無印編
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夢を、見ていた気がする。
どこか悲しくて、少しだけ幸せだった夢を。
「名前……!あぁ、よかった。目が覚めたんですね」
「八戒」
声のする方へ顔を向けると、胸をなで下ろす八戒が見えた。
私が寝ているのは宿屋のベッドのよう。
身体を動かそうとするも、うまく力が入らない。
「無理もありません。丸三日も意識不明で昏睡状態だったんですから。どこか、痛みませんか?」
ベッドに横たわったまま、首を横に振る。
私は八戒から、今までの経緯を聞いた。
妖怪の爪の毒により倒れた後、砂の中の居城が崩れて、紅孩児たちに助けられるも、経文と私をかけて戦闘が始まって。
おとなしく私を差し出せば、八百鼡のところまで連れて行くという紅孩児の言葉に、誰も納得しなくて。
悟空が自ら金鈷を解き、止めるのに苦戦したりとみな満身創痍で、ここまで来るのに大変苦労したらしい。
「三蔵は、みんなは無事ですか?」
「ええ、三蔵なんか毎日付きっきりで看てたんですけど、先ほどふらりと出てしまって。きっと、目覚めた貴方に合わせる顔がないんでしょうね」
負い目を、感じているのだろうか。
私が勝手にした事なのに。
それよりも、と八戒が顔を厳しくする。
「ずいぶんと無茶な事しましたね。傷はすぐ塞ぎましたが、あの後激怒した三蔵が妖怪を撃ち殺してしまって解毒剤も見つからず、あやうく命を落とすところだったんですよ」
「それって妖怪を殺した三蔵にも、半分責任が……」
「名前」
「はい、すみません……」
笑顔の消えた八戒から、真面目な顔で怒られてしまった。
反省して縮こまっていると、すみません、と今度はなぜか八戒に謝られた。
「本当は、自分自身に怒っているんです。貴方を守れなかった自分に。それと、」
「?」
「いえ、何でありません。今はとにかく、しっかり休んでくださいね。何かあったら、すぐに僕を呼んでください」
「はい」
それじゃあと、八戒の後ろ姿を見た瞬間。
「名前……?」
「え?」
無意識だった。
部屋を出て行こうとする八戒の服の袖を、私はつかんでいた。
「あ、えと……!ごめんなさい!」
何してるんだろう、私。
あわてて離すと、その手を逆につかまれて握りしめられる。
八戒の顔を見上げて、息を呑んだ。
「名前、貴方は知らないでしょうけど、この三日、僕も生きた心地がしませんでした。大切な人をもう二度と、失いたくないんです」
「八戒……」
「貴方が無事で、本当によかった」
心配させてしまった。
私が思うよりも、ずっと。
指先に力を入れて八戒の手を握り返し、碧緑の瞳を見つめる。
「八戒、ありがとう。でもね、私そう簡単に死んでなんてやりません。いつか悟浄と見た生命線、覚えてます?私これでも八戒より、しぶといんですよ?」
なんて、冗談めかして笑ってみせる。
だって、八戒のあんな顔はもう見たくないから。
「……名前、貴方って人は」
瞬きしたあと呆れたように、でもやさしく八戒は微笑んで。
それじゃあと、部屋を出て行く姿を見送った。
◇
扉が開く音に、まぶたを開ける。
気がつけばすぐ近くに三蔵が立っていて、私は上半身を起こす。
黙っている三蔵に、私は微笑みかけて口を開く。
「詳しい事は八戒から聞きました。よかった、みんな無事で、」
「よかねぇよ」
「三蔵」
「……俺はまた、あの日のように」
悔しさを押し殺すように、拳が強く握られる。
うつむき顔にかかった金糸の髪により、その表情は見えない。
「俺は強かない……」
普段、決して周りに見せる事のない弱々しい姿。
私がした事は、ただの独りよがりの行動だったのかもしれない。
でも、後悔なんて何ひとつなかった。
光明様だって、きっとそう。
影が降ってきて、顔を上げたその瞬間。
覆いかぶさる三蔵の身体に、そのまま押し倒されていた。
「んっ……!三、蔵……!」
言葉もなく、強引に交わされた口づけ。
三蔵の胸板を押すように手を当てるも、唇を奪われ続けて止まらない。
息が乱れる中、少し唇が離れたかと思えばまたふさがれて、荒々しく何度も貪られる。
身体が、熱くなる。
「はぁ……っ、名前」
やっとの事で解放されて、まぶたを開ける。
激しく息をして悲痛な表情の三蔵に見下ろされた。
「俺を、独りにするな」
三蔵はもう独りじゃない。
でも、そういう事ではないとわかっている。
みんなの中で誰か一人欠けても、ダメなんだ。
いつもの三蔵じゃないと思うのは、この砂漠に来てから二回目で。
きっと、今回の責任は私にある。
「!」
私は三蔵の背中に腕をまわす。
自身の身体の上に乗せるよう、そっと引き寄せて抱きしめた。
「三蔵、不安にさせてごめんなさい」
「名前……」
「もう、大丈夫だから」
三蔵の後ろ髪と、大きくて硬い背中をゆっくりとなでる。
しばらくそうしていると、すがりつくように肩口に顔を埋められて、大きな吐息がかかった。
「落ち着きましたか?」
「……すまない」
そう言いつつも、ベッドの上でぎゅっと抱きしめられて、離れようとする気配はない。
体重をかけられて少し苦しいが、それも仕方ないと頬をゆるめる。
まるで幼い江流に戻ったかのような三蔵。
「三蔵、顔を上げてください」
ゆっくりと、肩口から金糸の髪が離れる。
押し倒した状態のまま、私の顔の横に腕をついて、虚げな紫暗の瞳は私を見下ろす。
「私は生きてます。ここまでずっと、みんなに守られ続けて。だから、今度は私が助けて守る番、だったんです。だって、私も三蔵一行だから」
ね?と笑いかける。
三蔵は少し黙ったあと、口の端をつり上げた。
「……ああ。でも、あんな助けられるような無様な真似は、二度としねぇよ」
「それでこそ、三蔵です」
「敵わねぇな……今も、昔も」
ふっと空気が和らぎ、もう大丈夫だと微笑む。
三蔵が私の上から退くと、ゆっくりと抱き起こされた。
それはそうと、ベッドに座ったまま私は眉をつり上げて、少し困惑する三蔵へ人差し指を立てる。
「でもダメですよ、三蔵。合意もなしにいきなり迫ったりしたら」
「……悪かった」
目をそらし、バツが悪そうにつぶやく三蔵。
ふと昔、同じような事をあの人にも言ったなと、心の隅で思い出す。
がやがやと、扉の外から何やら話し声が聞こえて視線を向ける。
「……アイツら」
額に手を当てて、うつむいた三蔵の額に浮かぶ青筋。
これはまた賑やかになりそうな予感。
立ち上がった三蔵が乱暴に扉を開けると、悟空と悟浄がなだれ込んできた。
うしろには、腕を組んだ笑顔の八戒。
「くそ〜、だから静かにしろって言っただろう!チビ猿!」
「猿ゆーな!ゴキブリ赤河童のせいだろ!?」
「オメー、いつの間にそんな言葉作ったんだよ!?」
うるせぇ……と、三蔵が肩を震わせる。
「じゃあこの触覚はなんだよ!この触覚はっ!」
「いててて!バカ!ひっぱんじゃねぇって!」
「しばらく部屋には近づかないよう、言ったんですけどねぇ」
「うるせえっつってんだろうが!このバカコンビ!」
いつもの喧騒を目の当たりにして、八戒とともに笑みをこぼす。
二人がおとなしくなったあと、控えめにこちらを見る悟空と目が合った。
「名前、もう大丈夫なんだよな?」
「うん、悟空。心配かけてごめんね。そういえば今度は金鈷、自分で解いたんだってね」
悟空は伏し目がちに目をそらして、静かに頷く。
ぎゅっと、自身の拳を握っていた。
「……紅孩児の奴、本気でさ。俺、このままじゃ倒せないって思って、それで、」
「おっと、名前ちゃん。お叱りなら飼い主からすでに済んでるぜ」
包帯だらけの悟浄が、軽い口調で口角を上げる。
みんなどこかしら怪我をして、悟空を止めるのに相当苦労したのが一目見てわかる。
私が腕を伸ばすと怒られると思ったのか、悟空はきゅっと目をつむる。
叱るつもりなんて、初めからない。
「ありがとう、守ってくれて。もちろん、みんなのおかげでもあるけど、悟空がいてくれて本当によかった」
茶色のふわふわの頭を、やさしくなでる。
金晴眼を丸くして瞬きしたあと、悟空はうつむいて頷く。
肩を震わせて、目元を腕で隠すようにこすっていた。
私は微笑んで、ぱたりとうしろのベッドへ倒れ込む。
「名前!?」
「平気です、八戒。ちょっとだけ、休みますね」
「添い寝してやろうか?名前ちゃん」
「死ぬか、クソ河童」
「永眠させちゃってください、三蔵」
「オイオイ、八戒までマジかよ……」
四人と一緒なら、何でも乗り越えられる。
だって、三蔵をかばった時、不思議と少しも怖くなかったから。
大切な人のためなら、こんなにも強くなれるのだと知った。
どこか悲しくて、少しだけ幸せだった夢を。
「名前……!あぁ、よかった。目が覚めたんですね」
「八戒」
声のする方へ顔を向けると、胸をなで下ろす八戒が見えた。
私が寝ているのは宿屋のベッドのよう。
身体を動かそうとするも、うまく力が入らない。
「無理もありません。丸三日も意識不明で昏睡状態だったんですから。どこか、痛みませんか?」
ベッドに横たわったまま、首を横に振る。
私は八戒から、今までの経緯を聞いた。
妖怪の爪の毒により倒れた後、砂の中の居城が崩れて、紅孩児たちに助けられるも、経文と私をかけて戦闘が始まって。
おとなしく私を差し出せば、八百鼡のところまで連れて行くという紅孩児の言葉に、誰も納得しなくて。
悟空が自ら金鈷を解き、止めるのに苦戦したりとみな満身創痍で、ここまで来るのに大変苦労したらしい。
「三蔵は、みんなは無事ですか?」
「ええ、三蔵なんか毎日付きっきりで看てたんですけど、先ほどふらりと出てしまって。きっと、目覚めた貴方に合わせる顔がないんでしょうね」
負い目を、感じているのだろうか。
私が勝手にした事なのに。
それよりも、と八戒が顔を厳しくする。
「ずいぶんと無茶な事しましたね。傷はすぐ塞ぎましたが、あの後激怒した三蔵が妖怪を撃ち殺してしまって解毒剤も見つからず、あやうく命を落とすところだったんですよ」
「それって妖怪を殺した三蔵にも、半分責任が……」
「名前」
「はい、すみません……」
笑顔の消えた八戒から、真面目な顔で怒られてしまった。
反省して縮こまっていると、すみません、と今度はなぜか八戒に謝られた。
「本当は、自分自身に怒っているんです。貴方を守れなかった自分に。それと、」
「?」
「いえ、何でありません。今はとにかく、しっかり休んでくださいね。何かあったら、すぐに僕を呼んでください」
「はい」
それじゃあと、八戒の後ろ姿を見た瞬間。
「名前……?」
「え?」
無意識だった。
部屋を出て行こうとする八戒の服の袖を、私はつかんでいた。
「あ、えと……!ごめんなさい!」
何してるんだろう、私。
あわてて離すと、その手を逆につかまれて握りしめられる。
八戒の顔を見上げて、息を呑んだ。
「名前、貴方は知らないでしょうけど、この三日、僕も生きた心地がしませんでした。大切な人をもう二度と、失いたくないんです」
「八戒……」
「貴方が無事で、本当によかった」
心配させてしまった。
私が思うよりも、ずっと。
指先に力を入れて八戒の手を握り返し、碧緑の瞳を見つめる。
「八戒、ありがとう。でもね、私そう簡単に死んでなんてやりません。いつか悟浄と見た生命線、覚えてます?私これでも八戒より、しぶといんですよ?」
なんて、冗談めかして笑ってみせる。
だって、八戒のあんな顔はもう見たくないから。
「……名前、貴方って人は」
瞬きしたあと呆れたように、でもやさしく八戒は微笑んで。
それじゃあと、部屋を出て行く姿を見送った。
◇
扉が開く音に、まぶたを開ける。
気がつけばすぐ近くに三蔵が立っていて、私は上半身を起こす。
黙っている三蔵に、私は微笑みかけて口を開く。
「詳しい事は八戒から聞きました。よかった、みんな無事で、」
「よかねぇよ」
「三蔵」
「……俺はまた、あの日のように」
悔しさを押し殺すように、拳が強く握られる。
うつむき顔にかかった金糸の髪により、その表情は見えない。
「俺は強かない……」
普段、決して周りに見せる事のない弱々しい姿。
私がした事は、ただの独りよがりの行動だったのかもしれない。
でも、後悔なんて何ひとつなかった。
光明様だって、きっとそう。
影が降ってきて、顔を上げたその瞬間。
覆いかぶさる三蔵の身体に、そのまま押し倒されていた。
「んっ……!三、蔵……!」
言葉もなく、強引に交わされた口づけ。
三蔵の胸板を押すように手を当てるも、唇を奪われ続けて止まらない。
息が乱れる中、少し唇が離れたかと思えばまたふさがれて、荒々しく何度も貪られる。
身体が、熱くなる。
「はぁ……っ、名前」
やっとの事で解放されて、まぶたを開ける。
激しく息をして悲痛な表情の三蔵に見下ろされた。
「俺を、独りにするな」
三蔵はもう独りじゃない。
でも、そういう事ではないとわかっている。
みんなの中で誰か一人欠けても、ダメなんだ。
いつもの三蔵じゃないと思うのは、この砂漠に来てから二回目で。
きっと、今回の責任は私にある。
「!」
私は三蔵の背中に腕をまわす。
自身の身体の上に乗せるよう、そっと引き寄せて抱きしめた。
「三蔵、不安にさせてごめんなさい」
「名前……」
「もう、大丈夫だから」
三蔵の後ろ髪と、大きくて硬い背中をゆっくりとなでる。
しばらくそうしていると、すがりつくように肩口に顔を埋められて、大きな吐息がかかった。
「落ち着きましたか?」
「……すまない」
そう言いつつも、ベッドの上でぎゅっと抱きしめられて、離れようとする気配はない。
体重をかけられて少し苦しいが、それも仕方ないと頬をゆるめる。
まるで幼い江流に戻ったかのような三蔵。
「三蔵、顔を上げてください」
ゆっくりと、肩口から金糸の髪が離れる。
押し倒した状態のまま、私の顔の横に腕をついて、虚げな紫暗の瞳は私を見下ろす。
「私は生きてます。ここまでずっと、みんなに守られ続けて。だから、今度は私が助けて守る番、だったんです。だって、私も三蔵一行だから」
ね?と笑いかける。
三蔵は少し黙ったあと、口の端をつり上げた。
「……ああ。でも、あんな助けられるような無様な真似は、二度としねぇよ」
「それでこそ、三蔵です」
「敵わねぇな……今も、昔も」
ふっと空気が和らぎ、もう大丈夫だと微笑む。
三蔵が私の上から退くと、ゆっくりと抱き起こされた。
それはそうと、ベッドに座ったまま私は眉をつり上げて、少し困惑する三蔵へ人差し指を立てる。
「でもダメですよ、三蔵。合意もなしにいきなり迫ったりしたら」
「……悪かった」
目をそらし、バツが悪そうにつぶやく三蔵。
ふと昔、同じような事をあの人にも言ったなと、心の隅で思い出す。
がやがやと、扉の外から何やら話し声が聞こえて視線を向ける。
「……アイツら」
額に手を当てて、うつむいた三蔵の額に浮かぶ青筋。
これはまた賑やかになりそうな予感。
立ち上がった三蔵が乱暴に扉を開けると、悟空と悟浄がなだれ込んできた。
うしろには、腕を組んだ笑顔の八戒。
「くそ〜、だから静かにしろって言っただろう!チビ猿!」
「猿ゆーな!ゴキブリ赤河童のせいだろ!?」
「オメー、いつの間にそんな言葉作ったんだよ!?」
うるせぇ……と、三蔵が肩を震わせる。
「じゃあこの触覚はなんだよ!この触覚はっ!」
「いててて!バカ!ひっぱんじゃねぇって!」
「しばらく部屋には近づかないよう、言ったんですけどねぇ」
「うるせえっつってんだろうが!このバカコンビ!」
いつもの喧騒を目の当たりにして、八戒とともに笑みをこぼす。
二人がおとなしくなったあと、控えめにこちらを見る悟空と目が合った。
「名前、もう大丈夫なんだよな?」
「うん、悟空。心配かけてごめんね。そういえば今度は金鈷、自分で解いたんだってね」
悟空は伏し目がちに目をそらして、静かに頷く。
ぎゅっと、自身の拳を握っていた。
「……紅孩児の奴、本気でさ。俺、このままじゃ倒せないって思って、それで、」
「おっと、名前ちゃん。お叱りなら飼い主からすでに済んでるぜ」
包帯だらけの悟浄が、軽い口調で口角を上げる。
みんなどこかしら怪我をして、悟空を止めるのに相当苦労したのが一目見てわかる。
私が腕を伸ばすと怒られると思ったのか、悟空はきゅっと目をつむる。
叱るつもりなんて、初めからない。
「ありがとう、守ってくれて。もちろん、みんなのおかげでもあるけど、悟空がいてくれて本当によかった」
茶色のふわふわの頭を、やさしくなでる。
金晴眼を丸くして瞬きしたあと、悟空はうつむいて頷く。
肩を震わせて、目元を腕で隠すようにこすっていた。
私は微笑んで、ぱたりとうしろのベッドへ倒れ込む。
「名前!?」
「平気です、八戒。ちょっとだけ、休みますね」
「添い寝してやろうか?名前ちゃん」
「死ぬか、クソ河童」
「永眠させちゃってください、三蔵」
「オイオイ、八戒までマジかよ……」
四人と一緒なら、何でも乗り越えられる。
だって、三蔵をかばった時、不思議と少しも怖くなかったから。
大切な人のためなら、こんなにも強くなれるのだと知った。