【長編】「俺が跳ばせたる」
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【侑side】
正直、初めて会うた日のことはあんまし覚えてない。
銀の幼馴染、っていう肩書きで認識してた。
女子からモテてる自覚はある。そりゃ、好かれるのは嬉しいことやけど、正直ギャーギャー騒がれるのは喧しい。
第一にバレー。
第二にバレー。
第三にバレーや。
サムには「ツムはバレー馬鹿やから」とよく言われる。頭の中はバレーだけや、と言われて、「なんやサムは頭の中、飯だけやん!」と反論した。
でも、サムの言うことは正解や。俺の頭の中はバレーでいっぱいや。
もっと綺麗なトスをあげたい。
スパイカーが打ちやすいトスをあげたい。
勝って勝って、もっと強い相手に戦いたい。
ほんで全国で勝つんや。全国で優勝するんや。
俺らが高校1年のときも、部活の目標は「全国優勝」ではなく、「全国に行く」やった。全国で勝つ、ではなく、全国に行く、や。
「全国優勝やなんて目標が大きすぎる」と、部員に言われたこともあった。
「夢はでっかいほうがええもんなぁ」と、笑い話にする人もおった。
やけど、彼女は違った。
「ええな、全国優勝。かっこええ」
彼女の声は、凛としたよく通る澄んだ声やった。
そしてその目は、本気やった。
――全国優勝をするって言った俺の言葉を、本気で受け止めていた。
その瞬間、ゾクゾクとしった。
前園いおり。
スラリと手足が細長くて、かわいい、というより綺麗系。そこらへんの女子と違って、あまりギャーギャー騒いでるところは見かけたことない。
パッと目立つような子やないけど。
せやけど、その言葉をかけてもらって以来、なんや彼女の姿がよく視界に入るようになって、いつの間にか「気になる子」になっていた。
「銀〜、」
「なんや侑」
「いおりちゃんって、どんな子や?」
「いおり?そうやなぁ…」
幼馴染の銀にそう尋ねたことがある。
「ちょっと抜けてるところあるし、なんや少しズレとるかなぁ。性格はかなりサッパリしとるな。でも周りのことよく見てて、観察眼鋭いねん。困ってる人いたら放っておけないし、頼まれごとはできるだけ引き受けるな」
「なんやお人好しやな」
「せやな。我慢強いから、なんでも一人で抱え込んでしまう癖あるし。ほんまは泣き虫なんやで。小さい頃はよお泣いとったわ。涙腺緩いの直したいわ〜っていつも言ってるで」
泣き虫…、には見えへんな。