【長編】仮面カップルを卒業したい
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自分の恋心に自覚したのは、1年生の冬頃。いや、本当は夏の終わり頃から、治くんに惹かれていて、意識はしていたのだと思う。
だけど初めての「好き」という感情に戸惑ってしまい、自分で認めようとしていなかった。
だって、どうせ治くんのことを好きになっても、彼女にはなれない。カッコよくて優しい彼は、稲荷崎高校の中で凄くモテて、女子のファンがたくさんいる。
治くんはきっと、もっと会話が上手で、一緒にいて楽しい子と付き合うんだと思う。自分に自信を持っていて、明るくて元気で、みんなの中心にいるような女の子と。
そう、自分に言い聞かせて、やり過ごしていたのに。
「? え、いおりちゃん治のこと好きでしょ?」
と、移動教室の時に角名くんがサラリと当たり前のように言った。
『え…?え、?いや、えっ、ちょっ、え?!』
外は、雪がチラチラ降っていて。さっきまでは凍えるように寒かったはずなのに、一気に私の体温は上昇して、顔が熱くなる。
「おっほほw どもりすぎ。しかも顔赤いよ」
面白がる角名くん。
『え、待って、好きってなんで?え?』
「いや見てて普通に分かるから」
『え?!』
「いいじゃん、治いいヤツだよ。付き合えば?」
『ちょちょちょっと待って!そんな簡単に!』
「俺、応援するよー」
焦りまくる私に対して、飄々と爆弾発言を落とす角名くんのせいで、私はハッキリと治くんのことが好きなんだ、と認めざるを得なくなったのだ。
𓂃◌𓈒𓐍
その自覚した日から、それはもう心臓の高鳴り加減がいつもより10倍もうるさく感じるようになってしまった。
たまに廊下ですれ違うとき、彼が私を見つけると、顔を綻ばせて手を振ってくれること。
お昼休みに、彼が美味しそうにお弁当を食べること。
偶然、グラウンドで彼のクラスが体育をやっている時に、サッカーやリレーなどで彼が活躍していること。
「角名ー、数学の教科書忘れたから貸してやー」と教室に来たと思えば「やだよ、いおりに借りなよ」『え!?』「いおりちゃん頼む!」と、頼られること。
なんかもう全てに、胸がキュッとなったりドキドキしたり、くすぐったくなったりして、思わず角名くんに、
『どうしよ、私、心臓発作で倒れるかもしれない』
と言えば
「……たまにいおりって双子以上に、変なこと言うよね」
と呆れた目線を返された。
毎日、治くんを無意識に探していて。
ふわふわした気持ちで満たされていて。
だけど、治くんが女の子に呼び出される場面はどうしようもなく胸が苦しかった。
渡り廊下で、彼が告白されている場面も見たことがある。上履きの色を見るに、2年の先輩だった。すごく大人っぽくて綺麗で、美人だなぁ、と思った。
比較してもいい事なんてないのに、比べちゃダメって分かってるのに、頭はどんどん自分の悪いところばかり考え始めて、心がどんよりしてしまう。
その日の帰り道は、せっかく大好きな治くんと、侑くんと角名くんと一緒に帰っているのに、心はモヤモヤしてて、早く一人になりたかった。
「うう、ざむ"いわ!」
侑くんが腕をさすりながら、震えている。
「アホやん。なんで上着着てこないん」
「朝遅刻する思って、慌てて家飛び出したんやもん。ちゃんとサムが起こしてくれたらこないなことにならんかったや!」
「なんで俺のせいやねん」
「角名、マフラー貸してや」
「やだよ」
「じゃあ手袋でもええで」
「なんで上から目線なの」
「ええやん!ケチ!」
「はあ?」
侑くんと角名くんが、手袋の取り合いを始めて、走って行く。取り残された私と治くん。
「いおりちゃん、今日元気ないけど、なんかあったん?」
ふと心配そうに治くんに顔を覗かれて、息が止まった。
『な、なんもないよ!』
慌てて笑顔を取り繕う。
--今日、治くんが告白されているところ見ちゃってモヤモヤしてる、なんて本人に言える訳ないもん。
「ほんまに?心配ごとあるなら、俺いつでも聞くから頼ってや」
『…っ』
--じゃあ、治くん。
治くんには好きな人がいますか?
私にはいます。
だけど、その人がすごく人気者で、自分はその人に釣り合わなくて、自信が持てないときはどうすればいいですか?
なんて。
こんなこと言える度胸も勇気もない。
『…う、ん。ありがとう』
そう言ってから、なんだか無性に自分が不甲斐なくて、泣きそうになってしまって。
『…わ、私、急用を思い出したので、ま、またね!』
「え?ちょ、いおりちゃん!?」
勢いよく走り出した私は、治くんの声を無視して、そのまま家まで全速力で走り続けた。
--好きになるってこんなに苦しい想いもしないといけないの?
治くんの一つ一つの言葉や行動に、一喜一憂して。恋に振り回されている。世界がきらきらして見えるときもあるのに、こんなにも世界が歪んで見えるときもある。
今、この状態でさえ、こんなに苦しいのに、もし告白して振られたら、きっと立ち直れない。
怖い。今まで仲良くできたのに、突然距離ができてしまうのが怖い。関係が崩れてしまうのが怖い。
告白する女の子たちは、なんて凄いんだろう。自分の想いをちゃんと口にして、相手に伝えることができるなんて。私には無理だ。
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自分の恋心に自覚したのは、1年生の冬頃。いや、本当は夏の終わり頃から、治くんに惹かれていて、意識はしていたのだと思う。
だけど初めての「好き」という感情に戸惑ってしまい、自分で認めようとしていなかった。
だって、どうせ治くんのことを好きになっても、彼女にはなれない。カッコよくて優しい彼は、稲荷崎高校の中で凄くモテて、女子のファンがたくさんいる。
治くんはきっと、もっと会話が上手で、一緒にいて楽しい子と付き合うんだと思う。自分に自信を持っていて、明るくて元気で、みんなの中心にいるような女の子と。
そう、自分に言い聞かせて、やり過ごしていたのに。
「? え、いおりちゃん治のこと好きでしょ?」
と、移動教室の時に角名くんがサラリと当たり前のように言った。
『え…?え、?いや、えっ、ちょっ、え?!』
外は、雪がチラチラ降っていて。さっきまでは凍えるように寒かったはずなのに、一気に私の体温は上昇して、顔が熱くなる。
「おっほほw どもりすぎ。しかも顔赤いよ」
面白がる角名くん。
『え、待って、好きってなんで?え?』
「いや見てて普通に分かるから」
『え?!』
「いいじゃん、治いいヤツだよ。付き合えば?」
『ちょちょちょっと待って!そんな簡単に!』
「俺、応援するよー」
焦りまくる私に対して、飄々と爆弾発言を落とす角名くんのせいで、私はハッキリと治くんのことが好きなんだ、と認めざるを得なくなったのだ。
𓂃◌𓈒𓐍
その自覚した日から、それはもう心臓の高鳴り加減がいつもより10倍もうるさく感じるようになってしまった。
たまに廊下ですれ違うとき、彼が私を見つけると、顔を綻ばせて手を振ってくれること。
お昼休みに、彼が美味しそうにお弁当を食べること。
偶然、グラウンドで彼のクラスが体育をやっている時に、サッカーやリレーなどで彼が活躍していること。
「角名ー、数学の教科書忘れたから貸してやー」と教室に来たと思えば「やだよ、いおりに借りなよ」『え!?』「いおりちゃん頼む!」と、頼られること。
なんかもう全てに、胸がキュッとなったりドキドキしたり、くすぐったくなったりして、思わず角名くんに、
『どうしよ、私、心臓発作で倒れるかもしれない』
と言えば
「……たまにいおりって双子以上に、変なこと言うよね」
と呆れた目線を返された。
毎日、治くんを無意識に探していて。
ふわふわした気持ちで満たされていて。
だけど、治くんが女の子に呼び出される場面はどうしようもなく胸が苦しかった。
渡り廊下で、彼が告白されている場面も見たことがある。上履きの色を見るに、2年の先輩だった。すごく大人っぽくて綺麗で、美人だなぁ、と思った。
比較してもいい事なんてないのに、比べちゃダメって分かってるのに、頭はどんどん自分の悪いところばかり考え始めて、心がどんよりしてしまう。
その日の帰り道は、せっかく大好きな治くんと、侑くんと角名くんと一緒に帰っているのに、心はモヤモヤしてて、早く一人になりたかった。
「うう、ざむ"いわ!」
侑くんが腕をさすりながら、震えている。
「アホやん。なんで上着着てこないん」
「朝遅刻する思って、慌てて家飛び出したんやもん。ちゃんとサムが起こしてくれたらこないなことにならんかったや!」
「なんで俺のせいやねん」
「角名、マフラー貸してや」
「やだよ」
「じゃあ手袋でもええで」
「なんで上から目線なの」
「ええやん!ケチ!」
「はあ?」
侑くんと角名くんが、手袋の取り合いを始めて、走って行く。取り残された私と治くん。
「いおりちゃん、今日元気ないけど、なんかあったん?」
ふと心配そうに治くんに顔を覗かれて、息が止まった。
『な、なんもないよ!』
慌てて笑顔を取り繕う。
--今日、治くんが告白されているところ見ちゃってモヤモヤしてる、なんて本人に言える訳ないもん。
「ほんまに?心配ごとあるなら、俺いつでも聞くから頼ってや」
『…っ』
--じゃあ、治くん。
治くんには好きな人がいますか?
私にはいます。
だけど、その人がすごく人気者で、自分はその人に釣り合わなくて、自信が持てないときはどうすればいいですか?
なんて。
こんなこと言える度胸も勇気もない。
『…う、ん。ありがとう』
そう言ってから、なんだか無性に自分が不甲斐なくて、泣きそうになってしまって。
『…わ、私、急用を思い出したので、ま、またね!』
「え?ちょ、いおりちゃん!?」
勢いよく走り出した私は、治くんの声を無視して、そのまま家まで全速力で走り続けた。
--好きになるってこんなに苦しい想いもしないといけないの?
治くんの一つ一つの言葉や行動に、一喜一憂して。恋に振り回されている。世界がきらきらして見えるときもあるのに、こんなにも世界が歪んで見えるときもある。
今、この状態でさえ、こんなに苦しいのに、もし告白して振られたら、きっと立ち直れない。
怖い。今まで仲良くできたのに、突然距離ができてしまうのが怖い。関係が崩れてしまうのが怖い。
告白する女の子たちは、なんて凄いんだろう。自分の想いをちゃんと口にして、相手に伝えることができるなんて。私には無理だ。