無印編
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本日、立ち寄った町の宿で取れた個室は4つ。
うーん、と八戒が私たち四人を前に唸る。
「部屋割り、どうしましょうか」
「じゃんけんでよくね?」
「でも悟浄が名前さんと相部屋になるのは、ちょっと」
「同感だ」
「オイオイ、同じベッドで何しようが俺たちの勝手だろ?なあ、名前ちゃん」
「えっと、」
「セクハラですよ、悟浄」
悟浄の腕が私の肩に置かれる前に、ハリセンの音が鳴り響く。
「ッて〜!これだからチェリーちゃんはよォ」
「死ぬか、クソ河童」
「ていうか、名前が誰かと一緒なのは決まってんの?」
「ええ、先日の蜘蛛女さんの件もありますしね。というわけで、すみません。名前さん」
「い、いえ!むしろなんだか、申し訳ないです」
道中はジープの中など逃げ場があるが、個室で寝込みを襲われたら一人では対処できない。
情けない話ではあるけれど。
「ならここはひとつ、名前ちゃんに決めてもらおーぜ」
「え?」
「そうですね」
「なあ!名前は誰と同じ部屋がいいんだ?」
突然の指名に目を丸くする。
皆の視線に戸惑い三蔵を見上げるも、黙ったまま紫煙を漂わせている。
これは、私が決めろと……。
「えっと、私は……三蔵と寝たい、かな」
沈黙。
ポロッと、三蔵の口から煙草の落ちる音がした。
自分の発言を振り返り、あわてて首を横に振る。
「そ、そういう意味ではなくてですね!会話の流れ的にもわかりますよね!?」
「いや、今の流れはそっちっしょ」
「決まりましたね、部屋割り」
「ちぇっ、俺も名前と同じ部屋がよかったなー」
ぞろぞろと三人が部屋から出て行く。
扉を閉める前に、笑顔の八戒が顔を出す。
「名前さん。大丈夫とは思いますが、何かあったら大声で叫んでくださいね」
「八戒、貴様……」
「念の為です。ね?」
「は、はい」
パタンッと扉が閉まる。
三蔵との相部屋、久しぶりの二人っきりの空間。
とりあえずベッドに腰掛けると、しばらくして三蔵も隣のベッドへ座り新聞を手に取った。
「なぜ、俺に」
問いかけに視線を向けるが、広げた新聞紙によりその顔は見えない。
幼い、江流の顔が思い浮かぶ。
三蔵にとっては遥か彼方、十年以上前の事。
でも、私にとってはの最近の出来事で。
「金山寺の事、思い出して……三蔵にとっては、もう忘れた過去かもしれませんが」
「忘れねぇよ、一度たりとも」
間髪入れずにそう答えられて、思わず目を細める。
やさしいな、三蔵は。
新聞を折りたたみ、眉間にシワを寄せながら三蔵は眼鏡を外す。
もう夜も遅い。
「電気、消しますね」
「……ああ」
「おやすみなさい」
窓から、ほんのりと月明かりが差し込む。
薄暗がりの中、静寂に包まれてどれくらい時間が経っただろう。
寝返りを打つと、黒のインナー姿の骨張った背中が見えた。
布のすれる音とともに体勢を変えた三蔵の横顔が見えて、視線だけこちらへ向く。
「……眠れないのですか」
「三蔵も?」
「俺の事は、どうか気にせず」
そう言って三蔵は、まぶたを閉じる。
私も目を閉じて、かけがえのない金山寺での日々を思い出す。
光明様が旅立ったのをきっかけに、寂しい時は二人同じ布団で寄り添うように寝ていたっけ。
朝起きると、眠そうにしながら胸元に頬をすり寄せる江流がいて。
ふふ、と懐かしさから笑みが込み上げる。
「……何か?」
「ちっちゃくてかわいかった江流を、思い出しまして」
「可愛かねぇよ」
「かわいいですよ。光明様ともよく話してたんです。年々大きくなって、生意気になって、またかわいくなりましたねって……光明様と、」
そこまで言って、シーツを握りしめる。
忘れていたわけではない。
じわりじわりと、傷口が蝕んでいく。
「……よく寝てたな、二人で」
「三蔵、一緒に寝ますか?」
「……!」
「ダメですか?」
「さっきのは俺じゃなくて、そもそも……」
「?」
「いや、いい……」
珍しく歯切れの悪い中、小さく聞こえたため息。
三蔵により作られた隙間を見て、私はベッドから降りて身体を潜り込ませる。
横になるや否や、いきなり頭から毛布をかぶせられた。
顔を出すと、仏頂面の三蔵と視線が交わり微笑む。
「懐かしいですね、あの頃みたいで」
「……ああ」
姉のように、母のように慕ってくれている三蔵。
でも冷静に考えると、一つのベッドに男女二人が一緒に寝ていて。
目の前の三蔵は、今はもうすっかり大人の男の人で。
「ふふ、ちょっと緊張しますね」
「ッ、名前、様」
腕が伸びてきて、ぐっと腰を引き寄せられる。
頭から足先まで覆われるように、三蔵に抱きしめられていた。
硬い肌から布越しに伝わる体温と、改めて感じる体格差。
月日を経て、あの頃とはすっかり真逆になってしまった。
ぬくもりの中、その事に少しだけ寂しさを覚える。
「三蔵、」
「名前様は、俺が守ります。必ず」
それは、幼き江流も言ってくれた言葉で。
ぎゅっと、背中にまわされた腕が強くなる。
ふと、今になって江流と交わした約束を思い出した。
大人になっても、まだ好きだったら。
三蔵の記憶に残っているかも怪しいし、私の方から聞く事もしないけれど。
骨張った鎖骨の下へ額をすり寄せて、そっとまぶたを閉じた。
「三、蔵……ありがとう」
「名前様。俺は今でも、」
「……すぅ」
「……もう、寝たのか」
心地の良いまどろみの中、三蔵の声がぼんやりと聞こえる。
夢かそれとも現実か。
頭と、それから唇へ、やわらかなぬくもりがふれた。
そんな気がした。
「……おやすみなさい」
◇
翌朝。
目を覚ますと、ベッドの上には私一人。
寝ぼけ眼のまま上半身を起こすと、椅子に座りコーヒーを飲んでいる三蔵が目に映った。
じっと、その姿を見つめる。
「……何か」
「せっかくだから三蔵の寝顔、堪能しようと思ったのに」
「しなくていい」
挨拶とともに扉が開くと、三蔵の大きな舌打ちが聞こえた。
「あれ、三蔵サマもう起きてんの?しかも、いつにも増して不機嫌じゃん」
「……るせぇ」
「寝不足ですか、三蔵」
「なんで?なんで三蔵、寝てねぇの?」
「そりゃ、名前ちゃんと二人っきりでナニもしないわけ……」
カチャリと、無言のまま銃口が悟浄の方へと向く。
「まったく悟浄は。名前さんは、よく眠れました?」
「はい!とっても!」
「ププッ、意識すらされてない最高僧サマかわいそ〜って、オイ!本気であたったらどうするんだ!おわっ!」
「なあ名前、なんで三蔵あんなに怒ってんの?」
「さあ……?」
その日は刺客もいない平和の中、朝から銃声が轟いた。
うーん、と八戒が私たち四人を前に唸る。
「部屋割り、どうしましょうか」
「じゃんけんでよくね?」
「でも悟浄が名前さんと相部屋になるのは、ちょっと」
「同感だ」
「オイオイ、同じベッドで何しようが俺たちの勝手だろ?なあ、名前ちゃん」
「えっと、」
「セクハラですよ、悟浄」
悟浄の腕が私の肩に置かれる前に、ハリセンの音が鳴り響く。
「ッて〜!これだからチェリーちゃんはよォ」
「死ぬか、クソ河童」
「ていうか、名前が誰かと一緒なのは決まってんの?」
「ええ、先日の蜘蛛女さんの件もありますしね。というわけで、すみません。名前さん」
「い、いえ!むしろなんだか、申し訳ないです」
道中はジープの中など逃げ場があるが、個室で寝込みを襲われたら一人では対処できない。
情けない話ではあるけれど。
「ならここはひとつ、名前ちゃんに決めてもらおーぜ」
「え?」
「そうですね」
「なあ!名前は誰と同じ部屋がいいんだ?」
突然の指名に目を丸くする。
皆の視線に戸惑い三蔵を見上げるも、黙ったまま紫煙を漂わせている。
これは、私が決めろと……。
「えっと、私は……三蔵と寝たい、かな」
沈黙。
ポロッと、三蔵の口から煙草の落ちる音がした。
自分の発言を振り返り、あわてて首を横に振る。
「そ、そういう意味ではなくてですね!会話の流れ的にもわかりますよね!?」
「いや、今の流れはそっちっしょ」
「決まりましたね、部屋割り」
「ちぇっ、俺も名前と同じ部屋がよかったなー」
ぞろぞろと三人が部屋から出て行く。
扉を閉める前に、笑顔の八戒が顔を出す。
「名前さん。大丈夫とは思いますが、何かあったら大声で叫んでくださいね」
「八戒、貴様……」
「念の為です。ね?」
「は、はい」
パタンッと扉が閉まる。
三蔵との相部屋、久しぶりの二人っきりの空間。
とりあえずベッドに腰掛けると、しばらくして三蔵も隣のベッドへ座り新聞を手に取った。
「なぜ、俺に」
問いかけに視線を向けるが、広げた新聞紙によりその顔は見えない。
幼い、江流の顔が思い浮かぶ。
三蔵にとっては遥か彼方、十年以上前の事。
でも、私にとってはの最近の出来事で。
「金山寺の事、思い出して……三蔵にとっては、もう忘れた過去かもしれませんが」
「忘れねぇよ、一度たりとも」
間髪入れずにそう答えられて、思わず目を細める。
やさしいな、三蔵は。
新聞を折りたたみ、眉間にシワを寄せながら三蔵は眼鏡を外す。
もう夜も遅い。
「電気、消しますね」
「……ああ」
「おやすみなさい」
窓から、ほんのりと月明かりが差し込む。
薄暗がりの中、静寂に包まれてどれくらい時間が経っただろう。
寝返りを打つと、黒のインナー姿の骨張った背中が見えた。
布のすれる音とともに体勢を変えた三蔵の横顔が見えて、視線だけこちらへ向く。
「……眠れないのですか」
「三蔵も?」
「俺の事は、どうか気にせず」
そう言って三蔵は、まぶたを閉じる。
私も目を閉じて、かけがえのない金山寺での日々を思い出す。
光明様が旅立ったのをきっかけに、寂しい時は二人同じ布団で寄り添うように寝ていたっけ。
朝起きると、眠そうにしながら胸元に頬をすり寄せる江流がいて。
ふふ、と懐かしさから笑みが込み上げる。
「……何か?」
「ちっちゃくてかわいかった江流を、思い出しまして」
「可愛かねぇよ」
「かわいいですよ。光明様ともよく話してたんです。年々大きくなって、生意気になって、またかわいくなりましたねって……光明様と、」
そこまで言って、シーツを握りしめる。
忘れていたわけではない。
じわりじわりと、傷口が蝕んでいく。
「……よく寝てたな、二人で」
「三蔵、一緒に寝ますか?」
「……!」
「ダメですか?」
「さっきのは俺じゃなくて、そもそも……」
「?」
「いや、いい……」
珍しく歯切れの悪い中、小さく聞こえたため息。
三蔵により作られた隙間を見て、私はベッドから降りて身体を潜り込ませる。
横になるや否や、いきなり頭から毛布をかぶせられた。
顔を出すと、仏頂面の三蔵と視線が交わり微笑む。
「懐かしいですね、あの頃みたいで」
「……ああ」
姉のように、母のように慕ってくれている三蔵。
でも冷静に考えると、一つのベッドに男女二人が一緒に寝ていて。
目の前の三蔵は、今はもうすっかり大人の男の人で。
「ふふ、ちょっと緊張しますね」
「ッ、名前、様」
腕が伸びてきて、ぐっと腰を引き寄せられる。
頭から足先まで覆われるように、三蔵に抱きしめられていた。
硬い肌から布越しに伝わる体温と、改めて感じる体格差。
月日を経て、あの頃とはすっかり真逆になってしまった。
ぬくもりの中、その事に少しだけ寂しさを覚える。
「三蔵、」
「名前様は、俺が守ります。必ず」
それは、幼き江流も言ってくれた言葉で。
ぎゅっと、背中にまわされた腕が強くなる。
ふと、今になって江流と交わした約束を思い出した。
大人になっても、まだ好きだったら。
三蔵の記憶に残っているかも怪しいし、私の方から聞く事もしないけれど。
骨張った鎖骨の下へ額をすり寄せて、そっとまぶたを閉じた。
「三、蔵……ありがとう」
「名前様。俺は今でも、」
「……すぅ」
「……もう、寝たのか」
心地の良いまどろみの中、三蔵の声がぼんやりと聞こえる。
夢かそれとも現実か。
頭と、それから唇へ、やわらかなぬくもりがふれた。
そんな気がした。
「……おやすみなさい」
◇
翌朝。
目を覚ますと、ベッドの上には私一人。
寝ぼけ眼のまま上半身を起こすと、椅子に座りコーヒーを飲んでいる三蔵が目に映った。
じっと、その姿を見つめる。
「……何か」
「せっかくだから三蔵の寝顔、堪能しようと思ったのに」
「しなくていい」
挨拶とともに扉が開くと、三蔵の大きな舌打ちが聞こえた。
「あれ、三蔵サマもう起きてんの?しかも、いつにも増して不機嫌じゃん」
「……るせぇ」
「寝不足ですか、三蔵」
「なんで?なんで三蔵、寝てねぇの?」
「そりゃ、名前ちゃんと二人っきりでナニもしないわけ……」
カチャリと、無言のまま銃口が悟浄の方へと向く。
「まったく悟浄は。名前さんは、よく眠れました?」
「はい!とっても!」
「ププッ、意識すらされてない最高僧サマかわいそ〜って、オイ!本気であたったらどうするんだ!おわっ!」
「なあ名前、なんで三蔵あんなに怒ってんの?」
「さあ……?」
その日は刺客もいない平和の中、朝から銃声が轟いた。