お前、名前はなんて言うんだ?
ルシファー生誕特別版2021【完結】
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「……結局、泊まるところまで用意していただいてすみません……」
彩も計算されつくしたかのような左右対称の配置に、繊細に手入れされた花壇の美しい花々。
歴史のありそうな荘厳な建物に、水の流れる音と小鳥の囀りが鳴く綺麗な公園のベンチで誰もがその景観に心打たれている中、私はベンチで項垂れていた。
「気にしないでってローガンさんも言ってたじゃないですか! ついでに、僕も泊まれてラッキーでした!」
隣にぴったりと座るオスカーさんがニコニコと可愛らしく笑う。朝日に照らされて、ますます笑顔が眩しい。
それに、とオスカーさんが項垂れた私の体を起こし、しっかりと両目が合う。
なぜだか、気にならなかった距離感も強制的に意識してしまう。
「すごく馴染んでましたけど……よく泊まってるんですか?」
急に恥ずかしくなって、明後日の方を見ながら質問する。
「実は僕、入社するまであそこに住んでいたんです。会社から遠くて引っ越したくなかったんですけど、ローガンさんが「お前が帰るまでの間だけだ」とか言ってあの家に越してきてくれて。ローガンさんが守ってくれるなら……。そう思って独り暮らしを始めたんです」
オスカーさんが懐かしむように話してくれる。
その表情から、オスカーさんがどれほどローガンさんを信じているのかが伝わってくる。
「でもすぐ帰りたくなってしょっちゅう寄っていたら、ローガンさんにどやされまして。「一人前になったら帰って来い。それまでは許さねぇ」って」
だから、と改めて私を見る。
また私はその目力の強さに息を呑む。
「美香夜さんのおかげで、帰る理由ができてとてもラッキーでした!」
「……」
この人は。
自然と人を傷つけない会話を知っている。
「オスカーさん」
私はオスカーさんに向き直り、態度を改める。
「ありがとうございます」
オスカーさんは少し戸惑っていたが、何も言わず微笑んでくれた。
その微笑みで、私はこの人に気を遣わせないよう、謝ることは極力やめようと決めた。
気分を切り替え、趣のある公園を優雅に楽しんだ後、オスカーさんのお勧めの場所へと足を運んだ。
白を基調とした教会のようなミュージアムには有名な絵画や彫刻、高級そうな家具までもが飾られていて、普段なら欠伸をしそうなのに室内の雰囲気と相まって別の世界に入り込んだかのように夢中になって観てしまったり。
映画の舞台にもなったとして有名なアーチ型の背の高い建物に入ると、耳心地のいい音楽や鼻孔をくすぐる美味しそうなにおい、そして人々の楽しそうな声が行き交う声を背におしゃれなカフェで休憩したり。
他の観光地では見たことがないアンティークな雑貨やドレスのようなひらひらと華やかな洋服、屋台に出てきそうなフランクな食べ物など、目移りするものばかりな大規模マーケットに遊びに行ったりして。
常に刺激的な風景で飽きることもなく、あっという間に時は過ぎていく。
なによりも、終始笑いっぱなしだし、歩き疲れているはずなのに楽しい、という気持ちがずっと勝っていた。
「ここの運河は水上ボートが有名なんですが、乗ってみますか?」
水上ボートに目を向けると、期待に満ちた顔をした人々の大量の列が視界に入る。
私はそれよりも、とオスカーさんに視線を戻す。
「もしオスカーさんが良ければ、この運河沿いを歩いてみてもいいですか? ボートも魅力的なんですが、ゆったりと自分のペースで景色を楽しんでみたいんです」
オスカーさんは嫌な顔一つもせず、もちろん、とうなずいてくれた。
「あ、でも。僕には遠慮しないで、疲れたらすぐ言ってくださいね。このあたりの休憩場所は把握してますから。のんびりと行きましょう」
そして自然な素振りでオスカーさんは手を差し出してくれる。
私は戸惑いながらも、ありがとう、と言ってその手を取った。
「こんなに人がいるのに、すごく気持ちのいい場所ですね」
左下に目をやると、水面に照らされた夕陽が蜃気楼のようにゆらゆらと揺れている。
「ええ。僕もお気に入りの場所なんです」
楽しそうな観光客を乗せた水上ボートがゆっくりと通り過ぎると、きらきらと水面が楽しそうにボートの足跡を残していた。
人々の声のトーンや建物を照らすオレンジ色の光を眺め、改めて今日が終わることを痛感する。
「……オスカーさん。今日はありがとうございました」
手を握ってくれているのも。
足が痛くないのも。
知らない地でもまったく寂しさを感じなかったのも。
どんな些細な仕草でも、彼は見逃さずに私への最適な答えを用意してくれていた。
「とんでもないです! 逆に僕もついはしゃいでしまって。住んでいると、観光スポットに行く機会もないので楽しかったです」
……また、完璧な答え。
「……こういうの……慣れてるんですか?」
はっ、と私は零れた言葉にびっくりして口を押さえる。
「慣れてる……?」
オスカーさんはきょとんとしてる。
私は全身に冷や汗を感じながら、言い訳タイムに入る。
「あ、いや、その、違うんです! え、えっとですね、そ、そう! 全然疲れてないから、オスカーさんのおかげだなって思って!」
たかが一日お話ししただけなのに、なんて面倒くさい女みたいなセリフを言ってしまったんだ……!
自己嫌悪に陥り、無意識にほどいた両手で頭を抱える。
「あ……そういうことですね」
戸惑ったオスカーさんの声が聞こえる。
嫌われたかもしれない……。恐る恐る様子を伺う。
「あ、はは……。本当のことを言うと、結構念入りに調べてたんです」
すると、予想外の声色と少し困惑した表情で返ってきた。
「ピジオン先生から連絡を貰った時、先生に気に入られたい一心で気合を入れてプランを考えてました」
ズキ、と心が痛む。
当たり前のこと。
私は彼の優しさに勘違いしていたのかもしれない。
でも、と彼は続ける。
「美香夜さんにお会いしたら、だんだんピジオン先生のことを忘れてきてしまって。美香夜さんに気に入られたい。今はそんな邪な思いでいっぱいいっぱいなんです」
彼は少し自嘲気味に笑った。
「今日だって、つけ慣れないコンタクトまでして、服も新調して。むしろ浮かれすぎてしまって、美香夜さんを振り回していたかもしれません」
彼の瞳に深い闇が一瞬宿る。
「僕は……欲深い自己中な人間なんです」
「そうでしょうか」
ピタッと足が止まる。
今まで私の目を見て話してくれていたが、彼は今、顔を上げようとしない。
「私は今日、本当に楽しかったんです」
私はそっと、彼の手を握る。
「いろいろな場所に行けたのもありますが、それよりも、オスカーさんがそばにいたからより一層楽しかったような気がします」
今度は私が、彼の顔を上げ、しっかりと両目を見据えた。
「どこに行くかより、誰と行くか、で楽しさってすごく変わると思うんです。それにオスカーさんのお陰で、普段の倍も歩いたのに、足も痛くないですし」
私はおどけた表情で軽く数回ジャンプしてみせた。
「最初ここに来たときはすごく、不安でした。周りからは白い目で見られている気がして、居心地が悪くて、孤独に潰されそうでした」
彼は感情の読めない瞳で、私をただただ見つめる。
「でも、オスカーさんが見つけてくれて、こうしてそばにいてくれたおかげで、気づいたらずっと笑いっぱなしで。とても心地よかった」
「心地いい……? 僕と、いると」
「はい! オスカーさんといると、心地いいんです」
オスカーさんの瞳が揺れる。
しかし、嬉しそうではなかった。
まるで、罪悪感と戦うかのような。
「……あなたは、純粋すぎるんですよ……」
オスカーさんは気まずそうに目を逸らす。
「きっと……本当の俺を知ったら、離れていく。上っ面だけだ……」
「え……」
「上澄みしか知らない女だなって言ったんだ」
雰囲気が急に変わる。
生気のない、冷たい目。
「俺は、冷酷な人間なんだよ」
温かな天使の面影は消え、氷の女王のような冷厳な瞳が私の心を凍てつかせる。
でも。
どうして、私の手を振り払わないの。
どうして、こんなにも優しく力強いの。
「……私はオスカーさんのことを深く知りません。でも、どんな人だって自分のすべてを隠しきれる人はいない。本当は冷酷なのかもしれませんが……」
私はまだ握られた手をさらに強く握る。
「一緒にいれば、オスカーさんが温かい人だってこと、肌で感じるんですよ」
オスカーさんが目を丸くする。
「……く、くく……」
しばらく硬直して私を見つめていると、突然お腹を抱えて笑い出した。
「はははははは!! 面白れぇ!! 根っからのお人好しってか!!」
「な、そ、そんなに笑わなくても!! た、確かに恥ずかしいこと言ったけど!!」
その笑いで我に返り、急に恥ずかしくなってオスカーさんに訴える。
「顔赤くなってやんの! ははは!!」
「む、夢中だったの!!」
私を指差して笑う彼は、完璧という仮面を外した、本当の笑顔を垣間見れている気がした。
はー、とオスカーさんがひとしきり笑った後、ぐい、と私の腕を強く引っ張る。
「うわっ!」
態勢を崩した私の体は、そのままオスカーさんの胸にすっぽりとはまる。
「あんた、一緒にいて飽きそうにねぇな。すげぇ可愛く見えてきた」
私の耳元に息がかかる。
「なぁ。このまま迎えに来ねぇ男よりも、俺を選んだらどうだ? 俺も楽しめるし、あんたも心地いい。Win-Winな関係だと思うんだが」
「な、なに言って……」
反射的に顔を上げると、今にも唇が触れそうな距離に動揺する。
「俺を本気にさせたのは、あんただ。目を付けた獲物は逃がさない主義でね。本気にさせたらどうなるか……そのお花畑の頭に、教え込ませてやろうか」
どんどんと彼の顔が近づく。
情報の整理が追い付かないのか、先ほどから私の頭はぐるぐるとエラーを起こしている。
やばい。
このままじゃ。
誰か。
……助けて。
紅い、宝石のような瞳。
濡れた鴉のような黒髪。
陶器のような白い肌。
毒舌なのに、優しい声色を紡ぐ薄い唇。
助けて。
早く。
迎えに来て。
「……ルシファー!!」
瞬間、私の景色はぐるりと回った。
彩も計算されつくしたかのような左右対称の配置に、繊細に手入れされた花壇の美しい花々。
歴史のありそうな荘厳な建物に、水の流れる音と小鳥の囀りが鳴く綺麗な公園のベンチで誰もがその景観に心打たれている中、私はベンチで項垂れていた。
「気にしないでってローガンさんも言ってたじゃないですか! ついでに、僕も泊まれてラッキーでした!」
隣にぴったりと座るオスカーさんがニコニコと可愛らしく笑う。朝日に照らされて、ますます笑顔が眩しい。
それに、とオスカーさんが項垂れた私の体を起こし、しっかりと両目が合う。
なぜだか、気にならなかった距離感も強制的に意識してしまう。
「すごく馴染んでましたけど……よく泊まってるんですか?」
急に恥ずかしくなって、明後日の方を見ながら質問する。
「実は僕、入社するまであそこに住んでいたんです。会社から遠くて引っ越したくなかったんですけど、ローガンさんが「お前が帰るまでの間だけだ」とか言ってあの家に越してきてくれて。ローガンさんが守ってくれるなら……。そう思って独り暮らしを始めたんです」
オスカーさんが懐かしむように話してくれる。
その表情から、オスカーさんがどれほどローガンさんを信じているのかが伝わってくる。
「でもすぐ帰りたくなってしょっちゅう寄っていたら、ローガンさんにどやされまして。「一人前になったら帰って来い。それまでは許さねぇ」って」
だから、と改めて私を見る。
また私はその目力の強さに息を呑む。
「美香夜さんのおかげで、帰る理由ができてとてもラッキーでした!」
「……」
この人は。
自然と人を傷つけない会話を知っている。
「オスカーさん」
私はオスカーさんに向き直り、態度を改める。
「ありがとうございます」
オスカーさんは少し戸惑っていたが、何も言わず微笑んでくれた。
その微笑みで、私はこの人に気を遣わせないよう、謝ることは極力やめようと決めた。
気分を切り替え、趣のある公園を優雅に楽しんだ後、オスカーさんのお勧めの場所へと足を運んだ。
白を基調とした教会のようなミュージアムには有名な絵画や彫刻、高級そうな家具までもが飾られていて、普段なら欠伸をしそうなのに室内の雰囲気と相まって別の世界に入り込んだかのように夢中になって観てしまったり。
映画の舞台にもなったとして有名なアーチ型の背の高い建物に入ると、耳心地のいい音楽や鼻孔をくすぐる美味しそうなにおい、そして人々の楽しそうな声が行き交う声を背におしゃれなカフェで休憩したり。
他の観光地では見たことがないアンティークな雑貨やドレスのようなひらひらと華やかな洋服、屋台に出てきそうなフランクな食べ物など、目移りするものばかりな大規模マーケットに遊びに行ったりして。
常に刺激的な風景で飽きることもなく、あっという間に時は過ぎていく。
なによりも、終始笑いっぱなしだし、歩き疲れているはずなのに楽しい、という気持ちがずっと勝っていた。
「ここの運河は水上ボートが有名なんですが、乗ってみますか?」
水上ボートに目を向けると、期待に満ちた顔をした人々の大量の列が視界に入る。
私はそれよりも、とオスカーさんに視線を戻す。
「もしオスカーさんが良ければ、この運河沿いを歩いてみてもいいですか? ボートも魅力的なんですが、ゆったりと自分のペースで景色を楽しんでみたいんです」
オスカーさんは嫌な顔一つもせず、もちろん、とうなずいてくれた。
「あ、でも。僕には遠慮しないで、疲れたらすぐ言ってくださいね。このあたりの休憩場所は把握してますから。のんびりと行きましょう」
そして自然な素振りでオスカーさんは手を差し出してくれる。
私は戸惑いながらも、ありがとう、と言ってその手を取った。
「こんなに人がいるのに、すごく気持ちのいい場所ですね」
左下に目をやると、水面に照らされた夕陽が蜃気楼のようにゆらゆらと揺れている。
「ええ。僕もお気に入りの場所なんです」
楽しそうな観光客を乗せた水上ボートがゆっくりと通り過ぎると、きらきらと水面が楽しそうにボートの足跡を残していた。
人々の声のトーンや建物を照らすオレンジ色の光を眺め、改めて今日が終わることを痛感する。
「……オスカーさん。今日はありがとうございました」
手を握ってくれているのも。
足が痛くないのも。
知らない地でもまったく寂しさを感じなかったのも。
どんな些細な仕草でも、彼は見逃さずに私への最適な答えを用意してくれていた。
「とんでもないです! 逆に僕もついはしゃいでしまって。住んでいると、観光スポットに行く機会もないので楽しかったです」
……また、完璧な答え。
「……こういうの……慣れてるんですか?」
はっ、と私は零れた言葉にびっくりして口を押さえる。
「慣れてる……?」
オスカーさんはきょとんとしてる。
私は全身に冷や汗を感じながら、言い訳タイムに入る。
「あ、いや、その、違うんです! え、えっとですね、そ、そう! 全然疲れてないから、オスカーさんのおかげだなって思って!」
たかが一日お話ししただけなのに、なんて面倒くさい女みたいなセリフを言ってしまったんだ……!
自己嫌悪に陥り、無意識にほどいた両手で頭を抱える。
「あ……そういうことですね」
戸惑ったオスカーさんの声が聞こえる。
嫌われたかもしれない……。恐る恐る様子を伺う。
「あ、はは……。本当のことを言うと、結構念入りに調べてたんです」
すると、予想外の声色と少し困惑した表情で返ってきた。
「ピジオン先生から連絡を貰った時、先生に気に入られたい一心で気合を入れてプランを考えてました」
ズキ、と心が痛む。
当たり前のこと。
私は彼の優しさに勘違いしていたのかもしれない。
でも、と彼は続ける。
「美香夜さんにお会いしたら、だんだんピジオン先生のことを忘れてきてしまって。美香夜さんに気に入られたい。今はそんな邪な思いでいっぱいいっぱいなんです」
彼は少し自嘲気味に笑った。
「今日だって、つけ慣れないコンタクトまでして、服も新調して。むしろ浮かれすぎてしまって、美香夜さんを振り回していたかもしれません」
彼の瞳に深い闇が一瞬宿る。
「僕は……欲深い自己中な人間なんです」
「そうでしょうか」
ピタッと足が止まる。
今まで私の目を見て話してくれていたが、彼は今、顔を上げようとしない。
「私は今日、本当に楽しかったんです」
私はそっと、彼の手を握る。
「いろいろな場所に行けたのもありますが、それよりも、オスカーさんがそばにいたからより一層楽しかったような気がします」
今度は私が、彼の顔を上げ、しっかりと両目を見据えた。
「どこに行くかより、誰と行くか、で楽しさってすごく変わると思うんです。それにオスカーさんのお陰で、普段の倍も歩いたのに、足も痛くないですし」
私はおどけた表情で軽く数回ジャンプしてみせた。
「最初ここに来たときはすごく、不安でした。周りからは白い目で見られている気がして、居心地が悪くて、孤独に潰されそうでした」
彼は感情の読めない瞳で、私をただただ見つめる。
「でも、オスカーさんが見つけてくれて、こうしてそばにいてくれたおかげで、気づいたらずっと笑いっぱなしで。とても心地よかった」
「心地いい……? 僕と、いると」
「はい! オスカーさんといると、心地いいんです」
オスカーさんの瞳が揺れる。
しかし、嬉しそうではなかった。
まるで、罪悪感と戦うかのような。
「……あなたは、純粋すぎるんですよ……」
オスカーさんは気まずそうに目を逸らす。
「きっと……本当の俺を知ったら、離れていく。上っ面だけだ……」
「え……」
「上澄みしか知らない女だなって言ったんだ」
雰囲気が急に変わる。
生気のない、冷たい目。
「俺は、冷酷な人間なんだよ」
温かな天使の面影は消え、氷の女王のような冷厳な瞳が私の心を凍てつかせる。
でも。
どうして、私の手を振り払わないの。
どうして、こんなにも優しく力強いの。
「……私はオスカーさんのことを深く知りません。でも、どんな人だって自分のすべてを隠しきれる人はいない。本当は冷酷なのかもしれませんが……」
私はまだ握られた手をさらに強く握る。
「一緒にいれば、オスカーさんが温かい人だってこと、肌で感じるんですよ」
オスカーさんが目を丸くする。
「……く、くく……」
しばらく硬直して私を見つめていると、突然お腹を抱えて笑い出した。
「はははははは!! 面白れぇ!! 根っからのお人好しってか!!」
「な、そ、そんなに笑わなくても!! た、確かに恥ずかしいこと言ったけど!!」
その笑いで我に返り、急に恥ずかしくなってオスカーさんに訴える。
「顔赤くなってやんの! ははは!!」
「む、夢中だったの!!」
私を指差して笑う彼は、完璧という仮面を外した、本当の笑顔を垣間見れている気がした。
はー、とオスカーさんがひとしきり笑った後、ぐい、と私の腕を強く引っ張る。
「うわっ!」
態勢を崩した私の体は、そのままオスカーさんの胸にすっぽりとはまる。
「あんた、一緒にいて飽きそうにねぇな。すげぇ可愛く見えてきた」
私の耳元に息がかかる。
「なぁ。このまま迎えに来ねぇ男よりも、俺を選んだらどうだ? 俺も楽しめるし、あんたも心地いい。Win-Winな関係だと思うんだが」
「な、なに言って……」
反射的に顔を上げると、今にも唇が触れそうな距離に動揺する。
「俺を本気にさせたのは、あんただ。目を付けた獲物は逃がさない主義でね。本気にさせたらどうなるか……そのお花畑の頭に、教え込ませてやろうか」
どんどんと彼の顔が近づく。
情報の整理が追い付かないのか、先ほどから私の頭はぐるぐるとエラーを起こしている。
やばい。
このままじゃ。
誰か。
……助けて。
紅い、宝石のような瞳。
濡れた鴉のような黒髪。
陶器のような白い肌。
毒舌なのに、優しい声色を紡ぐ薄い唇。
助けて。
早く。
迎えに来て。
「……ルシファー!!」
瞬間、私の景色はぐるりと回った。