願い叶えし刻
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医術をたしなんでいる隊士
「
”吉田稔麿”――長州藩の活動家で、その秀才ぶりは松下村塾でも有数のものであったと言われている人物。苦い顔をする土方に、永倉は嬉しそうに言った。
「でも、長州から俺らを助けよとしたってことは、あいつらとは繋がってないな」
「……まぁ、はっきりとは言えねぇがな」
ふとドタバタと廊下を走る音が聞こえてきたと思えば「土方さんっ、ひまりちゃんが!!ひまりちゃんが斬られたって!!?」と叫びながら駆け込んだ咲の顔は青ざめていた。横たわるひまりに駆け寄りながら、咲が恐々と尋ねる。
「大丈夫なんですか?」
「うん、山崎君によるとそこまで深くはないって」
良かった、と安堵した彼女に、その様子を見ていた彼らは少し顔を歪ませたのであった。
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ふと目が覚めれば、沖田さんの声が聞こえた。
「あ、気が付きました?」
「……あれ、私……」
「半日くらい寝てましたよ」
――え?と驚きながら、起き上がろうとして、腕に力を入れたところで鋭い痛みが走り、声を漏らす。
「大丈夫ですか?」と、心配そうに顔を覗き込んでくる彼に、頷きながら自分の腕を見る。ぐるぐる巻きの包帯。そうか、沖田さんを庇おうとして斬られたんだ。
「すみませんでした」
「え?」
「俺の不注意で、ひまりさんに怪我をさせてしまった」
ふるふると首を横に振る。
「沖田さんのせいじゃないです。私の体が勝手に動いて、勝手に自分で飛び込んだ自分のせいですから。沖田さんこそ、怪我してませんか?」
頷く彼に、安心する。もとはといえば、私が勝手に屯所を飛び出して、それであの人に絡まれて。――迷惑かけてしまった。
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なんとなく、あの事件から新選組の方たちと気まずい日が続いて。 私は、なるべく部屋の中に大人しくこもっていた。 そんなある日のこと、沖田さんが巡察でいない為、藤堂さんが昼餉を運びに来てくれた日のことだった。
「あのさ、買い物付き合ってくれね?」
「……はい?」
あまりにも唐突な願いに、思わず聞き返してしまう。
「だから、町に行くよってこと!土方さんのお許しもでたしな!」
ポカンと固まる私を他所に、行くぞと言い歩き始めた彼の後をワンテンポ遅れてついて行った。 京の町は、人であふれかえっていて、とても賑やかで。 何が起こってんだかまだ理解できない私は、必死に藤堂さんから逸れないように人込みを掻き分ける。
「あのさ、俺お前が屯所に来た時さ、正直お前を凄く疑ってた。長州のものじゃないかって、よく観察して、受け入れようとしてなかった」
いきなり話しはじめた藤堂さん。
「……いえ、疑われて当たり前ですよ」
「でも、今はそんなこと思ってないから」
「え?」
「勝手に疑ってすまなかった」
え、と数秒その言葉を反芻しながら 戸惑う私に、藤堂さんは頬を搔きながら照れ臭そうに笑った。
「これから、仲良くしてくれる?」
「え、あ、はい!」
思わず声が大きくなる。 どういう風の吹き回しか分からないけど、 こんなにも、喜んでる自分に驚いて。 何かが、変わっていくような、なんとなくそんな気がした。
「わーっ、これ凄く美味しい!!」
「良かったぁ」
縁側に座って、私は藤堂さんと買ってきたお饅頭を咲さんと食べていた。
「それにしても、怪我が大事なくて本当に良かった。あの後、ずっとひまりちゃん部屋に閉じこもってなかなか私も会いに行けなくて心配してたのよ」
「ごめんね、心配かけて」
「いいのいいの!みんな心配してたんだから」
「みんな?」
怪訝に首を傾げる。
「当たり前じゃない。土方さんなんて、気分転換にってひまりちゃんを京の町へ行かせたんだから」
「え?」
思わず彼女の言葉を疑う。あの鬼のような土方さんが私を心配?信じられなくて、眉を潜めていると、咲さんが吹き出した。
「まぁ確かにそう見えないけど、あの人、あれでも極度の心配性なんだよ。それに沖田さんもね」
なんだか心がくすぐったくて「咲さん、ありがとう」と、はにかみながら咲さんに微笑むと、彼女は口を開いて固まった。不思議に思っていると「ひまりちゃんの笑顔初めて見た!」と、彼女は驚いたように叫び、笑った。
「え、そんなことは…」
「いやいや、こんな可愛い笑顔は初めて!!」
お互い顔を見合わせて吹き出す。今思えば、これが嵐の前の幸せだったのかもしれない。私は、この幸せに浸って、これから起こることなんて考えもしなかったんだ。