願い叶えし刻
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けれども、痛みはやってこなくて。
――キィィンッ
と、響き渡った金属音に、ハッと目を開ける。
「沖田さんっ」
私を庇うように沖田さんが私を引き寄せて、そして後ろに隠す。目の前に立ちふさがった沖田さんの刀は、吉田さんの刀を受け止めていて。
そして、沖田さんが刀を目にも止まらぬ速さで振るうなり、グシュッ、という鈍い音が、耳に届いて。同時に沖田さんと吉田さんがドサッと倒れる。
何が起こったのか。あまりにも速すぎて。どくん、と心臓が嫌な音を立てる。
――う、そ…でしょ……っ
サァッと血の気が引いていく。沖田さんの刀が吉田さんの腹部に刺さってている。そして沖田さんは血まみれだけど、どこも傷はなくて。慌てて沖田さんに駆け寄り、息を確認してみると、彼は確かに生きていて、気絶しているだけのようだった。
良かったと安堵した瞬間、ふと吉田さんを見て、絶句する。吉田さんはもう既に息絶えていて。どくどくと心臓がうるさい。血の匂いが鼻にこびりつく。さっきまでへらへら笑って、軽口叩いてた人がこんなにもあっけなく死んだんだ。
戦いが終わった安堵と、目の前の「死」に、感情が頭が混乱して――
「ひまりっ!!」
息を切らして駆け込んできた土方さんの声に、ビクッとなる。
「総司は!?」
「生きてます。吐血して倒れましたけど…」
良かったとでもいうように安堵のため息をついた土方さんは、私が顔を歪ませているのに気付き、傍に倒れている吉田さんを見る。
「……」
「……」
無言が続いた後、私は目を伏せてぽつりと零す。
「ほんとに……一瞬で……」
ほんの一瞬で「死」は訪れた。その先は言葉にせず、ただじっともう動くことのない吉田さんを見つめた。頭がくらくらする。視界がぼやける。
――死にたい。
確かに私は、あの日神社でそう願っていた。だけど、ぞわり、と背中が粟立つ。あんな簡単に「死」というワードを口にしたことが恐ろしい。「死」が遠い存在だったあの時に比べて、今はこんなにも身近に存在していて――
「おい、大丈夫か?」
ふと土方さんに、顔が真っ青だぞと指摘される。 いつの間にか震えていた体を抑えながら、気付いた。
そして白々しく夜は明けた。 疲れ切った私は精神的にも体力的にも限界で、最後の力を振り絞って地獄絵と化した池田屋を後にする。
誠の旗を掲げた集団が血まみれになりながら朝日を浴びていて。 彼らの背中がいつもより、大きく見えた。
第一章終