【長編】仮面カップルを卒業したい
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翌日の休み時間。
「いおりちゃん、今日の昼飯は二人きりで屋上で食わん?」
不意に教室で治くんにそう言われ、えっ、と目を見開く。いつもは教室で、侑くんや角名くんと食べているから、彼の提案にびっくりしてしまったのだ。
『えっと、それは彼氏のフリとして…?でも、学校内では、だ、大丈夫だよ…?』
すると、そばにいた角名くんが、
「いいじゃん、食べてきなよ。そこ遠慮するとこじゃないでしょ」
と、首を傾げながら言ってきて。
彼の目が「いい機会逃がしてどうすんだよ」と語っていて、うっ、と息を詰まらせる。
『で、ではお言葉に甘えて…屋上で…』
おずおずと頭を下げれば「律儀すぎやろ」とめっちゃ笑われた。
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透き通るような綺麗な青空の下、私と治くんは屋上でお弁当をひろげていた。時折吹く風が、珍しくハーフアップにヘアアレンジした私の髪の毛をなびかせていく。
「……今日、髪おろしてんの珍しいやん」
そよそよと銀色の髪の毛を風に揺らす治くんが、私を見ながら言った。いつもポニーテールにしている髪の毛をハーフアップでまとめてみたのは、なんとなく、もっと治くんに可愛いって思われたいという下心がアリアリだから。
少しでも意識してくれたら嬉しいなぁ、なんて思ってたけどーー
「…むっちゃ似合ってる……そ、その…かわいい、と思います」
と、予想を遥か上に行く返答に、心臓が止まった。
治くんを見ると、彼は少し顔を赤くさせながら恥ずかしそうに口元を抑えていて。珍しい彼の姿に、こっちまで恥ずかしさが伝染してして、顔が熱くなった。
ーーど、どうしよう、心臓がもたない…!
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【治side】
朝練が終わって教室に行けば、ふといおりちゃんの姿がすぐに視界に入った。
(ーーっ、いつもと髪型違うやん)
ポニーテール姿ではなく、髪の毛を下したハーフアップ姿を初めて見て、少し大人っぽいいつもと違う雰囲気に、どきり、とした。
(ーーあかん、かわええ…)
友達たちに囲まれて、楽しそうに、ふわり、と笑っている彼女。ふと、クラスの他の男子らも、彼女の方をちらちらと見ていて、なんだか無性に心がもやもたした。
好きな子のかわいい姿を、他の奴らに見せたくない、という醜い嫉妬の感情が沸き起こる。どうしたものか、と一瞬思案したのち、いいことを思いついた。
「いおりちゃん、今日の昼飯は二人きりで屋上で食わん?」
えっ、と目を見開く彼女が、おどおどと言う。
『えっと、それは彼氏のフリとして…?でも、学校内では、だ、大丈夫だよ…?』
他の奴らに見せたくないねん、なんて言えるわけなくて。
思いついたのは、彼女を屋上に連れ出すというアイデア。
「いいじゃん、食べてきなよ。そこ遠慮するとこじゃないでしょ」
(ーーナイス角名!今度アイス奢ったるわ!)
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屋上を吹き抜ける風に、彼女の綺麗な髪がそよそよと泳いで、目で追ってしまう。小さな口で、さっきからお弁当を食べている姿が、可愛くて、ああ好きやなぁ、としみじっみ思ってしまう。
いつからこんなに彼女に夢中になっていたんだろう。
自分でもキッカケはよく覚えていない。
角名の奴と仲がいい女の子という認識だった。
大人しくてあまり目立ってはいなかったけど、綺麗な細長い指だったり、影を作る長い睫毛だったり、本を読んでいる姿とか、目を見開いたり顔を赤くしたり、照れ臭そうに笑ったり姿が、その一つ一つが積み重なって、いつの間にか目で追っているようになっていた。
ああ好きなんやな。
そう自覚したのはいいけれど、ある日偶然、聞いてしまったのだーー
教室から話し声がすると思えば、いおりちゃんの声が聞こえて、思わず廊下で足を止めてしまった。盗み聞きするつもりなかったのにーー
「せやろ?それとも、好きなん?誰や?角名くんか?治くんか?」
『え、いや、あの…本当に、ただ仲良くしてもらってるだけで…付き合うとかは…』
困ったような彼女の声に、ずきん、と胸が痛くなる。
「ほんなら良かった。この子な、治くんのこと好きやねん。せやから、邪魔せんでもらってええか?」
『え?あ、はい』
ーーなんや。いおりちゃんは俺のことまったく見てくれてへんってことか…
悔しさと寂しさに、心がざわざわした。どうにかして彼女を振り向かせたいと思ってけど、でも嫌われるのも怖くて。そんな時に、彼女のストーカー事件が発覚して、彼氏のフリをすることになった。
たとえ偽物のカップルだとしても、ほんまに嬉しくて。
ーーどないしよ。ええとこ見せられるやろか。
と、内心そわそわしていることを彼女に悟られないように必死で。
手を繋ごうと、手を差し出せば、はにかみながら笑う彼女。
いろんな種類のあるパフェのメニューを見て、目をきらきらさせる彼女。
美味しそうにパフェを食べて、口元を緩ませる彼女。
「好き」っていう想いを伝えたら迷惑やろか?
どうすれば”仮面カップル”から卒業できるんやろか?