無印編
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がやがやと、大勢の人で賑わう活気のある町。
私は八戒と二人で買い出しに来ていたが、今は一人。
女の子にはいろいろと必要でしょうと気遣ってもらい、少しの間、別行動をしていた。
食欲のそそるいい匂いに誘われて、屋台に並ぶ肉まんを目にする。
これは宿にいる悟空たちへのお土産にしよう。
「肉まん、肉まん……」
ふと横から、ぐうぐうとお腹を空かせる音を耳にする。
帽子を被った女の子が一人、指をくわえて屋台を眺めていた。
「すみません、6つください」
「まいど!」
紙袋を受け取ると、隣にいる女の子にはい、と一つ手渡す。
「え?」
「間違えて多く買っちゃって、よかったら食べてくれるとうれしいんだけど」
「いいの!?わーい!ありがとう、お姉ちゃん!」
褐色の肌に猫目の女の子が、うれしそうに肉まんを頬張る。
悟空みたいに無邪気でかわいいな。
それにしても、どこか誰かに似てるような気がする。
そんな事を考えていたら、じーっと頭からつま先までまじまじと見つめられて、なんだろうと小首を傾げる。
「オイラ李厘!お姉ちゃん、お兄ちゃんのお嫁さんになってよっ!」
「……え?」
突拍子もない言葉に、目を丸くする。
「えっと、そのお兄さんにも選ぶ権利があるのでは……?」
「優しいお姉ちゃんなら大丈夫だって!オイラが保証する!そしたらお姉ちゃん、オイラの本当のお姉ちゃんだっ!」
ぴょんぴょんっと飛び跳ねて、腕に抱きつかれる。
お兄さん……どなたか存じ上げませんが、私がお嫁だなんて申し訳ない。
平穏な町に突然、地鳴りが響き渡った。
影とともに現れた、巨大な物体を見上げて唖然とする。
「な、何あれ。巨大な、蟹……?」
「わーい!カニだカニ〜」
蟹のような怪物が暴走して、次々と町を破壊していく。
「李厘ちゃん危ない!逃げて!」
「大丈夫!オイラにまかせて!」
呼び止める声も聞かずに飛び出して、迫りくる蟹を一発殴る。
その小さな身体で何倍もの巨大な怪物を、あっさりと倒してしまった。
パサリと、地面へ帽子が落ちる。
「名前!無事か!?」
「みんな!はい、私は大丈夫なんですが」
悟空たち四人も、この騒動に駆けつけて合流する。
私は驚きの声を上げる李厘へと、顔を向けた。
「あ!三蔵一行、みっ〜け!紅孩児お兄ちゃんの代わりに君たちをやっつけに来たよっ!さあ!どっからでもかかってこい!」
「どっからでも、って言われてもなぁ……」
陽気に意気込む李厘とは正反対に、四人はすっかり肩の力を落としている。
紅孩児お兄ちゃんって、まさか。
「李厘ちゃん、私たちを狙う刺客だったの?」
「うんっ!そうだよ!って、あれ?お姉ちゃん、もしかして……名前!?」
ぱちぱちと瞬きする李厘に、こくりと頷く。
「ん〜……まあちょうどいいや!オイラと一緒に吠登城に来て、そんでもってお兄ちゃんのお嫁さんになってよ!」
「何ィ〜!?」
大きな声を上げたのは、悟空だった。
悟浄はうしろ手を頭に置き、八戒は困ったように笑い、三蔵はいつもの仏頂面だ。
「名前は俺たちの仲間なの!渡すかよ!」
「いーやっ!オイラのお姉ちゃんになるの!」
「ならね〜!」
「なるの〜!」
片方の腕には李厘、もう片方の腕には悟空がくっついて二人の取り合いになる。
肉まんが入った紙袋は、地面に落ちる前に三蔵によりキャッチされた。
「いやー、名前さんモテモテですねぇ」
八戒、笑ってないで助けてください。
背後にまわった三蔵が、李厘の服の首根っこをつかんで軽々しく持ち上げた。
「死んでも渡すかよ」
「うわっ!降ろせ!タレ目!ハゲッ!」
「肉まん食うか?」
「食べるっ」
私はいまだ威嚇する悟空に、腕を握られながら笑う。
八戒からはさすが小動物の扱いには慣れてる、なんて言われていた。
「そこまでだ!我が妹を返してもらいに来た」
聞き覚えの声に振り向く。
高く積まれた瓦礫を見上げると、紅孩児一行がこちらを見下ろしていた。
「あのな、人を誘拐よばわりすんじゃねぇよ!こいつから来たんだ、こいつっから!」
「てめぇ、妹をどーゆー育て方してやがるんだ!?」
「これじゃあ女版悟空ですよ~」
「なんか……反感買ってるみたいですケド」
「……」
「返す言葉もねぇなあ、オイ」
八百鼡と、その横の男の人は初めて見る顔だ。
「やっほー、お兄ちゃんっ!お兄ちゃんのお嫁さんになる名前も、見つけておいてあげたよ〜!」
「やっほー、じゃないわ馬鹿者!それに俺は嫁など探していないッ!」
紅孩児は額に手を当てて、苦悶の表情をしている。
私が嫁とか、こちらの方こそすみません。
悟空が声を上げて紅孩児に向かったのをきっかけに、各々の戦闘が始まった。
「名前様」
「八百鼡ちゃん!」
「この間はありがとうございました。これからは紅孩児様のために生きて、お役に立とうと思います」
そう笑顔で語る八百鼡を見て、よかったと私も笑みを浮かべる。
「それからお友達の件も、ぜひ。上に差し出す事はしませんのでよろしれば一度、吠登城へいらしてください」
「それは出来ませんね。お友達なのは結構ですが」
腕を伸ばし、庇うように前へ出たのは八戒だった。
「猪八戒殿。先日はお見苦しいところをお見せいたしました。それでは、お手合わせお願いできますか?」
「はい、よろしくお願いします」
お互い丁寧に頭を下げて戦闘が始まり、私は行く末を見守る。
三蔵の隣へ行くと李厘がその肩に乗っていて、楽しそうに応援してた。
「三蔵と李厘ちゃん、すっかり仲良くなったね」
「まあねっ!」
「どこがだ」
突如、地響きが全身に伝わる。
先ほど李厘が倒したはずの巨大な蟹が、おどろおどろしく復活した。
一時休戦。
悟空たちと紅孩児たちは共闘して、敵に立ち向かう。
倒した頃には日が暮れて、あたりはすっかりと夕陽に染まっていた。
「今日のところは退かせてもらおう。とんだ邪魔が入ったしな。次こそ、経文と名前はもらい受ける」
「三蔵!名前お姉ちゃん!今日は楽しかったよー!また来るからねっ、一緒に遊ぼうね!」
「誰が遊ぶか、クソガキ」
「またね、李厘ちゃん」
それぞれ、別れの言葉を交わす。
あとから聞いた話、男性の妖怪の名は独角兕。
以前聞いた悟浄の兄だそうだが、お互い確執はなく晴れ晴れとした顔をしていた。
背を向ける紅孩児に、あの、と声をかける。
「一つ、聞きたい事があるんですけど」
「……何だ」
「私の何が、貴方たちに必要なんですか?血ですか、身体ですか、命ですか」
ずっと疑問に思っていた質問をぶつける。
振り返り鋭い視線を向ける紅孩児の顔を、じっと見据える。
「すべて、だ。俺はそう聞いている」
「そう、ですか。ありがとうございます」
素直に答えが返ってきた事に感謝して、頭を下げる。
「名前様、これ私が調合した傷薬です。よろしければどうぞ」
「わ、うれしい!ありがとうございます」
「みなさんも、お元気で」
敵同士であるけど、それだけじゃない不思議な関係。
お互い誇りをかけて、譲れないもののために戦っている。
こういうのを、好敵手っていうのかな。
「お元気で、って言われちゃったよ」
「ふふ。元気にしてないと、八百鼡ちゃんたちに怒られちゃいますね」
「やり辛い敵だぜ、ったく」
「奴らでさえ誰かの駒の一つだろうな。牛魔王の蘇生を目論み、この世界に混沌を呼んだどっかのバカは、紅孩児のうしろにいる。それが俺達が倒すべき真の敵だ」
八戒がしゃがみ込んで、何かを拾い上げる。
土人形、これがさっきの式神の正体だったようだ。
土が崩れて現れたのは、罪と書かれた麻雀牌。
「八戒!」
「大丈、夫……何でもありません」
膝をついて、咳き込んだ八戒の背中をさする。
何でもないわけないが、拒絶するように顔をそらされて。
私はそれ以上、何も言えなかった。
私は八戒と二人で買い出しに来ていたが、今は一人。
女の子にはいろいろと必要でしょうと気遣ってもらい、少しの間、別行動をしていた。
食欲のそそるいい匂いに誘われて、屋台に並ぶ肉まんを目にする。
これは宿にいる悟空たちへのお土産にしよう。
「肉まん、肉まん……」
ふと横から、ぐうぐうとお腹を空かせる音を耳にする。
帽子を被った女の子が一人、指をくわえて屋台を眺めていた。
「すみません、6つください」
「まいど!」
紙袋を受け取ると、隣にいる女の子にはい、と一つ手渡す。
「え?」
「間違えて多く買っちゃって、よかったら食べてくれるとうれしいんだけど」
「いいの!?わーい!ありがとう、お姉ちゃん!」
褐色の肌に猫目の女の子が、うれしそうに肉まんを頬張る。
悟空みたいに無邪気でかわいいな。
それにしても、どこか誰かに似てるような気がする。
そんな事を考えていたら、じーっと頭からつま先までまじまじと見つめられて、なんだろうと小首を傾げる。
「オイラ李厘!お姉ちゃん、お兄ちゃんのお嫁さんになってよっ!」
「……え?」
突拍子もない言葉に、目を丸くする。
「えっと、そのお兄さんにも選ぶ権利があるのでは……?」
「優しいお姉ちゃんなら大丈夫だって!オイラが保証する!そしたらお姉ちゃん、オイラの本当のお姉ちゃんだっ!」
ぴょんぴょんっと飛び跳ねて、腕に抱きつかれる。
お兄さん……どなたか存じ上げませんが、私がお嫁だなんて申し訳ない。
平穏な町に突然、地鳴りが響き渡った。
影とともに現れた、巨大な物体を見上げて唖然とする。
「な、何あれ。巨大な、蟹……?」
「わーい!カニだカニ〜」
蟹のような怪物が暴走して、次々と町を破壊していく。
「李厘ちゃん危ない!逃げて!」
「大丈夫!オイラにまかせて!」
呼び止める声も聞かずに飛び出して、迫りくる蟹を一発殴る。
その小さな身体で何倍もの巨大な怪物を、あっさりと倒してしまった。
パサリと、地面へ帽子が落ちる。
「名前!無事か!?」
「みんな!はい、私は大丈夫なんですが」
悟空たち四人も、この騒動に駆けつけて合流する。
私は驚きの声を上げる李厘へと、顔を向けた。
「あ!三蔵一行、みっ〜け!紅孩児お兄ちゃんの代わりに君たちをやっつけに来たよっ!さあ!どっからでもかかってこい!」
「どっからでも、って言われてもなぁ……」
陽気に意気込む李厘とは正反対に、四人はすっかり肩の力を落としている。
紅孩児お兄ちゃんって、まさか。
「李厘ちゃん、私たちを狙う刺客だったの?」
「うんっ!そうだよ!って、あれ?お姉ちゃん、もしかして……名前!?」
ぱちぱちと瞬きする李厘に、こくりと頷く。
「ん〜……まあちょうどいいや!オイラと一緒に吠登城に来て、そんでもってお兄ちゃんのお嫁さんになってよ!」
「何ィ〜!?」
大きな声を上げたのは、悟空だった。
悟浄はうしろ手を頭に置き、八戒は困ったように笑い、三蔵はいつもの仏頂面だ。
「名前は俺たちの仲間なの!渡すかよ!」
「いーやっ!オイラのお姉ちゃんになるの!」
「ならね〜!」
「なるの〜!」
片方の腕には李厘、もう片方の腕には悟空がくっついて二人の取り合いになる。
肉まんが入った紙袋は、地面に落ちる前に三蔵によりキャッチされた。
「いやー、名前さんモテモテですねぇ」
八戒、笑ってないで助けてください。
背後にまわった三蔵が、李厘の服の首根っこをつかんで軽々しく持ち上げた。
「死んでも渡すかよ」
「うわっ!降ろせ!タレ目!ハゲッ!」
「肉まん食うか?」
「食べるっ」
私はいまだ威嚇する悟空に、腕を握られながら笑う。
八戒からはさすが小動物の扱いには慣れてる、なんて言われていた。
「そこまでだ!我が妹を返してもらいに来た」
聞き覚えの声に振り向く。
高く積まれた瓦礫を見上げると、紅孩児一行がこちらを見下ろしていた。
「あのな、人を誘拐よばわりすんじゃねぇよ!こいつから来たんだ、こいつっから!」
「てめぇ、妹をどーゆー育て方してやがるんだ!?」
「これじゃあ女版悟空ですよ~」
「なんか……反感買ってるみたいですケド」
「……」
「返す言葉もねぇなあ、オイ」
八百鼡と、その横の男の人は初めて見る顔だ。
「やっほー、お兄ちゃんっ!お兄ちゃんのお嫁さんになる名前も、見つけておいてあげたよ〜!」
「やっほー、じゃないわ馬鹿者!それに俺は嫁など探していないッ!」
紅孩児は額に手を当てて、苦悶の表情をしている。
私が嫁とか、こちらの方こそすみません。
悟空が声を上げて紅孩児に向かったのをきっかけに、各々の戦闘が始まった。
「名前様」
「八百鼡ちゃん!」
「この間はありがとうございました。これからは紅孩児様のために生きて、お役に立とうと思います」
そう笑顔で語る八百鼡を見て、よかったと私も笑みを浮かべる。
「それからお友達の件も、ぜひ。上に差し出す事はしませんのでよろしれば一度、吠登城へいらしてください」
「それは出来ませんね。お友達なのは結構ですが」
腕を伸ばし、庇うように前へ出たのは八戒だった。
「猪八戒殿。先日はお見苦しいところをお見せいたしました。それでは、お手合わせお願いできますか?」
「はい、よろしくお願いします」
お互い丁寧に頭を下げて戦闘が始まり、私は行く末を見守る。
三蔵の隣へ行くと李厘がその肩に乗っていて、楽しそうに応援してた。
「三蔵と李厘ちゃん、すっかり仲良くなったね」
「まあねっ!」
「どこがだ」
突如、地響きが全身に伝わる。
先ほど李厘が倒したはずの巨大な蟹が、おどろおどろしく復活した。
一時休戦。
悟空たちと紅孩児たちは共闘して、敵に立ち向かう。
倒した頃には日が暮れて、あたりはすっかりと夕陽に染まっていた。
「今日のところは退かせてもらおう。とんだ邪魔が入ったしな。次こそ、経文と名前はもらい受ける」
「三蔵!名前お姉ちゃん!今日は楽しかったよー!また来るからねっ、一緒に遊ぼうね!」
「誰が遊ぶか、クソガキ」
「またね、李厘ちゃん」
それぞれ、別れの言葉を交わす。
あとから聞いた話、男性の妖怪の名は独角兕。
以前聞いた悟浄の兄だそうだが、お互い確執はなく晴れ晴れとした顔をしていた。
背を向ける紅孩児に、あの、と声をかける。
「一つ、聞きたい事があるんですけど」
「……何だ」
「私の何が、貴方たちに必要なんですか?血ですか、身体ですか、命ですか」
ずっと疑問に思っていた質問をぶつける。
振り返り鋭い視線を向ける紅孩児の顔を、じっと見据える。
「すべて、だ。俺はそう聞いている」
「そう、ですか。ありがとうございます」
素直に答えが返ってきた事に感謝して、頭を下げる。
「名前様、これ私が調合した傷薬です。よろしければどうぞ」
「わ、うれしい!ありがとうございます」
「みなさんも、お元気で」
敵同士であるけど、それだけじゃない不思議な関係。
お互い誇りをかけて、譲れないもののために戦っている。
こういうのを、好敵手っていうのかな。
「お元気で、って言われちゃったよ」
「ふふ。元気にしてないと、八百鼡ちゃんたちに怒られちゃいますね」
「やり辛い敵だぜ、ったく」
「奴らでさえ誰かの駒の一つだろうな。牛魔王の蘇生を目論み、この世界に混沌を呼んだどっかのバカは、紅孩児のうしろにいる。それが俺達が倒すべき真の敵だ」
八戒がしゃがみ込んで、何かを拾い上げる。
土人形、これがさっきの式神の正体だったようだ。
土が崩れて現れたのは、罪と書かれた麻雀牌。
「八戒!」
「大丈、夫……何でもありません」
膝をついて、咳き込んだ八戒の背中をさする。
何でもないわけないが、拒絶するように顔をそらされて。
私はそれ以上、何も言えなかった。