願い叶えし刻
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「嬢ちゃんの家はどこだい?珍しい服を着てたけど、嬢ちゃんの住んでるところでは当たり前なのかい?」
着替え終わり居間でお茶を貰っていると、さきほどの男の人”五郎さん”から質問を受ける。五郎さんと幸さんは夫婦で、子供はいないらしい。
「…家は東京です。普段は洋服を着ているんですけど…」
「へぇー東京か、聞いたことのない地名だね。それに、よう…ふく?ってのも初めて聞いた」
「服はメリケンから貰ったのかね?」
彼らの会話に、顔をしかめる。日本の首都、東京を知らない?メリケンていうのは、どこかの店の名前だろうか?
「メリケンていうのは?」
「あれ、陽奈ちゃん知らんのかい?日本中大騒ぎしてたんだけどねぇ」「はい、すみません」
驚く彼らに体を小さくする。ニュースは見てるほうだし、時事問題とかには一応詳しい方なんだけど。
「遥か遠くの異地から黒船に乗ってきた人たちだよ」
「彼らはメリケンという国から来たらしいで」
――黒船…?
二人の言葉に、サァーっと血の気が引いていくのが分かった。もしかして、彼らが言っているのはペリー率いる黒船来航のことなのかもしれない。だとしたら、メリケンはアメリカのこと?
膨れ上がる不安要素。さっきから感じている違和感。道行く人々は丁髷だったり帯刀していたり。洋服や東京を知らない態度――。
早まる動悸を抑えながら、恐る恐る質問する。
「今って何年ですか?」
「文久4年だよ」
「――っ」
私の質問に対して、なんでそんなこと聞くんだ?とでも言いたげに五郎さんが不思議そうな顔をしながら答えてくれた。
歴史は得意な方だから、すぐにぴんと来た。
――文久4年。150年も昔の、江戸時代の終わり。
よく大河ドラマの舞台となる、激動期――”幕末”だ。
「う・・そ・でしょ」
顔が青ざめていく。ありえない。何かの間違いだ。
「陽奈ちゃん、大丈夫?顔色悪いで」
平常心を保とうと試みるも、心臓はばくばく言って。彼らに言ったら信じてくれるだろうか。自分でも信じれられないのに。
「今布団ひくから、少し横になってきな」と、心配してくれる幸さんと五郎さんにされるがままに、私は部屋に案内してもらった。
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一方、その頃の新選組屯所では――
「怪しい女ぁ?」
机に向かって筆を滑らせていた土方は、一人の幹部と一人の隊士を見据える。
「は、はい!甘味屋の手前の家に、着物じゃない異国の服を着た女が入っていたのを丁度見かけました!」
「――甘味屋……総司、お前また巡回さぼったのか?」
眉間に皺を寄せる。 険しい顔をした土方に、総司と呼ばれた青年は笑って言った。
「少し休憩しただけですよ、ね?」
同意を求められた隊士は、慌てて大きくうなずく。
「はぁ・・・分かった。山崎を送らす。報告ご苦労だった」
ため息をついて、再び机に向かう土方に総司は尋ねた。
「もし、その娘が長州のものだったり、異人だったら?」
「その時はその時だ。例え女だろうが、子供だろうが、容赦はしねぇ」
土方の冷たい目に、隊士はごくりと息を呑む。
「 ――俺たちは、己の道を信じて進むのみだからな」