【長編】運命の糸
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『正直、今は自分のことで精一杯。倫くんとも全然会えていないし、これからもっと会えなくなる。これって付き合ってる意味あるのかなって思って…』
「ごめん、俺がもっと時間作れば…」
『ちが、倫くんのせいとかじゃなくて』
「でも俺はいおりのことが好きで、そばにいたいし、俺じゃ力になれないのかもしれないけどできるだけ力になりたいと思ってる」
『……っ』
顔を歪めて苦しそうに言う倫くんに、私まで胸が締め付けられて苦しくなる。
『…それでも…、今のこの関係性が辛いから、別れて欲しい』
そう言いながら、無意識に自分の手が左肩をさすっていることに気付いた。あの交通事故で、左肩から背中にかけてできた大きな傷跡。もう痛みはないけれど、いつの間にかここを庇うような癖がついていた。
鏡で見たときは衝撃を受けた。生々しいその傷跡は、自分でも見るに堪えなくて。
この傷を倫くんに見られたくない。
汚いと思われたくない。
もしかしたら彼は「汚くなんかない」と言うかもしれないけれど、それでも怖い。
好きな人の前では、綺麗でいたい、可愛くいたい、と思う。
「……どうしても、意志は変わらない?」
沈黙を破った倫くんの静かな声に、こくりと頷く。
自分勝手でごめんね。わがままでごめんね。
でも、お互いがお互いの足枷になる前に、こうしたほうが良い。きっと。
「ーーわかった、別れよう」
彼のその一言が、棘となって心に食い込み、息ができなくなりそうになった。望んでいた結果なのに、泣きそうになる。グッと唇を強く噛んで、言う。
『うん、ごめんね……、この作業もう終わるから、倫くん先帰ってくれる…?』
倫くんは優しいから、きっと私の気持ちを察したんだと思う。
「うん」と言うなり、彼は椅子から立ち上がって、そしてーー
「ーーでもこれだけは忘れないで。俺は、いおりのこと好きで、簡単に嫌いになんかなれないから」
夕日が差し込む教室に、ふわり、と風が舞い込むなり、倫くんのサラサラの黒髪がなびいた。真剣な彼の目が、私を真っすぐ見つめたと思えば、最後にふわりと私の頭を優しく撫でるなり、彼は教室から出ていった。
彼の姿が見えなくなってから、我慢してた涙がボロボロと溢れ出た。嗚咽が漏れて、思わず苦しい胸を抑える。
柔らかな彼の髪も、綺麗な長い指も、三日月のように細い目も、全て全て忘れたくない。
全てが愛おしい。
大好き、と付き合っている時にもっと伝えておけばよかった。
たくさんの思い出が、優しく淡く光って蘇って、胸を締め付ける。
ーー倫くん、大好きだよ。ほんとうに、ほんとうに、大好き。