会長選挙・アルカ編
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暗闇が広がる森の中、低い鳥の鳴き声が響き渡る。
頭上を飛ぶ目印を頼りに木々の間を駆け抜けると、針人間に囲まれているキルアたちの姿が見えてきた。
神妙な面持ちのアマネの前で、ツボネが何かをキルアへと投げ渡す。
ナニカにおねだりされて剥いだ左手の爪だ。
「さあ、キルア様。好きにお願いなさいませ。尻拭いは私とアマネがいたします事よ」
「オレを殺すために二人を犠牲に出来るなら、ゴンを救うために見知らぬ大勢を犠牲にする事も平気だろ?うんと言ってくれれば、オレは喜んで死ぬよ?」
「ちょっと、待ったー!」
「なまえ!?」
走った勢いのまま草木から飛び出し、イルミに向かって腕を伸ばす。
飛びつこうとした身体はあっさりとかわされて、地面へと砂煙を巻き上げながらすべり落ちる。
うつ伏せのまま顔を上げると、こちらを見下ろす真っ黒な瞳と視線がぶつかった。
「はぁ…はぁ…ま、間に合った…」
「ずいぶんと疲れてるみたいだけど、ヒソカは?」
「返り討ちにしてきた…と言いたいところだけど、ピンピンしてるでしょうね」
「逃げてきたってわけか」
服を軽くはたいて立ち上がると、空を旋回していたフクロウが降りてきて静かに肩へ止まる。
頭をひとなですると、翼を広げて再び森の中へと帰っていった。
「ふーん、そいつを使ってここの場所を見つけ出したのか」
「そんなことより、イルミ」
「何」
「お兄ちゃんが、弟を泣かせてどうするの」
涙を流すキルアを目にして、イルミの前に立ちはだかる。
「なまえ、言っただろ?これは家族内指令だ」
「特殊な家庭事情に首突っ込んで悪いけど、泣いてる友達を目の前にして引き下がるわけにはいかないから」
「なまえ…」
「友達ね、まだそんなこと言ってるわけ?邪魔するなら、今ここでお前を殺すよ?」
「やめろイルミ…!」
背後にいるキルアを手で制して、落ち着かせるように一瞬だけ笑いかける。
ハンター試験での最終試験の時といい、本当困ったお兄ちゃんだよ。
「イルミ、喜んで死ぬだなんて寂しいこと言うな。私はイルミが死んだら悲しいし、そんなのイヤだ。殺しに来るならまた今度、いくらでも相手してあげるから」
「もしかして、バカにしてる?」
「本心だって。イルミも友達だから言ってるの」
肩から長い黒髪が流れて、あきれるように大きく息を吐かれる。
「わからないな。何で父さんと母さんは、こんな奴をゾルディック家に迎え入れようとしてるのか」
「いや、それは私もずっと昔から疑問なんだけど…」
「まあいいや。キル、今から先になまえを殺すよ?止めたければ、それにお願いして止めるといい。家族間での殺しは御法度だけどお前がお願いするそれは、家族じゃないからね。さあ、殺りなよ?」
「……!」
「大丈夫、キルア。誰も死なないよ。死なせたりなんかしないから」
指の間で針を構えるイルミをまっすぐ見据える。
背後から聞こえた震える声に、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
「ゴンもアルカも、なまえも…オレが助ける…!ナニカ、ツボネの左手を治してくれ…!」
「…え?」
「あい」
ナニカがツボネの手にふれると光に包まれて、あっという間に爪が再生して元通りとなった。
「キルアー、いいコいいコしてー」
「もちろんいいよー。すごいな、ナニカ」
「なまえもー、ナデナデしてー」
「よしよーし、ちゃんと治せてえらいぞー!」
「えへへへ」
小さな頭をなでた後、スゥと寝息を立てて腕の中のナニカは眠りにつく。
ナニカが誰かを治すのに見返りを求めた事は一度もない。
呪われてるのはお願いする方だと、頬を濡らすキルアの横でナニカを強く抱きしめる。
アルカもナニカも、本当は命令なんてしたくないキルアだって誰よりも優しい子だ。
「今度ナニカをそれ呼ばわりしてみろ…なまえを傷つけてみろ…キサマを兄貴とは思わない…!」
リスクなしにゴンを治せるとわかったイルミは、潔く周囲の針人間を撤収させた。
病院へ向かうためアマネが車のドアを開けて、先に乗ったキルアへ眠るアルカを手渡した後、名前を呼ばれて振り返る。
「ミルキのルール⑤がキルアにあてはまらないように、ルール②がお前にあてはまらない。アルカが誰かにおねだりしてる途中で、別の誰かに移る事は一度もなかった。アルカを幽閉する直前の、お前以外はね」
イルミやシルバたちの知らない、いくつかあるうちのアルカのルール。
たとえば、私をお姉ちゃんと呼ぶのは本当のアルカで、なまえと呼ぶのはアルカではなくナニカ。
これはキルアと同様のルールで、すでに知られていることだけど。
「推測だけど、おねだりに見えたそれはお願いや見返りなんか関係ない単なる子供の甘え…なんじゃないかな。事実、新たに3つキルアにおねだりがいったでしょ?」
「仮にそうだとしても、なまえだからなのか、それとも何か別の条件があるのか…いずれにしろ検証が必要だな」
何としてでも、ナニカの力を手に入れたいイルミに肩を落とす。
イルミ、誰よりも強くなって全人類を支配できる力を持って、そのあとどうする。
世界で一人になって、孤独になって、そんなのただ虚しいだけだ。
ちょっと待ってて、と車の中のキルアに声をかけてイルミのそばまで駆け寄る。
「イルミくん」
「うるさい」
「まだ何も言ってないのに…」
「いらないよ。お前なんて、いらない」
「フられちゃった。私はイルミのこと好きだよ」
これ以上、私の大切な人を傷つけないかぎりは。
背を向けられてなびく黒髪に別れを告げた後、車に乗り込み今度こそキルアたちとゴンの病院へ向かう。
「なまえ、また何か言われたんじゃ…」
「大丈夫!キルアも知ってると思うけど、イルミが私を殺すって言うの初めてじゃないからね。ヘーキヘーキ」
アルカを抱えたまま口をへの字にするキルアの頭を、ポンポンッとなでる。
運転席のアマネがアクセルを踏んで、薄暗い森の中を揺れながら進んでいく。
「そうだなまえ、ゴトーと連絡が取れないんだ。何か知らないか?」
「ゴトーなら…」
「なまえ?」
「ううん、ゴトーなら大丈夫!向こうから連絡が来るはずだから、今は待とう」
「ん…そうだな」
隣に座るキルアから、そっと視線をそらす。
窓から雲が立ち込める星のない夜空を見上げた。
頭上を飛ぶ目印を頼りに木々の間を駆け抜けると、針人間に囲まれているキルアたちの姿が見えてきた。
神妙な面持ちのアマネの前で、ツボネが何かをキルアへと投げ渡す。
ナニカにおねだりされて剥いだ左手の爪だ。
「さあ、キルア様。好きにお願いなさいませ。尻拭いは私とアマネがいたします事よ」
「オレを殺すために二人を犠牲に出来るなら、ゴンを救うために見知らぬ大勢を犠牲にする事も平気だろ?うんと言ってくれれば、オレは喜んで死ぬよ?」
「ちょっと、待ったー!」
「なまえ!?」
走った勢いのまま草木から飛び出し、イルミに向かって腕を伸ばす。
飛びつこうとした身体はあっさりとかわされて、地面へと砂煙を巻き上げながらすべり落ちる。
うつ伏せのまま顔を上げると、こちらを見下ろす真っ黒な瞳と視線がぶつかった。
「はぁ…はぁ…ま、間に合った…」
「ずいぶんと疲れてるみたいだけど、ヒソカは?」
「返り討ちにしてきた…と言いたいところだけど、ピンピンしてるでしょうね」
「逃げてきたってわけか」
服を軽くはたいて立ち上がると、空を旋回していたフクロウが降りてきて静かに肩へ止まる。
頭をひとなですると、翼を広げて再び森の中へと帰っていった。
「ふーん、そいつを使ってここの場所を見つけ出したのか」
「そんなことより、イルミ」
「何」
「お兄ちゃんが、弟を泣かせてどうするの」
涙を流すキルアを目にして、イルミの前に立ちはだかる。
「なまえ、言っただろ?これは家族内指令だ」
「特殊な家庭事情に首突っ込んで悪いけど、泣いてる友達を目の前にして引き下がるわけにはいかないから」
「なまえ…」
「友達ね、まだそんなこと言ってるわけ?邪魔するなら、今ここでお前を殺すよ?」
「やめろイルミ…!」
背後にいるキルアを手で制して、落ち着かせるように一瞬だけ笑いかける。
ハンター試験での最終試験の時といい、本当困ったお兄ちゃんだよ。
「イルミ、喜んで死ぬだなんて寂しいこと言うな。私はイルミが死んだら悲しいし、そんなのイヤだ。殺しに来るならまた今度、いくらでも相手してあげるから」
「もしかして、バカにしてる?」
「本心だって。イルミも友達だから言ってるの」
肩から長い黒髪が流れて、あきれるように大きく息を吐かれる。
「わからないな。何で父さんと母さんは、こんな奴をゾルディック家に迎え入れようとしてるのか」
「いや、それは私もずっと昔から疑問なんだけど…」
「まあいいや。キル、今から先になまえを殺すよ?止めたければ、それにお願いして止めるといい。家族間での殺しは御法度だけどお前がお願いするそれは、家族じゃないからね。さあ、殺りなよ?」
「……!」
「大丈夫、キルア。誰も死なないよ。死なせたりなんかしないから」
指の間で針を構えるイルミをまっすぐ見据える。
背後から聞こえた震える声に、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
「ゴンもアルカも、なまえも…オレが助ける…!ナニカ、ツボネの左手を治してくれ…!」
「…え?」
「あい」
ナニカがツボネの手にふれると光に包まれて、あっという間に爪が再生して元通りとなった。
「キルアー、いいコいいコしてー」
「もちろんいいよー。すごいな、ナニカ」
「なまえもー、ナデナデしてー」
「よしよーし、ちゃんと治せてえらいぞー!」
「えへへへ」
小さな頭をなでた後、スゥと寝息を立てて腕の中のナニカは眠りにつく。
ナニカが誰かを治すのに見返りを求めた事は一度もない。
呪われてるのはお願いする方だと、頬を濡らすキルアの横でナニカを強く抱きしめる。
アルカもナニカも、本当は命令なんてしたくないキルアだって誰よりも優しい子だ。
「今度ナニカをそれ呼ばわりしてみろ…なまえを傷つけてみろ…キサマを兄貴とは思わない…!」
リスクなしにゴンを治せるとわかったイルミは、潔く周囲の針人間を撤収させた。
病院へ向かうためアマネが車のドアを開けて、先に乗ったキルアへ眠るアルカを手渡した後、名前を呼ばれて振り返る。
「ミルキのルール⑤がキルアにあてはまらないように、ルール②がお前にあてはまらない。アルカが誰かにおねだりしてる途中で、別の誰かに移る事は一度もなかった。アルカを幽閉する直前の、お前以外はね」
イルミやシルバたちの知らない、いくつかあるうちのアルカのルール。
たとえば、私をお姉ちゃんと呼ぶのは本当のアルカで、なまえと呼ぶのはアルカではなくナニカ。
これはキルアと同様のルールで、すでに知られていることだけど。
「推測だけど、おねだりに見えたそれはお願いや見返りなんか関係ない単なる子供の甘え…なんじゃないかな。事実、新たに3つキルアにおねだりがいったでしょ?」
「仮にそうだとしても、なまえだからなのか、それとも何か別の条件があるのか…いずれにしろ検証が必要だな」
何としてでも、ナニカの力を手に入れたいイルミに肩を落とす。
イルミ、誰よりも強くなって全人類を支配できる力を持って、そのあとどうする。
世界で一人になって、孤独になって、そんなのただ虚しいだけだ。
ちょっと待ってて、と車の中のキルアに声をかけてイルミのそばまで駆け寄る。
「イルミくん」
「うるさい」
「まだ何も言ってないのに…」
「いらないよ。お前なんて、いらない」
「フられちゃった。私はイルミのこと好きだよ」
これ以上、私の大切な人を傷つけないかぎりは。
背を向けられてなびく黒髪に別れを告げた後、車に乗り込み今度こそキルアたちとゴンの病院へ向かう。
「なまえ、また何か言われたんじゃ…」
「大丈夫!キルアも知ってると思うけど、イルミが私を殺すって言うの初めてじゃないからね。ヘーキヘーキ」
アルカを抱えたまま口をへの字にするキルアの頭を、ポンポンッとなでる。
運転席のアマネがアクセルを踏んで、薄暗い森の中を揺れながら進んでいく。
「そうだなまえ、ゴトーと連絡が取れないんだ。何か知らないか?」
「ゴトーなら…」
「なまえ?」
「ううん、ゴトーなら大丈夫!向こうから連絡が来るはずだから、今は待とう」
「ん…そうだな」
隣に座るキルアから、そっと視線をそらす。
窓から雲が立ち込める星のない夜空を見上げた。