浅葱色の空
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「あ、山南さんも金平糖どうですか?」
丁度通りすがった山南さんに、沖田さんが声をかける。
「いえ、2人で食べて下さい」と無表情でそのまま通り過ぎようとした彼に向かって、私はいつの間にか口を開いていた。
「山南さん!一緒に金平糖食べましょう!!」
突然の私の勢いある大声に驚いた顔をした山南さんだったけど、渋々縁側に座った。それを見た沖田さんは少し嬉しそうにした後、山南さんの手の平に金平糖をのせた。黄色と緑と薄紅の金平糖を見て、山南さんの目が細められる。
「金平糖なんて何年振りでしょうか」
そう呟くと、一粒口に放り込む。
「……甘い……けど美味しいです」
「はは、山南さん、それ前に金平糖を食べた時も言ってましたよ」
「そうでしたっけ」
笑い合う彼らに、何故か私も心がくすぐったくなって。そうだ、山南さんにも笑って欲しかったんだ。この色とりどりの金平糖の魔法に掛かったかのように、山南さんは今まで見たことのないほど豊かな表情になって。
「ひまりさん、ありがとう」
「あ、いえ。あの、私、決めたんです」
怪訝な顔をする彼に、私は肩を竦めた。
「この前、山南さんは私に言いましたよね。『貴女には迷いがある。貴女は何がしたいんですか?』って」
洗濯物をしていたあの日のことを思い出したのか、山南さんは頷く。
「何がしたいかはっきりしないから、ここで見つけます。ここに居たら、見つけられるようなそんな気がするんです!」
まだ私がこの幕末に飛ばされた理由なんて分からないけど、少しずつ何かが変わっていってる。 目には見えない、何かが。 言い切った私を、山南さんはしばらく黙って目を細めていたが、やがて口を開いた。
「では、もし見つかった時は教えて下さい」
「っ・・・はいっ!」
金平糖が少しだけ光ったように見えた。
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夕日が沈みかけている。 新選組の帰りを待ちわびる私達の元に、ある知らせが届いた。
「火事だっ・・・・京の町が・・・っ燃えている!!!」
「長州の奴らが、火を放った・・・?」
「となると、長州はこれで完全に『朝敵』となった」
そんな・・・。 歴史が動いている。 目の前でぐるぐると廻っている。 遠くでは、カンカンという鐘の音と微かな人の声が聞こえる。 赤い赤い空はまるで炎のようで。
「・・・大丈夫かな・・・」 思わずぽつりと零す。 誰も何も言わなくて。 彼らが帰ってくるまでの時間が永遠にも感じられそうだった。
後に「禁門の変」と言われるこの事件は、負傷者744名、死者340名を出し、長州によって放たれた大火で幕を閉じた。ずたぼろになりながらも、無事新選組のみんなが帰って来て、1週間が経とうとしていた。残党狩りや巡察に追われている彼らの話を聞く限り、町は悲惨な状態のようで。私は、幸さんと五郎さんが気がかりで、一刻も早く彼らの安否を確認したかった。
けれど、忙しい今、そんなことは無理も承知で。
洗濯が終わり、洗濯物を干そうとして立ち上がろうとしたところで、立ち眩みに襲われる。
「……っ」
よろけたところで、ふと暖かい温もりに支えられる。
「大丈夫ですか?」
「お、沖田さんっ」
思わず驚きすぎて声が裏返る。同時に恥ずかしくなって、パッと離れる。眩暈がして、少しだけこめかみを抑えていると、心配そうに彼は言った。
「具合悪い?」
「いえ、ちょっと立ち眩みです。大丈夫です」
笑いながら言うと、沖田さんは目を細めた。
「そう?なら、いいですけど。ちゃんと寝てます?」
「ね、寝ようと思っているんですけど、なかなか寝付けなくて」
苦笑いしながら、洗い終わった洗濯物を順番に干していく。
「・・・幸さんと五郎さんが心配なんです」
そして、小さな声で呟いた。
「そう…ですか」
沖田さんはそれだけ言うと、黙り込んだ。少しだけ夏の終わりの匂いを含ませた風が干している洗濯物を揺らしていく。