願い叶えし刻
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薄暗い廊下を進んでると、どこからか話し声が聞こえてきて。少し躊躇うも、一つ深呼吸してその声を辿った。
「・・・ですね・・やはり何か・・・・」
「まだ・・・連絡が来るまで・・」
彼らの声は何処からか緊張していて。だんだんはっきり聞こえてくる会話に、私は息を止めて耳を澄ました。その瞬間だった。
「ほ、本命は池田屋です!!」
「池田屋!?すぐに土方さんたちに伝令を!」
――池田屋…っ
ハッと口を覆う。聞き覚えのある言葉。それは参考書には必ず載っているもので。6月に起こった、新選組がおおいに活躍した有名な”池田屋事件”。池田屋に潜伏していた長州藩・土佐藩などの尊王攘夷派志士を捕縛するという歴史に残る重要な事件だ。足が小刻みに震えだして、固まる。
――どうしてもっと早く思い出せなかったんだろう?今、物凄く重要な歴史が動こうとしているのに。
「おい!人手が足りないらしいぞ!池田屋ですでに斬りあいが始まって負傷者が出た!誰か医術をたしなんでいる者は?」
「山崎さんは今ここにいねぇし、どうする!?」
緊迫した空気の中で、隊士たちが口早に喋っている。グッと拳に力を入れながら、蝋燭に灯された広間に一歩入る。
「あの……!」
声を絞ってそばにいた男の人に声をかければ、彼は「今、構ってる暇ねぇんだ!」と顔をしかめて。
「……私に池田屋に行かせてください!負傷者の手当てなら、少しは、できます…!」
――ああ、自分は何を言っているんだろう。なんで自分から戦場に走り込もうとしているんだろう…!
行くだけ足手まといになる可能性も高い。自分じゃなにもできないかもしれない。怖さで体が強張って動けなくなるかもしれない。それでも、頭でごちゃごちゃ考えているよりも、口が勝手に「行く」と叫んでいた。
あまりにも真剣な私を見て、彼は顔をしかめながらも早口に道のりを説明してくれた。
「ありがとうございます!」
広間を飛び出そうとした私は彼の声に立ち止まる。
「言っとくけど、危険だぞ!!」
「――っ」
分かっている。今から自分がどれだけ危険なことをするのか。
「でも、じっとしていられないんです!」
サッと頭を下げるなり、私は勢いよく池田屋に向けて走り出した。
行灯が燈る暗闇の中をただひたすらに走り続ける。三条小橋……三条小橋……慣れない町の中を一人で走るの不安が大きい。けれど、前に進むなきゃ。
――ふと微かに怒鳴り声と物音がして、私は拳をギュっと握り近付いた。路地裏を抜けると、そこは池田屋で。
「うおおおおおおおお」
「斬れ!怯むんじゃねぇ」
激しい金属音と怒号が体を震わせる。池田屋に一歩近付くのを躊躇っていると、裏口から抜け出してきたのか一人の男の人が血だらけで逃げてきた。ふらふらの足取りの彼は、私の目の前でどさりと地面に膝をつく。
「っう……うっ……」
「だ、大丈夫ですか?」
慌てて駆け寄ると、彼の腕はぱっくり斬れてて。強烈な血の匂いに、思わず顔をしかめる。しっかりしなきゃ!と自分を鼓舞しながら布で傷口を覆い、軽く縛れば彼は苦しそうに呻き声をあげてから、
「すまない……ありがとう」
と、力のない声でお礼を言った。私はお辞儀をして、すぐに池田屋の入り口に立つ。きっと、まだ怪我をしている人が沢山中にいる。なんとかしなきゃ。けれど、中の悲惨な状況を見ると足が震えてくる。気迫のこもった咆哮をあげながら刀を振るう人。断末魔の悲鳴をあげながら倒れる人。
「うおっひまりちゃん!?何しにきたんだ!?」
ふと永倉さんが駆け寄って怒鳴る。
「怪我人の看病くらいなら私だって!な、永倉さん指から血が!」
「こんなことは大したことねぇ。それより、平助と総司を見なかったか?」
首を横に振る。
「やっぱあいつら先に上行きやがったか」
「わ、私様子見てきます!」
「それは危ねぇ!」
怒鳴られて、いつもならここで臆するのに。
「大丈夫です!このままなのは嫌なんです!!」
永倉さんがハッとしたようにこっちを見ている。
「分かった。無理すんなよ」と、言いながら彼は私の頭を撫でた。池田屋の中は地獄絵で。私は体を強張らせながらも沖田さんと藤堂さんがいる2階へ向かった。