願い叶えし刻
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――えらいね、陽奈ちゃんは。
――本当によくできた子ね。何でもできて。
――流石、大滝家の娘さん。
やめて。
――何、いい子ぶってんの?調子にのんじゃねぇよ。
――お前みたいなの見てるとムカつく。
やめて。
――陽菜、もっと良い成績とれるでしょう?お母さんに恥かかせないで
――お前は頑張りが足りないんじゃないのか?少しは兄を見習え
やめて……っ
耳を塞ぐように頭を抱える。怖い。痛い。寂しい。誰か助けて、と助けを求めたいのに声が出ない。たとえ声を出しても誰にも届きはしない。この声を拾ってくれる人なんて誰も――…
「・・・いっ・・か?おい、大丈夫か?」
ふと誰かに肩を揺すられ、目を開けると男2人が覗き込んでいた。ハッと飛び起き、深呼吸する。
「大分うなされていたぞ」
またあの夢を見るなんて。最悪だ。振り払うように頭を振り、顔をしかめる。
「総司の代わりに飯持ってきたんだけど」
お盆の上の3つのおにぎりを見て、お盆を持つ無表情の彼に視線をずらす。
「すみません、お名前は?」
「え、あぁ。俺は藤堂平助で、こいつは永倉新八」
藤堂平助と永倉新八。参考書や本で見たことのある名前だ。確か2人ともかなりの剣士で、どっかの隊長だった気がする。ニカッと笑う永倉さんは見た目はいかついけど、優しそう。おにぎりを手にとり、彼らにお礼を言う。
「あ、私1個だけでいいです」
「よっしゃぁぁぁ!俺、貰っていい?」
「ど、どうぞ」
叫ぶなり、おにぎりを口に頬張る永倉さんを見て、藤堂さんは呆れたように呟いた。
「新八さん、やっぱり狙いはおにぎりだったか」
呆れてる藤堂さんの横で、私も一口おにぎりをかじる。
「美味しい・・・」
「良かった良かった。って言っても作ったのは源さんなんだけどな」
江戸時代でも現代でもやっぱおにぎりは変わらないんだなぁって感動しながら、無我夢中でおにぎりを頬張った。
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障子の少し開いた隙間から、3月とは思えない冷たい夜の風が入ってくる。群青の空に一番星が輝いているのが見えた。何もやることもない、私はただボーッと時を過ごしていた。ガラっと障子が開く音がして、沖田さんが入ってきた。
「逃げてなかったんですね」
「逃げても追いかけるでしょう?」
どっちにしろ私は逃げる気はない。逃げる場所などないのだし、逃げても運命は同じなのだから。沖田さんは離れたところに腰を落とし、刀の手入れを始めた。
「何故見張りをつかなかったんですか?私は逃げるかもしれないし、監視をつけるんじゃなかったんですか?」
「うん、君を信用している訳じゃない。監視はしてますよ。現に、俺は貴女をすぐ斬れるように刀の手入れをしているところだし」
妖艶に笑いながら言う彼の目は本気で。暗い部屋の中、ゆらゆらと揺れる灯と影。蝋燭の明かりでキラリと反射する白銀の刃が目に入って、視線を逸らし俯く。本物だ。当たり前だけど、これで人を殺すことができるんだ。
「どうかしました?」
不意に沖田さんが刀を鞘に仕舞い、立ち上がりながら私に尋ねた。何も答えずに黙っていると「首の傷、まだ痛みます?」と聞かれた。朝、土方さんに刀を当てられたところを触ろうとした私の手を、パッと沖田さんが掴んだ。驚いて、構える。
「少し瘡蓋(かさぶた)になっている。触るのはやめておいた方がいいかもしれません」
「あ、はい・・・」
驚きながらも、いきなり優しくなった沖田さんを見る。
「早く治るといいですね。俺は明日朝早いので、先に寝ますね。おやすみなさい」
「あ、おやすみなさい」
沖田さんはさっきと違ってにこりと微笑むと、部屋の隅っこに引いた布団に入った。私は慌てて頭を下げ、再びボーッとする。時々敬語を使い、時々タメで話す彼。いつも笑顔を張り付けていて、なんか飄々としているし、よく掴めない。こういう人、苦手だなぁ……