無印編
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雨が、降り止んだ。
「お、目が覚めたか。名前ちゃん」
「悟浄」
まぶたを開けると天井が見えて、宿屋のベッドの上にいた。
すぐ横のイスに座る悟浄へ、顔を向ける。
「三蔵は、」
「大丈夫、名前ちゃんのおかげでぐっすり眠ってる。八戒もさっきまでここにいたんだが、今は向こうの部屋。ちなみに、悟空もすっかり元通り。ま、多少凹んでるみたいだけどな」
「そう、ですか……」
身体を起こして立ち上がろうとしたところ、悟浄の腕に支えられる。
頭が、クラクラする。
「バカ、そんなすぐ動くなって。観音様が言ってたろ?大量の血を送り込んだって」
「でも、三蔵の様子を……」
「三蔵ならもう大丈夫ですよ。先ほど意識を取り戻しましたから」
「八戒」
部屋に入ってきた八戒の言葉に安堵する。
私を支える悟浄にそっと身体を倒されて、ベッドへ寝かされる。
「あの生臭坊主のシケた面拝むのは、名前ちゃんが元気になってからだ」
「そうです。そんな身体で部屋を出たら僕、怒りますからね?」
「はい……」
いつもやさしい八戒に、厳しい顔を向けられてしまった。
三蔵に比べたら、私なんてたいした事ないのに。
そう思いつつも、二人の気遣いにおとなしく頷いて横になる。
二人が部屋を出て行くと、小さくノックする音が聞こえた。
「名前、入っていい……?」
「悟空?いいよ」
しゅんと、身体を縮こませて悟空はイスに座る。
いつものような元気はないが、無理もない。
あの三蔵が、倒れたんだ。
「……俺、暴走してた間は覚えてねぇんだ。三蔵の腹から血がドクドク出てくるの見てたら、目の前が急に真っ白になってさ。んで、その間に名前が倒れたって聞いて、俺、怖くなったんだ。俺が、怪我させたんじゃないかって」
悟空が、自身の手のひらを見つめる。
「八戒たちから違うって聞いたけど、でも……でもさ、もしかしたらひどい怪我、させてたかも知れねぇじゃん。俺、名前の事守るって約束したのに……」
「大丈夫だよ、悟空」
私は上半身を起こして、腕を伸ばす。
再び金鈷の付けられた頭を、よしよしとなでた。
「ありがとう、悟空。約束も守ろうとしてくれて。でも、見て?私はこの通りピンピンしてるから」
両手を広げて大げさに振ると、悟空は少しだけ笑う。
「ねえ、悟空。もしもの事を考えるより、今出来る事を考えてみない?悟空は戦えて、強くて、周りを明るくしてくれて。みんなにとって必要な人なんだから」
「……三蔵にも?」
「もちろん。むしろ一番必要としてるかも」
今までの旅路。
表には出さないけど、間近に見てきたからわかる。
お互い、大切な存在なんだって。
「それは、ちょっと違うかも……」
「悟空?」
「だって、三蔵。名前の事、大好きじゃん?」
「……そう、見える?」
「見える!」
はっきり断言されて、私は頬をゆるめて笑う。
きっと同じくらい、悟空の事も大好きだよ。
「さんきゅな、名前。俺、強くなる」
「うん」
「八戒が調理場借りて何か作ってんだ!様子見てくる!」
「ふふ、いってらっしゃい。転ばないようにね」
手を振って扉が閉まり、静寂に包まれる。
目を閉じて、雨の中、憎悪の瞳をした彼を思い出す。
朱泱様。
三蔵が言っていた通り、十数年も札の呪いに取り憑かれたその身を救うには、おそらくもう。
◇
「タレ目のお兄さん、出て行くならそっちの窓からどうぞ。これでも俺、監視役なんで」
「悟浄」
「……おっと、見つかっちまったな」
しばらくして部屋を出ると、扉の前に腰を下ろす悟浄がいた。
三蔵、やっぱり傷を抱えてでも朱泱様の元へ行くつもりだ。
私は扉へ額をついて目を閉じ、呼びかける。
「三蔵、朱泱様を……朱泱様を呪縛から、解放してあげてください」
「……任せろ」
その場に立ち尽くしたまま、窓を開けて出て行く音を耳にする。
一人で行かせて、本当によかったのだろうか。
ポンッと、立ち上がった悟浄の手が、私の頭にやさしく乗せられた。
「安心しな。俺が三蔵の後をこっそり追いかけてやるから。なんせアイツに何かあったらうるさいのが、もう二人もいるからな。ったく、モテモテでうらやましいぜ」
「悟浄……お願いします」
「おう。名前ちゃんは、笑って待っていな」
宿を出て、森の中へ駆けていく悟浄の背を見送る。
私は胸の前で両手を組んで、まぶたを閉じた。
「朱泱様、さようなら」
どうか、安らかに。
◇
朱泱様との決着をつけた三蔵が戻って来て、五人でジープに乗る。
「しっかし、三蔵サマと名前ちゃんのチューを、まじまじと見せつけられる日が来るとはなぁ」
町を出て道中、風に吹かれながらつぶやかれた言葉。
間髪入れずに、ハリセンの音が大きく鳴り響いた。
悟浄の発言に改めて思い出して、顔を赤くする。
仕方がないとはいえ、意識のない三蔵に悪い事したな。
「ごめんね?三蔵」
「……べつに、いい」
「むしろ役得だよなぁ?このままチェリー卒業か?」
「てめぇ、よほど死にてぇみたいだな」
「悟浄、名前さんへのセクハラは僕も怒りますよ」
「え、何?どういう事?」
あの時、気を失っていた悟空はひとり首を傾げる。
う、そんな純真な目で見ないでください。
「三蔵サマ、チビ猿へと性教育はどうなってんだよ」
「知るか聞くな」
「なんか知んねーけど、バカにすんなエロ河童!」
「んだと、ろくに女も知らねぇアホ猿が!」
「何言ってんだ、知ってるぜ!名前は女だろ!?」
なあ!と悟空に見つめられて、戸惑いながらも頷く。
こんな時、何と返したらよいのやら。
助手席にいる三蔵も、額に手を当ててため息を吐いていた。
「そうじゃなくて、夜のベッドの上での話だっつーの!」
「あはは、そのへんにしておいてくださいね。悟浄」
盛大に力のこもったハリセンの音が、二発。
皆の喧騒を耳に、私は空を見上げる。
雨は晴れて、どこまで青い空が広がっていた。
「お、目が覚めたか。名前ちゃん」
「悟浄」
まぶたを開けると天井が見えて、宿屋のベッドの上にいた。
すぐ横のイスに座る悟浄へ、顔を向ける。
「三蔵は、」
「大丈夫、名前ちゃんのおかげでぐっすり眠ってる。八戒もさっきまでここにいたんだが、今は向こうの部屋。ちなみに、悟空もすっかり元通り。ま、多少凹んでるみたいだけどな」
「そう、ですか……」
身体を起こして立ち上がろうとしたところ、悟浄の腕に支えられる。
頭が、クラクラする。
「バカ、そんなすぐ動くなって。観音様が言ってたろ?大量の血を送り込んだって」
「でも、三蔵の様子を……」
「三蔵ならもう大丈夫ですよ。先ほど意識を取り戻しましたから」
「八戒」
部屋に入ってきた八戒の言葉に安堵する。
私を支える悟浄にそっと身体を倒されて、ベッドへ寝かされる。
「あの生臭坊主のシケた面拝むのは、名前ちゃんが元気になってからだ」
「そうです。そんな身体で部屋を出たら僕、怒りますからね?」
「はい……」
いつもやさしい八戒に、厳しい顔を向けられてしまった。
三蔵に比べたら、私なんてたいした事ないのに。
そう思いつつも、二人の気遣いにおとなしく頷いて横になる。
二人が部屋を出て行くと、小さくノックする音が聞こえた。
「名前、入っていい……?」
「悟空?いいよ」
しゅんと、身体を縮こませて悟空はイスに座る。
いつものような元気はないが、無理もない。
あの三蔵が、倒れたんだ。
「……俺、暴走してた間は覚えてねぇんだ。三蔵の腹から血がドクドク出てくるの見てたら、目の前が急に真っ白になってさ。んで、その間に名前が倒れたって聞いて、俺、怖くなったんだ。俺が、怪我させたんじゃないかって」
悟空が、自身の手のひらを見つめる。
「八戒たちから違うって聞いたけど、でも……でもさ、もしかしたらひどい怪我、させてたかも知れねぇじゃん。俺、名前の事守るって約束したのに……」
「大丈夫だよ、悟空」
私は上半身を起こして、腕を伸ばす。
再び金鈷の付けられた頭を、よしよしとなでた。
「ありがとう、悟空。約束も守ろうとしてくれて。でも、見て?私はこの通りピンピンしてるから」
両手を広げて大げさに振ると、悟空は少しだけ笑う。
「ねえ、悟空。もしもの事を考えるより、今出来る事を考えてみない?悟空は戦えて、強くて、周りを明るくしてくれて。みんなにとって必要な人なんだから」
「……三蔵にも?」
「もちろん。むしろ一番必要としてるかも」
今までの旅路。
表には出さないけど、間近に見てきたからわかる。
お互い、大切な存在なんだって。
「それは、ちょっと違うかも……」
「悟空?」
「だって、三蔵。名前の事、大好きじゃん?」
「……そう、見える?」
「見える!」
はっきり断言されて、私は頬をゆるめて笑う。
きっと同じくらい、悟空の事も大好きだよ。
「さんきゅな、名前。俺、強くなる」
「うん」
「八戒が調理場借りて何か作ってんだ!様子見てくる!」
「ふふ、いってらっしゃい。転ばないようにね」
手を振って扉が閉まり、静寂に包まれる。
目を閉じて、雨の中、憎悪の瞳をした彼を思い出す。
朱泱様。
三蔵が言っていた通り、十数年も札の呪いに取り憑かれたその身を救うには、おそらくもう。
◇
「タレ目のお兄さん、出て行くならそっちの窓からどうぞ。これでも俺、監視役なんで」
「悟浄」
「……おっと、見つかっちまったな」
しばらくして部屋を出ると、扉の前に腰を下ろす悟浄がいた。
三蔵、やっぱり傷を抱えてでも朱泱様の元へ行くつもりだ。
私は扉へ額をついて目を閉じ、呼びかける。
「三蔵、朱泱様を……朱泱様を呪縛から、解放してあげてください」
「……任せろ」
その場に立ち尽くしたまま、窓を開けて出て行く音を耳にする。
一人で行かせて、本当によかったのだろうか。
ポンッと、立ち上がった悟浄の手が、私の頭にやさしく乗せられた。
「安心しな。俺が三蔵の後をこっそり追いかけてやるから。なんせアイツに何かあったらうるさいのが、もう二人もいるからな。ったく、モテモテでうらやましいぜ」
「悟浄……お願いします」
「おう。名前ちゃんは、笑って待っていな」
宿を出て、森の中へ駆けていく悟浄の背を見送る。
私は胸の前で両手を組んで、まぶたを閉じた。
「朱泱様、さようなら」
どうか、安らかに。
◇
朱泱様との決着をつけた三蔵が戻って来て、五人でジープに乗る。
「しっかし、三蔵サマと名前ちゃんのチューを、まじまじと見せつけられる日が来るとはなぁ」
町を出て道中、風に吹かれながらつぶやかれた言葉。
間髪入れずに、ハリセンの音が大きく鳴り響いた。
悟浄の発言に改めて思い出して、顔を赤くする。
仕方がないとはいえ、意識のない三蔵に悪い事したな。
「ごめんね?三蔵」
「……べつに、いい」
「むしろ役得だよなぁ?このままチェリー卒業か?」
「てめぇ、よほど死にてぇみたいだな」
「悟浄、名前さんへのセクハラは僕も怒りますよ」
「え、何?どういう事?」
あの時、気を失っていた悟空はひとり首を傾げる。
う、そんな純真な目で見ないでください。
「三蔵サマ、チビ猿へと性教育はどうなってんだよ」
「知るか聞くな」
「なんか知んねーけど、バカにすんなエロ河童!」
「んだと、ろくに女も知らねぇアホ猿が!」
「何言ってんだ、知ってるぜ!名前は女だろ!?」
なあ!と悟空に見つめられて、戸惑いながらも頷く。
こんな時、何と返したらよいのやら。
助手席にいる三蔵も、額に手を当ててため息を吐いていた。
「そうじゃなくて、夜のベッドの上での話だっつーの!」
「あはは、そのへんにしておいてくださいね。悟浄」
盛大に力のこもったハリセンの音が、二発。
皆の喧騒を耳に、私は空を見上げる。
雨は晴れて、どこまで青い空が広がっていた。