【長編】伸ばした手の先に。
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「自分から聞いといてあれやけど、いおりちゃんの口から他の男の話聞きたないわ」
すんごく顔をしかめながら、少し不機嫌そうに言った。
『(…へ?)』
予想とは違う侑くんの反応に、ポカンと口を開けてしまう。クシャクシャっと彼は自分の頭を勢いよく掻いている彼は、「他の男とか、むしゃくしゃするわ!」と少し苛立だしそうに言って。
でも不意に「せや」と、表情が変わった。なにか閃いたような表情を浮かべながら「やけど、そいつは東京おるしな、もう別れてるんやもんな」と、うんうん、と自分に言い聞かせて納得している彼。
「今は自分のほうが勝ってるわな」
『えっと、なんの話?』
「自分が、いおりちゃんのこと好きゆう話や」
『…え?』
「え?」
いや、なんで侑くんが驚いた顔してんねん。
ーーって、思わず関西弁になっちゃったじゃん。
『え、好きって…え?』
突然のカミングアウトに、頭が追いつてこなくて、目をぱちくりさせる。けれど、侑くんは私を真っすぐ見て告げた。
「おん、一目惚れや」
『…っ』
「居酒屋で会うたときに一目惚れして、ほんでアプローチしてる最中やねんけど」
いや、確かに好意はもたれているなとは感じていたけど、でもいきなりここで今?
『え、っと…、ちょ、まって…今、え?』
と、完全に挙動不審になりながらおろおろしてれば、彼は「あかん、」と口を抑えた。
「気持ち走りばしすぎて、言ってしもたわ。ほんまは、ちゃんと順番守ろうとしたんやで?」
『…え?』
「ちゃんとデート重ねて、俺のこと知ってもらった上で、振り向かせて、ちゃんと告白するつもりやったん」
『……』
反応できずに固まっているままの私に、なおも侑くんは喋り続ける。
「いや、おみおみがな《お前、いろいろ順序ふっとばしていきなり付き合ってください言ったら正真正銘のバカだからな?》って言うてん」
『おみおみって、あの居酒屋の黒髪で、侑くんのチームメイトの……』
「せや。あん時、いきなり《怪しいもんちゃうから連絡先教えてください》言うたやん?俺」
『うん』
「あの後、おみおみやら翔陽くんらに、ぶっとびすぎって言われて、え、でも好きな子やったらすぐ捕まえなあかんやろって討論になったん」
『(…なにその討論)』
「サムからも《お前相手ドン引きさせる天才や》って言われて、はぁ?って思ったんやけど、確かに○○ちゃんに嫌われたらあかんわ思うて、順番守って口説こう思うてたんやけどーー」
あかんわ~~、と額を抑える彼が盛大に顔をしかめている。
「つい順番飛ばしてもうた!ドン引きさせんようがんばってたのに!」
『…………』
思わず固まったまま、無言を貫いている私。そんな私に対して、「あかん。今ドン引きしてんやんな?」とあわてふためく侑くん。その様子が、なんだか可笑しくて、場違いって分かっているのに「ふはっ」と思わず笑みが零れた。
『いや、大丈夫。もう、出会いがあれだから、あれ以上はドン引きしないと思う』
「せやな…、ってなんやねん!あれって!」
一人ツッコミをしている侑くんに、また笑ってしまう。ほんと、忙しい人だなぁ。
んんっ、と彼が咳払いして、再び私を直視した。闇夜に浮かび上がる月の光が、彼の金髪を透かしていた。サァ、と風があたりを吹き抜けてーー
「ーー好きやって思ったもんには猪突猛進やから、後先考えず突っ走ってまうねん」
『……』
「せやから、本気でいおりちゃん振り向かすために、今必死やねん」
ふわり、と彼の金髪が風に揺れた。まっすぐの瞳が、私を捉えて離さない。真剣な表情の彼に、ジッと見つめられ、じわじわと顔が熱くなっていくのを感じる。