【短編集】稲荷崎
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私の彼氏は、一つ上の先輩で。
だけど時折、自分よりも年上ということを忘れそうになるくらい彼はお茶目で人懐っこくてーー、まるで尻尾をぶんぶん振って飼い主を待っている犬みたいだなと思うことがある。
ガヤガヤと騒がしい昼休みの食堂を歩いていると「おーい!いおり!」と声がした。振り返れば、路成くんが大きく手を振りながら、こっちへ駆け寄ってきた。嬉しそうに目尻を下げて笑っている。
「赤木、あんぱんを置いてどこ行くんや」
路成くんの後ろから、同じバレー部の大耳先輩と北先輩が追いかけてきた。大耳先輩の手にはあんぱんが握られていて、
「あ、すまん。ついいおりの姿が見えて走ってしもたわ」
と、悪びれもなく笑いながら、路成くんがあんぱんを受け取った。
「な、昼飯一緒に食わん?」
『え?でも路成くん、バレー部の人たちと今から食べるんじゃないの?』
とても大きくてなんとなく威圧感のある大耳先輩と、大きくなくても存在感溢れて威圧感のある北先輩を、チラッと見る。
「練、北、すまんけど、俺今日彼女と飯食うわ」と彼が言えば、2人はあっさり了承して。
「な、2人きりでゆっくり食べれる静かな中庭行こや」と屈託ない笑顔に、私の心はすぐほだされてしまう。
𓂃◌𓈒𓐍
「いおりのそれ美味しそうやん。俺にもくれへん?」
首を傾げる彼はちゃっかり口をアーンと開いていて。分けてあげれば「むっちゃ美味い…!」と目を丸くさせて美味しそうに食べている。
『路成くんって末っ子だっけ?』
「ん?そうやで?」
ああ、納得。
「唐突にどうしたん?」
『ううん、っぽいなぁって』
「え?それはいい意味で?悪い意味で?」
少し焦った様子の彼がなんだか可笑しくて、ふはっ、と笑いが零れてしまった。「教えてや」と聞いてくる彼をのらりくらりとかわしていれば、昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。
『あ、次実験だから早く行かなきゃ』
「俺もそういや体育やん!うわ、まだ昼飯食べ終わってへん!」
と慌てる私たち。急いで支度して『じゃあ、』と言いかけたところで、「あ、忘れもんや」と不意に路成くんに腕を掴まれたと思えば、彼の大きな手が私の頬を優しく包み込んだ。そして、ちゅっ、と唇が重なる。
『……っ!?』
「昼飯完食できへんかった代わりに、デザートだけ。ごちそうさん」
ふっ、と目を細めて笑う路成くん。思ってもみなかった不意打ちに、かぁ、と顔に熱が集まって。
『そういうとこ、ずるい…』
「ふはっ、いおりもまだまだ子どもやな」
『年一個しか違わないもん』
前言撤回。
おねだり上手のわんこ系彼氏に見えて、結構彼はこっちの心を乱す年上彼氏で、やっぱり…敵わない。
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