願い叶えし刻
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怪我も大分よくなり、復活してきた頃。障子を全開にした部屋に比較的涼しい風が入り込んでくる。6月のじめじめした蒸し暑さの中、ほんの興味本位で江戸時代の書物に目を通していた私はふと物音が聞こえて、書物から顔を上げる。
「……土方さん?」
廊下に立っていたのは、珍しく真顔の土方さんで、私は一気に身が引き締まった。
「部屋入ってもいいか?」
「あ、はい。あ…沖田さんの部屋ですけど」
緊張する。一体、なんの用件だろう。と、少し身構えていれば――
「すまなかった」
「…え?」
いきなりすぎてついていけない私に、土方さんは頭を下げた。驚いて声も出ない。あの土方さんが私に謝っている。
「調べても、お前が長州だという情報は無かったし、何よりお前は総司を長州から庇って怪我をさせちまった」
「あ、いや、そんな」
「勝手に疑って、あの時も勝手に怒鳴って、悪かった」
開きかけた口を閉じて、なにを言おうか迷って。そして、緊張していた体の力がゆるりと抜けて、私は首を横に振った。
「いえ、そんな……。土方さんは新選組の副長なので、私を疑うことは当然です。……はっきりしない怪しい女ですから」
もとはといえば、出身も名前も偽ってここにいる私がいけないんだ。己の道を真っ直ぐに進む彼らの邪魔になるのは、私の方。
「あと、総司を助けてくれてありがとな」
礼を言う彼の顔は穏やかで。きっと、この人は凄く沖田さんのことを大切に思っているんだと感じた。
「あ、いえ。勝手に体が動いて……」と、しどろもどろに返すと、初めてあの鬼の副長が私に笑った顔を見せた。
「っ!!」
本当、最近は驚くことが多すぎて。同時に、嬉しいことも多い。
「じゃあ、俺は仕事があるから」
そう言い、立ち去った彼を見送りながら、胸のつっかえが少しとれたような気がした。
その夜、全開の障子の外では月が爛々と輝いていた。蝋燭を消した部屋には、月明かりだけが淡く私たちを照らしていて。もう既に布団に横になっている私は障子に寄りかかって夜空を見上げる沖田さんに言った。
「沖田さん、寝ないんですか?」
「いや、寝ますよ」
そう言ったのにも関わらず、微動だにしない彼。
「妙に静かに感じるの俺の気のせいかな」
「……分かりません」
「んー、嵐の前の静けさってやつかな」
そう呟く彼が、今にも消えてしまいそうに儚く見えて、私は思わず彼の名前を呼んでいた。
「沖田さん…」
「何ですか?」
「……な、何かあったんですか?」
月を見上げたままの彼は、私の方に視線をずらして口を開いた。
「もし俺が斬られそうになっていても、ひまりさんは今後あのような真似はしないで下さい。怪我を負わせたくない」
真剣な彼に、私も頷き黙りこくる。もしかして、ずっと私の怪我気にしていたのかな?でも、あの時もし私が沖田さんを庇っていなかったら、彼は後ろからざっくり斬られて最悪の場合死んでいたのかもしれない。新選組1番組組長の彼が、こんなところで命を落としては駄目だ。彼はこれから活躍しなければならない人なのだから。