【短編集】稲荷崎
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まんまるいお月様を見上げていると、たまに『かぐや姫の物語』を思い出す。月を見て、故郷へ帰りたい、と泣いてしまった彼女。
「ーー帰りたい、」
思わずぼんやりとしていたせいか、無意識に口から出てしまっていたらしい。
「は?え?ちょ、待てや」
いつの間にか背後にいた侑の慌てた声がしたかと思えば、急に後ろからぎゅっと抱き締められた。
「アカン!帰らんといてや!実家に帰りたくなるほど俺のこと嫌いになったんか?あ、こないだ言われた家事なら、これからちゃんとすんで!」
ーーどうやら、変な勘違いをしているらしい。
別に実家に帰る、という意味で言ったわけじゃなくて、ただ単に「帰りたい、ねぇ…、かぐや姫もホームシックになるんだな」としみじみ思ってただけなのに。後ろから首元に回された腕に、ぎゅうっと強く力が入る。
「ホンマにいおりがいなくなるなんて俺耐えられんから。お願いやから、帰らんといて」
物凄く真剣で、哀愁漂う悲痛な懇願の声に、私は肩を竦めながら「帰らないよ」と苦笑する。すると、腕がパッと外れ、くるりと体の向きを彼のほうに向けさせられた。
「ホンマ?ホンマに言うてる?」
「うん、月には帰れないもん私」
「…は?…え?なんの話や…え?いおりはホンマは月から来たんか!?」
「……ふふっ」
話の糸筋が見えなくて、絶賛混乱中の侑。そんな彼を、淡い月が優しく照らしていて綺麗な金髪が透けて光っている。
「ホームシックになったことなんて一度もないよ」
だって侑がすっごく私のこと大切にしてくれて愛されているって感じてるから、ホームシックになる暇なんてないもんーー、と笑えば、目の前の侑が目尻を下げて、少し安心したような顔をした。
「月にもどこにも行かせる気あらへんからな」
彼の大きな手が私の頬を優しく包む。
「ずっとずっと俺の隣におってもらうで」
そしてふわり、と風が舞ったかと思えば、唇が重なった。
「なあ、家の中入ろうや」
「え、月見ないの?」
「月はアカン。俺のこと構ってや」
「…ふふっ」
ーFinー
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