【長編】仮面カップルを卒業したい
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【いおりside】
治くんと仮面カップルになってから1週間が経とうとしていた。この作戦が成功したおかげなのかストーカーの人はからっきし姿を見せなくなっていて。
「なんや作戦成功したんやな!良かったやん!」
と、侑くんがお弁当のおかずを頬張りながら言う。
作戦成功ーー、つまりもう作戦は終わりってこと…だよね…。もう付き合っているフリをしなくてもいいわけで、私たちは仮面カップルを卒業しなきゃいけなくなる。
『そう、だね』
がっかりしていることがバレないように、私は精一杯笑う。
『治くん1週間付き合わせちゃってごめんね…!ありがとう』
「そんな俺、大したことしてへんし」
少し困ったように眉をひそめる彼。ふと、この1週間の楽しかった思い出が蘇って、胸がきゅうっと苦しくなった。
『じゃあ今日は、一人で帰るね』
「え、せやけど」
『ふふ、もうストーカーもいないし大丈夫だよ』
精一杯の強がり。
こうして笑っていないと、泣いちゃいそうだからーー
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久しぶりの1人きりの帰り道。放課後に、急に先生に雑用を頼まれて帰る時間が遅くなってしまい、かなり日が沈んでしまった空には一番星が輝いていた。
昨日までは、一緒にここを治くんと歩いていたのに。
そう考えると、心にぽっかりと穴が空いたような気分になった。
一緒にパフェを食べたり、手を繋いだり、夕焼けが綺麗を笑いあったり、猫を見つけて一緒に追いかけたり、夜ごはんの当てっこをしたり。たくさんの思い出が走馬灯のように、優しく淡く流れていく。
大好きな人とたくさん過ごせたという、すごく幸せでほわほわした温かい気持ちと、所詮それはかりそめの関係で、どうせ釣り合わないと思ってしまう惨めな気持ちが入り混じって、思わず胸をおさえながら、じわり、と涙を滲ませた。
ーーああ、ほんとうに好きなんだな。
好きで、好きで、たまらない。
こんなにも人を好きになるなんて思わなかった。
ツーっと、目から溢れた涙が頬を伝った。
涙を止めようとしても、次から次へと溢れて、視界はぼやけていく。
俯いて、涙を拭っていればーー
「ーーいおりちゃんっ、!」
ふわ、っと背後から肩を掴まれたと思えば、目の前に治くんの顔があった。ハァハァ、と肩で息をしている治くんは焦ったような顔をしていて。
「またストーカーされたんか?クソッ、あいつ許さへん」
私が泣いているのを見て、彼が盛大に顔を歪めた。
一方、私は突然現れた彼にびっくりして、固まってしまいーー
「やっぱ不安になって練習終わってすぐ追いかけたんや。大丈夫か?なんもされてへんか?」
眉をひそめながらも、彼がかがんで私と同じ目線になる。私を安心させるように、優しく笑う彼の姿に、一度引っ込んだはずの涙がまた溢れてきた。