願い叶えし刻
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「てめぇは自分の立ち位置考えて行動してんのか!?」
鋭い一言にびくっと体が跳ねて、何か言おうとしても口が思うように動かせない。
「ちょこまかされると、迷惑なんだよ。総司のやつも監視しねぇで。くそっ」
「土方さん、落ち着いてくれよ」
苦笑しながら、止めに入った永倉さんを土方さんは一瞥する。
「新八、こいつは長州のものかもしれねぇっていう疑いがあるんだぞ。気抜いてりゃ、毒盛られて、俺らがやられるんだぞ?」
「…っ!ど、毒だなんて…私はただ……」
静まり返った広間に、つっかえつっかえの言葉が虚しく響いて。みんなの視線を感じながら、思い出したのは”あの日の教室”での出来事。
もう、いやだ。好意で行動を起こせば、こういう風になる。何をやっても、無駄なのだ。これじゃあ、あの時と、平成の時代と一緒じゃないか。お盆を置いて、広間から出ようと駆けだす。
「土方さん、何騒いで……っわ!」
「あ……っ!」
丁度やってきた沖田さんにぶつかり、よろける。
「あれ、何でここにひまりさんが?」
「……っ」
事情を知らない沖田さんが不思議そうな顔をしているけど、それに構わず駆けだす。早く、誰もいないところへ。私が一人になれるところへ――。
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気が付いたら、見知らぬ川沿いの土手にいた。思わず、新選組の屯所から出てきてしまった。はぁ、と深いため息をついて、土手に腰掛ける。結構走った気がする。足がじんじんして、思わず視界が涙でぼやける。
本当に嫌になっちゃう。あの日は、クラスメイトが黒板消しの仕事をしてて、途中で先生に呼ばれて教室から出てったから、代わりに手伝ったのだ。もちろん、彼女のために好意的に動いたのに。
『何?いい子ぶってんの?そうやって、先生にも気に入られようとしているんでしょ?』
『大滝が使った後の黒板消しで消しても汚くなる一方だって』
『へぇー、お金持ちのお嬢様でも黒板は消せるんだ?』
違う、違うのに。言葉が上手くでなくて。前から、家のことも関係して疎遠がちだったけど、今回のこれをきっかけにクラスメイトたちはヒートアップしていった。金持ちでお高くとまっているとか、いつも成績優秀だからクラスメイトを見下している、とか。私が彼女たちと距離を縮めようとしても、私はいつも空回りして、距離は開いていく一方で。
思い出したくもない出来事が、頭の中でぐるぐる回る。
「――お前、女一人か?」
ふと声をかけられ、振り返る。腰に刀をつけた男の人が5,6人、にやにやしながらこっちを見ていてサッと嫌な予感に体が強張った。
「俺たちが相手してやろうか?」
「丁度、俺たちも暇だったし」
身の危険を感じ、少し後ずされば「おやおや警戒しなくても、いいんだぜ」と鼻で笑う彼らが、目を細めた。頭の中で警鐘が鳴り響いて、逃げようとあたりをさっと見渡した。
「逃げなくてもいいんだよ」
「俺たちと楽しいことしようぜ」
――や、だ……怖い……っ
どくどく言う心臓。慌てて逃げようとするが、腕を掴まれてヒュッと喉が鳴った。食い込む彼の手が痛い。顔をしかめ、抵抗するも男の力に女が叶うはずもなく。
「っ!や、離して下さい!」
「大人しくついてこいよ」
「……っ誰か!!誰か助けてください!!」
「てめっ、喚くんじゃねぇっ」
パシッと頬を叩かれる。じんじんする頬。唇を噛んで痛みをこらえる。いくら助けを呼んでも、私を助けてくれる人なんていないじゃない。今まで経験していたことなのに。それでも、私は助けを求めてしまって、いつも勝手に絶望して。
「お前ら、何騒いでんの?さっさと行くよ」
「あ、吉田さん。見たくだせぇ、女捕まえましたぜ」
「ふーん」
どうやら、吉田と呼ばれた人は偉いらしい。その人に、彼らは頭を下げている。彼は私の前まで歩み寄ると、顎に手を添えられ強制的に上を向かされる。精一杯抵抗しようと、睨んで口を開く。
「な、なにすんですか」
「なにも?」
怖い。怪しく笑う彼に不気味さを感じていると、聞き覚えのある声が響いた。
「――総司!ひまりちゃん見つけた!!」
永倉さんの叫び声が聞こえたと思えば、目にも止まらぬ速さで沖田さんが私のところまで駆けてきた。
「……アンタは吉田稔麿だっけ?ひまりさんを離せよ」
「……新選組の沖田総司、か」