G・I編
名前変換
壁一面、迷路のような模様が光る電子的な世界。
床に描かれている丸模様の中心から足を踏み出し、自動ドアを通り奥へと進む。
「G・Iへようこそ…おお!あなたはもしや、なまえ様では?」
「はーい」
「ゲームの説明を聞きますか?」
「いいえー」
部屋の中央のイスに座り宙を浮いている美少女イータと目を合わせて、ふふっと笑い合う。
「あそびにきたの?」
「そそ。除念師探しもついでにね」
「そっちが本命でしょ」
「あ、バレた?」
カチカチとマウスを操作するイータから指輪持ってる?と聞かれて、人差し指を見せる。
「セーブデータのスロットは空です。はじめからのプレイとなりますが、よろしいですか?」
「よろしいです」
「あなたの御名前を教えてください」
あ、そっかと人差し指の先をあごに当てて考える。
ヒソカは旅団へのメッセージに、クロロの偽名を使ってプレイするはず。
それならば私も。
「みょうじで」
新しい指輪を受け取ると、床が音を立てて円状に抜けていき螺旋階段が現れる。
「あれからジンとはどんな感じ?」
笑顔のイータにそう尋ねられて、ぱちぱちと瞬きをしたあと腕を組む。
どうって言われてもねー。
ジンを探し当てることはどんな狩りより難しいって、カイトも言ってたっけ。
「追いかけてもすぐどっか行っちゃうし、もう何年会ってないんだろう」
「ジンはなまえと会うの、恥ずかしいんだよ」
「まさか、私はゴンじゃあるまいし」
私に会いたくないってのはわかるけれども。
ふふふ、と笑っているイータのかわいいことよ。
「それでは、御健闘をおいのりいたします。そちらの階段からどうぞ。いってらっしゃい、なまえ」
バイバイと手を振り返して階段を下りると、見渡す限り広がる草原。
G・Iといえば、あのビスケがゴンとキルアに修行をつけているはず。
成り行きとはいえ、あの3人に会うの楽しみだなー!
「待ってたよ。それじゃいこうか」
この奇術師とさえ一緒じゃなければ。
じーっと長身のヒソカに見下ろされて、何?と聞いたがなんでもないとはぐらかされた。
「あっちはあんまり美味しくなさそうだ」
「じゃあ、こっちに行く?」
「キミにまかせるよ」
あっちこっちと、見られている地平線の方角を指差す。
スタート地点を監視しているのは、プレイヤー狩りやチームの勧誘といった諸々の目的を持った連中だ。
歩きながら指輪をつけた人差し指を上げて、ブックと唱える。
そのへんの石ころを拾ってカード化させてフリーポケットへと入れていく。
あーこの感じ、懐かしい。
「おーい、ヒソカ。突っ立ってないで早くいこうよ」
じっとりと背後から舐めるような視線を感じて、ぞわぞわと鳥肌が立つ。
ゴンとキルアの気持ちがよーくわかった。
「ヒソカ!前歩いてよ、前!」
「逃げないんだね」
あごに親指を当てるヒソカに、なんでよと首を傾げる。
「除念師探しの条件、破ることになるじゃん。見つけたあとも交渉してもらわないと困るんだし」
「ソレ、依頼された時も思ったんだけどさ、ボクじゃなくてなまえが交渉すれば済む話だろ?」
「そういうわけにはいかないの」
脳裏に金髪の青年の姿が思い浮かぶ。
私は直接手出しするつもりはないと伝えて、ヒソカから半径20mほど距離を取りながら歩く。
「難儀な性格してるね、キミ」
道中、現れた一人のプレイヤーから「追跡(トレース)」の呪文攻撃を受けるがポケットに手を入れたまま動かないでいた。
「再来(リターン)」使用!マサドラへ!と唱えて飛んでいく男を眺めていると、様子を伺っていたヒソカがゆっくりと歩いてきた。
「平気かい?」
「呪文カードで死ぬことはないからね」
「なまえ、このゲーム初めてじゃないだろ?」
「まあね」
それにしてもさっきの男、見たことあるようなないような。
うーん、と考えているうちに街が見えてきた。
アンドキバへようこそ!と書かれた横断幕を見上げる。
壁一面いたるところに張り出された懸賞の紙を見るヒソカから、ちょいちょいと手招きをされる。
「すごい数だね。これをクリアすると、アイテムがもらえるってわけだ」
「興味あるなら散策ついでに好きなのやってみたら?その間、私もイベントとか確認してくるから」
「了解」
マジでやるんだ。
ヒソカと別行動する前に何か説明することあったかなー。
はっとして、頭を横に振る。
ダメだ、自分で情報収集してこそのゲームだしあれこれ余計な口出しするもんじゃない。
でも一番肝心な最初の説明、ちゃんとイータから聞いたのかな。
「プレイヤーを先に殺しちゃったら、バインダーの中のカードも消えちゃうからねー」
「はいはい」
背中に声をかけて、片手を上げるヒソカを見送る。
月1の15日の恒例大会はもうおわってるし、広場に行っても他にめぼしいイベントもなさそうだった。
やっぱ序盤はモンスターを倒して、交換店でのお金稼ぎが定石だな。
「お待たせ」
「アレ、もうおわったの?」
「なるべく時間がかからないものを選んだからね」
きゃあと突然甲高い悲鳴が聞こえて、NPCやら他プレイヤーがぞろぞろと集まっていく。
野次馬の隙間からのぞくと、はらわたをぶちまけた死体が転がっていた。
一瞬、ヒソカの仕業かと思ったがそうではないみたいだ。
「プレイヤー狩りだ」
聞こえた男の声に振り返ると、無精髭にパーカー姿の人物。
ハッキリと記憶にある人がそこにいた。
「あんたらオレたちと組まないか?確実にゲームクリアできる方法がある…!」
キルアはたしかハメ組と言っていた。
まさかその中心メンバーのニッケスに、ヒソカと一緒にいて勧誘されるとは。
仲間になるかどうかは話を聞いてからでもいいと言われて、私はヒソカを見上げる。
案の定、興味なさそうにしていたので頭を下げて断る。
「二人とも初心者だろ?仲間の勧誘は今回で打ち切るつもりだし、彼女を攻撃した呪文についてもついてくれば教えてやろう。情報収集として話を聞くだけでも十分価値はあると思うが」
「申し訳ないですけど、ゲームクリアが目的ではないですので」
「何…!?」
そりゃ驚くわな、G・Iに何しに来たんだって話だ。
「そっちの彼もか?」
「ボクはなまえがいれば充分だから」
「そこ、誤解を招くような言い方をしない」
深い意味はないにしてもだと、青筋を立てる。
もともと、ヒソカはどこにも属さない人間だ。
ニッケスと別れて、広場から離れる。
もしかしたら近くにゲンスルーもいるかもしれない。
「ホントに断ってよかったのかい?」
「だってヒソカ、人見知りなんでしょ」
「くくく、そんなにボクと二人きりがよかった?チームに入ったらまぬがれたのに」
「しまった!その手があったか…!」
ぐぬぬと頭を抱えていると、それにしてもとヒソカは目を細める。
「彼、どうしてボクらを初心者だと思ったんだろうか」
「バインダーだよ。慣れてるプレイヤーなら、他プレイヤーと対峙するとき必ず出すの。カードを一枚も持ってなくてもハッタリとしてね」
「へェ。それで、なまえが出さなかった理由は?」
「わすれてました」
だって、G・Iをプレイしたの何年も前だしそもそもハッタリとかあんまり得意じゃないし。
データ消えてはじめからのプレイだから、実質初心者と言っても間違いではない。
と、心の中で言い訳をしていると笑みを深くしたヒソカは舌舐めずりをしていた。
「やっぱり、なまえがいれば充分だね」
「なんか私のこと、このゲームのナビみたいに思ってない?」
「攻略本みたいで助かるよ」
人を便利道具扱いしないでいただきたい。
床に描かれている丸模様の中心から足を踏み出し、自動ドアを通り奥へと進む。
「G・Iへようこそ…おお!あなたはもしや、なまえ様では?」
「はーい」
「ゲームの説明を聞きますか?」
「いいえー」
部屋の中央のイスに座り宙を浮いている美少女イータと目を合わせて、ふふっと笑い合う。
「あそびにきたの?」
「そそ。除念師探しもついでにね」
「そっちが本命でしょ」
「あ、バレた?」
カチカチとマウスを操作するイータから指輪持ってる?と聞かれて、人差し指を見せる。
「セーブデータのスロットは空です。はじめからのプレイとなりますが、よろしいですか?」
「よろしいです」
「あなたの御名前を教えてください」
あ、そっかと人差し指の先をあごに当てて考える。
ヒソカは旅団へのメッセージに、クロロの偽名を使ってプレイするはず。
それならば私も。
「みょうじで」
新しい指輪を受け取ると、床が音を立てて円状に抜けていき螺旋階段が現れる。
「あれからジンとはどんな感じ?」
笑顔のイータにそう尋ねられて、ぱちぱちと瞬きをしたあと腕を組む。
どうって言われてもねー。
ジンを探し当てることはどんな狩りより難しいって、カイトも言ってたっけ。
「追いかけてもすぐどっか行っちゃうし、もう何年会ってないんだろう」
「ジンはなまえと会うの、恥ずかしいんだよ」
「まさか、私はゴンじゃあるまいし」
私に会いたくないってのはわかるけれども。
ふふふ、と笑っているイータのかわいいことよ。
「それでは、御健闘をおいのりいたします。そちらの階段からどうぞ。いってらっしゃい、なまえ」
バイバイと手を振り返して階段を下りると、見渡す限り広がる草原。
G・Iといえば、あのビスケがゴンとキルアに修行をつけているはず。
成り行きとはいえ、あの3人に会うの楽しみだなー!
「待ってたよ。それじゃいこうか」
この奇術師とさえ一緒じゃなければ。
じーっと長身のヒソカに見下ろされて、何?と聞いたがなんでもないとはぐらかされた。
「あっちはあんまり美味しくなさそうだ」
「じゃあ、こっちに行く?」
「キミにまかせるよ」
あっちこっちと、見られている地平線の方角を指差す。
スタート地点を監視しているのは、プレイヤー狩りやチームの勧誘といった諸々の目的を持った連中だ。
歩きながら指輪をつけた人差し指を上げて、ブックと唱える。
そのへんの石ころを拾ってカード化させてフリーポケットへと入れていく。
あーこの感じ、懐かしい。
「おーい、ヒソカ。突っ立ってないで早くいこうよ」
じっとりと背後から舐めるような視線を感じて、ぞわぞわと鳥肌が立つ。
ゴンとキルアの気持ちがよーくわかった。
「ヒソカ!前歩いてよ、前!」
「逃げないんだね」
あごに親指を当てるヒソカに、なんでよと首を傾げる。
「除念師探しの条件、破ることになるじゃん。見つけたあとも交渉してもらわないと困るんだし」
「ソレ、依頼された時も思ったんだけどさ、ボクじゃなくてなまえが交渉すれば済む話だろ?」
「そういうわけにはいかないの」
脳裏に金髪の青年の姿が思い浮かぶ。
私は直接手出しするつもりはないと伝えて、ヒソカから半径20mほど距離を取りながら歩く。
「難儀な性格してるね、キミ」
道中、現れた一人のプレイヤーから「追跡(トレース)」の呪文攻撃を受けるがポケットに手を入れたまま動かないでいた。
「再来(リターン)」使用!マサドラへ!と唱えて飛んでいく男を眺めていると、様子を伺っていたヒソカがゆっくりと歩いてきた。
「平気かい?」
「呪文カードで死ぬことはないからね」
「なまえ、このゲーム初めてじゃないだろ?」
「まあね」
それにしてもさっきの男、見たことあるようなないような。
うーん、と考えているうちに街が見えてきた。
アンドキバへようこそ!と書かれた横断幕を見上げる。
壁一面いたるところに張り出された懸賞の紙を見るヒソカから、ちょいちょいと手招きをされる。
「すごい数だね。これをクリアすると、アイテムがもらえるってわけだ」
「興味あるなら散策ついでに好きなのやってみたら?その間、私もイベントとか確認してくるから」
「了解」
マジでやるんだ。
ヒソカと別行動する前に何か説明することあったかなー。
はっとして、頭を横に振る。
ダメだ、自分で情報収集してこそのゲームだしあれこれ余計な口出しするもんじゃない。
でも一番肝心な最初の説明、ちゃんとイータから聞いたのかな。
「プレイヤーを先に殺しちゃったら、バインダーの中のカードも消えちゃうからねー」
「はいはい」
背中に声をかけて、片手を上げるヒソカを見送る。
月1の15日の恒例大会はもうおわってるし、広場に行っても他にめぼしいイベントもなさそうだった。
やっぱ序盤はモンスターを倒して、交換店でのお金稼ぎが定石だな。
「お待たせ」
「アレ、もうおわったの?」
「なるべく時間がかからないものを選んだからね」
きゃあと突然甲高い悲鳴が聞こえて、NPCやら他プレイヤーがぞろぞろと集まっていく。
野次馬の隙間からのぞくと、はらわたをぶちまけた死体が転がっていた。
一瞬、ヒソカの仕業かと思ったがそうではないみたいだ。
「プレイヤー狩りだ」
聞こえた男の声に振り返ると、無精髭にパーカー姿の人物。
ハッキリと記憶にある人がそこにいた。
「あんたらオレたちと組まないか?確実にゲームクリアできる方法がある…!」
キルアはたしかハメ組と言っていた。
まさかその中心メンバーのニッケスに、ヒソカと一緒にいて勧誘されるとは。
仲間になるかどうかは話を聞いてからでもいいと言われて、私はヒソカを見上げる。
案の定、興味なさそうにしていたので頭を下げて断る。
「二人とも初心者だろ?仲間の勧誘は今回で打ち切るつもりだし、彼女を攻撃した呪文についてもついてくれば教えてやろう。情報収集として話を聞くだけでも十分価値はあると思うが」
「申し訳ないですけど、ゲームクリアが目的ではないですので」
「何…!?」
そりゃ驚くわな、G・Iに何しに来たんだって話だ。
「そっちの彼もか?」
「ボクはなまえがいれば充分だから」
「そこ、誤解を招くような言い方をしない」
深い意味はないにしてもだと、青筋を立てる。
もともと、ヒソカはどこにも属さない人間だ。
ニッケスと別れて、広場から離れる。
もしかしたら近くにゲンスルーもいるかもしれない。
「ホントに断ってよかったのかい?」
「だってヒソカ、人見知りなんでしょ」
「くくく、そんなにボクと二人きりがよかった?チームに入ったらまぬがれたのに」
「しまった!その手があったか…!」
ぐぬぬと頭を抱えていると、それにしてもとヒソカは目を細める。
「彼、どうしてボクらを初心者だと思ったんだろうか」
「バインダーだよ。慣れてるプレイヤーなら、他プレイヤーと対峙するとき必ず出すの。カードを一枚も持ってなくてもハッタリとしてね」
「へェ。それで、なまえが出さなかった理由は?」
「わすれてました」
だって、G・Iをプレイしたの何年も前だしそもそもハッタリとかあんまり得意じゃないし。
データ消えてはじめからのプレイだから、実質初心者と言っても間違いではない。
と、心の中で言い訳をしていると笑みを深くしたヒソカは舌舐めずりをしていた。
「やっぱり、なまえがいれば充分だね」
「なんか私のこと、このゲームのナビみたいに思ってない?」
「攻略本みたいで助かるよ」
人を便利道具扱いしないでいただきたい。