浅葱色の空
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無事に買い出しがすべて終わって、夕暮れの道を彼と会話しながら歩いていると、ふと先の方に見覚えのある2人組が見えた。
その人たちが、五郎さんと幸さんだと分かった瞬間、息が止まる。気まずいを通り越して、どうすればいいのか分からない。そもそも2人は私のこと覚えているのだろうか?距離が縮まる中、彼らと視線が合う。どくんどくん言う心臓が、締め付けられるように痛い。驚いた顔をしている2人は口を開けていて――
「・・・ひ、陽奈ちゃんなのかい?」
あぁ、なんて懐かしい名前だろう。久しぶりの自分の本当の名前に、久しぶりにその名前を五郎さんと幸さんが呼んでくれたことに胸がいっぱいになって。躊躇いながらもふと隣の沖田さんを見る。
「……行ってきて、ちゃんと話しておいで」と微笑む彼に頷いて、私は彼らに向かって走った。
「五郎さん、幸さん!」
彼らの前まで来て、息切れしながら謝ろうと頭を下げようとして、ぎゅっと抱きしめられた。
「・・・え、ちょ、幸さん!?!?」
びっくりして、あたふたしている私に彼女は嬉しそうに言った。
「陽奈ちゃん、無事だったのね!!本当に、本当に良かったわ」
少し涙ぐんでいる彼女に、ふと私の涙腺も緩む。もう離さない、とでも云うように幸さんの強い力が込められている。
「あの日から、もっと俺らがちゃんとしてればって後悔しててね。助けてやれなくてすまなかったね」と言う五郎さんの言葉に、私は頭を横に振る。
「ううん、五郎さんたちが後悔する必要なんてないです。謝る必要もないです。寧ろ私の方が謝らないといけない。・・・あの時はあんな酷いことをしてしまってごめんなさい。それとお世話になったこと、私を助けようとしたこと、本当に感謝しています」
幸さんから解放され、私は深々と頭を下げる。ずっと謝りたかった。ずっとお礼を言いたかった。例え彼らが許してくれなくても。
「陽奈ちゃん、顔あげて頂戴。私達、そこまで気にしてないわ。それより、もう一度こうやって会えたことが本当に嬉しい」
微笑んでくれる幸さんと五郎さん。胸がいっぱいになって、泣きそうになるのを堪え私も思わず微笑む。彼らに私が新選組捕まったあとのことを話し、女中の手伝いをしながら一緒に住んでることを伝えると、彼らは言った。
「いつでも帰って来ていいんだよ、陽奈ちゃん」
「そうだぞ、迷惑だなんて思ってもないからな?」
彼らの優しい心遣いに、心が温かくなる。私は頷いて、そして微笑みながら言う。
「うん、たまに遊びにいかしてもらいます。でもね、新選組の方たち悪い人たちじゃなくて良くしてもらってるんです。だからあまり心配しないでください」
「・・・陽奈ちゃんよぉ笑うようになったなぁ」
「ほんと、一段と別嬪さんになって」
夕日に照らされながら、3人で笑い合う。
「じゃあ、私そろそろ行きますね」
「そうだな。またな!」
「家に遊びに来るの、待ってるからねぇ!」
このお別れは、永遠のお別れじゃない。この間とは違って、『また』がある。そんな些細なことまでが嬉しい。手を振りながら、沖田さんのもとへ駆け寄る。
「良かったですね」
「はい、すみません待たせてしまって」
再び沖田さんと歩き始める。私がまだニコニコしながら、歩いていると――
「物凄く楽しそうだったなぁ、”陽奈さん”?」
「なっ!?」
不意打ちで本当の名前を言われて、戸惑う私に彼は笑って嬉しそうに言った。
「新選組の中でひまりさんの本当の名前を知っているのは、俺だけですね」
「え、まぁ、そうですね」
「じゃあ、2人だけの時は陽奈さんって呼ぼうかなぁ」
「え!?」
「どう、陽奈さん?」
顔を覗き込む、彼に私はあたふたする。なんか今までずっとひまりという名前で通してきたから、定着しちゃって、陽奈っていう言われたほうが違和感ある気もしますし、と口をごもごもさせながら彼に言う。
「確かに、ひまりさんは、もうひまりさんですもんね」
「はい、それに私、結構この名前も気に入ってるんですよ。最初は慣れませんでしたけどね」
「いつか_____ができるだろうか」
「え?」
「いや、なんでもないです」
風にかき消された彼の言葉は儚く虚空を舞った。
――いつかもう一人の”陽奈さん”を俺は知ることができるのだろうか。
謎の多い彼女、きっとなにかを隠し事があるに違いないとうすうすは感付いていて。でもそれを問い詰めるのはなんだかよくないような気がしている沖田は、ふと夕暮れ空を見ながらフッと目を細めた。