこのお姉さん、よかったら僕のお城においでよ」
カミサマと名乗る男の手が、私にふれようとした瞬間。
三蔵に強く腕を引っ張られて、倒れそうな身体を受け止められる。
悟浄の錫月杖がカミサマの身体を斬り裂いた。
かと思えば、パラパラと真っ赤な数珠が落ちていく。
「幻術!?」
「あはは!ダメだよ、三蔵法師の君。女の子を乱暴に扱ったら、嫌われちゃうよ?」
木々がざわめく中、笑い声だけが響き渡って男はそのまま姿を消した。
ひどくやるせない気持ちだけが残る。
悟浄は地面を殴り、金閣の遺体の傍からしばらく離れなかった。
その後、カミサマは見つからず私たちは金閣を埋葬して山を降りた。
宿に戻ると、いつもの調子で悟空と悟浄がケンカを始めて、軽快なハリセンの音が鳴る。
三蔵によると、カミサマの件は牛魔王の刺客でない以上関係ないと、明日には旅立つとの事。
何もかもいつも通り、そう見えた。
だけど、八戒だけがどこか心配そうに悟浄を見つめていた。
「キュ〜……」
ジープが熱で倒れた。
八戒は看病のため悟浄に買い出しを頼み、それに私もついて行く。
三蔵と悟空はお留守番だ。
例のごとく悟浄と途中で別れて、私自身に必要なものを買ってから集合場所に向かう。
遅いな、悟浄。
「ねえ、お姉さん一人?よかったらどう?今から俺と」
どこかで女の子でもナンパしてるのかな。
「ちょっとちょっと、無視しないでよ〜」
それかまさか、牛魔王の刺客に襲われてるんじゃ。
「オイ、女てめぇ!下手に出れば調子に乗りやがって!」
「そこのお兄さん、俺の女に何か用?」
「悟浄」
「いで、でででで」
振り返れば、柄の悪そうな男の腕を悟浄がひねり上げていた。
悟浄の顔を見た男はあわてて退散する。
見知らぬ人だったけど一体、何だったのだろう。
「いや〜お待たせ。悪ィな名前ちゃん、こっちも妙なガキが絡まれててよ」
「妙な子供?」
宿へ戻るため、歩きながら話を聞く。
不良に絡まれていたところを助けた少年の名は金閣。
いろいろと聞かれて三蔵たちの話をしたら、悪い奴らをやっつけてあげると言われたらしい。
「悪い人って……素直じゃないんだから、悟浄は」
「俺が素直になるのは、女の子の前だけなの」
宿に戻る頃には、すっかり日が暮れていた。
悟空、ずいぶんとお腹を空かせてるだろうな。
扉を開けると、ガサッと手にしていた紙袋を床に落とす。
「なに、これ……」
目に飛び込んで来たのは、散乱する部屋に倒れている三蔵、八戒、悟空の姿。
意識のない三人に、息を呑む。
「貴方が望んだんだよ、お兄ちゃん」
幼い声に振り返ると、巨大な怪物に抱えられた金髪の少年。
少年が助けてくれたお礼に、悪いヒトをやっつけてあげたと笑っていた。
彼が、悟浄の言っていた金閣。
三人は本当に、彼らにやられたっていうの?
「お前、まさか牛魔王の刺客か!?」
「ぎゅうまおう?知らな、」
「それなら、どうしてこんなひどい事を……!」
激怒した悟浄が武器を構える。
怪物が金閣を腕から降ろして、私たちに牙を向けて襲いかかってきた。
「ダメだよ銀閣!その人たちはイイ人……!」
突如、銃声が鳴り響き、腕を撃ち抜かれた怪物はよろめく。
「オイ、悪人裁いてヒーローごっこのつもりか?このクソガキが」
「三蔵!」
「お前、無事だったのかよ!」
「人を勝手に殺すな……名前を置いて、死んでたまるかよ」
「ハハッ、こんな時にまで惚気かよ……」
「おいガキ、何が目的だ?そのひょうたんはどこで手に入れた」
「僕……何も悪い事してないッ、僕はただ……!」
金閣へと銃口を向ける三蔵を、とっさに悟浄が止める。
その隙に、彼らは窓から逃げ出してしまった。
部屋に鈍い音が響く。
三蔵が怒りに任せて悟浄を殴っていた。
「クソは貴様だ!何トチ狂った事抜かしてやがる!?あのガキは敵だろうが!」
「……ワリ」
私は八戒と悟空の元へ駆け寄り、何度も呼びかけるが反応はない。
意識どころか呼吸さえしていない事実に、全身が凍りつく。
落ち着け、こんな時は。
八戒の胸の上に置いた両手を、三蔵につかまれた。
「何をするつもりだ、名前」
「何って、早く心臓マッサージと人工呼吸を……!」
「無意味だ」
淡々と発せられた三蔵の言葉に、眉をひそめる。
どうして、そう言い切れるのか。
「とりあえず二人をベッドへ移動させるぞ。オイ、クソ河童」
「……わぁったよ」
悟空と八戒を、ベッドへ寝かせる。
目立った外傷はどこにもない。
何か知ってそうな三蔵に話を聞こうとしたところ、三蔵が悟浄に質問する。
「あのガキは、どうしてこの宿の場所がわかった?」
「……俺が教えたんだよ。いろいろと、聞かれて」
悟浄の言葉に、三蔵は椅子に座ったまま黙り込んだ。
「何とか言えよ……」
「なんとか」
「バカにしてんのか!てめぇ!」
「バカにしてる以前の問題だ。貴様といると、バカが移りそうで、」
パンッと、部屋に乾いた音を響かせる。
二人が、両手を鳴らした私の方へと顔を向けた。
じんじんと、手のひらが痛い。
「ケンカしてる場合じゃありません、二人共。お願いします、三蔵……一体、何があったんですか」
「……ああ、そうだな」
事の発端を話し始めた三蔵によると突然、この部屋を訪れた少年金閣。
その手にあるひょうたんにより、悟空と八戒の身体から精神、つまりは魂が吸い込まれたという。
完全に死んでいないのなら、まだ助かる方法はあるはず。
悟浄が一人、上着を取って席を立つ。
「どこへ行く」
「自分のケツ拭いにだよ。あのガキとっつかまえなきゃ何もはじまんねぇ。追いかける為の手がかりを探すんだ。名前はここで、こいつらを見ててくれ」
「悟浄……うん、気をつけて」
三蔵も立ち上がり、悟浄のあとへ続こうとしたが途中で振り返る。
何か迷うように苦渋の表情を浮かべる三蔵へ、私は声をかけた。
「三蔵、一刻も早く二人を取り戻してあげてください」
「……ああ」
部屋を出て行く二人を見送る中、爪が食い込むほど握った手に力が入る。
お願い、どうか無事に戻ってきて。
私は両手を組んで、ただ必死に祈る事しか出来なかった。
◇
あれから、どれくらい経っただろう。
「いっ……!あだだだだ!?」
「戻ったんですね、僕たち……」
前触れもなく突然生き返った二人を見て、瞳が揺れる。
ベッドの上で上半身を起こした彼らに、思いっきり抱きついた。
「悟空!八戒!」
「おわっ、名前!?って、なんか身体が動きづらいんですけど!」
「あはは、これって死後硬直ですかねぇ」
「勝手に、勝手に死んだりなんて、しないでください!」
涙があふれて止まらず、ぽたぽたと零れ落ちる。
戸惑いがちに悟空が謝り、八戒からは落ち着かせるよう背中をなでられた。
「ほ、ほら、もう泣くなって名前!こうやって戻って来れたんだし……な!な?」
「これは迂闊に死ねませんねぇ」
「あたりまえです!」
「わ、ごめんって……!」
「ご心配おかけしました。もう大丈夫ですよ、名前」
微笑む八戒の言葉に落ち着いて、改めて二人の無事を確認する。
私は二人に金閣の事を、二人からはひょうたんの中で出会った金閣の双子の弟、銀閣とカミサマについての話を聞いた。
幼い子供たちに力を与えて善悪を吹き込んだ人物、それがカミサマ。
早く金閣に、真実を伝えないと。
「キュウ!」
「ジープ!もう大丈夫なの?」
「キュキュー!」
休んでいたジープも回復して、元気になったみたいだ。
「ところで、三蔵と悟浄は?」
「最初はケンカし始めてどうなるかと思ったんですが、今は金閣たちを追って二人でここを出ています」
「そうですか」
八戒の手が私の肩へ置かれて、やわらかく微笑まれる。
「保母さん一人で大変だったでしょう。それじゃ、行きましょうかね。不良園児たちをお迎えに」
◇
ジープで暗い山道を登り、金閣たちと対峙する三蔵と悟浄を見つけた。
「八戒、いました!あそこです!」
「無事ですか、二人共!」
「そりゃこっちのセリフだっての」
金閣はその小さな身体で、うずくまる怪物をかばっていた。
八戒は金閣へ、その怪物は弟の銀閣ではないと、カミサマによって思い込まされていたのだと。
兄を救ってくれと、本人の口により伝えられた事実を教える。
そして最後に、この世にもう銀閣がいない事も。
「うそだぁあああああ!」
悲鳴に似た絶叫が、森の中をこだまする。
幼い子供に突き付けられた、あまりにも残酷な現実。
突如、金閣の腹を何かが貫いて、口から血を流しながら崩れ落ちる。
何が起こったのか、わからなかった。
一瞬だけ聞こえたのは、数珠の音。
「んで……ど、して……神様」
悟浄の腕の中で、空へ伸ばされた手が力をなくして事切れる。
「何でかって?いらなくなったからだよ」
風が吹き荒れて、この場にふさわしくない軽い男の声に振り返る。
そして、私は目を見張る。
片目のまわりに火傷の跡、身体中に巻きつけた長い数珠。
経文こそ見当たらないものの、額のチャクラ、頭に金冠を乗せて法衣を身にまとったその姿は。
「三蔵法師……?」
「あはは、お姉さん惜しいね。あたりだけどはずれー。あ、そこの君も三蔵法師?でも、一緒にされたくないんだよな。ゴメンね?」
僕、君より強いから。
そう言ってふわっと木の上から降りた男が、三蔵の攻撃を一瞬の間にかわす。
「残念でした。ね。だって僕、神様だから?」
カミサマ、彼が金閣の言っていた人。
金閣を利用して、その幼い双子を殺した張本人。
悟浄が金閣のまぶたを閉じて、低い声で言い放つ。
「……何、笑ってやがる。てめぇ、コイツらに何がしたかったんだよ。何も判んねェバカ正直なガキつかまえて、何人殺しなんざさせてんだよ」
「ヒミツ」
ふと男と目が合うと、目を細められて無邪気な笑顔を向けられる。
「そこのお姉さん、よかったら僕のお城においでよ」
カミサマと名乗る男の手が、私にふれようとした瞬間。
三蔵に強く腕を引っ張られて、倒れそうな身体を受け止められる。
悟浄の錫月杖がカミサマの身体を斬り裂いた。
かと思えば、パラパラと真っ赤な数珠が落ちていく。
「幻術!?」
「あはは!ダメだよ、三蔵法師の君。女の子を乱暴に扱ったら、嫌われちゃうよ?」
木々がざわめく中、笑い声だけが響き渡って男はそのまま姿を消した。
ひどくやるせない気持ちだけが残る。
悟浄は地面を殴り、金閣の遺体の傍からしばらく離れなかった。
その後、カミサマは見つからず私たちは金閣を埋葬して山を降りた。
宿に戻ると、いつもの調子で悟空と悟浄がケンカを始めて、軽快なハリセンの音が鳴る。
三蔵によると、カミサマの件は牛魔王の刺客でない以上関係ないと、明日には旅立つとの事。
何もかもいつも通り、そう見えた。
だけど、八戒だけがどこか心配そうに悟浄を見つめていた。