【長編】運命の糸
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あの日と、その後一回お見舞いに来てくれた彼だけど、今のこの時期倫くんは大切な大会を控えていて、部活が忙しくてなかなか顔を出せずにいた。
部活が終わるころは、病院の面会時間が終わっている。それに土日は練習試合があって、くたくたに疲れている彼を無理させたくない。
だからLINEで「ごめん、なかなかお見舞い行けなくて」という倫くんに対して、私は「ううん大丈夫だよ。私は私で早く治すことに専念するから、だから倫くんは大会で優勝して、それを報告することを私のプレゼントにしてね」と返信をする。
強がって、そう返信するけど、本当は会いたくて会いたくて堪らない。
倫くんは人気者だ。
高2の春から付き合い始めたから、もう付き合って1年以上になる。それでも後輩の子は「角名先輩だっ!」と倫くんを見かければ嬉しそうにしているし、バレンタインも誕生日もたくさんのプレゼントが机の上に置かれている。高3になってますます倫くんはバレー部が忙しくなった。
同じバレー部の宮侑くんが「ぜったい俺らの代で優勝して北さんに自慢してもらうんや!」と言い張っているらしい。倫くんはたまに「どうにか外周サボれないかな」なんて零してるけど、でも倫くんがバレー大好きなのを私はよく知っている。
だから倫くんの迷惑になりたくなかった。倫くんの重荷になりたくなかった。忙しそうにしている彼に気軽に「会いたい」なんて言えなかった。
色紙の倫くんの手書きメッセージを指でなぞってから、胸に抱き締める。
「事故のこと聞いていおりがいなくなったらって思って怖くなって…」と、あの日の倫くんの震える声が脳内で響く。
ーー私も…、私も怖かった…
いや今も怖い。
当たり前だった日常がいとも簡単に奪われてしまったことに対する虚無感、怒り、恐怖。どうして、私がこんな目にあわなきゃいけないんだろう、と見つかるはずもない問いが毎晩毎晩ぐるぐると頭の中で回る。
行き場のない感情の吐き場はどこにもなくて。ただひたすら今は1日1日を自分の回復力を信じて、前を向いて生きようとすることで精一杯だけど、だけど、心が折れそうになる。
倫くん、助けて。
どうして…どうして私なんだろう…?
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一時退院として久しぶりに家に帰れることになった日は、生憎の雨の日だった。お父さんが運転する車に乗って、どんよりと雨雲が立ち込めている空を車窓から眺める。
ふと、稲荷崎高校の制服を着ている生徒たちの姿が多くなった。
ーーそっか、ちょうど下校時間か。
久しく着ていない制服。寂しさを覚えながらボーっと窓の外を眺めていれば、ふと倫くんの姿が目に入った。
「あ、りんーー」と、彼の名前を呼ぼうとして、固まった。
倫くんの隣にはクラスメイトの男女数人が歩いていてーー
楽しそうに笑っている彼らと、私との間に、分厚い壁を感じた。
心臓がギュっと掴まれたように痛くて、息ができなくなった。
すれ違ったのは一瞬。もちろん倫くんはこっちに気付いていなくて。
『……っ』
よく分からないけれど、倫くんの楽しそうな姿を見て胸が締め付けられた。
それはきっと、最近私に見せる倫くんの表情はすべて切なそうな表情だったり無理して笑っている表情だから。
久しぶりに見る楽しそうに笑っている彼。その隣に自分がいないことにとてつもない虚無感を覚えた。