無印編
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観世音菩薩様の下で働く仕事の合間。
金蝉様の部屋で悟空と、時折天蓬様と捲簾様も顔を出して、笑い合う毎日。
そんな幸せな日々は、突然終わりを迎えた。
「謀反……金蝉様たちが、ですか」
観世音菩薩様の言葉を復唱して、まるで他人事のようにつぶやく。
きっかけは闘神、哪吒太子。
「奴らは斉天大聖として覚醒、暴走した悟空を庇い、今は竜王敖潤を人質に立てこもっている。目的は、下界への亡命だ」
それは、私のいない場所で起こった一連の出来事。
何も関係ない。
なんて、あの四人の顔を思い浮かべて言い切れる事など出来なかった。
袖を翻して、部屋を出て行こうとしたところ。
咎めるような声で名を呼ばれて、その足を止める。
「お前が行って何が出来る?お前の主は誰だ?紫苑」
観世音菩薩様に背を向けたまま、指先に力を入れて歯を噛みしめる。
「申し訳ありません。でも、何も出来なくとも、足手まといでも、後悔したくないんです。約束したから、彼ら四人と」
五人で、下界の桜を見るって。
ため息が聞こえて、そっと肩に置かれた手に振り返る。
「餞別だ。持って行け」
手渡されたのは、天界には似つかない小刀。
心許ないが、刀を手にした事のない私でも扱えるだろうとの事。
「ありがとうございます。観世音菩薩様、私、本当に」
「さっさと行け。じゃあ、またな」
「……はい、ではまた」
いつもと変わらぬ別れの挨拶。
でも、お互いわかっている。
これが、最後の言葉だって。
深く頭を下げて、無我夢中で金蝉様たちの元へ駆け出す。
だからその時、観世音菩薩様がどんな顔をしていたか、私にはわからなかった。
「まったく、バカ者が……」
◇
「皆様、こちらです!早く!」
戦場と化した、混乱と喧騒の中。
天界軍たちに追われている金蝉様たちを見つけて、部屋の扉を軽く閉める。
眉間のシワを強くする金蝉様に、強く詰め寄られた。
「紫苑!どうしてここに!?」
「私も謀反してきました」
「紫苑、貴方って人は……」
額を押さえる天蓬様と、心配そうな悟空に大丈夫だと笑いかける。
捲簾様の姿が見当たらない。
最悪の事態が頭をよぎるが、でも今は悟空たちをゲートまで送り届けるのが最優先事項。
「天帝城地下最下層。その廊下を曲がって直進すれば、次空ゲートの入口がある部屋です。ただ……」
「ただ?」
「僕らの目的が地下ゲートだって事は、あちらも承知ですからね。ゲートの部屋で待ち構えているのは必至でしょう」
「どうするんだ?」
「んー……そうですねぇ」
頭をかく天蓬様の笑みが私を貫いて、気がつく。
悩んでいる素振りをしているが、その心はとうに決まっているのだと。
「ここまでの道案内は済んだ事ですし。僕の仕事は、あと一つです。紫苑、さよならは言いません。また会いましょう」
「天蓬様!」
最後に一度だけ強く抱きしめられ、身体を突き離された。
刀を構えた天蓬様が部屋を飛び出す。
「出合え!謀反人がいたぞ、捕らえろ!いや……殺せ!」
天海軍の怒号と駆ける足音により、部屋の外は騒然となる。
囮となった、天蓬様。
「待て、どこへ行く。紫苑」
振り返ると、扉へ向かう私の腕を金蝉様がつかんでいた。
何年も、何年もずっと憧れていた。
太陽よりも、この世の何よりも、うつくしい人。
大好きな金蝉様の姿を見て微笑み、その手を振り払った。
「紫苑……!」
「金蝉様、悟空の事ちゃんと下界まで連れてってくださいね。じゃないと私、怒りますから」
「紫苑姉ちゃん!嫌だッ……!天ちゃんも!ケン兄もッ……!」
泣きじゃくり腰周りにすがりつく、悟空の小さな身体を抱きしめる。
私を花のようだ言ってくれた、太陽に咲くひまわりのような君。
その小さな手を、包み込むように握りしめた。
「約束したでしょう?天蓬様と一緒に、後から必ず向かいますから。だから、また、桜の樹の下で」
変わらぬ約束だと、小指と小指を絡ませる。
手を離し最後にまた微笑んで、私は大切な人を追って駆け出した。
◇
「おのれ、謀反人めがァ!」
「殺せ!殺せェ!」
天界軍の死体の山の奥。
血を流し、満身創痍の天蓬様へ刃を向ける男へ飛び込んだ。
天蓬様を守る。
そのためだったら、私は修羅にも羅刹にもなれた。
「……カ、ハッ」
「紫苑……なぜ、ここに」
心臓目がけて突き刺した小刀を、引き抜く。
天蓬様、と呼ぼうとした瞬間。
背中に走る感覚、焼けるような痛みと熱さに目を見開く。
血を吐いて、その場に力なく倒れた。
意識が朦朧として、だんだんと身体が冷えていく。
ぼやける視界の中、腹を引き裂かれた天蓬様が最後の一人を倒す姿が見えた。
「天蓬、様」
血に塗れた指先に、力を込める。
這いつくばりながらも、視界の先にいる倒れ伏せた天蓬様へにじり寄る。
「紫苑……お待たせ、しました」
「天蓬、様……私、憶えて、いますから。天蓬様の事……」
天蓬様。
いつも桜の下で独りうつむいてた私を見つけて、そばにいて、慰めてくれた人。
私が金蝉様の事を好きだと知っててもなお、抱きしめてくれた人。
私はバカだ。
気が付いた時には、もう遅い。
天蓬様の真っ赤に染まった手が、伸ばされる。
私もその手を取ろうと、必死に手を伸ばす。
「紫苑」
あと少し。
あと少しで、天蓬様に届く。
「天蓬様、私、貴方の事……」
崩れ落ちる瓦礫の音。
最期に見たのは、くしゃくしゃに泣きそうな天蓬様の笑顔。
お互い伸ばしたその指先が、ふれあう事はなかった。
金蝉様の部屋で悟空と、時折天蓬様と捲簾様も顔を出して、笑い合う毎日。
そんな幸せな日々は、突然終わりを迎えた。
「謀反……金蝉様たちが、ですか」
観世音菩薩様の言葉を復唱して、まるで他人事のようにつぶやく。
きっかけは闘神、哪吒太子。
「奴らは斉天大聖として覚醒、暴走した悟空を庇い、今は竜王敖潤を人質に立てこもっている。目的は、下界への亡命だ」
それは、私のいない場所で起こった一連の出来事。
何も関係ない。
なんて、あの四人の顔を思い浮かべて言い切れる事など出来なかった。
袖を翻して、部屋を出て行こうとしたところ。
咎めるような声で名を呼ばれて、その足を止める。
「お前が行って何が出来る?お前の主は誰だ?紫苑」
観世音菩薩様に背を向けたまま、指先に力を入れて歯を噛みしめる。
「申し訳ありません。でも、何も出来なくとも、足手まといでも、後悔したくないんです。約束したから、彼ら四人と」
五人で、下界の桜を見るって。
ため息が聞こえて、そっと肩に置かれた手に振り返る。
「餞別だ。持って行け」
手渡されたのは、天界には似つかない小刀。
心許ないが、刀を手にした事のない私でも扱えるだろうとの事。
「ありがとうございます。観世音菩薩様、私、本当に」
「さっさと行け。じゃあ、またな」
「……はい、ではまた」
いつもと変わらぬ別れの挨拶。
でも、お互いわかっている。
これが、最後の言葉だって。
深く頭を下げて、無我夢中で金蝉様たちの元へ駆け出す。
だからその時、観世音菩薩様がどんな顔をしていたか、私にはわからなかった。
「まったく、バカ者が……」
◇
「皆様、こちらです!早く!」
戦場と化した、混乱と喧騒の中。
天界軍たちに追われている金蝉様たちを見つけて、部屋の扉を軽く閉める。
眉間のシワを強くする金蝉様に、強く詰め寄られた。
「紫苑!どうしてここに!?」
「私も謀反してきました」
「紫苑、貴方って人は……」
額を押さえる天蓬様と、心配そうな悟空に大丈夫だと笑いかける。
捲簾様の姿が見当たらない。
最悪の事態が頭をよぎるが、でも今は悟空たちをゲートまで送り届けるのが最優先事項。
「天帝城地下最下層。その廊下を曲がって直進すれば、次空ゲートの入口がある部屋です。ただ……」
「ただ?」
「僕らの目的が地下ゲートだって事は、あちらも承知ですからね。ゲートの部屋で待ち構えているのは必至でしょう」
「どうするんだ?」
「んー……そうですねぇ」
頭をかく天蓬様の笑みが私を貫いて、気がつく。
悩んでいる素振りをしているが、その心はとうに決まっているのだと。
「ここまでの道案内は済んだ事ですし。僕の仕事は、あと一つです。紫苑、さよならは言いません。また会いましょう」
「天蓬様!」
最後に一度だけ強く抱きしめられ、身体を突き離された。
刀を構えた天蓬様が部屋を飛び出す。
「出合え!謀反人がいたぞ、捕らえろ!いや……殺せ!」
天海軍の怒号と駆ける足音により、部屋の外は騒然となる。
囮となった、天蓬様。
「待て、どこへ行く。紫苑」
振り返ると、扉へ向かう私の腕を金蝉様がつかんでいた。
何年も、何年もずっと憧れていた。
太陽よりも、この世の何よりも、うつくしい人。
大好きな金蝉様の姿を見て微笑み、その手を振り払った。
「紫苑……!」
「金蝉様、悟空の事ちゃんと下界まで連れてってくださいね。じゃないと私、怒りますから」
「紫苑姉ちゃん!嫌だッ……!天ちゃんも!ケン兄もッ……!」
泣きじゃくり腰周りにすがりつく、悟空の小さな身体を抱きしめる。
私を花のようだ言ってくれた、太陽に咲くひまわりのような君。
その小さな手を、包み込むように握りしめた。
「約束したでしょう?天蓬様と一緒に、後から必ず向かいますから。だから、また、桜の樹の下で」
変わらぬ約束だと、小指と小指を絡ませる。
手を離し最後にまた微笑んで、私は大切な人を追って駆け出した。
◇
「おのれ、謀反人めがァ!」
「殺せ!殺せェ!」
天界軍の死体の山の奥。
血を流し、満身創痍の天蓬様へ刃を向ける男へ飛び込んだ。
天蓬様を守る。
そのためだったら、私は修羅にも羅刹にもなれた。
「……カ、ハッ」
「紫苑……なぜ、ここに」
心臓目がけて突き刺した小刀を、引き抜く。
天蓬様、と呼ぼうとした瞬間。
背中に走る感覚、焼けるような痛みと熱さに目を見開く。
血を吐いて、その場に力なく倒れた。
意識が朦朧として、だんだんと身体が冷えていく。
ぼやける視界の中、腹を引き裂かれた天蓬様が最後の一人を倒す姿が見えた。
「天蓬、様」
血に塗れた指先に、力を込める。
這いつくばりながらも、視界の先にいる倒れ伏せた天蓬様へにじり寄る。
「紫苑……お待たせ、しました」
「天蓬、様……私、憶えて、いますから。天蓬様の事……」
天蓬様。
いつも桜の下で独りうつむいてた私を見つけて、そばにいて、慰めてくれた人。
私が金蝉様の事を好きだと知っててもなお、抱きしめてくれた人。
私はバカだ。
気が付いた時には、もう遅い。
天蓬様の真っ赤に染まった手が、伸ばされる。
私もその手を取ろうと、必死に手を伸ばす。
「紫苑」
あと少し。
あと少しで、天蓬様に届く。
「天蓬様、私、貴方の事……」
崩れ落ちる瓦礫の音。
最期に見たのは、くしゃくしゃに泣きそうな天蓬様の笑顔。
お互い伸ばしたその指先が、ふれあう事はなかった。