【長編】伸ばした手の先に。
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ーー1年ぶりに連絡とって、また心が揺れて、苦しくなったらどうしようと思ったけど、そんなことなかった。むしろ、おかげではっきりと気付けたのだ。もう元彼に対しての気持ちは、ないってことが。
あれだけ苦しかった胸の痛みが、今は、なにも感じない。その代わりに、目の前に立つ侑くんを見るだけで、とくんとくん、と脈打つ速度が速くなる。
『ごめん、やり直すことなんてできないです。今、好きな人がいるので』
「は?え、ちょ、いおり待てよ!」
『切ってもいい…?』
スマホ越しで喚いている元彼に困った表情を浮かべていれば、ふいに侑くんがふわり、と私の手からスマホを奪った。
「ーー自分、出る幕もうないで?いおりちゃんは俺が幸せにすんねん」
侑くんが私のスマホ越しの元彼に向かって、低い声で告げた。
「ーーせやから、邪魔すんなや」
そして、ピッと通話ボタンを切った彼は、「ん、」と私にスマホを返した。突然の出来事にびっくりして、目をぱちくりさせていれば、
「好きな子が、目の前で元彼とずっと電話続けてるなんてほんま地獄やろ!」
と、彼が首に手をあてながら、そっぽむいた。うっ、と言葉に詰まって、私も顔が赤くなっていく。
「なあ、さっきのほんま?」
『…な、なんのことでしょう…?』
「俺のこと見て、好きやって確かに言うたよな?」
『……っ』
こくりと、頷けば、彼がパァッと顔を輝かせた。その屈託ない綺麗な笑顔に、胸が高鳴る。自覚したらしただけ、好きの想いが加速していく。
「まって、嬉しすぎてあかん。どないしよ!俺の彼女ってことでええやんな?あ、まってまって、ここはちゃんと言わなあかんな!」
そして、不意に彼が、私を真っすぐ見た。
「一生幸せにする。ーーせやから付き合おうてください」
思わず、ふふっと口元が緩んでしまった。
「お、おかしかったか?」
『いや、一生幸せにするって、なんか結婚申し込む人みたいと思って』
「え?ええの?今、結婚申し込んでもええの?」
『…え!?』
「大歓迎やで!?俺のお嫁さんになってや!」
『いやいや、ちょっと待て。順番すっ飛ばしすぎ!』
「え?でも俺は本気やで?本気で好きやで?」
首を傾げる彼は「むっちゃ好きすぎてアカン」と言ってくる。
『…っ、わ、わかったから…、その好き好き連呼、やめて…』
恥ずかしくなる、と顔を覆えば「~~っ!その反応はかわいすぎるで、ほんまに!」と、彼が叫んだ。そして、彼がスッと私の頬に優しく触れた。
「な、キスしてええ?」
真っすぐな瞳。真剣な顔。だけど、嬉しそうに緩んでいる口元。私が、こくり、と頷けば、背の高い彼がかがむようにして優しく口付けをする。ふわり、と彼の香りがして、心臓がきゅうってなった。
ーーどうしよう、私、今すごく幸せだ。
ふと、至近距離にある彼が「ほんまに今、幸せすぎてあかん」と、私がちょうど今思っていたことを呟いて、びっくりすると同時に、もっともっと幸せで温かい気持ちに満たされた。
『侑くん、ありがとう』
「へ?」
『あの日、助けてくれて、声をかけてくれてありがとう』
ーーそして、こうして私にまた「好き」という感情を思い出させてくれてありがとう。もう恋愛なんてしなくていいと臆病になっていた私を、侑くんが見つけてくれて、救ってくれた。
「ーーいおりちゃん、」
ぐいっと引き寄せられて、彼にぎゅっと抱きしめられた。
「ありがとうはこっちの台詞やで。ほんまのほんまに、大事にするからな」
『うん』
「ほんまに大好きや」
好きって、苦しいことだけじゃない。ちゃんと、こんなにも優しくて温かくて幸せな気持ちになれる。彼の温もりに包まれながら『私も大好き』と呟いた。
~Fin~
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