お前、名前はなんて言うんだ?
ルシファー生誕特別版2021【完結】
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「……とうとう来た、ロンドン」
ごくり、と音を立てて唾を飲む。
魔界とも、私がいた日本とも違うこの空気感。
白を基調とした小さなお城のような建物が広い敷地を占めており、どれも映画のセットに見えてくる。
狭い路地の中を恐る恐る覗くと、また雰囲気が異なる色鮮やかな色彩の建物があり、にぎやかな声が飛び交っていた。
もう、何もかも壮大。
その一言に尽きる。
何度か連れられて訪れているにも関わらず、その圧倒される風景に、私は一人佇んでいた。
「クスクス……」
それに、すれ違う人々がみんな私を見てはひそひそ話をしてる……。
テレビで聞いた話だと、外国人から見た日本人は、大人も子供に見えるのだとか……。
ちらほらと観光の人も見え、アジア人っぽい人もいるのだけれど、みんな垢抜けていてどんどん萎縮していく。
「……いつもそばに誰かがいてくれたから、こんな風に感じなかったな……」
観光に夢中で気付いていなかったけど、魔界のみんなに守ってもらっていたんだなぁ……。
急に孤独を強く感じ、つい俯く。
誰か……。
「ルシファー……早く迎えに来てよ……」
「すみません! お待たせしました!」
ポン、と肩をたたかれ、反射的に振り返る。
そこには、おしゃれな丸眼鏡をかけた、少し天然パーマの青年が息を切らして立っていた。
「美香夜さん、ですよね?! ピジオン先生の妹さんの!」
「え? あ、は、はい!」
妹設定に戸惑いながらも、私はやっと一人から解放されて安堵する。
「とても怖かったですよね……! ほんと、すみません! 仕事を片付けてすぐ向かうつもりだったのに、ヘンリーさんったら勝手に人に締切ギリギリの原稿の校正を押し付けてくるだなんて……僕にも用事があるっていうのに……ぶつぶつ……」
「あ、あのぉ……」
私と歳は同じくらいに見える青年は、ぶつぶつと腕を組んで自分の世界に入りだした。
アジア系の人だろうか、私と似たような雰囲気を感じる。
普通の成人男性よりも細身で、だぼっとした体格よりも大きめの服装がより細身であることを感じさせた。
気弱そうな雰囲気で、いかにも文学青年、といった風貌だ。
よほど目が悪いのか、丸眼鏡のレンズが厚くて、彼の焦げ茶色の瞳が歪んで見える。
「大丈夫……ですか?」
心配になり、彼の肩をとん、とたたくと彼はコミカルにびくっと両肩を震わせた。
さらに、カメラを真剣に覗き込んで後ろ歩きする観光客とぶつかる。
ガチャン!
「「あ」」
その反動で丸眼鏡が音を立ててコンクリート床に落ちる。
「ご、ごめんなさい!!」
私は片方のレンズが割れてしまった丸眼鏡を拾おうと、急いでしゃがむ。
「待ってください!」
しゃがもうと中腰になったところで、彼に強く腕を引かれる。
「ガラスの破片であなたがケガをしたら大変だ。これは、僕に任せてください」
その細い腕からは想像がつかないほど、力強く私を立たせると、彼はにっこり笑って自分がしゃがみこんだ。
丸眼鏡を外した彼の顔は、忙しいのか頬は痩せこけ、ぱっと見は冴えない顔つきに見えた。
だが、笑った瞬間、厚いレンズからは気付かなかった長い綺麗なまつ毛や、洋風人形のような目鼻立ちをしていて、一瞬息を呑んだ。
厚い唇や、くっきり二重の優しそうなたれ目。天然パーマも相まって、ルークとは少し系統の違う子犬系の美青年だった。
「……さすがシメオン。 いや、何がさすがだかわからないけど」
私のイケメンレーダー(主に二次元に作用する)がかなり反応している……。
もしこの人があの魔界のイケメンたちに混ざったら、すごい相乗効果が生まれるのでは……。
……じゃなくて!!
「ご、ごめんなさい! 拾わせちゃって……。しかも、壊してしまって……」
冷静になって現実に戻ってきた私は、またしゃがみ込む。
「違いますよ。決してあなたのせいではありません。自分の世界に入っちゃった僕の不注意ですから」
それよりも、と彼は私の手や腕をじっと見る。
「一応確認したのですが、ケガはしていませんか? もし少しでも切り傷や痛みがあったらすぐ言ってくださいね」
この人は本当に心配してくれている。
ミルクコーヒーのような茶色い瞳が真剣に私の答えを待っていた。
「ありがとうございます。どこもケガしてません。心配してくれてありがとうございます」
私も心から、彼にお礼を伝える。
彼は照れくさそうに笑うと、慎重に服の袖を伸ばして割れたガラスをかき集め、ポケットから布袋を取り出してその中に手際よく入れた。
そして丸眼鏡の汚れを払い落とすと、そのまま丸眼鏡を掛け直した。
「お待たせしました。ここじゃ目立つので、少し場所を移動しましょうか」
丸眼鏡を落としたことで周りが注目しだしたことに気付き、私を隠すように肩に手を伸ばした。
対面したときは気付かなかったが、ルシファーくらいの背丈がありそうだ。
…というか、仕草がさりげなさすぎ……!!
あれほどのイケメンに囲まれていながらも、やはり見知らぬ美青年に肩を抱かれると緊張するものである。
「は、はい!」
自分でも笑えるほど声が裏返りながら、ロボットのような動きで歩き出した。
古びた路地の奥。
華やかな街並みとは裏腹に、一歩路地裏に入ると質素で古びた建物が並んでいた。
彼は迷わず奥へ進んでいたが、ツタが幾重にもレンガに絡まり、人の気配を感じさせないほどボロボロの建物の前に止まる。扉の上には年季を感じる木目調の看板が飾ってあり、スペルは掠れて読むことができない。
「……ここは」
お化けでも出そうな雰囲気に血の気が引いていく。
そんな私とは正反対に、みるみると明るい表情になっていった彼は、元気よく扉を開いて聞き慣れない英語らしき言語を言って入っていく。
ちなみに、英語はからっきしだめだ。ははは。
彼が入っていくと、すぐに体に響き渡るような低く渋い怒号が聞こえてくる。
しかしいつものことなのか、彼は平然と楽しそうな口調で奥の人物へと話しかけている。
とりあえず、親しい間柄なのかな……と自分に言い聞かせ、恐る恐る中へ踏み入る。
「失礼しまぁ~す……」
「……なんだ、日本人もいるのか」
びく、として声のする方をみると、白い顎髭をたっぷりこさえたおじいさんがこちらを睨みつけていた。
おじいさんは、きっと若かりし頃はダンディな俳優さんだったんじゃないかと思うくらいの精巧な顔立ちをしていた。
「……ここにはイケメンしかいないのか」
私が別の意味でも萎縮していると、彼は私の方を振り返り、また肩を抱きしめて私をおじいさんの元へと案内する。
「あぁ! どうやらピジオン先生の妹さんらしくて! お兄さんに会いに来たみたいなんだけど、今原稿の締め切りに追われているから、入稿まで妹さんの観光案内をしてほしいって頼まれてさ!」
彼はなぜか誇らしげに胸を張り、高らかに言う。
おじいさんはそんな彼を相手にはせず、私のことを訝しげに観察する。
「ふぅん……シメオンの、ね」
「えっ」
なぜその名を、と反射的に言いかけたところで、おじいさんに畳みかけるように遮られる。
「どこぞのガキだか知らんが、気安く誰でも入れるんじゃねぇよ。ここはてめぇのウチじゃねぇんだぞ」
老紳士風の風貌からは考えられない荒い言葉遣いに、びっくりして目を丸くする。
しかし相変わらず彼は顔色一つ変えずに、嬉しそうに話している。
「そんなことを言って! 彼女をみた途端、久々の日本語を話してくれているじゃないか!」
「あ、あのぉー……」
私は耐えかねて、小さく手を挙げた。
「みなさん、どちら様……ですか」
その時の、二人の鳩が豆鉄砲を食ったような表情は今でも忘れられない。
ごくり、と音を立てて唾を飲む。
魔界とも、私がいた日本とも違うこの空気感。
白を基調とした小さなお城のような建物が広い敷地を占めており、どれも映画のセットに見えてくる。
狭い路地の中を恐る恐る覗くと、また雰囲気が異なる色鮮やかな色彩の建物があり、にぎやかな声が飛び交っていた。
もう、何もかも壮大。
その一言に尽きる。
何度か連れられて訪れているにも関わらず、その圧倒される風景に、私は一人佇んでいた。
「クスクス……」
それに、すれ違う人々がみんな私を見てはひそひそ話をしてる……。
テレビで聞いた話だと、外国人から見た日本人は、大人も子供に見えるのだとか……。
ちらほらと観光の人も見え、アジア人っぽい人もいるのだけれど、みんな垢抜けていてどんどん萎縮していく。
「……いつもそばに誰かがいてくれたから、こんな風に感じなかったな……」
観光に夢中で気付いていなかったけど、魔界のみんなに守ってもらっていたんだなぁ……。
急に孤独を強く感じ、つい俯く。
誰か……。
「ルシファー……早く迎えに来てよ……」
「すみません! お待たせしました!」
ポン、と肩をたたかれ、反射的に振り返る。
そこには、おしゃれな丸眼鏡をかけた、少し天然パーマの青年が息を切らして立っていた。
「美香夜さん、ですよね?! ピジオン先生の妹さんの!」
「え? あ、は、はい!」
妹設定に戸惑いながらも、私はやっと一人から解放されて安堵する。
「とても怖かったですよね……! ほんと、すみません! 仕事を片付けてすぐ向かうつもりだったのに、ヘンリーさんったら勝手に人に締切ギリギリの原稿の校正を押し付けてくるだなんて……僕にも用事があるっていうのに……ぶつぶつ……」
「あ、あのぉ……」
私と歳は同じくらいに見える青年は、ぶつぶつと腕を組んで自分の世界に入りだした。
アジア系の人だろうか、私と似たような雰囲気を感じる。
普通の成人男性よりも細身で、だぼっとした体格よりも大きめの服装がより細身であることを感じさせた。
気弱そうな雰囲気で、いかにも文学青年、といった風貌だ。
よほど目が悪いのか、丸眼鏡のレンズが厚くて、彼の焦げ茶色の瞳が歪んで見える。
「大丈夫……ですか?」
心配になり、彼の肩をとん、とたたくと彼はコミカルにびくっと両肩を震わせた。
さらに、カメラを真剣に覗き込んで後ろ歩きする観光客とぶつかる。
ガチャン!
「「あ」」
その反動で丸眼鏡が音を立ててコンクリート床に落ちる。
「ご、ごめんなさい!!」
私は片方のレンズが割れてしまった丸眼鏡を拾おうと、急いでしゃがむ。
「待ってください!」
しゃがもうと中腰になったところで、彼に強く腕を引かれる。
「ガラスの破片であなたがケガをしたら大変だ。これは、僕に任せてください」
その細い腕からは想像がつかないほど、力強く私を立たせると、彼はにっこり笑って自分がしゃがみこんだ。
丸眼鏡を外した彼の顔は、忙しいのか頬は痩せこけ、ぱっと見は冴えない顔つきに見えた。
だが、笑った瞬間、厚いレンズからは気付かなかった長い綺麗なまつ毛や、洋風人形のような目鼻立ちをしていて、一瞬息を呑んだ。
厚い唇や、くっきり二重の優しそうなたれ目。天然パーマも相まって、ルークとは少し系統の違う子犬系の美青年だった。
「……さすがシメオン。 いや、何がさすがだかわからないけど」
私のイケメンレーダー(主に二次元に作用する)がかなり反応している……。
もしこの人があの魔界のイケメンたちに混ざったら、すごい相乗効果が生まれるのでは……。
……じゃなくて!!
「ご、ごめんなさい! 拾わせちゃって……。しかも、壊してしまって……」
冷静になって現実に戻ってきた私は、またしゃがみ込む。
「違いますよ。決してあなたのせいではありません。自分の世界に入っちゃった僕の不注意ですから」
それよりも、と彼は私の手や腕をじっと見る。
「一応確認したのですが、ケガはしていませんか? もし少しでも切り傷や痛みがあったらすぐ言ってくださいね」
この人は本当に心配してくれている。
ミルクコーヒーのような茶色い瞳が真剣に私の答えを待っていた。
「ありがとうございます。どこもケガしてません。心配してくれてありがとうございます」
私も心から、彼にお礼を伝える。
彼は照れくさそうに笑うと、慎重に服の袖を伸ばして割れたガラスをかき集め、ポケットから布袋を取り出してその中に手際よく入れた。
そして丸眼鏡の汚れを払い落とすと、そのまま丸眼鏡を掛け直した。
「お待たせしました。ここじゃ目立つので、少し場所を移動しましょうか」
丸眼鏡を落としたことで周りが注目しだしたことに気付き、私を隠すように肩に手を伸ばした。
対面したときは気付かなかったが、ルシファーくらいの背丈がありそうだ。
…というか、仕草がさりげなさすぎ……!!
あれほどのイケメンに囲まれていながらも、やはり見知らぬ美青年に肩を抱かれると緊張するものである。
「は、はい!」
自分でも笑えるほど声が裏返りながら、ロボットのような動きで歩き出した。
古びた路地の奥。
華やかな街並みとは裏腹に、一歩路地裏に入ると質素で古びた建物が並んでいた。
彼は迷わず奥へ進んでいたが、ツタが幾重にもレンガに絡まり、人の気配を感じさせないほどボロボロの建物の前に止まる。扉の上には年季を感じる木目調の看板が飾ってあり、スペルは掠れて読むことができない。
「……ここは」
お化けでも出そうな雰囲気に血の気が引いていく。
そんな私とは正反対に、みるみると明るい表情になっていった彼は、元気よく扉を開いて聞き慣れない英語らしき言語を言って入っていく。
ちなみに、英語はからっきしだめだ。ははは。
彼が入っていくと、すぐに体に響き渡るような低く渋い怒号が聞こえてくる。
しかしいつものことなのか、彼は平然と楽しそうな口調で奥の人物へと話しかけている。
とりあえず、親しい間柄なのかな……と自分に言い聞かせ、恐る恐る中へ踏み入る。
「失礼しまぁ~す……」
「……なんだ、日本人もいるのか」
びく、として声のする方をみると、白い顎髭をたっぷりこさえたおじいさんがこちらを睨みつけていた。
おじいさんは、きっと若かりし頃はダンディな俳優さんだったんじゃないかと思うくらいの精巧な顔立ちをしていた。
「……ここにはイケメンしかいないのか」
私が別の意味でも萎縮していると、彼は私の方を振り返り、また肩を抱きしめて私をおじいさんの元へと案内する。
「あぁ! どうやらピジオン先生の妹さんらしくて! お兄さんに会いに来たみたいなんだけど、今原稿の締め切りに追われているから、入稿まで妹さんの観光案内をしてほしいって頼まれてさ!」
彼はなぜか誇らしげに胸を張り、高らかに言う。
おじいさんはそんな彼を相手にはせず、私のことを訝しげに観察する。
「ふぅん……シメオンの、ね」
「えっ」
なぜその名を、と反射的に言いかけたところで、おじいさんに畳みかけるように遮られる。
「どこぞのガキだか知らんが、気安く誰でも入れるんじゃねぇよ。ここはてめぇのウチじゃねぇんだぞ」
老紳士風の風貌からは考えられない荒い言葉遣いに、びっくりして目を丸くする。
しかし相変わらず彼は顔色一つ変えずに、嬉しそうに話している。
「そんなことを言って! 彼女をみた途端、久々の日本語を話してくれているじゃないか!」
「あ、あのぉー……」
私は耐えかねて、小さく手を挙げた。
「みなさん、どちら様……ですか」
その時の、二人の鳩が豆鉄砲を食ったような表情は今でも忘れられない。