【長編】仮面カップルを卒業したい
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臆病で小心者の私はその後も治くんとの距離は縮まることはなく、ついに2年に進級した。角名くんとは引き続き同じクラスで、そしてなんと今年は治くんも一緒のクラスなのだ。
「いおりちゃんおはようさん」
『お、おはよう!』
毎朝挨拶ができるのは嬉しい。授業中に、コソッと彼を盗み見できるのも嬉しい。
「なんで俺だけ違うクラスやねん」
昼休みになれば相変わらず侑くんもやってきて
「ツムと同じクラスとか嫌やわ」
「双子が同じクラスとか、学級崩壊じゃん」
と、治くんと角名くんが言えば、
「なんやと!二人ともやんのか!?」
「やらんわ」「静かにしてくれない?」
1年の時と変わらないやり取り。すっかり私は慣れていて、クスッと笑ってしまう。
この関係でいい。治くんの隣でこうして笑っていられるなら、これでいい。今のこの心地よい関係を崩したくない、って弱気な私。このまま2年生も、たくさん思い出作れたらいいな。
そう思っていた矢先、事件は起こった--。
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突然、違うクラスの女子たちに呼び出された私は、放課後、人のいない教室にいた。
「いつも男バレと一緒におるやんな?」
3人いる女子のうちの1人が、私をぐいっと近寄って尋ねた。空気が少しピリピリしてて、圧倒されてしまう。早く帰りたい、ともうすでに逃げ腰でいればーー
「特に治くんと角名くんと仲ええけど、本命はどっちなん?」
『え?』
「自分、ちょっと浮かれすぎちゃう?自分だけ特別でええ気やな?」
鼻で笑われて、思わず嫌な気持ちになった。
『…っ!特別な気になんてなってないです…っ』
「ほんなら別に付き合おうとか、告白しようとか思ってるわけないっちゅうことやんな?」
『え?』
「せやろ?それとも、好きなん?誰や?角名くんか?治くんか?」
『え、いや、あの…本当に、ただ仲良くしてもらってるだけで…付き合うとかは…』
自分でそう言いながら、ズキン、と胸が痛くなった。治くんのことが好き、って正々堂々とはっきりと言えたら、この胸のつっかえもなくなるのかな?
でも、自分はあのままの関係でいいって、自分で納得して、恋心を抑えている。自分から付き合おうと言って、心地よい関係を壊したくないから。
「ほんなら良かった。この子な、治くんのこと好きやねん」
え、と私が目を見張ったと同時に、3人のうちの1人の子が「ちょ、今言わんといてやぁ、はずいわぁ」と顔を赤くさせている。
ーーこの子も、治くんのことが好き…?そ、そりゃ、そう、だよね。治くん人気者だもん…
「せやから、邪魔せんでもらってええか?」
『え?あ、はい…』
ーーずきん。
胸がすごく締め付けられて、苦しくて、息ができない。
頭の中は、複雑な感情でいっぱいいっぱいで。この時の私は、この会話を偶然通りかかった治くんが聞いているとは気付けなかったーー
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翌日。登校中の朝、私はカバンをぎゅっと握りしめながら、速足で道を歩いていた。あまりバレない程度に、後ろの様子を伺う。
『(…っ、まだついてきている!)』
一昨日から、なんとなく後をつけられているような感覚があった。だけど、気のせいかもしれない。私の勘違いかもしれない。
そう思っていたのに、やっぱり後をつけられている。相手の顔は見たことない。背丈は175cmくらいだろうか。なんとなく怖くて、その人を直視できない。でも、私服だから、たぶん大学生くらいの男の人。
息を殺しながら、急いで学校へ向かう。人通りが多い道に出て、高校が近づけば、いつの間にかその男性はいなくなっている。
それでも、もしかしたらまだどこかで見ているのかもしれない。恐怖心に煽られ、全身が強張らせながら私は教室まで走った。