【長編】仮面カップルを卒業したい
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どうしよう。
胸が苦しくてぎゅって締め付けられて。
頭の中はいつも貴方のことばかり。
「--いおりちゃん、ほな帰ろか」
『う、うん!』
放課後、治くんに名前を呼ばれてどきんと胸が高鳴る。
ん、と彼が私に手を差し出しながら、彼が優しく微笑んでいる。
「手、繋ご?」
『…っ、あ、はい』
大きな彼の手。温かくて、優しくて。
目尻を下げて微笑む彼にドキドキしてしまう。
彼に恋をしている。そして、表向きは私たちは付き合っていることになっている。そう、表向きは、の話。
でも本当は、私たちは、付き合っていない。
仮面カップルなのだ――
___________
___
事の発端は、2年に進級したばかりの頃。
「あ、いおりちゃん」
2年2組。新しいクラスにドキドキしながら教室に入れば、1年の時も同じクラスで仲良くしてくれていた角名くんがいた。
『す、角名くん!また同じクラスだ!』
人見知りの私は、思わず嬉しくなって彼のところに駆け寄った。スマホをいじっていた角名くんは、ひらひらと手を振りながら笑っている。
彼と仲良くなったきっかけは、私も彼も愛知県出身という共通点があるからだ。
高校入学と同時に、私は家族と一緒に兵庫県に引っ越してきた。両親は東京の人だから、元々私は標準語で育っていて、関西弁はネイティブじゃない。それに少し引っ込み思案な性格もあって、テンポの速い関西弁、ノリのいい関西弁に、なんとなくついていけず、取り残されている感じがあった。どうしよう、友達できない。話しかけなきゃ。
そんな時、「ねえ、さっき自己紹介の時愛知県出身って言ってたよね?俺もなんだけど」と角名くんが話しかけてきたのだ。それからは、よく話すようになった。角名くんも、元々あまり喋らない性格のようで、会話のテンポもゆったりでいいから、私たち結構一緒に過ごすことが多くなった。
角名くんはバレー部で、私は帰宅部。だけど、私は読書が好きだから図書委員会に入っていて、放課後に図書室の当番になることも多く(みんなやりたがらないから、私が自ら進んで引き受けていた)、帰りが遅くなると、よくバレー部の練習帰りの角名くんとばったり校門で会うことが多々あった。角名くんは同じバレー部の2年生、宮兄弟といることが多くて、成り行きで私も宮兄弟と話すようになった。
けど、
「あかんわー!明日小テスト忘れてたわー!どないしよ!?」
「侑うるさい」「ツムうるさい」
「はあ??角名もサムも俺に冷たすぎちゃう??(名前)ちゃん何か言うてやってや!!そういやいおりちゃん図書委員やんな?頭いいやんな?」
『えっ?あ、』
--"図書委員=頭良い"っていう等式は、どうかと思うんだけど……
戸惑っていれば、治くんが口を開いた。
「ツムうっさいわ。いおりちゃんドン引きしてるで。そもそもツムの頭じゃ、いくら今からあがいても無理やわ」
「はぁ?なんやとクソサム。やんのか?」
「やらんわ」
キレる侑くんを、のらりくらりと交わす治くん。正直、侑くんはちょっと怖かった。ぐいぐい来る感じが、人見知りの私にとっては思わず後ずさってしまうのだ。
だけど治くんは、確かによく双子で喧嘩してるけど、ほんの少し冷静で、周りをよく見てて、私が怯えていることに気付くと、侑くんを叱ったり諫めたりしてくれているような気がした。
角名くんとお昼を一緒に食べていれば、たまに宮兄弟も遊びに来ることもあった。もちろん、ここでも宮兄弟の喧嘩は勃発するわけで。
「サムの卵焼きの方がでかいで!おかしいやろ!」
「はァ?何言うてんねん、どう見ても同じサイズやろ」
『(た、頼むから、卵焼きで喧嘩しないでください…平和な昼休みにしてください…)』
ハラハラする私とは裏腹に、角名くんは双子の喧嘩を「おっほほ」となんとも不思議な笑い声をあげながら動画を撮っていることが多い。
「いおりちゃんのお弁当、美味しそうやな」と治くんが私のお弁当を覗き込む。
一瞬、顔が近付いて、ふわりといい香りがした。至近距離の治くんのカッコいい顔に、びっくりした私は『あ!はい!あ、いや!そんな!』と馬鹿みたいな返事をしてしまって。
--わあ、何言ってんだ自分〜〜っ!
恥ずかしくなっていれば、「フハッ」と治くんが笑った。
「いおりちゃん、おもろいなぁ」
『…っ!?』
目尻を下げて笑う彼に、胸がキュッとなる。
『あ、あの良かったら、一口食べます…?』
「ええの?嬉しいわ」
そう言いながら、治くんは私のお弁当のおかずをヒョイっと口に入れた。
「うっわ!むっちゃ美味しい!」
目を見開いて、それはもう美味しそうに食べるその姿にも、胸がキュッとなる。
「いおりちゃんのオカン、料理むっちゃ上手やんな!」
『あ、これは私が作りまして…』
「え?そうなん?」
驚く治くんは、次の瞬間目をきらきらと輝かせた。
「いおりちゃん凄いわ!ほんまに美味いで?」
『あ、ありがとう!』
治くんの言葉は、いつも直球ストレートで、私の心をくすぐったくしたり、キュンキュンさせてばかりで。いつの間にか彼と過ごしているうちに、私は彼に恋に落ちていた。
胸が苦しくてぎゅって締め付けられて。
頭の中はいつも貴方のことばかり。
「--いおりちゃん、ほな帰ろか」
『う、うん!』
放課後、治くんに名前を呼ばれてどきんと胸が高鳴る。
ん、と彼が私に手を差し出しながら、彼が優しく微笑んでいる。
「手、繋ご?」
『…っ、あ、はい』
大きな彼の手。温かくて、優しくて。
目尻を下げて微笑む彼にドキドキしてしまう。
彼に恋をしている。そして、表向きは私たちは付き合っていることになっている。そう、表向きは、の話。
でも本当は、私たちは、付き合っていない。
仮面カップルなのだ――
___________
___
事の発端は、2年に進級したばかりの頃。
「あ、いおりちゃん」
2年2組。新しいクラスにドキドキしながら教室に入れば、1年の時も同じクラスで仲良くしてくれていた角名くんがいた。
『す、角名くん!また同じクラスだ!』
人見知りの私は、思わず嬉しくなって彼のところに駆け寄った。スマホをいじっていた角名くんは、ひらひらと手を振りながら笑っている。
彼と仲良くなったきっかけは、私も彼も愛知県出身という共通点があるからだ。
高校入学と同時に、私は家族と一緒に兵庫県に引っ越してきた。両親は東京の人だから、元々私は標準語で育っていて、関西弁はネイティブじゃない。それに少し引っ込み思案な性格もあって、テンポの速い関西弁、ノリのいい関西弁に、なんとなくついていけず、取り残されている感じがあった。どうしよう、友達できない。話しかけなきゃ。
そんな時、「ねえ、さっき自己紹介の時愛知県出身って言ってたよね?俺もなんだけど」と角名くんが話しかけてきたのだ。それからは、よく話すようになった。角名くんも、元々あまり喋らない性格のようで、会話のテンポもゆったりでいいから、私たち結構一緒に過ごすことが多くなった。
角名くんはバレー部で、私は帰宅部。だけど、私は読書が好きだから図書委員会に入っていて、放課後に図書室の当番になることも多く(みんなやりたがらないから、私が自ら進んで引き受けていた)、帰りが遅くなると、よくバレー部の練習帰りの角名くんとばったり校門で会うことが多々あった。角名くんは同じバレー部の2年生、宮兄弟といることが多くて、成り行きで私も宮兄弟と話すようになった。
けど、
「あかんわー!明日小テスト忘れてたわー!どないしよ!?」
「侑うるさい」「ツムうるさい」
「はあ??角名もサムも俺に冷たすぎちゃう??(名前)ちゃん何か言うてやってや!!そういやいおりちゃん図書委員やんな?頭いいやんな?」
『えっ?あ、』
--"図書委員=頭良い"っていう等式は、どうかと思うんだけど……
戸惑っていれば、治くんが口を開いた。
「ツムうっさいわ。いおりちゃんドン引きしてるで。そもそもツムの頭じゃ、いくら今からあがいても無理やわ」
「はぁ?なんやとクソサム。やんのか?」
「やらんわ」
キレる侑くんを、のらりくらりと交わす治くん。正直、侑くんはちょっと怖かった。ぐいぐい来る感じが、人見知りの私にとっては思わず後ずさってしまうのだ。
だけど治くんは、確かによく双子で喧嘩してるけど、ほんの少し冷静で、周りをよく見てて、私が怯えていることに気付くと、侑くんを叱ったり諫めたりしてくれているような気がした。
角名くんとお昼を一緒に食べていれば、たまに宮兄弟も遊びに来ることもあった。もちろん、ここでも宮兄弟の喧嘩は勃発するわけで。
「サムの卵焼きの方がでかいで!おかしいやろ!」
「はァ?何言うてんねん、どう見ても同じサイズやろ」
『(た、頼むから、卵焼きで喧嘩しないでください…平和な昼休みにしてください…)』
ハラハラする私とは裏腹に、角名くんは双子の喧嘩を「おっほほ」となんとも不思議な笑い声をあげながら動画を撮っていることが多い。
「いおりちゃんのお弁当、美味しそうやな」と治くんが私のお弁当を覗き込む。
一瞬、顔が近付いて、ふわりといい香りがした。至近距離の治くんのカッコいい顔に、びっくりした私は『あ!はい!あ、いや!そんな!』と馬鹿みたいな返事をしてしまって。
--わあ、何言ってんだ自分〜〜っ!
恥ずかしくなっていれば、「フハッ」と治くんが笑った。
「いおりちゃん、おもろいなぁ」
『…っ!?』
目尻を下げて笑う彼に、胸がキュッとなる。
『あ、あの良かったら、一口食べます…?』
「ええの?嬉しいわ」
そう言いながら、治くんは私のお弁当のおかずをヒョイっと口に入れた。
「うっわ!むっちゃ美味しい!」
目を見開いて、それはもう美味しそうに食べるその姿にも、胸がキュッとなる。
「いおりちゃんのオカン、料理むっちゃ上手やんな!」
『あ、これは私が作りまして…』
「え?そうなん?」
驚く治くんは、次の瞬間目をきらきらと輝かせた。
「いおりちゃん凄いわ!ほんまに美味いで?」
『あ、ありがとう!』
治くんの言葉は、いつも直球ストレートで、私の心をくすぐったくしたり、キュンキュンさせてばかりで。いつの間にか彼と過ごしているうちに、私は彼に恋に落ちていた。
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