【長編】運命の糸
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
______________
______
あの日を最後に私はもう倫くんと会うことはなかった。痛くて苦しい心を誤魔化すかのように、私はリハビリと通信制の高校の授業に専念して、静かに代り映えのない日々が過ぎていった。
そして大学2年生の冬――・・・
「――いおりって正月は兵庫に戻るんだっけ?」
不意に大学の友達に尋ねられ『うん。というか、冬休み初日の明日から帰省するよ』と言えば「はやっ!冬休み遊べないじゃん!」と口を尖らせながら頬を膨らませている。
『ごめんごめん。でもそっち彼氏と年越しするんでしょ?ならいいじゃん』と肩を竦ませながら笑う。
「いおりも早く彼氏作ればいいじゃん」
『…ん、そうだね』
曖昧に笑って濁した私の胸には、高校生の時のままで時間を止めた倫くんの顔が淡く浮かぶ。
苦しくても季節は巡り、通信制の高校を無事卒業した私は実家を離れ、東京の大学へ通っていた。リハビリを真面目にやったおかげで、怪我は完治。日常生活にはなんの影響もなく過ごせている。
「なんで彼氏作らないの?サークルの先輩からも告白されたって聞いたよ?…あ!好きな人いるの!?」
その言葉に、ほんの少し胸が疼く。
『そうだね、いるのかもしれない』と困ったように眉をひそめながら苦笑を零せば「なにそれ」と、友人が怪訝な顔をする。
倫くんを、好き”だった”人にしようと頑張った。彼を忘れようと、あれはもう過去のことなんだと、何度も自分に言い聞かせたけどそれは無理だった。あれから年月を重ねても、彼への想いは消えなくて、ことあるごとに彼との思い出が蘇る。
私が彼と別れ、稲高を転出した日から、一度も彼とは連絡をとっていなくて。そもそも連絡先を消しちゃっているから連絡をとろうにもとれないんだけど。
だけど、それくらいしないと、きっと気持ちは簡単に揺らいでしまうと思ったから。
_______________
___
久しぶりに実家に帰った日、高校時代の親友が電話をしてきた。
「いおり、今戻ってきてんやろ?今プチ同窓会してんやけど顔出さない?」
『え?』
「おいでよ」
『あ、でも…』
ふと頭によぎったのは倫くんのこと。
もしいるのだとしたら、会うのはなんだか怖くて、気まずい。
「あー、もしかして角名? 彼なら居らんよ。ってか彼も県外の大学行ったから、今実家に居らんと思うし。ね、おいでよ!久しぶりに会いたい!」
ーーということで、急遽プチ同窓会に顔を出すことになって。
指定場所に行けば、20人くらいの元クラスメイトたちがいて、懐かしい顔ぶれに顔が緩んだ。「ひっさしぶりやんいおり!」とみんなの輪の中にすんなりと入れて、まるで高3に戻れたような気分になれたことに嬉しくて、体がふわふわする。
夜21時を回ったけど相変わらずみんなはまだまだ盛り上がっていて、私はトイレに行ってから「(そろそろ帰るって、戻ったらみんなに伝えよう)」と思いながら、みんなのいる場所に戻ろうとして、思わず足を止めた。
みんなの「えっ?角名やん!」「ほんまや!どうしたん急に!」「あれお前、静岡の大学やなかったっけ?」「北海道やろ」「いや、ちゃうやろ」と、驚きの声とどよめきが聞こえたからだ。
息を飲んで視線を向ければ、高校生の時よりも背丈が伸びた倫くんの後ろ姿があって。ヒュッと喉が鳴って、体が固まった。
ーー倫くん…?…なんで、ここに…?
倫くんは背後にいる私に気付いていないようで。びっくりしているみんなに向かって「今さっき実家帰ってきたんだけど、そしたらプチ同窓会やってるってLINE来たから、まあ顔出そうかなって」と喋っている。
何年振りだろう。落ち着いた静かな声に、胸が締め付けられて泣きそうになって唇を噛んだ。きゅうっと胸が痛くて、でも久しぶりに彼の姿を見れたことが嬉しくて。
会いたいけど、会いたくない。会いたくないけど、会いたい。頭の中がごちゃごちゃになって。
体が動かずに、ただただ彼の後ろ姿を目に焼き付けるようにしていれば、不意に視線を感じたのか倫くんが、振り返った。彼の細い目に、私が映ってーー、そして驚いたように大きく見開かれた。
『……っ』
その瞬間、足が勝手に動いていた。
なんでか分からないけれど、店の出口に向かって、無意識に走り出していた。
分からない。自分でも分からないけれど、色んな感情がごちゃまぜになって、暗い寒空の下、白い息をたなびかせながら無我夢中で走る。
ーーどうしよう、なんて顔をして会えばいい?いや、そもそも身勝手な元カノと会うなんて、彼もしたくないに決まってるのに…っ