浅葱色の空
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葉が色づき始め、風も少し冷たくなったある日のことだった。
「伊東大蔵?」
「あぁ、江戸ではそう名乗っていたが上洛に際して名を改めたっぽいぜ。その名も伊東甲子太郎」
引っ掛かる名前。 参考書に出てきたような出てこなかったような。 首を捻っていると、原田さんが思いついたように言った。
「しっかし、伊東さんは
「文武両道。巧みな弁舌で、人気を集めている」
斎藤さんの説明に、へぇーと頷く。 伊東甲子太郎はどうやら藤堂さんと同じ北辰一刀流の同門らしかった。 じゃあ、きっと藤堂さんも喜ぶだろうな。 それにしてもこれまた、凄い人を迎え入れる訳だ。 どんな人だろう。 色々と想像する私を他所に、原田さんと斎藤さんの顔は険しくて。
次の日の夜、伊東さんを歓迎するための宴会が開かれた。 私と咲さんは酒や料理を運ぶのに忙しくって。 広間と勝手場を行き来していると、廊下で山南さんと会った。 さっきまで宴会にいたはずの彼を不思議に思いながら、話しかける。
「あれ、山南さん何してるんですか?」
「少々体調が優れなくて」
困ったように笑う彼の顔はなんだか疲れ切っていた。 何かあったんだろうか。 心配に思っていると、広間から近藤さんの愉快そうな笑い声が届いて。 私は広間から暗闇に漏れる部屋の灯りを見て、微笑む。
「伊東さんも来て、賑やかになりましたね」
「…………」
なんとなく言った一言に、山南さんは黙りこくってしまった。 欠けた月が、無表情の山南さんをさめざめと照らしていて彼の顔が青白く浮かび上がっていた。
「山南さん、大丈夫ですか?」
「・・・えぇ、部屋で休んできますね」
そう言い、いそいそと去ってしまったその背中を見送りながら、様子がおかしい彼に何とも言えない気持ちになった。 広間にお酒を運びに行くと、障子を開け中に入った瞬間お酒の匂いが鼻を刺激する。 うっ、と顔をしかめたいのを我慢して、土方さんの傍に行く。
「お酒注ぎましょうか?」
「いや、いい」
少しだけ眉間を寄せている土方さん。 宴会だというのに、ちっとも楽しそうじゃなくて。
「どうかされました?」
「少しな。俺はいいから、近藤さんにでも酒を持っててやれ。だが、酔わせない程度にしてくれよ」
苦笑する彼に、思わず私もつられて笑いながら頷く。 言われた通り近藤さんの横に行き、お酒を注ごうとすると、ほろ酔いの近藤さんはご機嫌そうに言った。
「おっ、大滝君、気が利くね!」
「いえいえ」
猪口に満たされた酒を近藤さんはぐいっと飲み干す。
「伊東さんにも注いでくれるか?」
ふと近藤さんの隣に座っていた伊東さんの方に目を向ける。 慌てて返事をして、彼の猪口にも注ぐ。 零さないように緊張しながらも、ふと思う。 この人が、噂の伊東甲子太郎。
「ありがとう」 とお礼を言う彼はなんだか温和そうだけど、どこか鋭い目をしていて、一瞬だけ身震いしそうになった――。
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「ひまりちゃん、これ可愛くない!?」
咲さんは簪を片手に、笑顔で聞いてくる。
「うん、咲さんに似合いそう」
「いや、こっちも可愛いのよねぇ。どっちも捨てがたいわ」
2つの簪を見比べながら、うんうんと唸る彼女を見ながら微笑む。そして私も傍に置いてあった櫛(くし)を見る。黒に淡い薄紅の桜が施されている。
「ひまりちゃんもその櫛、絶対似合うわ!!」
「ありがとう」
私達は今、町にお買い物に来ている。咲さんが、簪を買いたいということで、土方さんに頼み込んだら許してくれたのだ。
「う~ん、でもあともう1軒回りましょう!!」
「え、咲さん、これで5軒目ですよ?」
「だって迷うんだもん!」
そう言い、私の手を引っ張り再び人込みの中を駆けていく。焼け焦げた町は、3ヵ月も経てば、徐々に復興を遂げていた。未だに家族や親しい者と会えない人もいるみたいで、更に貧困問題も降りかかっていた。「ここ、ここ!わぁー、いっぱいあるな。どれにしよう」とお店に着くなり嬉しそうに言う咲さんはすぐに簪を見るのに夢中になって。そんな無邪気な咲さんを見てると、こっちの頬まで緩む。