無印編
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ジープの後部座席から、曇天の空を見上げる。
宿に着くまで一雨きそうだと話す中、悟空が神妙な面持ちで周りを見渡す。
「どうした、悟空?」
「いや、なんかさっきから変なニオイがする」
八戒が急ブレーキをかけて止まり、私はジープから降りる。
そこに広がっていたのは、異様な光景。
肌は焼けただれ、泡を吹いた妖怪たちの亡骸が、無数に折り重なっている。
身体中には皆、大量の札が貼り付けられていた。
自分たちと同じように、妖怪に襲われて仕方なく反撃したものなのか。
目を閉じて、そっと両手を合わせる。
「行くぞ、名前」
「うん……」
三蔵の声に振り返る。
胸の引っかかりを感じながらも、その場を後にした。
◇
「やっぱりあと一歩間に合いませんでしたね」
「あ、光った光った!」
「近いなこりゃ」
部屋の中、タオルを手に髪から雨粒を拭き取る。
予想通り、宿に駆け込む前に皆ずぶ濡れになってしまった。
「ああ、それはきっと六道様だわ」
宿屋のお姉さんに道中の事を話すと、そう笑顔で答えられた。
救世主と呼ばれ、その姿は身体中に札を貼った大男、各地を転々として妖怪たちを呪符の力で退治する法力僧だそう。
「びぇっくしッ!」
「悟空、ちゃんと拭かないと」
「わっ」
悟空の頭にタオルを乗せて、濡れた髪をポンポンッとなでる。
「いいって、名前!自分でやるから!」
「もうすぐおわるから、おとなしく」
「う〜……」
渋々ながらも、されるがままの悟空がかわいかった。
「名前ちゃん、三蔵サマがうらやましそうに見てるぞ?」
「見てねぇ。殺すぞ、クソ河童」
今夜は大部屋が取れたので、五人で寝泊まりする。
降りしきる雨音の中、皆が寝静まり、かすかに聞こえたうめき声にまぶたを開ける。
「三蔵、」
「僕、水持ってきますね」
「お願いします、八戒」
どうやら、八戒も起きていたらしい。
うなされていた三蔵が目覚めて、私は顔の寝汗をタオルでそっと拭う。
「名前……すまない、八戒も」
「いいえ、実は僕も駄目なんです。雨の夜は」
「そうだったな」
旅の途中、何となく感じていた。
二人とも雨の日は、何かに苛まれるように眠れずにいたって。
私も、雨は嫌いだ。
夜空に輝く、月の光が届かないから。
「きゃあああ!」
大きな悲鳴に悟空たちも飛び起きて、皆で声がした調理場に行く。
妖怪の姿を目にしたかと思えば、どこからか札が飛んでくる。
「我が名は六道、この世の妖怪は一匹残らず俺が滅する」
「ありがとうございます!六道様!」
六道、と呼ばれた男には見覚えがあった。
まとう雰囲気は記憶とは遥かに違うけれど、あの人はたしかに。
金山寺の師範代であった、朱泱様。
「おい、貴様ら人間か?」
「また随分と不躾な質問ですね」
「俺の目はごまかせんぞ、貴様ら三人とも妖怪だな」
悟空、悟浄、八戒の元へ敵意のある視線が向かう。
容赦なく襲いかかる彼を止めようとしたところ、肩に手を置かれて立ち止まる。
「朱泱、何してんだあんた」
三蔵が前に出て、錫杖を素手で受け止めた。
「朱泱様、おやめください。彼らは妖怪でも、敵ではありません」
「お前たちは……」
三蔵と私の姿を見た朱泱様は目を見開き、顔を歪めて笑い出した。
「江流、いや玄奘三蔵。先代三蔵を殺めたのがそいつらの同族だという事を、忘れたはずはあるまい!名前も!先代三蔵を慕っていたお前こそ、妖怪が憎くて仕方のないはずだ!」
三蔵にも私にも平等にやさしかった朱泱様の口から、そんな言葉が出てくるなんて。
身も心も変わり果てたその姿を、眉をひそめて見つめる。
「朱泱様、」
「朱泱は死んだんだよ。玄奘三蔵、お前が寺を去った十年前のあの日から!」
朱泱様から聞かされる。
金山寺を襲った妖怪たちにより強大な力を得るため、呪符で自ら呪いかけたと。
そして、呪いに蝕まれて今まで何の罪もない妖怪たちを殺してきた事を。
ここでは周りに被害が及ぶため、屋外に移動する。
朱泱様と悟空たち三人が戦闘が始まり、私と三蔵はそれを見守る。
雨で足場が悪く、呪符により迂闊に近づく事も出来ない。
「名前、心配するだけ無駄だ。俺が手を貸さなかろうが、奴らは死なねぇ」
「三蔵……」
しかし、いつまでたっても煮え切らない悟空たち。
舌打ちが聞こえて、三蔵は朱泱様へ銃口を向けていた。
「おい、下手な義理立てはやめろ。奴を呪符から解放する術はたったひとつだ」
「だめだ!今はあんなだけどあいつ、三蔵の、名前の仲間だったんだろ!?」
「悟空……」
「マジでやめろ!」
「悟空、後ろ!」
時が、止まったようだった。
悟空をかばった三蔵の身体を、錫杖が貫く。
「三、蔵……」
手を伸ばしても、届かない。
血を流して力なく倒れる姿が、脳裏に焼き付いて。
絶えず降りしきる雨の音が、嫌なほど大きく耳を打った。
「三蔵!三蔵!」
「動かしちゃダメです、悟空!」
ひどく呼吸を乱して、その場で震える悟空の様子がおかしい。
叫び声を上げたあと、何が割れる音。
頭の金鈷が砕けて、地面へと落ちた。
「二人とも離れて!」
八戒の言葉とともに、目を見張る。
尖った耳に鋭い爪、凍つくような目つき。
いつもの、無邪気な笑顔で笑う悟空の姿はそこになかった。
「あれが悟空の、妖力制御装置の封印から解き放たれた生来の姿。斎天大聖孫悟空」
「ははッ、それが貴様の真の姿か!やはり化け物は貴様らの様だな!」
凶暴化した悟空は、何度も、何度も朱泱様を容赦なく殴り続ける。
ピクリと三蔵の手が動いたのを見て、私は降りしきる雨の中、膝をつく。
早く、止血しないと。
「八戒!」
「ええ、気功で傷口を塞ぎます。急所は外してるだけまだマシかも。悟浄!悟空を止めてください」
「ああ、だけど……」
どうすればいいのか。
悟空を止める方法は、三蔵にしかわからない。
八戒に治療される三蔵の頭を膝の上に乗せて、冷たいその手を握る。
肩を噛みちぎられた朱泱様はこの場から逃げ出したが、いまだ暴走する悟空。
悟浄が自身の右腕を咬ませて食い止めるも、収まる様子はない。
「悟空!やめて!」
呼ぶ声も、今の悟空には届かない。
くやしい。
私はどうする事も出来ず、ただ見ている事しか出来ないなんて。
「そのまま抑えておけ」
聞き覚えのある声に、顔を上げる。
妖力制御装置が再びはめられて、元の姿に戻った悟空は眠りについた。
光とともに、この場に現れたのは。
「ったく、だらしないねぇ」
「観世音菩薩様!」
「よォ」
八戒と悟浄は、目を丸くして観世音菩薩様を見る。
「観音様ァ?コレが?」
「おい貴様、口を慎め!この御方こそ天界を司る五大菩薩が一人、慈愛と慈悲の象徴、観世音菩薩様にあらせられるぞ!」
「自愛と淫猥の象徴ってカンジなんですけど……」
うしろに控えている長い髭の男性は、二郎神というらしい。
「観世音菩薩様、三蔵が……」
「そうだった、問題はこいつだな。かなりこっぴどくやられたようだ」
「傷口は塞いだんですけど出血量がかなり多くて、こればっかりは」
「まかせろ、この俺に不可能はない。おい、紫苑。いや、今は名前だったな」
なぜか手招きされて、耳元へ唇が寄せられる。
聞かされたその内容に、驚いて観音様を見上げた。
「それで本当に、三蔵が助かるなら」
「助かるさ。なんせこの俺が言うんだからな」
口の端をつり上げる観世音菩薩様に、こくりと頷く。
建物の壁に三蔵の背中を預けて、身体を、顔を寄せる。
金糸の髪の下、鼻筋の通った顔に伏せられた長いまつ毛、薄い唇。
鼻をかすめる煙草のにおい。
「名前ちゃん、何を……」
「まあ、黙って見ておけ」
「!?」
三蔵の唇に自身の唇を、重ね合わせた。
ふいに腕をつかまれて、手の平を強く握られる感触。
だがそれも、一瞬の事。
「三蔵、意識が!」
「いや、今のは無意識だろう。まったく、可愛い奴だよ。もし俺がしたら、即行で振り放ってただろうに。ま、とにかくこれで輸血の必要はなくなったから」
「よかっ、た……」
「名前さん!」
唇を離して立ち上がろうとしたところ、ふらりと傾く。
地面に倒れる前に、八戒に抱き止められた。
「無理すんなって言ったろ。貧血起こすぞ。今、名前の身体から大量の血気を、こいつに送り込んだからな」
「そんな事を……」
「先に言えよ、そういう事は。名前ちゃんだけじゃなく……」
「文句の多い奴らだな。そうだ、礼なら身体で払ってくれよ。俺は善意や道徳心で手を貸したんじゃないぜ」
「観音様」
八戒の腕の中で、この場から去ろうとする観世音菩薩様の名を呼ぶ。
「いつも、看てくださってたんですね」
「ああ。看てやるさ、これから先もずっとな」
フッと笑う観世音菩薩様に、私も笑いかける。
じゃあなと手を振り、二郎神とともに姿を消した。
宿に着くまで一雨きそうだと話す中、悟空が神妙な面持ちで周りを見渡す。
「どうした、悟空?」
「いや、なんかさっきから変なニオイがする」
八戒が急ブレーキをかけて止まり、私はジープから降りる。
そこに広がっていたのは、異様な光景。
肌は焼けただれ、泡を吹いた妖怪たちの亡骸が、無数に折り重なっている。
身体中には皆、大量の札が貼り付けられていた。
自分たちと同じように、妖怪に襲われて仕方なく反撃したものなのか。
目を閉じて、そっと両手を合わせる。
「行くぞ、名前」
「うん……」
三蔵の声に振り返る。
胸の引っかかりを感じながらも、その場を後にした。
◇
「やっぱりあと一歩間に合いませんでしたね」
「あ、光った光った!」
「近いなこりゃ」
部屋の中、タオルを手に髪から雨粒を拭き取る。
予想通り、宿に駆け込む前に皆ずぶ濡れになってしまった。
「ああ、それはきっと六道様だわ」
宿屋のお姉さんに道中の事を話すと、そう笑顔で答えられた。
救世主と呼ばれ、その姿は身体中に札を貼った大男、各地を転々として妖怪たちを呪符の力で退治する法力僧だそう。
「びぇっくしッ!」
「悟空、ちゃんと拭かないと」
「わっ」
悟空の頭にタオルを乗せて、濡れた髪をポンポンッとなでる。
「いいって、名前!自分でやるから!」
「もうすぐおわるから、おとなしく」
「う〜……」
渋々ながらも、されるがままの悟空がかわいかった。
「名前ちゃん、三蔵サマがうらやましそうに見てるぞ?」
「見てねぇ。殺すぞ、クソ河童」
今夜は大部屋が取れたので、五人で寝泊まりする。
降りしきる雨音の中、皆が寝静まり、かすかに聞こえたうめき声にまぶたを開ける。
「三蔵、」
「僕、水持ってきますね」
「お願いします、八戒」
どうやら、八戒も起きていたらしい。
うなされていた三蔵が目覚めて、私は顔の寝汗をタオルでそっと拭う。
「名前……すまない、八戒も」
「いいえ、実は僕も駄目なんです。雨の夜は」
「そうだったな」
旅の途中、何となく感じていた。
二人とも雨の日は、何かに苛まれるように眠れずにいたって。
私も、雨は嫌いだ。
夜空に輝く、月の光が届かないから。
「きゃあああ!」
大きな悲鳴に悟空たちも飛び起きて、皆で声がした調理場に行く。
妖怪の姿を目にしたかと思えば、どこからか札が飛んでくる。
「我が名は六道、この世の妖怪は一匹残らず俺が滅する」
「ありがとうございます!六道様!」
六道、と呼ばれた男には見覚えがあった。
まとう雰囲気は記憶とは遥かに違うけれど、あの人はたしかに。
金山寺の師範代であった、朱泱様。
「おい、貴様ら人間か?」
「また随分と不躾な質問ですね」
「俺の目はごまかせんぞ、貴様ら三人とも妖怪だな」
悟空、悟浄、八戒の元へ敵意のある視線が向かう。
容赦なく襲いかかる彼を止めようとしたところ、肩に手を置かれて立ち止まる。
「朱泱、何してんだあんた」
三蔵が前に出て、錫杖を素手で受け止めた。
「朱泱様、おやめください。彼らは妖怪でも、敵ではありません」
「お前たちは……」
三蔵と私の姿を見た朱泱様は目を見開き、顔を歪めて笑い出した。
「江流、いや玄奘三蔵。先代三蔵を殺めたのがそいつらの同族だという事を、忘れたはずはあるまい!名前も!先代三蔵を慕っていたお前こそ、妖怪が憎くて仕方のないはずだ!」
三蔵にも私にも平等にやさしかった朱泱様の口から、そんな言葉が出てくるなんて。
身も心も変わり果てたその姿を、眉をひそめて見つめる。
「朱泱様、」
「朱泱は死んだんだよ。玄奘三蔵、お前が寺を去った十年前のあの日から!」
朱泱様から聞かされる。
金山寺を襲った妖怪たちにより強大な力を得るため、呪符で自ら呪いかけたと。
そして、呪いに蝕まれて今まで何の罪もない妖怪たちを殺してきた事を。
ここでは周りに被害が及ぶため、屋外に移動する。
朱泱様と悟空たち三人が戦闘が始まり、私と三蔵はそれを見守る。
雨で足場が悪く、呪符により迂闊に近づく事も出来ない。
「名前、心配するだけ無駄だ。俺が手を貸さなかろうが、奴らは死なねぇ」
「三蔵……」
しかし、いつまでたっても煮え切らない悟空たち。
舌打ちが聞こえて、三蔵は朱泱様へ銃口を向けていた。
「おい、下手な義理立てはやめろ。奴を呪符から解放する術はたったひとつだ」
「だめだ!今はあんなだけどあいつ、三蔵の、名前の仲間だったんだろ!?」
「悟空……」
「マジでやめろ!」
「悟空、後ろ!」
時が、止まったようだった。
悟空をかばった三蔵の身体を、錫杖が貫く。
「三、蔵……」
手を伸ばしても、届かない。
血を流して力なく倒れる姿が、脳裏に焼き付いて。
絶えず降りしきる雨の音が、嫌なほど大きく耳を打った。
「三蔵!三蔵!」
「動かしちゃダメです、悟空!」
ひどく呼吸を乱して、その場で震える悟空の様子がおかしい。
叫び声を上げたあと、何が割れる音。
頭の金鈷が砕けて、地面へと落ちた。
「二人とも離れて!」
八戒の言葉とともに、目を見張る。
尖った耳に鋭い爪、凍つくような目つき。
いつもの、無邪気な笑顔で笑う悟空の姿はそこになかった。
「あれが悟空の、妖力制御装置の封印から解き放たれた生来の姿。斎天大聖孫悟空」
「ははッ、それが貴様の真の姿か!やはり化け物は貴様らの様だな!」
凶暴化した悟空は、何度も、何度も朱泱様を容赦なく殴り続ける。
ピクリと三蔵の手が動いたのを見て、私は降りしきる雨の中、膝をつく。
早く、止血しないと。
「八戒!」
「ええ、気功で傷口を塞ぎます。急所は外してるだけまだマシかも。悟浄!悟空を止めてください」
「ああ、だけど……」
どうすればいいのか。
悟空を止める方法は、三蔵にしかわからない。
八戒に治療される三蔵の頭を膝の上に乗せて、冷たいその手を握る。
肩を噛みちぎられた朱泱様はこの場から逃げ出したが、いまだ暴走する悟空。
悟浄が自身の右腕を咬ませて食い止めるも、収まる様子はない。
「悟空!やめて!」
呼ぶ声も、今の悟空には届かない。
くやしい。
私はどうする事も出来ず、ただ見ている事しか出来ないなんて。
「そのまま抑えておけ」
聞き覚えのある声に、顔を上げる。
妖力制御装置が再びはめられて、元の姿に戻った悟空は眠りについた。
光とともに、この場に現れたのは。
「ったく、だらしないねぇ」
「観世音菩薩様!」
「よォ」
八戒と悟浄は、目を丸くして観世音菩薩様を見る。
「観音様ァ?コレが?」
「おい貴様、口を慎め!この御方こそ天界を司る五大菩薩が一人、慈愛と慈悲の象徴、観世音菩薩様にあらせられるぞ!」
「自愛と淫猥の象徴ってカンジなんですけど……」
うしろに控えている長い髭の男性は、二郎神というらしい。
「観世音菩薩様、三蔵が……」
「そうだった、問題はこいつだな。かなりこっぴどくやられたようだ」
「傷口は塞いだんですけど出血量がかなり多くて、こればっかりは」
「まかせろ、この俺に不可能はない。おい、紫苑。いや、今は名前だったな」
なぜか手招きされて、耳元へ唇が寄せられる。
聞かされたその内容に、驚いて観音様を見上げた。
「それで本当に、三蔵が助かるなら」
「助かるさ。なんせこの俺が言うんだからな」
口の端をつり上げる観世音菩薩様に、こくりと頷く。
建物の壁に三蔵の背中を預けて、身体を、顔を寄せる。
金糸の髪の下、鼻筋の通った顔に伏せられた長いまつ毛、薄い唇。
鼻をかすめる煙草のにおい。
「名前ちゃん、何を……」
「まあ、黙って見ておけ」
「!?」
三蔵の唇に自身の唇を、重ね合わせた。
ふいに腕をつかまれて、手の平を強く握られる感触。
だがそれも、一瞬の事。
「三蔵、意識が!」
「いや、今のは無意識だろう。まったく、可愛い奴だよ。もし俺がしたら、即行で振り放ってただろうに。ま、とにかくこれで輸血の必要はなくなったから」
「よかっ、た……」
「名前さん!」
唇を離して立ち上がろうとしたところ、ふらりと傾く。
地面に倒れる前に、八戒に抱き止められた。
「無理すんなって言ったろ。貧血起こすぞ。今、名前の身体から大量の血気を、こいつに送り込んだからな」
「そんな事を……」
「先に言えよ、そういう事は。名前ちゃんだけじゃなく……」
「文句の多い奴らだな。そうだ、礼なら身体で払ってくれよ。俺は善意や道徳心で手を貸したんじゃないぜ」
「観音様」
八戒の腕の中で、この場から去ろうとする観世音菩薩様の名を呼ぶ。
「いつも、看てくださってたんですね」
「ああ。看てやるさ、これから先もずっとな」
フッと笑う観世音菩薩様に、私も笑いかける。
じゃあなと手を振り、二郎神とともに姿を消した。