浅葱色の空
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第二章 浅葱色の空
池田屋事件の出来事はすぐさま町に知れ渡り、どうやら幕府からも新選組の働きが認められたらしい。手柄をたてた新選組でも、死人3名怪我人多数という被害がでていた。看病で忙しく屯所を駆け回る、私と咲さん。
「ひまりちゃん、この薬を平助を沖田さんのところにお願いできる?」
「はい」
咲さんから薬を貰い、藤堂さんの部屋の前で止まる。
「藤堂さん、入りますよ?」
「おう」
部屋に入れば、布団の上に胡坐をかいて笑顔で迎えてくれる。薬を持ってきました、と言えばたちまちその笑顔が崩れ、渋い顔に変わる。
「またその薬か。まぁ飲まなかったら土方さんが怒るからな」
苦笑いしながら、薬を口に入れ顔をしかめながら飲み込む。
「にっげぇ!!!」
「良薬は口に苦しですからね。怪我の方は大丈夫ですか?」
「おう、こんなの痛くも痒くもないから、安心しろ」
そう笑う藤堂さんだけど、彼の額にできた深い傷跡は見てて痛々しくて。思わず顔を背けたくなってしまう。
「じゃあ、沖田さんに薬持って行きますね」とまるで逃げるようにして、藤堂さんの部屋を後にして、沖田さんのもとへ向かう。
池田屋事件で倒れてから沖田さんは熱を出し、違う部屋で匿われていた。
「沖田さん、入りますよ」
返事がなく、不思議に思いながら襖を開ける。
「・・・ちょっと!!何してんですか!!」
「あれ、ひまりさん、どうしたんですか?」
部屋の中で木刀の素振りをしている沖田さんは私を見るなり、不思議そうな顔をした。私は一瞬固まって、そして呆れたように口を開く。
「まだ病み上がりなのに、駄目じゃないですか。また熱あがったらどうするんですか?はい、薬を持ってきました」
そう言われて沖田さんは渋々と素振りをやめ、布団の上に座る。
「この薬苦いから、飲みたくないです」
「……さっき藤堂さんも頑張って飲んだので、沖田さんも」
「昨日、飲みました」
「今日も飲むんです」
嫌な顔をする沖田さんに負けじと、言い返す。
「……ひまりさん、姉みたいなことを言うね」
「……必死ですから」
面白そうに笑う彼に、私はふぅと息を漏らし、薬を手渡す。顔をしかめながら、薬を飲みほした沖田さんは、私に言った。
「やっぱり苦い」
「良薬は口に苦しです」
そう言うと、ぷはっと吹き出す彼。何が面白かったのか全然理解できない。
「本当に姉さんにそっくり」
「え?」
「俺は幼い頃に父を亡くして、ほぼ姉の手一つで育ったんです。けれど、8歳の時天然理心流道場に内弟子になり、そこで近藤さんに出会った。近藤さんも俺にとって親のようなもので……俺はあの人に一生ついていく」
遠い過去を懐かしむように目を細める沖田さんは、ふいに顔を歪ませた。
「それなのに吐血して倒れて・・・今休んでる暇なんてないのに」
ぎりっと悔しそうに拳を握る彼は焦っているようにも見える。
「早く稽古して、もっと強くならなきゃ」
「でも、まずは怪我をちゃんと直して体調を回復させて下さい。安静にしないといつまでも稽古させませんよ」
ちゃんと安静にしないと病気が…、という言葉を飲み込む。今すぐにも、彼の病気を話したら彼は救われるんだろうか。もし、私が彼の病気を防げたら、別の歴史が生まれてしまうのだろうか。そうしたら日本の未来はどんな風になるのだろう。未来を変えてしまう覚悟なんて、ない。
――ギュっと拳を握りしめながら、目を伏せた。