浅葱色の空
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梅雨入りしたのか連日ずっと雨だったが、久しぶりに空にはお天道様が輝き私は中庭で洗濯にとりかかった。水色の羽織が、同じ水色の空に溶け込んで眩しく風にはためいていた。
「綺麗な色…」と呟きながら、じめじめとした暑さの中ひたすら洗濯物を干していく。風に揺れる沢山の洗濯物を見ながら、ふぅとため息をつく。この時代にやってきて、もう約2ヶ月経とうとしているんだ。そんなことしみじみと考え始めたら、なんだか私が生きてた平成の時代が夢みたいに思えて。ずっとこの幕末にいるのかな?またいつか平成に帰るのだろうか?
「――あの、手拭いが飛ばされてきましたよ」
「え?」
ハッと背後からの声に振り返れば、見覚えのある男性が立っていて。「あ、ありがとうございます!」と慌てて頭を下げて、手拭いを受け取る。
「・・・確か貴女は大滝ひまりさんですね」
「は、はい。貴方は?」
「山南敬助と申します――、あの日の夜以来ですね」
「――っ」
そうだ。あの池田屋事件の夜、私に池田屋まで道のりを教えてくれた人だ。
「あの日はありがとうございました」と深々とお辞儀すれば顔が肩を竦めた。
「貴女を屯所から出したせいで、こってり土方君たちに怒られましたよ」
「本当すみません」
再び深々とお辞儀する。
「何故、そんな危険なとこに行こうと思ったんですか?貴女が行ったところで、状況は何も変わらないじゃないですか。むしろ足手まといになるだけです」
無表情の山南さんの口から出る厳しい言葉が胸にぐさぐさ突き刺さる。あの時はそこまで深く考えていなかった。自分がどれだけ無力かなんて自分で分かりきっている。だから、何も言い返せなくて。
「――貴女は何がしたいんですか?」
「え?」
「だって貴女は新選組にただ居座っているだけの女中のような存在ですよね?実際、命をかけてなにかを成し遂げようとしているわけじゃない。そのうち本当に命を落としますよ――」
彼の冷たい瞳が、私を何もかも見透かしているようで、ふいに目を逸らす。数秒、沈黙になると彼は踵を返し、どっか行ってしまって。私はぼんやりとその背中を見送る。
――貴女は何がしたいんですか?という一言がいつまでも胸の中でぐるぐる渦巻いていた。
自分で何がしたいのか分からない。私の願いは、あの忌々しい生活から抜け出すことで。その願いが叶っている今、私は何をすればいいんだろう。
「あんまり考え込まない方がいいよ」
「うわっ、びっくりしたぁ」
ふと沖田さんの声に、思わず声を漏らす。すみません、と笑う彼にいつからいたのか尋ねる。
「んー、最初からですかね。木陰で休んでたら、話し声が聞こえたから」
ということは全部聞かれていたのか。何故か気まずくて、下を向く。
「山南さん、最近ちょっと風当りきつくて。本当はもっと優しくて温和な人なんですよ」
山南さんをフォローする沖田さんは少し目を細めて、山南さんが消えた方を見た。きっと随分昔からの仲なんだろう。
「やっぱり怪我をしてから少し変わってしまった・・・」
「怪我してるから、池田屋に行かずに留守番だったんですか?」
頷く彼は、なんだか心配そうな顔だった。山南さんの射るような冷たい目を思い出す。なんとなく胸騒ぎがした。
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「お姉ちゃん、早く早く!鬼に見つかっちゃうよ!」
子供に手を引かれながら、壬生寺の境内を走りまわる。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
「待て待て待てぇぃい!」
「きゃああああ!」
じめじめとした蒸し暑さの中の鬼ごっこ。 鬼役の永倉さんが容赦なく、子供たちを次々に捕まえていく。 ――少し大人げないと思う。
悲鳴をあげながら逃げ回る子供たちに苦笑いしながら、私も私の 手を引っ張りながら一生懸命逃げている女の子と共に逃げる。
「次はお前たちだあああ!」
狙った獲物は逃がさない、とでも言うように私たちに狙いを定めた瞬間物凄い勢いで迫って来て。 彼の物凄い形相に、女の子は一瞬ビクッとなると、悲鳴を上げた。
「いやああああああ」
私の手を引っ張ってた女の子は、私の手を離し一人で逃げていく。 取り残された私は観念して、大人しく鬼に捕まった。
「おしっ、ひまりちゃん捕まえたぞ!!」
「……手加減してくださいね?子供相手ですよ?」
「んなことは承知の上だ!!」
とか言いながら、先程の女の子めがけて全力疾走で。 いや分かってないですよね、と心の中で突っ込みながら苦笑した。