無印編
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道中、後部座席の二人がケンカするのはいつもの事。
今日は取っ組み合いにまで発展して、二人の間に座る私は頭を引っ込める。
相変わらず仲がいいなぁなんて、呑気に考えていたところ。
「降りてやれ!降りて!」
「今日もまた賑やかですねぇ」
「あ、悟空!あぶな、」
揺れる車内でジープが傾き、波飛沫を立てて川に落ちた。
「大丈夫ですか?名前さん」
「は、はい」
「キュウ」
浅瀬で助かった。
八戒から差し出された手につかまり、立ち上がる。
ジープは変身を解いて、難を逃れたようだ。
原因である悟空と悟浄は、三蔵により頭を冷やせと沈められていた。
「名前さん、これを。変な気起こすといけないので、特に悟浄が」
八戒が肩布を解いて、私の肩の上へ覆うようにかけられる。
自身を見下ろすと、濡れた衣服が下着が浮き出るほど身体にぴったりと張り付いていた。
これはお見苦しいものを、と顔を赤くして布を持った両手を強く握る。
そんな中、女性のやわらかな笑い声が聞こえた。
「あ!ごめんなさい、あんまりに楽しそうだったから、つい……」
川辺に洗濯に来た彼女、旬麗の誘いによりお家へお邪魔する事となった。
五人分の着替えを貸してもらい、一人別の部屋へと移る。
すぐに用意できる男物の服の多さに、少し驚いた。
「旬麗さんすみません、ありがとうございます」
「まあ!お似合いですよ!サイズの合う服があってよかった」
私は旬麗さんのロングワンピースを、三蔵たち四人もそれぞれカジュアルな男物の服へと着替えた。
そういえば、三蔵の私服姿なんて見るのは初めてだ。
髪を結った姿も、なんだか新鮮で。
「な〜に、名前ちゃん。そんなにじっと三蔵の事見つめちゃって。妬けるぜ」
「ち、違います!」
「名前、」
「……悟空?」
無意識に三蔵を見ていた私だけど、今度は顔を寄せる悟空にじーっと見つめられる。
瞬きしていると、ニッと笑顔を向けられた。
「なんつーか、めっちゃカワイイじゃん!」
「悟空……!」
「あらら、先に天然クソ猿に取られちゃうんじゃねーの。三蔵サマ」
「うるせぇ」
隣の家に住むという半おばさんが、鍋を持ってやって来てご馳走になる。
しばらくこの村にいるといいと言われたが、先を急いでいる旨を伝える。
「それにしても、アタシはアンタ達に感謝してるのさ」
「感謝?」
「あぁ、なんせ旬麗の笑顔なんて久しぶりに見れたからね」
外で洗濯物を干している旬麗を窓から見ながら、半おばさんは語る。
旬麗には、妖怪の恋人がいた。
しかし一年前、突如訪れた異変により自我を失う前に、旬麗を振り切って姿を消した。
四人が着ている服は、その恋人のためにいつもきれいに洗濯している大切な服だと。
「その大事な服をあんた達に貸したのも、笑ったお詫びじゃなくて笑顔を与えてくれたお礼なんだろうよ。アタシ達はね、茲燕が生きていることを願うばかりだよ……」
「ジエン…!?その男、ジエンってのか!?」
その名前を聞いて、あきらかに動揺する悟浄。
知り合いかと尋ねられるが、曖昧に言葉を濁して席を立つ。
一体、どうしたのだろう。
「なあ、八戒。悟浄の奴、何か隠してないか?俺、そういうの好きじゃないぜ。俺、なんにもヒミツとかないのに……」
「まあ、悟浄に口止めされてるわけでもないですしね」
本人以外の口から、聞いてもいい話なのだろうか。
そうと思いながらも、気になり耳を傾ける。
「その人の名前は沙爾燕。悟浄が八歳の時から行方不明のままの命の恩人、そしてお兄さんだそうです。いわゆる腹違いの」
「つまり、その爾燕って男は純血の妖怪ってことか」
「ええ、爾燕は本妻のお子さんだそうですが、悟浄が本妻に殺されかけたところを救ってくれたとか」
そして、八戒の話から私は初めて知った。
人間と妖怪の混血児は真紅の髪と瞳を持ち、この桃源郷では禁忌の子として忌み嫌われている事を。
いつも明るく、軽快に振る舞う悟浄。
私が考えるよりもずっと、つらい思いをして過ごしてきたんだ。
◇
「すみません、名前さん。洗濯物畳むの手伝ってもらっちゃって」
「いいえ、むしろこちらがお世話になってる身ですから。それに、こんなにたくさんあったら旬麗さんも大変でしょう?」
「そんな事ないですよ、私……洗濯大好きなので」
夕刻。
旬麗の部屋で一緒に床に座り、私たち五人の山盛りの洗濯物を畳む。
「そういえば、名前さんはあの四人の中のどなたかと恋人なんですか?」
「……え?」
突然の質問に、ぱちぱちと瞬きする。
「見た感じ、金髪の三蔵さんと仲良さそうでしたけど。雰囲気は八戒さんとお似合いでしたよね。それとも、あの悟浄さん?意外に悟空さんだったり?」
「え、えっと」
「あら、顔真っ赤。ふふ、まだ恋の途中といった感じかしら?」
四人の誰かと恋仲に見られるなんて、思ってもみなかった。
みんなはきっと、私にそんな感情は抱いていないだろうし。
それに、とやさしく淡い光を思い出す。
私には、光明様しかいない。
夜空の月を思い浮かべて、同時に黒い影がちらついた。
「旬麗さんは、」
言いかけて、口を閉じる。
そうだ、旬麗は今もずっと恋人の彼を待ち続けている。
「四人に大切な服、貸してくださって本当にありがとうございました」
「いいんですよ。あんなに笑ったの、久しぶりだったから」
そう言って微笑む旬麗だが、やはりその顔にはどこか影があった。
◇
翌朝。
目が覚めた時には、旬麗の姿はなかった。
恋人と思わしき妖怪がいると聞いて、西の森へ一人で向かったらしい。
三蔵たちとともに旬麗を探すが、深い森の中、足取りがつかめずにいる。
手分けしようと二手に分かれて、私は悟浄、八戒の後へ続いて行った。
昨日から、悟浄の様子がいつもと違うのがどうも気になった。
「旬麗さん!」
みんなで呼びかけるが、返事はない。
無事でいるといいのだけれど。
ふと、その場に立ち尽くしている悟浄の背中に声をかける。
「悟浄?大丈夫、……っ!」
伸ばしたその手を、勢いよく振り払われた。
一瞬、振り向いた真紅の瞳が、ひどく怯えたように見えて。
拒絶した悟浄の方が、私よりも驚いているようだった。
「……悪ィ、ぼーっとしてて。本当に」
「悟浄……」
「俺の事は放っておいてくれ、他人事なんだからよ」
「他人事じゃありません」
目を丸くする悟浄に、ぐっと詰め寄り眉を上げて見上げる。
「そうですよ、悟浄。そんな言い方すると怒りますよ。僕も、悟空も」
私は再び悟浄の手を取り、引き連れるように歩き出す。
今度は、振り払われる事はなかった。
「名前……」
「今はとにかく、一緒に旬麗さんを見つけ出しましょう」
突如、森の中に響き渡る悲鳴に、三人で走り出す。
三蔵、悟空とも合流して、妖怪に囲まれる旬麗を発見した。
「茲燕、じゃ、ない……」
銀髪の妖怪の言葉に倒れそうになる旬麗を、腕を伸ばして支える。
悟空と悟浄のクロスカウンターが決まったが、二人とも足が痺れて倒れていた。
目の前の妖怪たちが紅孩児の刺客じゃないとわかると、皆で撤収する。
「あの赤毛の男……俺、昔に聞いたことあるぜ。人間と妖怪の間にできた禁忌の子供は、深紅の瞳と髪を持って生まれるってな」
「なんだ、じゃあアイツ出来損ないじゃねぇかッ」
挑発する妖怪たちの言葉に、私は眉をひそめてうしろを振り返る。
「それが、なんですか」
「てめぇに言ってんじゃねーよ、女。ヘヘッ、アソコの毛も赤いのかよ?ええ?見せてみろよ、出来損ない」
それ以上は許さないと、三蔵たちもにらみを利かせて妖怪の前に立ちはだかる。
みんな、かなり怒ってる。
そんな中、聞こえたのは悟浄のおかしそうな笑い声。
「ったく、変な奴らだよ。お前ら……名前ちゃんも、ありがとな」
くしゃくしゃと、髪をかき混ぜるようになでられた。
「何そんなに興味あんの? アソコの毛の色。ま、確かめられんのは、イイ女だけだけどな」
襲いかかる妖怪たちを撃退して、私たちは村へ戻った。
「本当にもう行くのかい?旬麗が目覚めるまでは……」
半おばさんの言葉に首を横に振り、ジープに乗る。
またいつ、刺客の妖怪たちが襲ってくるかわからない。
「いろいろと、お世話になりました」
「なあ、おばさん。俺たちは西に向かってる。この世界を元に戻すための旅だ。だから、茲燕は必ずアンタのところに戻ってくる。そう、旬麗に伝えてくれ」
「……ああ、わかったよ」
悟浄は清々しい顔をして、私たち五人は村を発った。
「何?名前ちゃん、俺の顔そんなにじっと見て。惚れちまった?」
「ええ。さっきの悟浄、かっこよかったですよ」
ジープの後部座席で隣に座る悟浄にそう言うと、エンジン音の中、なぜか沈黙が流れる。
そして、スパーンッと軽快な音が鳴り響いた。
「ッて〜!本当、三蔵サマにはもったいないくらいのイイ女だわ。名前ちゃん」
「殺すぞ、クサレ河童」
「……ま、惚れたのは俺の方ってか」
「ん?今なんて?なあ悟浄、誰が誰に惚れたんだ?」
「オメーには百年早ェ話よ、チビ猿」
「誰がチビ猿だ!このエロ河童!」
「そんなに騒ぐとまたジープが傾きますよ」
いつものやり取りに、静かにしろと三蔵のハリセンが再び飛びかかる。
私は悟浄のような、きれいな夕日を眺めながら笑った。
今日は取っ組み合いにまで発展して、二人の間に座る私は頭を引っ込める。
相変わらず仲がいいなぁなんて、呑気に考えていたところ。
「降りてやれ!降りて!」
「今日もまた賑やかですねぇ」
「あ、悟空!あぶな、」
揺れる車内でジープが傾き、波飛沫を立てて川に落ちた。
「大丈夫ですか?名前さん」
「は、はい」
「キュウ」
浅瀬で助かった。
八戒から差し出された手につかまり、立ち上がる。
ジープは変身を解いて、難を逃れたようだ。
原因である悟空と悟浄は、三蔵により頭を冷やせと沈められていた。
「名前さん、これを。変な気起こすといけないので、特に悟浄が」
八戒が肩布を解いて、私の肩の上へ覆うようにかけられる。
自身を見下ろすと、濡れた衣服が下着が浮き出るほど身体にぴったりと張り付いていた。
これはお見苦しいものを、と顔を赤くして布を持った両手を強く握る。
そんな中、女性のやわらかな笑い声が聞こえた。
「あ!ごめんなさい、あんまりに楽しそうだったから、つい……」
川辺に洗濯に来た彼女、旬麗の誘いによりお家へお邪魔する事となった。
五人分の着替えを貸してもらい、一人別の部屋へと移る。
すぐに用意できる男物の服の多さに、少し驚いた。
「旬麗さんすみません、ありがとうございます」
「まあ!お似合いですよ!サイズの合う服があってよかった」
私は旬麗さんのロングワンピースを、三蔵たち四人もそれぞれカジュアルな男物の服へと着替えた。
そういえば、三蔵の私服姿なんて見るのは初めてだ。
髪を結った姿も、なんだか新鮮で。
「な〜に、名前ちゃん。そんなにじっと三蔵の事見つめちゃって。妬けるぜ」
「ち、違います!」
「名前、」
「……悟空?」
無意識に三蔵を見ていた私だけど、今度は顔を寄せる悟空にじーっと見つめられる。
瞬きしていると、ニッと笑顔を向けられた。
「なんつーか、めっちゃカワイイじゃん!」
「悟空……!」
「あらら、先に天然クソ猿に取られちゃうんじゃねーの。三蔵サマ」
「うるせぇ」
隣の家に住むという半おばさんが、鍋を持ってやって来てご馳走になる。
しばらくこの村にいるといいと言われたが、先を急いでいる旨を伝える。
「それにしても、アタシはアンタ達に感謝してるのさ」
「感謝?」
「あぁ、なんせ旬麗の笑顔なんて久しぶりに見れたからね」
外で洗濯物を干している旬麗を窓から見ながら、半おばさんは語る。
旬麗には、妖怪の恋人がいた。
しかし一年前、突如訪れた異変により自我を失う前に、旬麗を振り切って姿を消した。
四人が着ている服は、その恋人のためにいつもきれいに洗濯している大切な服だと。
「その大事な服をあんた達に貸したのも、笑ったお詫びじゃなくて笑顔を与えてくれたお礼なんだろうよ。アタシ達はね、茲燕が生きていることを願うばかりだよ……」
「ジエン…!?その男、ジエンってのか!?」
その名前を聞いて、あきらかに動揺する悟浄。
知り合いかと尋ねられるが、曖昧に言葉を濁して席を立つ。
一体、どうしたのだろう。
「なあ、八戒。悟浄の奴、何か隠してないか?俺、そういうの好きじゃないぜ。俺、なんにもヒミツとかないのに……」
「まあ、悟浄に口止めされてるわけでもないですしね」
本人以外の口から、聞いてもいい話なのだろうか。
そうと思いながらも、気になり耳を傾ける。
「その人の名前は沙爾燕。悟浄が八歳の時から行方不明のままの命の恩人、そしてお兄さんだそうです。いわゆる腹違いの」
「つまり、その爾燕って男は純血の妖怪ってことか」
「ええ、爾燕は本妻のお子さんだそうですが、悟浄が本妻に殺されかけたところを救ってくれたとか」
そして、八戒の話から私は初めて知った。
人間と妖怪の混血児は真紅の髪と瞳を持ち、この桃源郷では禁忌の子として忌み嫌われている事を。
いつも明るく、軽快に振る舞う悟浄。
私が考えるよりもずっと、つらい思いをして過ごしてきたんだ。
◇
「すみません、名前さん。洗濯物畳むの手伝ってもらっちゃって」
「いいえ、むしろこちらがお世話になってる身ですから。それに、こんなにたくさんあったら旬麗さんも大変でしょう?」
「そんな事ないですよ、私……洗濯大好きなので」
夕刻。
旬麗の部屋で一緒に床に座り、私たち五人の山盛りの洗濯物を畳む。
「そういえば、名前さんはあの四人の中のどなたかと恋人なんですか?」
「……え?」
突然の質問に、ぱちぱちと瞬きする。
「見た感じ、金髪の三蔵さんと仲良さそうでしたけど。雰囲気は八戒さんとお似合いでしたよね。それとも、あの悟浄さん?意外に悟空さんだったり?」
「え、えっと」
「あら、顔真っ赤。ふふ、まだ恋の途中といった感じかしら?」
四人の誰かと恋仲に見られるなんて、思ってもみなかった。
みんなはきっと、私にそんな感情は抱いていないだろうし。
それに、とやさしく淡い光を思い出す。
私には、光明様しかいない。
夜空の月を思い浮かべて、同時に黒い影がちらついた。
「旬麗さんは、」
言いかけて、口を閉じる。
そうだ、旬麗は今もずっと恋人の彼を待ち続けている。
「四人に大切な服、貸してくださって本当にありがとうございました」
「いいんですよ。あんなに笑ったの、久しぶりだったから」
そう言って微笑む旬麗だが、やはりその顔にはどこか影があった。
◇
翌朝。
目が覚めた時には、旬麗の姿はなかった。
恋人と思わしき妖怪がいると聞いて、西の森へ一人で向かったらしい。
三蔵たちとともに旬麗を探すが、深い森の中、足取りがつかめずにいる。
手分けしようと二手に分かれて、私は悟浄、八戒の後へ続いて行った。
昨日から、悟浄の様子がいつもと違うのがどうも気になった。
「旬麗さん!」
みんなで呼びかけるが、返事はない。
無事でいるといいのだけれど。
ふと、その場に立ち尽くしている悟浄の背中に声をかける。
「悟浄?大丈夫、……っ!」
伸ばしたその手を、勢いよく振り払われた。
一瞬、振り向いた真紅の瞳が、ひどく怯えたように見えて。
拒絶した悟浄の方が、私よりも驚いているようだった。
「……悪ィ、ぼーっとしてて。本当に」
「悟浄……」
「俺の事は放っておいてくれ、他人事なんだからよ」
「他人事じゃありません」
目を丸くする悟浄に、ぐっと詰め寄り眉を上げて見上げる。
「そうですよ、悟浄。そんな言い方すると怒りますよ。僕も、悟空も」
私は再び悟浄の手を取り、引き連れるように歩き出す。
今度は、振り払われる事はなかった。
「名前……」
「今はとにかく、一緒に旬麗さんを見つけ出しましょう」
突如、森の中に響き渡る悲鳴に、三人で走り出す。
三蔵、悟空とも合流して、妖怪に囲まれる旬麗を発見した。
「茲燕、じゃ、ない……」
銀髪の妖怪の言葉に倒れそうになる旬麗を、腕を伸ばして支える。
悟空と悟浄のクロスカウンターが決まったが、二人とも足が痺れて倒れていた。
目の前の妖怪たちが紅孩児の刺客じゃないとわかると、皆で撤収する。
「あの赤毛の男……俺、昔に聞いたことあるぜ。人間と妖怪の間にできた禁忌の子供は、深紅の瞳と髪を持って生まれるってな」
「なんだ、じゃあアイツ出来損ないじゃねぇかッ」
挑発する妖怪たちの言葉に、私は眉をひそめてうしろを振り返る。
「それが、なんですか」
「てめぇに言ってんじゃねーよ、女。ヘヘッ、アソコの毛も赤いのかよ?ええ?見せてみろよ、出来損ない」
それ以上は許さないと、三蔵たちもにらみを利かせて妖怪の前に立ちはだかる。
みんな、かなり怒ってる。
そんな中、聞こえたのは悟浄のおかしそうな笑い声。
「ったく、変な奴らだよ。お前ら……名前ちゃんも、ありがとな」
くしゃくしゃと、髪をかき混ぜるようになでられた。
「何そんなに興味あんの? アソコの毛の色。ま、確かめられんのは、イイ女だけだけどな」
襲いかかる妖怪たちを撃退して、私たちは村へ戻った。
「本当にもう行くのかい?旬麗が目覚めるまでは……」
半おばさんの言葉に首を横に振り、ジープに乗る。
またいつ、刺客の妖怪たちが襲ってくるかわからない。
「いろいろと、お世話になりました」
「なあ、おばさん。俺たちは西に向かってる。この世界を元に戻すための旅だ。だから、茲燕は必ずアンタのところに戻ってくる。そう、旬麗に伝えてくれ」
「……ああ、わかったよ」
悟浄は清々しい顔をして、私たち五人は村を発った。
「何?名前ちゃん、俺の顔そんなにじっと見て。惚れちまった?」
「ええ。さっきの悟浄、かっこよかったですよ」
ジープの後部座席で隣に座る悟浄にそう言うと、エンジン音の中、なぜか沈黙が流れる。
そして、スパーンッと軽快な音が鳴り響いた。
「ッて〜!本当、三蔵サマにはもったいないくらいのイイ女だわ。名前ちゃん」
「殺すぞ、クサレ河童」
「……ま、惚れたのは俺の方ってか」
「ん?今なんて?なあ悟浄、誰が誰に惚れたんだ?」
「オメーには百年早ェ話よ、チビ猿」
「誰がチビ猿だ!このエロ河童!」
「そんなに騒ぐとまたジープが傾きますよ」
いつものやり取りに、静かにしろと三蔵のハリセンが再び飛びかかる。
私は悟浄のような、きれいな夕日を眺めながら笑った。