【長編】「俺が跳ばせたる」
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もう一度跳んでみたいと思った。
高く、高くーー
青空に吸い込まれるように。
ーーーー
ー
「前園―!お前、帰宅部だったよなぁ?」
6限の体育の授業が終わったところで、体育の先生に名前を呼ばれた。
「そうですけどー!」
「ほんなら、放課後、この測定器を体育館倉庫に運んどいてくれるかァ?」
「いいですよー!」
「すまんなー!頼んだでー!」
今日は職員室会議があるから、後片付けしてる暇がないのだろう。
「なんやいおり、また先生の使いやん」
「いおりはお人好しすぎるんやで」
友達に口を揃えてそう言れて、肩を竦める。
人から頼まれたら断れない性格だ。もちろん無理なときは、ちゃんと断るけど。
でも、自分が役に立てるのは嬉しい。
誰かの役に立つということは、自分が必要とされているみたいで。それに相手の喜ぶ顔を見たりするのも嬉しい。
放課後。体育の授業で使用した測定器を、えっちらおっちら抱えながら、体育館へ向かった。
ふいに中から「バァァンッ!」とボールがリバウドする強烈な音が聞こえてきて。
(――なんやバレー部もう練習始めてんのか)
そっと中を覗き込めば、同じクラスの治くんが助走をしているのが見えた。そしてネット際で、治くんの双子の片割れの侑くんがフワッと綺麗な弧を描いたトスを上げたと思えば、治くんが高く跳んで、空中で思いっきりボールを叩いた。
――バァンッ!
強烈なサーブが決まる。治くんが、床に着地したときに、キュッと床が擦れる音が響いた。
(――よお跳ぶなぁ)
思わず見惚れる。
「サム!ちょっとジャンプさぼったやろ!」
「はァ?!」
「もっと高く跳べるやろ!」
「うっさいねん!」
ふいに侑くんの言葉に、どくん、と胸が脈打った。
――もっと高く跳べるやろ!
もっと、高く。
まだ、まだ高く。
じわり、と手に汗がにじむ。
“あの時”は、毎日のようにそう考えていた。
私はもっと高く跳べる。まだまだ跳べる。跳ぶことが楽しい。
青く澄み渡った空に、まるで吸い込まれていくかのように、
羽が生えて、そのまま天高く跳んでいってしまうかのように、
跳ぶ快感を全身で味わっていた。
だけど、跳べなくなってしまったーー
「お前らいい加減にしぃや!北さん来たら、また怒られるで」
「北さん今どこなん?」
「なんや職員室寄るって言うてたで」
――ハッ。
我に返った私は、過去のフラッシュバックを慌てて消すように頭を横に振った。
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