【短(中)編集】井闥山学院
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「ん? 金木犀の香り…?」
秋の乾いた風が吹き抜けたとき、元也くんが小さく声を洩らした。あたりをキョロキョロと見渡す彼の目は、きっと金木犀の木を探しているのだろう。街路樹のイチョウは太陽の光を浴びて黄金色に、公園の入り口の紅葉は燃えるような緋色に、木を植えた生垣に咲く山茶花は唐紅色に。各々が色鮮やかに秋の景色を美しく仕上げているけど、金木犀は見当たらない。
ふわり、と風が吹いて、元也くんの柔らかな髪がなびいた。
「金木犀ってもう時期終わってるよね?」
『そうだねぇ、確か10月上旬が見ごろじゃなかったかなぁ』
ふふっ、と笑いながら答える。どうやら金木犀の香りが、私の首元につけている香水だということにまだ気付いていないらしい。最近、元也くんは公式戦やら遠征やらで忙しく、今日は久しぶりに会うことができた。こうして朝から、のんびりゆっくり外を二人で歩けるのはいつぶりだろう。
「もう今年も2か月切ったんだもんなぁ」
『もう2021年が終わっちゃうなんて早いね。コロナのせいで旅行も遠出もできなくて残念だったなぁ。来年は行きたいなぁ』
「ステイホームだった分、いおりと家でたくさん過ごせて俺は嬉しかったよ?」
あ、でももちろんなまえともっと色んなところにも出かけたいな。どこがいいかな?沖縄?北海道?
にこにこと首を傾げるように目を合わせてきた元也くんが、ふと「あ、」と目を見開いた。
「なまえから金木犀の香りがする!」
『ふふ、気付くのおそーい!香水だよ』
ぽんぽん、と首元を指し示せば、不意に彼が私を引き寄せながら肩に顔を埋めた。さらさらに髪が顔にあたってくすぐったくて。
「――ほんとだ、うん、好き」
愛しそうな声音が耳元で優しく響いて、彼の顔は見えないけれどきっと口元を緩めているんだろうな、私も笑みが零れて。
もう秋が終わる。やがてやってくる冬は、どんな香りを纏おうか。凛とした空気の冬に似合うような、甘く濃厚な香りを今度は付けようかな、と考えていれば、元也くんの優しいキスが降ってきた。