無印編
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霧の深い森の中に一人放り出され、あてもなく歩き続ける。
何も見えないまま、込み上げてくる不安と恐怖。
今にして思えば、こんな時いつも誰かがそばにいてくれた。
両手で、自身の頬を挟むように叩く。
私のばか、期待するな、人に頼るな。
ガサガサ、と音がした草木を警戒しながら振り向く。
「キュウキュウ!」
「ジープ!」
白い翼を広げて、飛び込んできたジープを思いっきり抱きしめる。
よかった、無事で。
「でも、悟空はどこに……」
「キュイ!」
ジープが私の服を口にくわえて、一方方向に引っ張る。
「こっちに悟空がいるのね?」
「キュウ!」
鳴いたジープに頷いて、茂みの中へと私は全力で走った。
しばらくすると、地面に座り込んでいる人影を見つける。
「悟空!大丈夫!?」
「名前!無事でよかった〜」
足を骨折したという悟空と再会して、木の枝で応急処置をする。
肩を組みながら、三蔵たちと合流するため森の中を歩く。
「名前、さんきゅな!足は折れるし、腹は減るしで最悪だったから、マジ助かった!」
「お礼ならジープに言ってあげてね」
「えらいぞ、ジープ!俺、どんなに腹減ってもお前だけは食わねぇぞ!」
「キュキュウ!」
草木をかき分けて進むと、清一色と対峙する三人の姿が見えてきた。
「悟空!名前!」
「遅ぇんだよ、オメーは」
「いってー!やめろって!」
「悟浄……悟空は足が折れてるので、あまり蹴らないでやってください」
「そーだぜ!腹も減ったし、もう最悪!」
ぎゅるるるとお腹を空かせる悟空に、皆は安心したように笑う。
ハリセンで容赦なく叩く三蔵は、心配の裏返しだ。
「名前さんは……何ともありませんか?」
「はい!でも、私よりみんなの方こそ」
「名前」
三蔵の声に振り向いて、首を傾げる。
いつにも増して眉間にシワを寄せた紫暗の瞳に、じっと見つめられた。
「生きてるな」
「?はい!」
「引きずりすぎよ、三蔵サマ」
「あーあ、見事に取れちゃいましたねぇ。ま、足よか幾分マシですけど」
不気味な声に、顔を向ける。
切り取られた自身の腕を手に、清一色は平然と笑っていた。
「こいつ、痛覚ってもんがねぇのか?」
「そうですね。貴方がたの生ぬるいおままごとを目の当たりにすると、痛みを通り越して虫酸が走りますよ」
「本性現しやがったな」
「なあ、三蔵。やっぱりあいつ、なんか変だ。だって生きてるにおいが全然しない」
悟空の言う通り、清一色に腕をつかまれた時、人肌の感触とは思えなかった。
清一色との攻防が続き、一瞬、姿が見えなくなる。
血の気のない腕が、再び私の胴体をつかんだ。
「名前!」
「てめぇ、その汚ねぇ手を離しやがれ……!」
そのまま、濃い霧が漂う森の中へ逃げ込まれる。
最悪の展開だ。
こんな風に足手まといになるのは、死んでも嫌だったのに。
「離してください!離して!」
「うるさい人ですねぇ。今度は本当に犯してやりましょうか?」
地面に突き飛ばされたかと思えば、乱暴に服を引き裂かれる。
小刀を取ろうにも、術で身体が動かない。
「楽しみですねぇ。一度ならず二度までも、百眼魔王一族に大事な女を凌辱された時の、猪悟能の壊れる姿が」
私はただ八戒を苦しめたいがために、行為を及ぼそうとする彼を見据える。
「何か、勘違いしてませんか?」
「ほお?勘違いとは?」
「犯したければ犯せばいい。こんな事で、八戒は苦しみません」
「ククッ……そうですかねぇ?先ほど貴方の人形を使ったところ、とても楽しいものが拝めましたよ?」
「生気のない貴方に犯されても、私は何も感じません」
失うものなど何もない。
心も体も、とっくにあの人のものだから。
「だから、八戒が貴方を憎む理由なんて何一つないんです」
銃声が轟く。
押し倒されたまま顔を向けると、にらみを利かせる三蔵と八戒がそこにいた。
残された肩を撃たれてもなお、清一色は笑っている。
「名前!」
「殺す。今すぐ名前を離せ」
「そうですねぇ……そこの金髪の貴方。貴方はどうやら、猪悟能の過去を全てご存知のようだ」
「それがどうした」
「ひどい話ですねぇ。名前さんには何も教えなかったのに。そんな彼女が可哀想でね、ワタシ教えてあげたんですよ。猪悟能の血塗られた過去を全て」
「……!」
八戒の険しい顔が、さらに苦渋に満ちる。
この男は、どこまで八戒を傷つければ気が済むのか。
私は眉をつり上げて、清一色を見上げた。
「いい加減にしてください……猪悟能、猪悟能って。過去がなんですか!私の知ってる大切な人はただ一人、猪八戒です!」
「名前さん……」
「よいお友達をお待ちですねぇ、猪悟能。実に失い甲斐があるでしょう」
「早く、その手を離してください。これ以上名前に何かしたら、僕が許しません」
「クククッ……そうですか。貴方がたが来る前に、事を済ませたかったのですが……では今度は、金髪の彼にしましょうか」
清一色の術により、突如、八戒の腕が三蔵の首をしめる。
三蔵が苦しそうな様子を見せるが、私は固唾を呑んで見守る。
悟浄と悟空が駆けつけた頃には、三蔵はすでに倒れていた。
ううん、三蔵は、八戒は大丈夫。
顔に影を落とす八戒の気功術が、清一色へと直撃した。
「正気だったんですか……?悟能の咄嗟の演出に一枚噛んだ、という訳ですか」
「残念ながら、僕の心は隙間を作っておくほど広くないんもんで……ま、見くびるんじゃねぇよ、ってカンジですね」
光を宿した手が、清一色の身体を貫く。
そこは八戒が以前、傷を負わせたという箇所。
「猪悟……能?」
「違いますよ、僕は猪八戒です」
引き抜かれた手の中の麻雀牌が砕かれ、清一色は砂となり消え散った。
その様子を見つめていると、肩に何かを被せられる。
見上げると、上着を脱いだ悟浄の姿。
そうだ、下着が見えるほどひどい格好をしているんだった。
「ありがとう、悟浄。一応言っておきますけど、何もされてませんからね」
「十分されてんだろ」
「服代、請求しとけばよかったですね」
へらりと笑えば、頭をくしゃくしゃと少し乱暴になでられた。
◇
「八戒、ちょっといいですか」
森を出て、一息ついていたところ。
三蔵たちには聞こえないよう、少し距離を取って話し始めた。
「ごめんなさい」
「え?」
「八戒の過去の事、本人以外の口から聞いてしまって」
「いいえ、名前さんが謝る事なんて何もないんですよ。先に、言っておけばよかったですね」
「そんな、」
「……少し、怖かったんです。貴方に軽蔑される事が」
「軽蔑なんて、するわけありません!」
そう言うと、八戒は力なく笑う。
八戒の気持ち、全部ではないが私にも少しはわかる。
最愛の人を失った、癒える事のない胸の傷を。
「八戒。私、三蔵の師匠である先代三蔵、光明様を愛してました」
「名前さん、何を……」
「襲われた妖怪から助けてくださって、身寄りのない私をそばに置いてくださって。でもある日、さよならも告げずに別れてしまったんです。私の方から」
八戒は静かに耳を傾けてくれて、私は言葉を続ける。
「次に会おうと思ったら、妖怪に殺されていて。もうすでに、還らぬ人となっていました。だから、光明様にはもう二度と会えないんです。もう、二度と」
「……」
「もしもあの時に戻れるなら、もう一度出会えたなら、誰よりも何よりも大好きでしたって……これからもずっと大好きですって、伝えたい」
三蔵にも打ち明ける事の出来なかった、胸の内を開く。
哀しむ碧緑の瞳に、私はにこりと笑いかけた。
「そんな大事な事をどうして僕に、」
「これで、おあいこです」
「名前さん……」
「そうだ!さっき一度だけ名前、って呼び捨てにしてくれましたよね?もしよかったら、これからも呼んでくれませんか?八戒にそう呼ばれると、うれしいので」
込み上げてくる涙を誤魔化すように、笑顔でまくし立てる。
瞬きする八戒だったが、眉尻を下げてやわらかく微笑んだ。
「……はい、わかりました。名前」
「何々、二人でコソコソ何話してんの?」
急に間に入ってきた悟空に目を丸くしたが、すぐさまハリセンが飛んでくる。
「このバカ猿が」
「あはは、大丈夫ですよ。僕ら似た者ですね、って話してたんです。ね、名前?」
「はい」
「あー、たしかに……って〜!なんでまたブツんだよ、三蔵!」
八戒と視線が交わって、お互い笑い合う。
大切な人を失った傷は、決して簡単には癒えないけれど。
彼らと一緒にいると感じるぬくもりが、たしかにそこにあった。
何も見えないまま、込み上げてくる不安と恐怖。
今にして思えば、こんな時いつも誰かがそばにいてくれた。
両手で、自身の頬を挟むように叩く。
私のばか、期待するな、人に頼るな。
ガサガサ、と音がした草木を警戒しながら振り向く。
「キュウキュウ!」
「ジープ!」
白い翼を広げて、飛び込んできたジープを思いっきり抱きしめる。
よかった、無事で。
「でも、悟空はどこに……」
「キュイ!」
ジープが私の服を口にくわえて、一方方向に引っ張る。
「こっちに悟空がいるのね?」
「キュウ!」
鳴いたジープに頷いて、茂みの中へと私は全力で走った。
しばらくすると、地面に座り込んでいる人影を見つける。
「悟空!大丈夫!?」
「名前!無事でよかった〜」
足を骨折したという悟空と再会して、木の枝で応急処置をする。
肩を組みながら、三蔵たちと合流するため森の中を歩く。
「名前、さんきゅな!足は折れるし、腹は減るしで最悪だったから、マジ助かった!」
「お礼ならジープに言ってあげてね」
「えらいぞ、ジープ!俺、どんなに腹減ってもお前だけは食わねぇぞ!」
「キュキュウ!」
草木をかき分けて進むと、清一色と対峙する三人の姿が見えてきた。
「悟空!名前!」
「遅ぇんだよ、オメーは」
「いってー!やめろって!」
「悟浄……悟空は足が折れてるので、あまり蹴らないでやってください」
「そーだぜ!腹も減ったし、もう最悪!」
ぎゅるるるとお腹を空かせる悟空に、皆は安心したように笑う。
ハリセンで容赦なく叩く三蔵は、心配の裏返しだ。
「名前さんは……何ともありませんか?」
「はい!でも、私よりみんなの方こそ」
「名前」
三蔵の声に振り向いて、首を傾げる。
いつにも増して眉間にシワを寄せた紫暗の瞳に、じっと見つめられた。
「生きてるな」
「?はい!」
「引きずりすぎよ、三蔵サマ」
「あーあ、見事に取れちゃいましたねぇ。ま、足よか幾分マシですけど」
不気味な声に、顔を向ける。
切り取られた自身の腕を手に、清一色は平然と笑っていた。
「こいつ、痛覚ってもんがねぇのか?」
「そうですね。貴方がたの生ぬるいおままごとを目の当たりにすると、痛みを通り越して虫酸が走りますよ」
「本性現しやがったな」
「なあ、三蔵。やっぱりあいつ、なんか変だ。だって生きてるにおいが全然しない」
悟空の言う通り、清一色に腕をつかまれた時、人肌の感触とは思えなかった。
清一色との攻防が続き、一瞬、姿が見えなくなる。
血の気のない腕が、再び私の胴体をつかんだ。
「名前!」
「てめぇ、その汚ねぇ手を離しやがれ……!」
そのまま、濃い霧が漂う森の中へ逃げ込まれる。
最悪の展開だ。
こんな風に足手まといになるのは、死んでも嫌だったのに。
「離してください!離して!」
「うるさい人ですねぇ。今度は本当に犯してやりましょうか?」
地面に突き飛ばされたかと思えば、乱暴に服を引き裂かれる。
小刀を取ろうにも、術で身体が動かない。
「楽しみですねぇ。一度ならず二度までも、百眼魔王一族に大事な女を凌辱された時の、猪悟能の壊れる姿が」
私はただ八戒を苦しめたいがために、行為を及ぼそうとする彼を見据える。
「何か、勘違いしてませんか?」
「ほお?勘違いとは?」
「犯したければ犯せばいい。こんな事で、八戒は苦しみません」
「ククッ……そうですかねぇ?先ほど貴方の人形を使ったところ、とても楽しいものが拝めましたよ?」
「生気のない貴方に犯されても、私は何も感じません」
失うものなど何もない。
心も体も、とっくにあの人のものだから。
「だから、八戒が貴方を憎む理由なんて何一つないんです」
銃声が轟く。
押し倒されたまま顔を向けると、にらみを利かせる三蔵と八戒がそこにいた。
残された肩を撃たれてもなお、清一色は笑っている。
「名前!」
「殺す。今すぐ名前を離せ」
「そうですねぇ……そこの金髪の貴方。貴方はどうやら、猪悟能の過去を全てご存知のようだ」
「それがどうした」
「ひどい話ですねぇ。名前さんには何も教えなかったのに。そんな彼女が可哀想でね、ワタシ教えてあげたんですよ。猪悟能の血塗られた過去を全て」
「……!」
八戒の険しい顔が、さらに苦渋に満ちる。
この男は、どこまで八戒を傷つければ気が済むのか。
私は眉をつり上げて、清一色を見上げた。
「いい加減にしてください……猪悟能、猪悟能って。過去がなんですか!私の知ってる大切な人はただ一人、猪八戒です!」
「名前さん……」
「よいお友達をお待ちですねぇ、猪悟能。実に失い甲斐があるでしょう」
「早く、その手を離してください。これ以上名前に何かしたら、僕が許しません」
「クククッ……そうですか。貴方がたが来る前に、事を済ませたかったのですが……では今度は、金髪の彼にしましょうか」
清一色の術により、突如、八戒の腕が三蔵の首をしめる。
三蔵が苦しそうな様子を見せるが、私は固唾を呑んで見守る。
悟浄と悟空が駆けつけた頃には、三蔵はすでに倒れていた。
ううん、三蔵は、八戒は大丈夫。
顔に影を落とす八戒の気功術が、清一色へと直撃した。
「正気だったんですか……?悟能の咄嗟の演出に一枚噛んだ、という訳ですか」
「残念ながら、僕の心は隙間を作っておくほど広くないんもんで……ま、見くびるんじゃねぇよ、ってカンジですね」
光を宿した手が、清一色の身体を貫く。
そこは八戒が以前、傷を負わせたという箇所。
「猪悟……能?」
「違いますよ、僕は猪八戒です」
引き抜かれた手の中の麻雀牌が砕かれ、清一色は砂となり消え散った。
その様子を見つめていると、肩に何かを被せられる。
見上げると、上着を脱いだ悟浄の姿。
そうだ、下着が見えるほどひどい格好をしているんだった。
「ありがとう、悟浄。一応言っておきますけど、何もされてませんからね」
「十分されてんだろ」
「服代、請求しとけばよかったですね」
へらりと笑えば、頭をくしゃくしゃと少し乱暴になでられた。
◇
「八戒、ちょっといいですか」
森を出て、一息ついていたところ。
三蔵たちには聞こえないよう、少し距離を取って話し始めた。
「ごめんなさい」
「え?」
「八戒の過去の事、本人以外の口から聞いてしまって」
「いいえ、名前さんが謝る事なんて何もないんですよ。先に、言っておけばよかったですね」
「そんな、」
「……少し、怖かったんです。貴方に軽蔑される事が」
「軽蔑なんて、するわけありません!」
そう言うと、八戒は力なく笑う。
八戒の気持ち、全部ではないが私にも少しはわかる。
最愛の人を失った、癒える事のない胸の傷を。
「八戒。私、三蔵の師匠である先代三蔵、光明様を愛してました」
「名前さん、何を……」
「襲われた妖怪から助けてくださって、身寄りのない私をそばに置いてくださって。でもある日、さよならも告げずに別れてしまったんです。私の方から」
八戒は静かに耳を傾けてくれて、私は言葉を続ける。
「次に会おうと思ったら、妖怪に殺されていて。もうすでに、還らぬ人となっていました。だから、光明様にはもう二度と会えないんです。もう、二度と」
「……」
「もしもあの時に戻れるなら、もう一度出会えたなら、誰よりも何よりも大好きでしたって……これからもずっと大好きですって、伝えたい」
三蔵にも打ち明ける事の出来なかった、胸の内を開く。
哀しむ碧緑の瞳に、私はにこりと笑いかけた。
「そんな大事な事をどうして僕に、」
「これで、おあいこです」
「名前さん……」
「そうだ!さっき一度だけ名前、って呼び捨てにしてくれましたよね?もしよかったら、これからも呼んでくれませんか?八戒にそう呼ばれると、うれしいので」
込み上げてくる涙を誤魔化すように、笑顔でまくし立てる。
瞬きする八戒だったが、眉尻を下げてやわらかく微笑んだ。
「……はい、わかりました。名前」
「何々、二人でコソコソ何話してんの?」
急に間に入ってきた悟空に目を丸くしたが、すぐさまハリセンが飛んでくる。
「このバカ猿が」
「あはは、大丈夫ですよ。僕ら似た者ですね、って話してたんです。ね、名前?」
「はい」
「あー、たしかに……って〜!なんでまたブツんだよ、三蔵!」
八戒と視線が交わって、お互い笑い合う。
大切な人を失った傷は、決して簡単には癒えないけれど。
彼らと一緒にいると感じるぬくもりが、たしかにそこにあった。