浅葱色の空
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毎晩、彼らの顔が頭に浮かんでは、不安でたまらなくなる。
――どうか無事でいてほしい。空を仰ぎ見て祈れば、そこには雲一つない青空が覗いていて。
「ひまりさんって、よく空見上げること多いですね」
「え、そうですか?この空の色、そういえば隊服の色と似てますよね」
「――浅葱色」
ボソッと零した聞いたこともない色の名前に首を傾げる。
「新選組の羽織の色、浅葱色って言うんです。実は武士が切腹する時に着用する色なんです」
「えっ、じゃあ縁起が悪いじゃないですか」
衝撃を受けていると、沖田さんは少しだけ難しそうな顔をしてから言った。
「つまりは死をも覚悟して、戦い抜くという意味が込められているんです。いつも死と隣り合わせですからね」
「死と隣り合わせ……」
繰り返すようにゆっくりと呟いてから、浅葱色の羽織を見る。そんな意味があったなんて知らなかった。なんだか、見慣れたはずの羽織がいつもと違って見えて。浅葱色。その言葉が何故だか胸に響く。羽織と同じ色の空を再び仰ぎ見た瞬間、ふわりと風が舞って頬を撫でていった。微かに秋の香りが混じっていたような気がした。
それから2週間が過ぎようとしていた頃。
「おい、ひまり」
「あ、はい」
慌てて振り返ると、そこには忙しいはずの土方さんが立っていて。
「ひまり、お前は3番組の巡察に同行しろ」
険しい顔の土方さんの言葉を思わず疑う。
「こ、こんな大変な時に、迷惑じゃないんですか?」
「全ては斎藤に任す。分かったらさっさと行って来い」
最後の方に口角を上げた彼に、私は慌てて頭を下げてお礼を言う。 もしかして、沖田さんが土方さんに頼んでくれたりしたのかな? どっちにしろ、ぶっきらぼうな土方さんなりの優しさが染みた。
屯所の門に行けば、既に斎藤さん率いる三番組が集まっていて。
「すみません!遅れました!」
「いや、構わん。行くぞ」
集団の後ろ方に、斎藤さんと並んで歩く。 焦げ臭い匂いがあたりに立ち込めている町並みは想像を絶したもので。 わずかに残った家の柱や、燃え残った材木で作られた看板には、家族や親しい者の消息を訊ねる張り紙が何枚も見られる。 火の手は、北東の風より延焼し、聞けば北は一条通りから南は七条通りまですっかり火にやられたそうだ。
「・・・ほとんど燃えてしまったんだ・・・」
ふと幸さんと五郎さんの消息がどうしようもなく不安になって――
「大丈夫か?」
斎藤さんに顔を覗き込まれ、ハッと我に返る。
「……顔色が悪い。無理は禁物だ」
「……ある人達の安否が気になって」
「無事だといいな」
そして、幸さんと五郎さんの家の近くにやってきた。家は跡形もなく崩れていて、ごくりと息を呑む。真っ黒な木材が転がっているのを視界の端に、斎藤さんに話しかける。
「あの、ちょっと時間を貰えないですか?」
「分かった」
そう言うと、斎藤さんは他の隊士にすぐ追いつくから先に行っているよう促す。一方の私は家があっただろうと思われる場所に近付く。そして、幸さんと五郎さんの名前を呼んでみるも、静寂だけが返って来て。バクバク言う鼓動と震える手を抑えて、もう一度名前を呼ぶけど、私の声は儚くも虚空に消えていくばかり。
「……っ」
認めたくなくて、血の気がひいていくのを感じながらも辺りを見回し、彼らを探す。ふと私を見ているある1人のおばさんと目が合って。
「すみません!幸さんと五郎さんを知ってしますか?」
「知ってるさぁ。彼女たちは生き延びて、今は安全なところに避難したって聞いたでぇ」
「ほ、本当ですかっ!??」
頷く彼女に、何度もお礼を言いながら、ホッと安堵のため息をついていれば「お嬢ちゃんはもしかして陽奈さんかい?」と、おばさんの口から出た、自分の本名にドキッとしながらも頷く。
「あの2人から伝言を預かっていてね。心配せんでいいから。また会おうってさ」
握りしめていた手の力が抜けて、胸を撫で下ろす。良かった。本当に良かった。礼を言い、頭を下げる。いくらか気持ちが軽くなって、私はいそいで斎藤さんの元へ駆け寄った。
「もう、いいのか?」
「はい、ありがとうございます」
そして浅葱色の羽織の集団を追いかけた。