願い叶えし刻
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ただ走り続けた。もう何もかもが嫌で。このまま何処か遠くに消えてしまいたい。
涙が零れ落ちないように、唇を強く噛む。キリキリする胸。疲れた足。ふと立ち止まったのが、町外れの小さな神社の鳥居前だった。
――知ってた?嘉納神社にお願いすればなんでも叶うらしいよ。
――でも本当に心の奥底からの願いじゃなきゃ、叶えてくれないんだって。
脳内でクラスメイト達の会話がぐるぐると回る。
――ここが願いを叶えてくれる、嘉納神社?
小さく息を吐いて、鳥居をくぐり神社の境内に入る。3月の冷たい風が吹き荒れる中グッと拳に力を入れた。そして心から願ってることを、ポツリと零した。
「――もう死にたい」
第一章「願い叶えし刻」
”本当”の願いを叶えし神社でまさか、こんなことになるなんて思いも寄らなかった・・・
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「おい、お嬢ちゃん何してんだい。そんな変な格好して」
後ろから声をかけられ、ゆっくりと振り返って固まる。時代劇に出てくる着物に丁髷の男の人が不思議な顔をしてこっちを見ていた。こっちから言えば、彼だって十分変な格好だ。
コスプレ…?と、怪訝に思いながら、警戒心を露に固まっていれば、「そんな格好でウロウロしてたら、新撰組に捕まってしまうで」と彼が顔をしかめた。
「新撰組?」
知っている名前に首を傾げる。あの歴史の教科書に載っている‘新撰組’のことだろうか。そんな馬鹿な。彼はいきなりを何を言い出すんだろう。
「そうか新撰組を知らないってことは遠くから来たのかね?とにかく、その格好はまずい。ほれ、着いて来なされ」
警戒しながらも、彼の後に続き神社から出る。足を進めるたび、いつもとは違う風景が広がっていて、息をのんだ。
――どういうこと?
ビルやコンクリートの壁や道なんてどこにもない。ましてや人々もみんな着物。どうしちゃったんだろう。私の知っている町ではない。瞬きしても、目をこすっても、頭を振っても、どうやら夢じゃないようで。
何が起こったのか全く理解できずに、頭が混乱していく。
すれ違う人の視線が痛くて。好奇心と嫌悪の混じった視線に、顔を俯かせながら唇をきつく締めた。
「ここじゃよ、ここ」と、辿り着いたのは甘味屋の手前の小さな家だった。男の人の後に続いて中に入ろうとして、ふと強い視線を感じた。恐々と降り返ると青年と目が合って。
「ほれ、さっさと中入って。おーい、お幸やぁー。この娘に着物をやってくれぇ」
ハッと慌ててその青年から視線を逸らし、中に入った。混乱したままボーッとしていると奥の方から40代くらいの女の人がやってきた。
「おやおや、珍しい格好だとこと。さぁさぁ、上がって。ついてきて頂戴」
言われるままに、その人に続いて部屋に入ると、着物を渡されて。
「私、お金持ってなくて。だから買えません」
着物っていくらするんだろうと思いながら返そうとするが「いいのいいの。これはあげるんだから。着てみてと、」彼女は微笑んで言った。
はぁ、と頷きながら着物を着る。小さい頃に絶対将来必要ないなと思いながら習っていた着付けがまさにこんなところで役に立つなんて。慣れた手付きで着物を着終えると、彼女は目を輝かせた。
「とっても似合ってるわ。良かった。私は幸。貴女は?」
「陽奈です」
「そう、よろしくね」
目を細める彼女に、こくりと頷く。
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