【長編】仮面カップルを卒業したい
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「まあまあ治、落ち着け」
と角名くんが治くんをなだめてから、ふと侑くんが提案した。
「ほんなら、いおりちゃんの彼氏役をサムがやればええんちゃう?」
『え?』
「え?」
突拍子もない展開になって、私と治くんの声が見事にハモった。
「そんで、登下校を一緒にサムが帰ればいいんや。そしたらそのストーカー男も、わざわざ彼氏おる女に付きまとわんやろ?」
侑くんの提案に「なるほど」と角名くんまでもが納得する始末。
「うわっ、我ながらええアイデアちゃう?」
「うん、侑にしては」
「は?角名、どういう意味や」
「いや、そのままの意味だけど」
ーーえ、治くんが彼氏役…?
どきん、と高鳴った心臓。
恐る恐る、ちらりと治くんを見上げる。
「ええで」
ふわり、と彼は笑っていた。
「俺はええけど、いおりちゃんもそれでええの?」
『は、はい!迷惑でないのなら、ぜひ…っ!』
嬉しさと驚きとドキドキが混ざりあって、勢いのあまり思わず声が裏返った。
「ふはっ」と、治くんが目尻を下げて笑った。
「迷惑やなんて思わんで。ほな、今日から一緒帰ろうな」
優しく首を傾げる彼に、心臓がきゅうっと締め付けられて、ふわふわした気持ちになった。
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「--いおりちゃん、ほな帰ろか」
『う、うん!』
放課後になって、治くんに名前を呼ばれてどきんと胸が高鳴る。
「今日練習なくてラッキーやったわ。ほんでも、明日から練習からあるからどないしよ。終わる時間まで待つのは嫌やもんな?」
『え、あ!私、図書室で勉強したり本読んだりして、時間潰せる!』
思わず食い気味で、勢いよく言えば、一瞬治くんが目を見開いて固まった。
ーーあ。まるで、私がすごく治くんと帰りたい、みたいな言い方になっちゃった…
いや、まあ実際本心はそうなんだけど…でも、勢い良すぎてひかれちゃったかな…と、気まずさで心臓が痛くなりそうになっていれば、固まっていた治くんが目尻を思い切り下げて笑った。
「ええの?ほんなら練習終わったらすぐ校門行くから、そこで待ち合わせしよか!」
彼の笑みに、またもや胸がきゅってなって。『う、うん!』と返事をしながら、口元がにやけてしまいそうになるのを堪えるのに必死だった。
治くんと一緒に下校をしていれば、高校から少し離れたとことで嫌な気配を感じた。いつも、このあたりで、後をつけてくる現場だから、思わず体が強張って。
ちらり、と後ろのほうを確認する。
(ーーっ、やっぱりいる。今朝と同じ恰好…)
どくん、と心臓が嫌な音を立てた。怖い、という感情が徐々に体を支配していく。ふいに、治くんが、私の手をふわりと握った。
『……っ?』
「手、繋ごか。うしろの奴やろ?いつもいおりちゃんをつけてる奴って」
治くんが、静かな声で私に尋ねたから、私はこくりと頷く。
「せやったら、見せつけたろ。俺が彼氏や、って」
治くんの真剣な低い声に、どきん、と心臓が音を立てる。繋いだ手から彼の温もりが伝わってきて、強張っていた体に安心感が戻ってくる。