無印編
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本日、立ち寄った町の宿で取れた部屋は4つ。
こういう時は、三蔵と私が相部屋になるのがいつものパターンなんだけど。
「あの、八戒」
「どうかしました?名前」
「今日は、一緒に寝てくれませんか?」
沈黙。
ポロッと、三蔵の口にくわえていた煙草が落ちる音が聞こえた。
こんな事、前にもあったなと思い出し、あわてて訂正する。
「あの!また何か勘違いしてませんか!?」
「いや、勘違いつーか……何よ三蔵サマ。痴話喧嘩?それとも、ついに愛想つかれたか?」
「殺すぞ、クサレ河童」
「名前ちゃん、何なら俺が身体で慰めて、」
「悟浄?」
「ハイ、ナンデモナイデス……」
笑顔で怒る八戒に、悟浄が両手を上げて降参している。
悟空にくいくいっと、服の袖を引っ張られた。
「どうしたんだよ、名前。三蔵に何かされたのか?」
悟空は純粋無垢だ。
鈍い音に、うしろを振り返る。
宿の柱に三蔵が頭をぶつけて、悟空の言葉に一番ダメージを受けているようだった。
「オイオイ、マジかよ……やっぱり、むっつりスケベ最高僧サマじゃねえか」
「いや、違うんです。あれはたぶん衝動的なものであって、」
そこまで言って、ハッと我に返る。
このままでは三蔵にされた事を、みんなに説明しているようなものだ。
どうしようかと一人わたわたとしていると、そっと肩へ手が置かれた。
「とりあえず、部屋に行きましょうか?名前」
「はい……」
何か言いたげな悟浄たちと別れて、八戒と同じ部屋へ向かう。
ちらりと振り返ったが、三蔵とは目が合わなかった。
私は部屋に入り、ベッドに腰掛けてクッションを抱きしめる。
やっぱり、悪い事したかな。
「ここ数日、何かヘンだと薄々気が付いていましたが」
「気が付かれてましたか……」
「名前、聞いてもいいですか?三蔵と何がありました?」
「八戒……その、ですね」
何と伝えればいいのか、と考えて唸る。
幼い江流と交わした約束は、続いていた。
あの時は流してしまったが、このままでいいのだろうかと。
悶々としているとベッドが少し揺れて、八戒は私の隣に腰掛けた。
やさしく微笑みかけられる。
「大丈夫です。言いたくなければ、無理にとは言いません。何か飲み物でも、」
「……八戒。私、三蔵の事が好きです」
八戒の瞳が、大きく見開かれる。
「でも、それは弟や息子のような家族としてで、三蔵の好きとはたぶん昔から違っていて。だから、どうしたらいいかわからないんです。私の心は……光明様のものだから」
もう二度と会えなくとも。
それは昔も今もずっと、変わらない事だから。
「……誰かのもの、というのは違うんじゃないですか?」
「え?」
どこか遠くを見ている、八戒の横顔を見つめる。
「名前の心は、名前だけのものです。もちろん生涯その人だけを愛するという選択肢もありますが、もっとその心に従うと言いますか、自由にしてあげてもいいんじゃないでしょうか?といっても、今すぐになんて無理ですよね?だからここは一つ、未来の話として」
いかがでしょう?なんて、首を傾げて微笑まれる。
私は気が付けば、目元に涙を浮かべていた。
「名前!?すみません僕、何か気に障るような事を、」
「違うんです、八戒……」
思い出されたのは、光明様のやわらかい笑顔。
以前、光明様にも言われたのだ。
貴方は貴方のためだけに生きてください、と。
頬に伝う涙を、八戒の指の腹で拭われる。
「困りましたね。貴方に泣かれると、僕、どうしたらいいのかわからなくなるんです」
「八戒、すみません……」
「いいえ、謝らないでください」
私はクッションをぎゅっと抱えたまま、眉尻を下げる八戒を見上げる。
そんな風に考えられる、八戒はどうなんだろう。
「……八戒は、もし誰か女性に好意を寄せられたら、応えられますか?」
「あはは、難しい質問ですねぇ」
「あ、すみません!もちろん、今すぐの話ではなくてですね……!」
「……ええ、わかってますよ」
こんな事を聞くのは、酷だったのかもしれない。
八戒も愛する人を失って、大きな傷を抱えている。
それは私よりも壮絶で、計り知れないほどの深い怒りとかなしみ。
ちらりと、横目に見つめられる。
「相手による、と思いますよ」
「それは好みの女性、という意味ですか?」
「んー、そうですね。半分そうかもしれませんが、厳密に言うと、好きにならざるを得ない女性、ですかね」
「好きにならざるを得ない……」
「ええ。気が付けばいつもその人の事を想っていて、もっと知りたい、ずっと一緒にいたいと思うような。だから、悩む事なく、いつも通りにしたらいいと思いますよ。そう、思えるようになる日まで」
そう思える日まで、いつも通りに。
そっか、無理に今すぐ答えを出す必要はないんだ。
……もしかしたら三蔵は、ハッキリしてほしいかもしれないけれど。
やさしい碧緑の瞳と視線が交わって、私は笑って頷く。
「ありがとう、八戒。やっぱり、八戒に話聞いてもらえてよかったです。こんな事、話せるの八戒しかいないので」
「だから僕だったんですね。お役に立てたのであれば何よりです。あ、ちなみに、三蔵に何されました?具体的に」
「え、えっと、」
「無理やりキス、とか?」
「どうしてわかったんですか!?……あ」
八戒の笑顔を見て固まり、顔を赤くする。
墓穴を掘ったのは、私だ。
「しばらく二人の相部屋、禁止ですね。あとおしおき、しておきましょうか」
「い、いえ!大丈夫です!あの時は私にも責任があって、三蔵も不安定で、すぐに謝ってもらったので。それに、キスの一つや二つ、」
そう言うと、八戒が笑顔が一層深くなる。
マズイ、これは怒った時の顔だ。
「キスの一つや二つならイイと?つまり今、僕にされても構わないって事ですよね?」
「は、八戒……!」
同じベッドの上に腰掛けたまま、身体を寄せられて迫られる。
八戒の顔が、唇が近づいてきて、私はきゅっと目をつぶった。
少しして小さな笑い声に、目を開ける。
「というのは冗談で、もっと自分の身体を大事にしてくださいね。女性なんですから」
「もう、からかわないでください、八戒!」
「名前の軽率な発言には、本気で怒ってますよ?」
「はい、すみません……」
なんだか最近になって、八戒に怒られてばっかりな気がする。
怒られるような事をする私が悪いのだけれど。
でも、なんだかそれが少しうれしかった。
部屋の明かりを消して、それぞれのベッドへ横になる。
「名前、一つ聞いていいですか」
「なんですか?」
「三蔵の事、好きって言いましたよね。その中に……名前の好きな人の中に、僕はいますか」
どこか儚げな八戒の声。
私は頬をゆるめてすぐに答える。
「あたりまえじゃないですか。いつもやさしい八戒の事、好きですよ」
「……ありがとうございます。それじゃ、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
◇
翌朝。
目を覚ますと、勢いよく扉が開いて驚く。
「おはようございます、悟空。名前がいる時は、ノックするようにしてくださいね」
「あ、ごめん!でも俺、昨日から気になって……名前、三蔵の事キライになっちゃった?」
しょんぼりと、いつものような元気のない悟空に見つめられる。
部屋割りの事、気にしているのかな。
でも、どうして悟空が。
「なんかイヤなんだ、俺。三蔵と名前が仲悪いの。何があったか、三蔵も教えてくれないし、ずっと不機嫌だし。なんか、このへんがモヤモヤする」
そう言って胸元の服を、シワがつくほど握りしめる。
以前、悟空は隠し事が嫌いだと言っていた。
嫌な思いをさせてしまったな。
私は悟空の手を取って、包み込むように握りしめた。
「ごめんね、悟空。昨日はちょっと八戒と話がしたくて。でも大丈夫。三蔵の事、嫌いじゃないよ。昔からずっと好きだもの」
「ホント?」
「本当、本当。悟空の事も好きだよ。だから、元気出して?」
そう言うと、はにかんで悟空はとびきりの笑顔を見せた。
「わかった!じゃあさ、三蔵のとこ行こう!」
「え?」
止める間もなく手を取られて歩き出し、三蔵と悟浄のいる部屋へ入れられる。
三蔵へ顔を向けるが、相変わらず目は合わず視線をそらされる。
「お、名前ちゃん。朝っぱらからどうした?」
「三蔵!」
「……なんだ、クソ猿」
「名前、三蔵の事好きだって!」
三蔵は、口にしていたコーヒーを喉につまらせて咳き込む。
「だ、大丈夫ですか!三蔵」
「三蔵も名前の事、好きだよな!これで解決だ!」
「〜こンのバカ猿がッ!」
「って〜!何すんだよ!これで元通りだろ!?な、名前!」
ハリセンで悟空を思いっきり叩いた三蔵と、目が合う。
私はやっとこっちを見てくれた事がうれしくて、笑顔で頷いた。
「はい!悟空の言う通りです。だから、これからもいつも通り旅をしましょう、三蔵」
「……」
「ダメですか、三蔵?」
「……わかった」
あきらめたように三蔵は額に手を当てて、思いっきり息を吐く。
その肩へ、悟浄が笑いながら腕を乗せた。
「安心してうれしいんだろ?三蔵サマ。ずっと心配だったもんなぁ、名前ちゃんに嫌われたんじゃないかって」
「……うるせぇ殺すぞ、クソ河童」
「よかったですね、三蔵。でも今後も、名前と相部屋にさせてくださいね?居心地の良さ、よーくわかりましたから」
「あ?」
「八戒」
いつの間にか、八戒も部屋に来ていて私の隣で笑っていた。
「えー!俺も俺も!名前と同じ部屋がいい!」
「悟浄さんも〜」
「却下だ!却下!」
「なんで三蔵が決めるんだよー!」
「そーだ、そーだ!三蔵だけが、名前ちゃんを独り占めなんてズリィぞ!?」
軽快なハリセンの音が二発、今日も響き渡る。
「いやー、モテモテですねぇ。名前」
「うーん……女が私だけだから、ですかね」
「それだけじゃないと思いますよ?」
笑顔の八戒に、瞬きして首を傾げる。
「みんな、名前に救われてるんですよ」
「そんな!それはむしろ、私の方です。今回なんか、特に八戒に」
「なら、おあいこですね」
それはいつかの、私のセリフで。
私は特別、何かしたつもりはないけれど。
微笑む八戒と同じく、私も頬をゆるめて笑った。
そうだったら、私もうれしいな。
こういう時は、三蔵と私が相部屋になるのがいつものパターンなんだけど。
「あの、八戒」
「どうかしました?名前」
「今日は、一緒に寝てくれませんか?」
沈黙。
ポロッと、三蔵の口にくわえていた煙草が落ちる音が聞こえた。
こんな事、前にもあったなと思い出し、あわてて訂正する。
「あの!また何か勘違いしてませんか!?」
「いや、勘違いつーか……何よ三蔵サマ。痴話喧嘩?それとも、ついに愛想つかれたか?」
「殺すぞ、クサレ河童」
「名前ちゃん、何なら俺が身体で慰めて、」
「悟浄?」
「ハイ、ナンデモナイデス……」
笑顔で怒る八戒に、悟浄が両手を上げて降参している。
悟空にくいくいっと、服の袖を引っ張られた。
「どうしたんだよ、名前。三蔵に何かされたのか?」
悟空は純粋無垢だ。
鈍い音に、うしろを振り返る。
宿の柱に三蔵が頭をぶつけて、悟空の言葉に一番ダメージを受けているようだった。
「オイオイ、マジかよ……やっぱり、むっつりスケベ最高僧サマじゃねえか」
「いや、違うんです。あれはたぶん衝動的なものであって、」
そこまで言って、ハッと我に返る。
このままでは三蔵にされた事を、みんなに説明しているようなものだ。
どうしようかと一人わたわたとしていると、そっと肩へ手が置かれた。
「とりあえず、部屋に行きましょうか?名前」
「はい……」
何か言いたげな悟浄たちと別れて、八戒と同じ部屋へ向かう。
ちらりと振り返ったが、三蔵とは目が合わなかった。
私は部屋に入り、ベッドに腰掛けてクッションを抱きしめる。
やっぱり、悪い事したかな。
「ここ数日、何かヘンだと薄々気が付いていましたが」
「気が付かれてましたか……」
「名前、聞いてもいいですか?三蔵と何がありました?」
「八戒……その、ですね」
何と伝えればいいのか、と考えて唸る。
幼い江流と交わした約束は、続いていた。
あの時は流してしまったが、このままでいいのだろうかと。
悶々としているとベッドが少し揺れて、八戒は私の隣に腰掛けた。
やさしく微笑みかけられる。
「大丈夫です。言いたくなければ、無理にとは言いません。何か飲み物でも、」
「……八戒。私、三蔵の事が好きです」
八戒の瞳が、大きく見開かれる。
「でも、それは弟や息子のような家族としてで、三蔵の好きとはたぶん昔から違っていて。だから、どうしたらいいかわからないんです。私の心は……光明様のものだから」
もう二度と会えなくとも。
それは昔も今もずっと、変わらない事だから。
「……誰かのもの、というのは違うんじゃないですか?」
「え?」
どこか遠くを見ている、八戒の横顔を見つめる。
「名前の心は、名前だけのものです。もちろん生涯その人だけを愛するという選択肢もありますが、もっとその心に従うと言いますか、自由にしてあげてもいいんじゃないでしょうか?といっても、今すぐになんて無理ですよね?だからここは一つ、未来の話として」
いかがでしょう?なんて、首を傾げて微笑まれる。
私は気が付けば、目元に涙を浮かべていた。
「名前!?すみません僕、何か気に障るような事を、」
「違うんです、八戒……」
思い出されたのは、光明様のやわらかい笑顔。
以前、光明様にも言われたのだ。
貴方は貴方のためだけに生きてください、と。
頬に伝う涙を、八戒の指の腹で拭われる。
「困りましたね。貴方に泣かれると、僕、どうしたらいいのかわからなくなるんです」
「八戒、すみません……」
「いいえ、謝らないでください」
私はクッションをぎゅっと抱えたまま、眉尻を下げる八戒を見上げる。
そんな風に考えられる、八戒はどうなんだろう。
「……八戒は、もし誰か女性に好意を寄せられたら、応えられますか?」
「あはは、難しい質問ですねぇ」
「あ、すみません!もちろん、今すぐの話ではなくてですね……!」
「……ええ、わかってますよ」
こんな事を聞くのは、酷だったのかもしれない。
八戒も愛する人を失って、大きな傷を抱えている。
それは私よりも壮絶で、計り知れないほどの深い怒りとかなしみ。
ちらりと、横目に見つめられる。
「相手による、と思いますよ」
「それは好みの女性、という意味ですか?」
「んー、そうですね。半分そうかもしれませんが、厳密に言うと、好きにならざるを得ない女性、ですかね」
「好きにならざるを得ない……」
「ええ。気が付けばいつもその人の事を想っていて、もっと知りたい、ずっと一緒にいたいと思うような。だから、悩む事なく、いつも通りにしたらいいと思いますよ。そう、思えるようになる日まで」
そう思える日まで、いつも通りに。
そっか、無理に今すぐ答えを出す必要はないんだ。
……もしかしたら三蔵は、ハッキリしてほしいかもしれないけれど。
やさしい碧緑の瞳と視線が交わって、私は笑って頷く。
「ありがとう、八戒。やっぱり、八戒に話聞いてもらえてよかったです。こんな事、話せるの八戒しかいないので」
「だから僕だったんですね。お役に立てたのであれば何よりです。あ、ちなみに、三蔵に何されました?具体的に」
「え、えっと、」
「無理やりキス、とか?」
「どうしてわかったんですか!?……あ」
八戒の笑顔を見て固まり、顔を赤くする。
墓穴を掘ったのは、私だ。
「しばらく二人の相部屋、禁止ですね。あとおしおき、しておきましょうか」
「い、いえ!大丈夫です!あの時は私にも責任があって、三蔵も不安定で、すぐに謝ってもらったので。それに、キスの一つや二つ、」
そう言うと、八戒が笑顔が一層深くなる。
マズイ、これは怒った時の顔だ。
「キスの一つや二つならイイと?つまり今、僕にされても構わないって事ですよね?」
「は、八戒……!」
同じベッドの上に腰掛けたまま、身体を寄せられて迫られる。
八戒の顔が、唇が近づいてきて、私はきゅっと目をつぶった。
少しして小さな笑い声に、目を開ける。
「というのは冗談で、もっと自分の身体を大事にしてくださいね。女性なんですから」
「もう、からかわないでください、八戒!」
「名前の軽率な発言には、本気で怒ってますよ?」
「はい、すみません……」
なんだか最近になって、八戒に怒られてばっかりな気がする。
怒られるような事をする私が悪いのだけれど。
でも、なんだかそれが少しうれしかった。
部屋の明かりを消して、それぞれのベッドへ横になる。
「名前、一つ聞いていいですか」
「なんですか?」
「三蔵の事、好きって言いましたよね。その中に……名前の好きな人の中に、僕はいますか」
どこか儚げな八戒の声。
私は頬をゆるめてすぐに答える。
「あたりまえじゃないですか。いつもやさしい八戒の事、好きですよ」
「……ありがとうございます。それじゃ、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
◇
翌朝。
目を覚ますと、勢いよく扉が開いて驚く。
「おはようございます、悟空。名前がいる時は、ノックするようにしてくださいね」
「あ、ごめん!でも俺、昨日から気になって……名前、三蔵の事キライになっちゃった?」
しょんぼりと、いつものような元気のない悟空に見つめられる。
部屋割りの事、気にしているのかな。
でも、どうして悟空が。
「なんかイヤなんだ、俺。三蔵と名前が仲悪いの。何があったか、三蔵も教えてくれないし、ずっと不機嫌だし。なんか、このへんがモヤモヤする」
そう言って胸元の服を、シワがつくほど握りしめる。
以前、悟空は隠し事が嫌いだと言っていた。
嫌な思いをさせてしまったな。
私は悟空の手を取って、包み込むように握りしめた。
「ごめんね、悟空。昨日はちょっと八戒と話がしたくて。でも大丈夫。三蔵の事、嫌いじゃないよ。昔からずっと好きだもの」
「ホント?」
「本当、本当。悟空の事も好きだよ。だから、元気出して?」
そう言うと、はにかんで悟空はとびきりの笑顔を見せた。
「わかった!じゃあさ、三蔵のとこ行こう!」
「え?」
止める間もなく手を取られて歩き出し、三蔵と悟浄のいる部屋へ入れられる。
三蔵へ顔を向けるが、相変わらず目は合わず視線をそらされる。
「お、名前ちゃん。朝っぱらからどうした?」
「三蔵!」
「……なんだ、クソ猿」
「名前、三蔵の事好きだって!」
三蔵は、口にしていたコーヒーを喉につまらせて咳き込む。
「だ、大丈夫ですか!三蔵」
「三蔵も名前の事、好きだよな!これで解決だ!」
「〜こンのバカ猿がッ!」
「って〜!何すんだよ!これで元通りだろ!?な、名前!」
ハリセンで悟空を思いっきり叩いた三蔵と、目が合う。
私はやっとこっちを見てくれた事がうれしくて、笑顔で頷いた。
「はい!悟空の言う通りです。だから、これからもいつも通り旅をしましょう、三蔵」
「……」
「ダメですか、三蔵?」
「……わかった」
あきらめたように三蔵は額に手を当てて、思いっきり息を吐く。
その肩へ、悟浄が笑いながら腕を乗せた。
「安心してうれしいんだろ?三蔵サマ。ずっと心配だったもんなぁ、名前ちゃんに嫌われたんじゃないかって」
「……うるせぇ殺すぞ、クソ河童」
「よかったですね、三蔵。でも今後も、名前と相部屋にさせてくださいね?居心地の良さ、よーくわかりましたから」
「あ?」
「八戒」
いつの間にか、八戒も部屋に来ていて私の隣で笑っていた。
「えー!俺も俺も!名前と同じ部屋がいい!」
「悟浄さんも〜」
「却下だ!却下!」
「なんで三蔵が決めるんだよー!」
「そーだ、そーだ!三蔵だけが、名前ちゃんを独り占めなんてズリィぞ!?」
軽快なハリセンの音が二発、今日も響き渡る。
「いやー、モテモテですねぇ。名前」
「うーん……女が私だけだから、ですかね」
「それだけじゃないと思いますよ?」
笑顔の八戒に、瞬きして首を傾げる。
「みんな、名前に救われてるんですよ」
「そんな!それはむしろ、私の方です。今回なんか、特に八戒に」
「なら、おあいこですね」
それはいつかの、私のセリフで。
私は特別、何かしたつもりはないけれど。
微笑む八戒と同じく、私も頬をゆるめて笑った。
そうだったら、私もうれしいな。